小説『魔界の少女【完結】』
作者:YossiDragon()

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その頃、生徒会美化委員長女子の金城 瞳先輩は体育館のステージで、暁に気絶させられた霊と霰を

見ていた。

「他の人達…随分と遅いわね…。誰も来ないのかしら…」

瞳は退屈そうにステージの縁から足をブラ〜ッと投げ出した。しかし、相変わらずの状況の変化のなさに

さすがの彼女も飽きてきたのか気絶している霊と霰を使って何かしてやろうかと考えた。

「ふふっ、いいこと思いついた…。この子達、少しばかり利用させてもらおうかしら…」

彼女は不気味な笑みを浮かべてそうつぶやいた。と、その時突然背後から声が聞こえた。

「待ちなさい!あなた……今二人に何をしようとしていたの?」

そこにいたのは霊と霰の姉である露だった。

「ふふっ、見ての通り暇だったから殺して遊ぼうかなと思って…」

その言葉で一気に露の怒りのパラメーターは跳ね上がり最高点に達した。そして、ついにふっきれた

露はその場から俊足で移動し、瞳の頭を鷲掴みにすると体育館の床めがけて押し込んだ。

床にはバキバキッと亀裂が入り、凄まじい攻撃力を誇っていることを物語っていた。

「許さない…妹に手を出したあなただけは……絶対に!」

怒りの矛先が少し違っているような気もするが、今はそんなことは関係ない。

「いったた、いきなりなんて…酷いわね。私じゃなかったら、死んでたか、あばらの何本か持ってかれてた

わよ?」

そう言って彼女は制服に着いた汚れを払い落とした。砂埃がパラパラと床に落ちる。

彼女は指を金色の髪の毛の毛先に沿って、梳いた。

「じゃあ、…次は確実に殺してあげるわ!」

露は瞬時に武器の槍を取り出し、構えを取った。槍を激しく回し、自分の力量を思い知らせる。

しかし、相手も負けじと魔力を放出していた。

「ただの人間ではないとは思っていたけど、予想は的中のようね…太陽系の守護者の力、侮っては

いけないみたい…」

露は相手の、魔力を見てそう言った。だが、これ以上彼女を好き勝手させていると、霊達以外の妹も

やられてしまう…。それだけは避けなければならない。そう考えた彼女は大きく深呼吸して一呼吸

おくと、槍を回転させ地面に突き立てた。その瞬間、水のない体育館になぜか水柱が出現し、

その水柱が衝撃波と一緒に瞳へ襲い掛かった。

「きゃあ!やったわね〜!!」

彼女は拳を握りしめ、力をこめた。すると、彼女の拳が急に金属化し硬くなった。

「なっ、それは…一体!?」

「私の守護するものは…金星。つまり私は体の一部を金属化させることが可能なの…。

ちなみに、私に触れた物質ならば、それを金属化させることも可能よ?つまり、私に触れた水…。

これもまた、金属化が可能…」

そう彼女が呟いた瞬間、彼女に触れていた液体の水が突然金属化した。

「くっ…!?」

「これで終わりよ!」

シュンシュンッ!ブスッ!!

