小説『魔界の少女【完結】』
作者:YossiDragon()

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第二十七話「料理好きの護衛役」

次の日の朝…今日は休日…。前日の夜中、とある事情により、真夜中の0時から午前6時あたりまで

重いまぶたを無理やり開けて俺達は鬼ごっこをしていた。そのため、今日はあまりにもの寝不足により

ダウン…。他のみんなもそれは同じだった。悪魔といえども、寝不足は健康的にもよくないらしい。

結局、この日は俺達全員昼の12時を過ぎてもなかなか起きることはなく、時刻は午後1時を回ろうとしていた。

「うっ…ん…、ふぁ〜あ…。っつ、あったまイッテェ〜。少し寝過ぎたか?」

俺は寝不足の際、凄く長い間寝てしまうのだが、その就寝時間が長ければ長いほど、頭が痛くなり、

ボ〜ッとしていて思考回路もうまくまわらない。ごくたまに、俺はまとめて寝るのではなく、

ちょこちょこ寝るという方法を思い付いたのだが、どうしてもちょくちょく寝てしまうと、そのウチ

起きている時間の間隔がどんどん狭くなり、最終的には一気に寝てしまうのだ。

俺はうまく思考回路も働いていない状態でデジタル時計の時刻を見た。そこには、くっきりと黒い字で

1:15と映し出されていた。

「やっべっ!!おい、お前ら起きろ!いつまで寝てんだ!!もう昼過ぎだぞ!?」

俺は同じベッドで寝ている瑠璃達の体を揺さぶって起こした。

「んんっ…もう少し寝かせてよ〜。昨日遅かったんだから…!!」

「一日中寝てるつもりか!!ほら、さっさと起きろ!」

俺は手始めに瑠璃を最初に起こした。次に麗魅と近場にいるやつらから起こしていき、ようやく全員を

起こした。にしても、もう十分な人数オーバー。このベッドもよく耐えているものだと俺はベッドを

ほめたたえた。いやにしても、もう夏いや…梅雨の時期だというのにどうしてこいつらはこうも

蒸し暑いおしくらまんじゅう状態で寝られるんだ?と俺は不思議に思った。

そして、俺は一足早く部屋を出て一階に降りて行き、寝巻きから部屋着に着替えた。眠気をとるために

顔を水で洗い、ふわふわの洗い立てタオルで優しくふき取った。

「ふぅ〜…さてと、腹も減ったし、少し遅いが昼ごはんでも作るか!」

俺は腰に手を当て、鏡越しにそう言った。くるりと180°回転した俺は、真っ直ぐ前に進んでいき、

ドアを開けると最初の角を曲がって台所へと向かった。食器はこの間、零に洗ってもらったため、

ある程度は片付いていた。

「問題は…何を作るか…だが。う〜ん、何がいいかな〜」

俺が腕組みをして唸っていると、ドアを開けて台所へ霊がやってきた。

「お〜霊珍しいな…お前が一番最初に起きてくるなんて…」

「だって、…お姉ちゃん達にベッドから落とされちゃって…」

「あ〜…なるほど、あのベッドもう壊れかけだからな…。この間、横の柵が壊れちまったから、

直しにいかないといけないんだが、あいにくそんな暇もなくてな…」

「屋根もまだでしょ?」

「あ〜、そうだったそうだった!」

俺はすっかり忘れていた屋根のことを霊から聞いて当時の出来事を振り返った。今はもう蒸し暑い時期の

ため、夜風もほとんど冷たいと感じないため、屋根に穴が開いているように思わなかったのである。

雨の日のためにと、一応ビニールシートも引いていたことも関係あると思う。

「そうだ!霊…、お前何が食べた…―」

「魚!!」

「よしっ!……ハンバーガーにしよう…」

「えええ〜っ!!?ちょ、ちょっと魚は?」

「い…いや、今思えばお前に食べたいもの聞いたら、魚しか言わないことを思い出してさ…」

俺は呆れたような顔で彼女を見た。

「そ、そんなことないよ!!私、それ以外にも食べたいものあるもん!」

「へぇ〜…じゃあ、例えば?」

「ツナ缶!!」

「……ああ、もう魚でもツナ缶でも何でも食べてろ!」

「そ、そんな〜響史ひど〜い!!」

彼女は俺の顔を覗き込みながらそう訴えた。

「それよりも、そんなに暇なら他のやつら起こしてきてくれよ!俺が起こしても全然起きないからさ!」

