小説『魔界の少女【完結】』
作者:YossiDragon()

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「え〜と、自宅の電話番号はっと…」

自分の家の番号を脳内に思い浮かべ、それをプッシュしていく。そして、通話音を確かめ俺は家にいる

やつの誰かが電話に出るのを待った……待ち続けた。あれ?全く出てこないとはこれ如何に?

おかしい…。家には確かに瑠璃達がいるはずだ。俺の帰りを今か今かと待っている…はず!

なのに、どうして出ないんだ?まさか、誰も気づいていないとか?もしくは、受話器の取り方が

分からないとか?いやいや、さすがにそんなバカなやつはいないだろう…。

そう俺は自分に言い聞かせ、しばしの間彼女達が電話に出るのを待ち続けた。

そして、ようやく誰かの声が聞こえてきた。どうやら、電話がつながったようだ。

「あっ、もしもし…―」

ツーツー…。

何故か通話が切れた…。

―なんでだぁああああ!!?一体これはどうなってるんだ?どうして、電話を取っていきなり切れる!?

くっそぉおお!!


俺はイライラしながらも冷静に自分の気持ちを落ち着かせもう一度電話をかけなおした。

そして今度はすぐに電話がつながった。すると、電話がつながるや否や、すぐに謝罪の言葉が受話器

越しに聞こえてきた。

〈ごご…ごめんなさ〜い!!すみません、私デンワ…えっ?電話?え〜っと、えと…電話なんて初めて

なもんですから…あっ、どちら様ですか?私の名前は霊です!!〉

―言われなくてもその慌てふためきようと声を聴けば分かるって!!っていうか、人に尋ねておいて

いきなり自分から名乗るってどうよ?


などと俺は軽いツッコミを入れ、コホンと咳払いして彼女に言った。

「もしもし霊?っていうか、霊だよな…あのさ、今すぐに亮太郎の家に来てくれないか?ちょっと、

緊急事態なんだ…」

〈緊急事態?って響史また何かやらかしたの?まさか、ついに人引いちゃったとか?アハハハ…!!〉

本来ならんなわけねぇだろ〜とか俺も軽く流すところだが、今回の場合はちょっとばかし状況が

異なる。本当に人をはねてしまったのだ…厳密的には人ではなく悪魔なのだが…。

「霊…実は、本当にはねちゃったんだ…」

〈アハハ…えっ?えっ、今なんて?〉

彼女の笑い声が急にピタッと止んだ。

「だから…俺、人引いちゃったんだ」

〈う…ウソだよ、そんな…響史が人引いちゃったなんて…ぷぷっ!!〉

―うん、やっぱり俺が人引くなんてありえないって思って……ってあれ?何で最後笑ってんの?


「ねぇ…今、お前笑わなかった?」

〈わ、笑ってなんかないよ〜ぶふっ!!〉

「いやいや、確実に笑ってるだろお前!さっきから語尾みたいに笑ってる言葉が入ってるんだよ!!」

〈だから、笑ってないってば〜ぷはははっ!!〉

「これ、確実…絶対に確信犯決定だよ!!」

〈ごめんごめん…え〜っと誰だっけ?こうたろう?〉

―こうたろうってむしろ誰だよ!!?


「…亮太郎な…」

〈あぁ〜、それそれっ!……って誰だっけ?〉

彼女は電話越しにとぼけた。

「ズコッ!!」

俺は思わず、ズッコケてしまった。

「あのバカだよ!」

〈あ〜分かった!〉

―今ので分かるって、亮太郎…あいつ、みんなにどんな認識のされ方してるんだ?