「ぐぅうぅっ!!?」

露は一瞬自分の体に何が起こったのか理解できずにいた。しかし、彼女が攻撃したということだけは

理解できた。

「ふん…こんなものかしら?だったら次は私からいかせてもらうわよ?」

彼女は武器を振り回し、連続突きを繰り出した。

「そんなもの…当たらなければ怖くなんかないのよ!!」

そう言って、瞳は露の連続突き攻撃を全てかわしきり、上空へと飛び上がり思いっきり重力に身を

任せ拳を振るった。だが、彼女が殴った場所は露ではなく地面だった。そう、ギリギリのところで

かわされていたのだ。

「ちぃっ!ちょこまかと逃げて〜。もうっ頭きた!百戦錬磨のパンチをくらいなさい!!」

なかなか攻撃が当たらないことにイライラしていたせいだろうか、彼女は完全にとさかに来て、

防御ではなく攻撃に専念してばかりいた。そのせいで、彼女はあろうことか露に後ろをトラレテしまった。

「し、しまっ…―」

「これで終わりよ!」

その時彼女はこれで勝負がつくものだろうと思っていた。だが、事態はそううまくもいかなかった。

彼女が瞳にとどめをさそうとしたその時、体育館の入口から霄達の声がしたのだ。

「霄ちゃん!?」

霄の声に完全に惑わされた彼女は思わずとどめをさすことを忘れていた。

「スキあり!」

「ぐはっ!うぐぅっ…!!油断した…」

「ふふふっ、ちっちっち…油断は禁物よ〜変態女さん?」

「変態女じゃなくて露よ!つ・ゆ!!人の名前ちゃんと憶えてよね金髪バカさん?」

「金髪バカじゃなくて…瞳ですっ!ひ・と・み!!」

彼女達は互いに言い争いを始めてしまった。



金城先輩と露さんの言い争いを体育館入口付近で見ていた俺と霄達は、何をやっているのだろうかと

彼女達に訊いた。

「何やってるんですか二人とも…」

「響史くん…丁度いいとこに来たわ!あれを!」

露さんの指をさす方をみると、そこには手足を拘束された霊と霰が背中合わせになるような形で

柱にくくりつけられていた。それを見た俺は急いでそこへ向かおうとした。しかし、金城先輩に

その行く手を阻まれた。

「言っておくけど、ここから先に行きたいならこの私を倒してからにすることね!」

「ていうか、先輩…これってもう鬼ごっこじゃないですよね?」

「ふふっ、今頃気付いたの?神童君…、はなから勝負は鬼ごっこに見せかけたものだったってわけよ!」

彼女は俺をバカにするような顔で見つめた。

「くそっ…どうすれば」

「おとなしくここで、私に負ける事ね!!」

その時俺は思った。

―しまった。油断した。相手は金属化させる能力を持っている。だとしたら、物理攻撃に特殊攻撃は

あまり効果がない…。物理攻撃には物理攻撃で対処するしかない…!だが、露さんの攻撃は主に

特殊攻撃ばかりだし、物理攻撃にしてもあの連続突きだけだ!だが、あの攻撃…ほぼ攻撃範囲が狭いから

背後を取られたらアウト!…だしな〜。


などと考えていると金城先輩はその隙をついて次々に攻撃を繰り出してきた。

「かわしてばっかりじゃ、私を倒すことなんて無理よ?」

「そんなこと…言われなくたって!!くらえ〜!」

俺は夜月刀を使って金城先輩に攻撃した。しかし、その攻撃はあっさりと彼女にかわされてしまった。

「むだむだ…そんな甘い攻撃、誰にも当てられやしないわよ?本当にやる気あるの?あなたのとこの、

女子達は全員頑張ってるみたいだけど…。あっ、そうか…あなたがそんなんだから、皆が弱くなるのね…」

さすがの俺もその言葉にはカチンときた。

「…どういう意味だ…」

「そういう意味よ!」

「さすがの先輩でも、そればかりは許せません…!」

「へぇ〜許せないなら何?倒せるの?強くなれるの?世の中ね…怒りだけで強くなれるなんて甘く

出来てないのよ!!」

そう言って、先輩は金属化させて硬質化した拳で体育館の地面を殴った。すると、さっきよりも

大きな円形のひび割れが入った。その威力は凄まじく俺は息を呑んだ。時間は既にもう午前4時…。

現在季節は夏至のために、陽が昇るのが早い…。そのため、少しばかり外が明るくなってきた。

「はぁはぁ…。くそっ、時間も残り少ないし…」

俺は腕時計を汗だくになりながら見つめた。俺の願いなどシカトするように時計は時間をどんどん

進めていく…。時間は止まらず絶えず進み続けている。失った時間を取り戻すことはできない。

時間は大切なものだと俺はこの時深く知らされた。皆の戦力はどんな状態なのか後ろをふっと

振り返ったが、皆も俺と同様、疲れ切っていた。

「どうかした、響史君?」

露さんが俺の名前を呼ぶ。

「えっ、いや…その皆結構、疲れ切ってるみたいで…」

「ふふっ、確かにそうだけど…でもここで根を上げるわけにはいかないでしょ?だって、あいつを

倒さないとタマちゃん達を助けられないんだから…」

彼女は冗談半分に言った。だが、この時ばかりは俺もその冗談に付き合っていられなかった。

「さてと、そろそろ終わりにさせてもらおうかしら?私もさすがに寝不足は困るのよね〜。

ほら、私綺麗だから…美容には気を使ってるのよね〜!“あなた達とは違って…”」

彼女のそのバカにするような目は護衛役である彼女達を本気にさせたのか、疲れ切っているにも

関わらずそのスピードを速めた。

「あら?急にスピードが速くなったわね〜!でも、こんなんじゃまだまだ私には勝てないわよ?