「どうして私が…」

「起こしてきてくれたら、スペシャル魚料理ドッピングハンバーガー作ってやるぞ?」

「起こしてきますっ!!」

彼女は急に態度をコロッと変え、ビシッと俺に敬礼をして歓喜の声を上げて階段をダダダッと

駆け上がって行った。

「…はぁ、現金なやつ…。まぁこれで少しは手間が省けるし…まぁいいか」



時刻は2時30分…。食卓を一人の男子と八人の女子が囲む…。

「なぁ、どうして誰もしゃべらないんだ?」

沈黙…。俺はムッとして、もう一度言った。

「なぁ…どうして何もしゃべらないんだ?」

「…はぁ、響史…。少し黙っていてくれないか?私達も疲れているんだ。それに少し体も重い…。

今日は何もやる気が起きないのだ」

俺の何度も問う言葉に我慢しきれなくなったのか霄が喋らない理由を述べた。他のやつらのほとんどの

理由もそれだった。だが、それを言われれば俺だって疲れていて今日は何もしたくない気分だ。

だが、そういうわけにはいかない…。今日はスーパーの特売日のためもう少ししたら出掛けなくては

ならないのだ。しかし、彼女達がこの状態では、誰にも荷物持ちを手伝えなどと頼むことは不可能そうだ。

仕方なく俺は自分だけでスーパーに向かうことにした。

「響史、どこか行くの?」

「あぁ…ちょっとスーパーにな…」

「ふっ、あんたお母さんみたいよ?」

「なっ、そ…そんなんじゃねぇよ!!」

俺は麗魅にからかわれついムキになってしまった。少し足に力を入れてしまったせいか、足音が

少し大きく鳴った。



時刻は午後3時…。もうおやつの時間で、本来ならば皆ここでおやつを所望するのだが、今日だけは

例外だった。今日は皆、起きるのが遅かったために、昼ご飯を食べるのが遅くなり、そのせいで腹が

満たされたままだったのだ。

そして、俺は上に薄い生地のジャンパーを着ると、玄関扉を開けて靴のかかとを綺麗に人差し指で

入れて、自転車置き場へと向かった。俺の自転車はマウンテンバイクとママチャリの二種類があり、

それぞれ一台ずつ持っている。元々ママチャリは母親のものなのだが、今は出稼ぎに出掛けていて

家にいないため、俺がありがたく使用させてもらっている。他人の物を使用しているからにはボロボロ

にしてはいけないと思い、毎日欠かさず自転車を綺麗にしている。

「さてと…じゃあ、行くか!」

俺の家からスーパーまでは少しばかり距離があるため、今から自転車をすっ飛ばしていくとすると、

約20分はかかる。今日が特売日だということは大勢の主婦が知っている…はず。そのため、早く

いかなければすぐになくなってしまう。そのこともあって俺は慌てていた。その時俺は、あまりにもの

焦りからなのかもしれない。注意を怠っていたのだ。まさか、あんな事故が起こるとは俺も思っても

みなかった……。



時刻は午後3時30分…。未だに俺はスーパーに辿りついてない。この時刻でまだスーパーに着いてない

ということについて疑問を抱く人も多いだろう。しかし、これには深い理由がある。そう、道路工事だ。

全くもって一体俺に何の恨みがあるのかというくらい見事に、俺のいつも使用している近道を封鎖していた。

俺は歯ぎしりをしながらも、引き換えし急いでママチャリをすっ飛ばしてスーパーへと向かった…。

そして、今現在に至る……。

「ったく…何であんなところで道路工事してるんだよ!!」

俺はぶつぶつと一人で文句を言いながら信号が切り替わるのを今か今かと貧乏ゆすりりながら待っていた。

赤信号が青信号に切り替わったのを瞬時に理解し、俺はスタートダッシュした。そして、約10分遅れて、

スーパーへとたどり着いた。

「はぁはぁ…つ、疲れた〜」

俺はママチャリにダラ〜ッとなりかけたが、特売のことをすぐに思い出し慌ててエコバックを片手に

駆けだした。



それから15分後…俺は家へと帰っていた。エコバックをパンパンにして…。俺は心が晴々していた。

予想していたよりも来ていたお客の数が少なく、すんなりと手に入れたいものが買えたからだ。