と俺はだんだん彼のことが心配になってきた。

そして、それからしばらくしてようやく、霊がやってきた。霊は俺が引いた相手の姿を見るやいなや

急に顔を青ざめそれから気絶して虫の息状態である彼女の傍に駆け寄り、彼女の体を激しく揺さぶった。

「ちょっ、どうしてこんなことに?っていうか、どうして霖がこんなところにいるの?」

俺は霖という名前が気絶している少女のことだということを瞬時に理解した。というか、ここにいる

人物からして彼女しか残っていなかったからである。

「すまない…霊。まさか、あんなところで急に飛び出してくるとは思わなかったから…。

本当にすまない…」

「い、いいよ…そんな謝らないで顔を上げて?」

「俺を許してくれるのか?」

俺は彼女に許してもらえるとは予想外だったため少し拍子抜けだった。

「大丈夫…心配しないでも、私には治癒能力があるんだよ?この力を使えば、簡単に霖の傷を治す

ことだって可能だよ!!」

霊は自分の胸をポンと叩いて自慢げに言った。俺は少しホッとしていた。もしも仮にこれで彼女が

治せないなどとなれば、潔く俺は腹を切らなければならないくらいの状況だったからだ。

「本当に治せるのか?」

「少し時間はかかると思うけど、これくらいの傷なら二時間もあればなんとか…」

「二時間もかかるのか?」

俺は治癒にかかる時間を聞いて目を丸くしていった。確かに、この傷ならば時間はかかると思っていたが

まさかこれほどまで時間がかかるとは思ってもみなかったからだ。

「その間、俺はどうしたら?」

「響史はしばらく休んでて?まだ、気が動転してて気持ちの整理がちゃんと出来てないと思うの…。

霖のことは私に任せておいて!!」

霊にそう助言され、俺は彼女のありがたみを受け入れることにし、その場を離れた。

すると、彼女は直ちに治癒を始め彼女の傷口に手をかざした。そして、彼女の持つ三つの黄金色の鈴

から眩い光が放たれ彼女の傷口をふさいでいった。それを見た亮太郎は突然の出来事に何事かと

あたふたしていた。俺は彼を半ば強引に引っ張り台所へ連行した。

「うぉい!神童!ありゃどういうことだ?タマちゃんは一体何してたんだ?」

「まぁ、そこはあまり触れないでくれ…。それよりも、亮太郎…台所借りていいか?」

「どうしたんだ急に?」

俺の突然の頼みに亮太郎は首を傾げた。俺は訳を話した。

「なるほど…買い物バッグから大量のリンゴか……。う〜ん、確かにそれは間違いなくアップルパイ

に違いねぇな…まぁ、俺的にはアップルパイよりもおっ…―」

ゴスッ!

「イテッ!!んだよ急に…」

「それ以上言ったら、鉄拳くらわすぞ?」

「すんませんっした〜!!!」

亮太郎は急に真剣な目つきになって謝罪の礼をした。

「とりあえず、アップルパイを作ろうと思うんだが…。アップルパイってどうやって作るんだ?」

「はぁ?お前、んなことも知らずに作ろうとか言ってんのか?そこは俺様に任せとけ!

まずはな………ゆ〜きっな〜!!」

結局彼は考えに考えたあげく、出来た妹に頼ることにした。まったくもって、こいつには兄としての

威厳がこれっぽっちも感じられない。本当に大丈夫かこいつという感情を抱きながら俺は雪菜ちゃんが

台所にやってくるのを待っていた。

「もう何なの兄貴…私、中間テスト前だから勉強したいんだけど…」

「えぇ〜っ、そこを何とか…。お願いします雪菜様〜!!」

少し上の立場になれたことに対して気分を良くしたのか彼女は少し照れながら言った。

「し、仕方ないな〜。今回だけだからね?」

「あ〜ありがとうございます!!」

自分の妹をまるで神様の様に崇め奉る亮太郎…。その哀れな姿を見ていると逆に面白い兄妹に見えてくる。

俺の姉弟もこんな感じだったらいいのにな〜と思いながら俺はそれをしばらく眺めていた。

そして、雪菜ちゃんの指導の元、俺達三人は霊に霖と呼ばれていた少女の買い物バッグにあった

リンゴを使用してアップルパイを作ることになった。

「ところで、神童さん…。このリンゴ勝手に使っていいんですか?それに、アップルパイを作るって

言ってましたけど、これ本当にアップルパイに使うリンゴなんですか?」

雪菜ちゃんはリンゴを片手に俺に訊いてきた。すると、俺が答えるよりもいち早く亮太郎が言った。

「考えてもみろ雪菜…。リンゴがたくさんあるといったら、アップルパイに決まってるだろ!?