くらえ〜っ!!」

そう言って、彼女は両手を強く握りしめ、拳を振るった。キレのいいパンチが彼女達を襲った。

「うぐっ!やはり、相手のスピードと瞬発力…あれは厄介だな…」

霄があごから垂れる滴を腕で拭いながら相手のフットワークを睨みつける。

その時、俺にある名案が閃いた。俺は彼女達を集め、ゴニョゴニョと作戦の内容を伝えた。

「なるほど…確かにそれはいい考えかもしれませんね…」

「けど、そんな攻撃本当に通用するのか?」

「大丈夫だよ!響史を信じよう!!」

「こんなバカ信用しろって言われてもね〜…」

「いいから、もう時間がねぇんだ!これに懸けるしかねぇだろ!!」

俺の言葉で皆の意思が固まった。そして、ついに作戦実行の時がおとずれた。

「よし!行くぞ!!」

という俺の掛け声を合図に作戦が開始された。作戦はこうだ…。まず初めに霄と零が金城先輩に攻撃を

集中させる。その間に、霙は軽い準備運動をして体を良い状態に高めておく。

そして、露さんや瑠璃と麗魅は霄達二人のサポートに回した。

作戦は見事成功だった。金城先輩も所詮は人間の体…。人間ならざるものの力をずっと持っていてはすぐに

疲れるに決まっている。そこを突いた巧妙な作戦だった。彼女があまりにもの疲労の蓄積で、思わず

隙を見せたところで、俺が彼女を切りつけた。

「しまっ、…きゃぁああ!!」

ブシャーッ!

真っ赤な血が飛び散り、彼女は利き腕の方の肩を抑えた。血がドクドクと溢れ出し、出血が止まらない。

彼女は唇を噛み締めながら俺をにらみつけた。

「許せない…この私を切るなんて…絶対に許さない!」

「おっと、まだこれで終わりじゃないぞ?」

「えっ?」

金城先輩はふと上を見上げた。そこには、霙が腰に手を当ててこちらを見ている姿があった。

「な、何よ…何をするつもり?」

「な〜に、ちょっとしたお返しさ!」

そう言って、霙は彼女の細い足をガッシリとつかみ自分の脇に挟んだ。そして、膝裏に手を回して

ガッシリとつかむと、深呼吸して新鮮な空気をめいっぱい吸い込むと、思いっきり力任せに振り回した。

「ちょっ、待って…まっ…い、いや…いやぁあああ!!」

ブンブンと風を切る音が聞こえる。金城先輩は霙の体を軸として右回りに物凄い勢いで回転した。

「や、やめ…もう…ダメ…許して…私、が…悪かったから!うぷっ、気分わる…っ!

お願い…お願いだから離して〜!!」

「分かった…」

「えっ!?ちょっ!!ぐはっ!」

彼女は急に回転するのをやめ、足から手を放した。その瞬間金城先輩は遠心力によって体育館の壁に

強く打ちつけられた。

「ぐぅっ!…うっ」

あまりにもの激痛に彼女はそのまま気絶した。



それからしばらくして彼女はようやく目を覚ました。時刻はもう午前5時…タイムリミットまでもう

後一時間しか残っていなかった。

「いい加減、負けを認めてくれませんか?」

俺は彼女にそう言った。すると、金城先輩は疲れてものも言えないのか、それとも思いっきり回されて

気分が悪くなったのか、言葉には出さすにコクリとだけ頷いた。

「じゃあ、守護者の指輪渡してくれませんか?」

「………うん」

彼女はゆっくり立ち上がって金属化を解いた手から守護者の指輪を取り外しそれを俺に手渡した。

また、それと同時に彼女は力を使い果たしたのか、寝不足なのか気絶して俺に倒れ掛かった。

「おっと…大丈夫ですか先輩?先輩!?」

「…どうやら限界だったみたいッスね…」

その声に皆はふと振り返った。そこにいたのは、高地先輩だった。

「お疲れさまッス…約束通り試験はクリアッス…今回は僕達の負けッス…もう帰って大丈夫ッスよ?