「はぁ…一時はどうなることかと思ったが、間に合ってよかったぜ!これで、今日の晩御飯のメニューを

変える必要はなくなったな!!」

と俺はルンルン気分で十字路を左に曲がった。と、そこで俺は一瞬にして気分が↑UPから↓DOWNした。

そう、急な坂道である。ここは通称『地獄の通学路』と呼ばれ、通学生がひぃひぃ声を上げながら

学校へと通っている場所である。学校に近道で行くためには必ず、ここの坂道を乗り越えねばならず、

それは何処の学校に通っていても同じことだった。しかもその場所を俺はこれからマウンテンバイク

ではなくママチャリで登らなければならないのだ。

「マジかよ…」

俺は後悔した。どうして、マウンテンバイクで来なかったのか…と。しかし、今を想えばここで

ママチャリから降りて押していけば早かったのではと思う。だが、この時俺はイライラの気持ちで

いっぱいでそんなことを思いつく余裕はなかった。顔を真っ赤にしながら、ジリジリ照りつける灼熱の

太陽の陽ざしに負けじと俺はママチャリをこいだ。そして、ついにてっぺん…。俺は一瞬辛さが喜びへと

変わった。それは、ここからは坂道を下るだけだからだ。ここは天国だといってもいいかもしれない。

しかし、俺はそこで問題を起こすことになるのであった。

「ふぅ…風が気持ちいい!!」

俺は坂道を下りながら自分の体に吹き付ける自然の風を浴びて言った。その時、俺はすっかりブレーキを

握るのを忘れていた。と、その時横から突然コロコロ転がってくる赤いリンゴと、ツインテールの

少女が飛び出してきた。

「あっ、あぶねっ!!?」

「あっ、きゃああああ!!」

キキィィィィ!!!ドグシャッ!!ドサッ!!カララララ…。

急ブレーキをかけ、アスファルトの斜面と自転車のタイヤのゴムとが擦れる音に、何かにぶつかる音。

地面に叩きつけられる音…そして、自転車の車輪が回る音が鳴り響いた。一時の時間が長く感じられた。

空は青いはずなのに、その時ばかりは空が赤く感じられた。



「…っ、っててて…!」

俺はゆっくりと体を起こした。ふと手を見ると、手には真っ赤な血がべっとりついていた。

「なっ、んだこれ!!?」

突然の出来事に俺は事態の収拾がうまくできていなかった。

「お、おい…大丈夫か!?」

横でママチャリの下敷きになっている一人の少女に目が行き、俺は顔を青ざめてすぐさま彼女を

助け出した。どうやら、俺の手についていた血は彼女のものらしい。その証拠に彼女の体からは

真っ赤な血が流れ出していた。その血はアスファルトを汚し、どす黒い色に染めていた。彼女の白い

服も少し赤みがかってピンク色のような色になっていた。

「マ、マジかよ…俺、人ひいちまったのか?いや、待て…こいつ、よく見たら…あっ!!」

その容姿を見て俺は瞬時に分かった。彼女の髪の毛の色と瞳の色…そして、肌…そう、俺が引いて

しまったのはあろうことか護衛役…つまり、霄達の兄妹を引いてしまったのだ。

―お、落ち着け俺…。とりあえず、ここは救急車か?だが、悪魔だってバレてもヤベェし…。

くそっ…ここはやっぱり家に連れて行って霊に治療してもらって…でも、この出血量じゃ俺の家に

運び込む前に死んじまう!くそっ…何か良い手は…。


俺が深刻に思いつめていたその時、足元に何かがコツンとあたった。

それは、彼女が追い掛けていた一個のリンゴだった。しかも、それは一個だけではなく側に落ちていた

袋の中にあったリンゴも合わせるとその数は数えきれるだけでも数十個はあった。

―こんなにたくさんのリンゴを持ってアップルパイでも作るつもりだったのか?いや、それよりも…

こいつをどうするかだ。くそっ、でも…こいつこんなところで何やってたんだ?ていうか、悪魔なのに

人間に自転車にひかれて死ぬって…。


俺はちょっと、悪魔をバカにしたように言ってそれからまた考え出した。と、その時あることを思い出した。

―そうだ!ここは確か、亮太郎の家の近くだったはず…。よしっ!とりあえず、あいつの家に入らせて

もらって…それから霊にこっちに来てもらうか!!