赤ずきんちゃんだってアップルパイをおばあさんに持って行ってたじゃないか!」

「でも、あの人は赤ずきんかぶってなかったよ?」

「うっ!?それはそうだが…。まぁ、それは今は……おいといて!」

彼は何もない空間の一部に手をかざしそれをまるでそこに何かがあるかのように持ち上げ、少し

別の場所に置くという動作をしながら言った。

「とにかく、彼女の顔を見てみろ!」

「えっ、顔?」

兄に言われるがまま、妹は霊に治療してもらっている霖の顔を見た。

「それで、顔がどうかしたの?」

「どうだ…アップルパイを食べたそうな顔をしてるだろ〜?」

「……」

彼女の沈黙には、はっきり言って俺も同感だった。彼の言っている意味は俺にもよく分からなかったからだ。

「亮太郎…お前、もしかして自分がアップルパイを食べたいんじゃないのか?」

半ば冗談気分で俺は彼に言った。すると、彼はカッと目を見開き俺を見て言った。

「なっ!!……なぜ、なぜ分かった!?」

「いや、今のやりとりで分かるだろ!?」

俺は顔の前で手を激しく振った。

「なるほど…確かに、少し問題が簡単すぎたか…」

「問題だったのか今の…」

「んなことより、アップルパイ作ろうぜ?」

「お前がわけのわからん方向に持って行ったから話がややこしくなったんだろうが!!」

急に話を切り替える亮太郎に俺は鋭いツッコミをかました。

「まぁまぁ落ち着けって!怒りすぎるのもよくないぞ?ほら、牛乳飲め!牛乳!!」

「でも、怒りっぽいのはカルシウムが足りないせいだっていう言葉は嘘らしいよ?」

「えっ、そうなの!?」

雪菜がこの間友達から聞いたという話を聴いて、亮太郎が驚きの声を上げる。

そんな冗談話も交えながらようやく俺達はアップルパイを完成させることに成功した。

「ん〜、いい香りだ〜!!たまんねぇな〜この匂い!うおっと思わずよだれが…じゅるり」

亮太郎が口の端から垂れてくるよだれを腕で拭いながら、目を輝かせアップルパイに手を伸ばした。

パシッ!!

彼がアップルパイに触れるまで後数ミリというところで、妹の雪菜ちゃんが彼の手の甲をはたいた。

「こらっ!!兄貴は食べちゃダメ!!触れるのも禁止!!」

「え〜っ、お触り禁止なの〜!?」

「その言い方やめて!!卑猥に聞こえるから…」

雪菜ちゃんは少し顔を赤らめながら亮太郎に言った。

「雪菜のケチ〜…」

子供の様に頬を膨らませる亮太郎…。その姿を見ていると、どちらが年上でどちらが年下なのか

分かったもんじゃない。俺は口げんかしながらもじゃれ合っている二人を台所に残し、リビングへ

戻り、霖がどの程度治ったか確認しに向かった。すると、もう既に小さな傷跡は残っておらず、

残っているのは大きな傷跡と、はねられた際に服の部分部分に開いた穴のみだった。

「予定よりも少し治るの早くないか?まだ、二時間経ってないぞ?」

俺は霊の後姿を見ながら彼女に言った。

「えっ?あっ、ごめん…聞いてなかった。リピートアフタミー?」

―ナゼエイゴ!?


俺は驚きのあまり片言でツッコんでしまった。とりあえず俺は一度咳払いをし、もう一度彼女に言った。

「だから、治癒されるの早くないか?」

「そうかな…。これでも時間かかったほうだけど…」

「二時間はかかるんじゃなかったのか?」

「それは人間だった場合だよ…。同じ悪魔ならそこまで時間はかからないんだ!種族が同じなら、すぐに

相手にどれだけの魔力を注入しても大丈夫かなんてことは既に分かってることだしね!!」

霊は満面の笑みをこぼしながら俺にそう言った。

「そ、そうなんだ…」

俺は少し照れくさそうにしながら相槌を打ち、壁にかけてある時計の時刻を確認した。すると、

霊が何かおいしそうな匂いがすると言って匂いを嗅いだ。

「この匂いって何の匂い?」

彼女の質問に俺はサクッと答えた。

「ああ、アップルパイ作ったんだ!霊も食べるか?」

「えっ、いいの?」

彼女は嬉しそうに両手を顔の前で合わせ、俺に確認を取る。その笑顔を見て、よほどお腹が減っていた

んだなと思った。まぁ、昼ごはんを食べていないから無理もないが…。

「じゃあ、台所にあるからこっちにこい!」

「うん!もうすぐ終わるから先に行ってて!」

霊は再び治癒を再開し、さっさとアップルパイを食べたいがために、一気に力を増大させた。それにより、

治癒速度は一気に加速、あっという間に霖の傷は全て塞がってしまった。

「すげぇ!ていうか、ホントお前って現金だよな…」

「ん、何が?」

「いや、分からないならいい…」

俺は訳の分からないことで追及されても困ると思い、それ以上のことは言わないことにして台所へ

向かった。

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