今日はもう疲れたはずッス…ゆっくり体を休めるといいッス…。皆ボロボロッスから…」

戦いを終えた後の高地先輩は何故か普通に戻っていた。俺は金城先輩を高地先輩に預けた。

「こんなになるまで戦って…負けず嫌いな性格が祟ったんスかね…」

「先輩って、負けず嫌いなんですか?」

「気付かなかったッスか?もう昔からそうなんス…。だから、今回もおそらく同じ理由だったんじゃ

ないッスかね…。さぁ、学園の修復はこちらでやっておくッスから…心配無用ッス…」

そう先輩に気を使われ、俺達は霊と霰を連れて家に帰った。



「んっ…響史?ここは?」

「俺の家だ…」

「勝負は?私達、確か…あの生徒会の先輩二人と…」

「終わったんだ…」

「勝ったの?」

彼女は少し心配そうに俺に訊いた。

「ふっ…ああ、大丈夫だ…」

俺はそんな彼女の心配そうな顔を見て、なぜか少し笑ってしまった。すると、背後から思いっきり俺は

蹴られた。

「いってぇな…誰だよ!」

ふと後ろを振り返るとそこにいたのは鬼の形相で腕を組んで立って俺を睨みつける霰がいた。

「お姉さまに近づこうとはこの変態が〜!」

「訳分からないぞお前!一体どういう解釈してんだお前は!」

「お黙り!これ以上好き勝手させるわけにはいきませんわ!今日こそは天誅をくれてやります!

くらいなさい!!」

バリバリという電撃に俺は感電してその場に倒れた。

「てめぇ…それスタンガンか!?」

「ふんっ、その通り…これさえあればお姉さまを守ることが出来ますの!あなたのような変態の傍に

置いておけばどんなことをされるかたまったもんじゃありませんからね!」

そう言って、彼女は嫌がる霊を無理やりどこかに連れて行った。

すると、露さんが不思議そうにしながら俺のところにやってきた。どうやら、先ほどの一部始終を見ていた

ようだ。

「まったくたまったもんじゃないわよねあんなことされて…タマちゃんもかわいそうに…」

―あんたが言うか!


そう俺は突っ込んだ。

「何か言った?」

「いいえ、何も…それよりも、学校では行動をなるべく控えてくださいね?」

「えぇ〜っ、どうして?」

彼女はだだをこねた。

「はぁ〜っ、あなたが暴走したらそこらじゅうの可愛い女子に声を掛けて回るでしょうが!」

「そんなことないわよ〜!人聞きわるいわね…」

「じゃあ、可愛い後輩見ても何もしませんね?」

「うっかり声かけちゃうかも…?」

「さっき言ったことと矛盾してますよ露さん!!」

思わず俺はバンッとテーブルを叩いた。

「いいじゃない少しくらいは…」

「ダメです!」

「うぅ〜、響史君のバカ〜〜!!」

そう言って、彼女はリビングから出て行った。いっそのこと、本当に帰ってくれ…。

そう思いながら俺はため息をついた。時刻はもう午前6時30分…。

俺は重い瞼を擦りながら二階へと上がった。ベッドに向かうと、既に何人か寝ている奴らがいた。

いい加減与えてやった部屋で寝てほしいものだ。俺の家はそこそこ広いというわけではないが、

かといって狭すぎるわけでもなく、五人家族だというのに、部屋がなぜか十二部屋あるかわった家なのだ。

そのため、その十二部屋から両親と俺、姉ちゃん、弟の部屋を除いた七部屋がある。しかし、その七部屋

にそれぞれ二人ずつ配置しても十分部屋があまるくらいなのにどうしてこの部屋に毎回やってくるのか

それが俺には理解できなかった。とりあえず、俺は寝不足で頭がクラクラするため寝ることにした……。

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