頭の中で考えをまとめ上げ、すぐに俺はそれを行動に移した。ママチャリをとりあえず、端の

ブロック塀に立てかけ、大けがを負っている護衛役の少女をおぶり、亮太郎の家へと向かった。

―頼むぜ?この歳で人殺し…もとい悪魔殺しなんて勘弁だぜ!!


俺は心の中で誰かに懇願し、亮太郎の家へと駆けた。



そしてようやく亮太郎の家へとたどり着いた。

「はぁはぁ…亮太郎…頼むから出てくれよ?」

ピンポーン!

チャイムの音が鳴り響く…。しかし、なかなか誰も出てくれない。まさか、こんな時に限って

外出中?いや、そんなことはない…はず。頼む!出てくれ!!

すると、俺の願いが通じたのかインターホンから女の子の声が聞こえてきた。

〈はい…もしもし?どちら様ですか?〉

「え〜っと、あぁ神童です!亮太郎君いますか?」

〈変態兄貴ですか?〉

―あ、兄貴!?あぁ、そうか…亮太郎の妹か…。確か、名前は『雪菜』ちゃんだったかな?


俺は過去に亮太郎の家に遊びに行った時に会ったことがある妹の雪菜ちゃんを思い出した。

しかし、インターホン越しに聞くと彼女の声とは少し声質が違って聞こえた。

「ああ…うん!」

〈今は二階です…それよりも神童…って、もしかしてあの時の?〉

「そう!覚えててくれたんだ!ってそれどころじゃない!!」

〈何かあったんですか?〉

「ちょっとね…野暮用で家に入れてくれないかな?」

〈なんだか、その言い方だとただの不審者にしか聞こえないんですけど…〉

「ええ〜っ!?えっと、じゃあ何ていえば…ええっと…」

〈ふふっ、あはは!!相変わらず、面白い人ですね!いいですよ!神童さんなら

家にいれても大丈夫ですし…あの変態兄貴ならゴメンですけど…〉

―えっ?他人はOKで兄貴はダメなの?それよりも今はこいつのことが先決だ!


俺はすっかり冷え切ってしまっている彼女の容体を案じ、雪菜ちゃんに言った。

「じゃあ、入れてくれるんだね?」

〈はい…ちょっと待っててください…〉

そう言って彼女はインターホンを切り、玄関ドアの鍵を開けた。

「…こんにちわ!神童…さん…!?ど、どうしたんですか?その人…」

「はは…ちょっといろいろあってね…」

「いろいろって…血まみれじゃないですかその人…」

雪菜ちゃんは既に虫の息になっている少女の姿を見て言った。

「とりあえず、入っていいかな?」

「い、急いでください!!早く傷口をふさがないと、出血多量で死んじゃいます!!」

俺達二人が騒いでいると、二階から亮太郎が降りてきた。

「ったく何だよ騒がしいな〜。今日は疲れてんだから寝かせてくれよ…って、お〜響史じゃねぇか!!

どうしたんだこんなところに…」

「亮太郎!頼む、少しの間だけでいいから家に入れさせてくれ!それと、電話貸してくれ!!」

俺の顔とその慌てよう…そして、何よりも後ろでおぶられている大けがを負った少女の姿を見た亮太郎は

急に目を閉じ、ポケットに手を突っ込むと前髪を片方の手でシャランッとカッコつけの様に

なびかせ、白い歯を光らせ

「もちろんさ、このボロッちぃ家でよければ、いつでも使ってくれ!!」

と親指を立ててグーサインを向けた。

「サンキュー亮太郎!!」

俺は靴を器用に足だけで脱ぎ、亮太郎の家にずかずかと上がりこむと、リビングの広いスペースに

少女を横たわらせ、電話をかけに行った。

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