小説『魔界の少女【完結】』
作者:YossiDragon()

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「待て待て待て!!」

俺は振り下ろされる彼女の細い右腕をがっしりとつかみ、それ以上危険な鋭い凶器が近づかないようにした。

「何ですの?私は何も間違ったことしていませんわ!!間違っているのはあなたの方です!!」

「俺が何をしたってんだよ!!」

「こんな遅くまでお姉さまと一緒ということは、即ちそれは禁断の過ちを起こしていたということ!」

「んなわけねぇだろ!!どんな解釈してんだてめぇは!!」

俺は上にのしかかっている霰をどかして、彼女に説明した。しかし、彼女は首を振るだけで答えてくれない。

すると、俺のかわりに霊が殊の事情を全て話してくれた。

「なるほど…そのようなことが…ということは、あなたは買い物にいったあげく、帰り道に誤って

悪魔をひいたということですの?」

「うっ…確かに、そうではあるが…。俺は別に、ひきたくてひいたんじゃねぇよ…」

「本当にそう思ってらっしゃいます?」

「どういう意味だ?」

「毎度毎度あなたが私たちのせいでひどい目にあうからその腹いせに力を持っていなさそうな霖を

狙ったんじゃないんですの?」

「そうなの?お兄ちゃん!?」

「違う違う!霰!誤解を生むような言い方するなよ!!」

「気安く下の名前で呼ばないでほしいですわ!私の高貴な名が汚れてしまうじゃありませんの!!」

「うぐっ…悪かったな…」

俺は少し心に傷を作りながらもそこは堪え、話を続けた。

「とりあえず、こうして無事だっただけでもよかっただろ?」

「それはお姉さまの力があってのことですわ。もしも、お姉さまが少しでも遅れてしまったら、

今頃霖はこの世にいないかもしれませんわ!!そこのところ、分かっていらっしゃるんですの?」

「ひどいよお姉ちゃん!勝手に殺さないでよ!!」

「仮の話ですわ…」

霖の言葉に、霰は目を逸らしながらそう言った。と、その時ふと彼女の鼻孔を激しい異臭がつついた。

「うっ!?なんですのこの臭いは!!」

「臭い?そんなもの、臭わないよ?」

「いいえ…この臭いは間違いなくゴミなどの腐敗臭の臭いですわ!!あなた、一体どこにいたんですの?」

「ホームレスの人達に晩御飯をあげてたけど…」

「なっ、なななほ、ホ〜ムレス〜!!?じょ、冗談じゃありませんわ!!」

そう言って、彼女は慌てて懐からなぜか持っていた消臭スプレーを使って霖の顔にサッと吹き付けた。

「ぶわっ!!ちょ、何するんだよお姉ちゃん!!」

「この悪臭はたまりませんわ!!少しおとなしくしていてくださいですの!!でないと、この空間が

腐敗臭に満ちてしまいますわ!!」

―霰…まさか、俺の家が悪臭に満ちてしまうのを防いでくれるのか…ありが…―。


「ただでさえ、この変態によって空気が汚染されているというのに…」

―訂正…。誰がお前に感謝するものか…それと、その言い方はいい加減やめてほしい。


俺はボソッと呟いた彼女の一言で考えを改めた。とりあえず、俺はスプレーが目に入ったのか、

目に涙を浮かべている霖に風呂に入って体洗って臭い落としてこいと言って、彼女を霰に風呂場に連れて行く

よう頼んだ。霰はブツブツと文句を言いながらも、妹を案内した。以外にも、霊以外にもああいう風に

接してやるところ辺りが、偉いなと思いながら俺はリビングへ入ろうとした。その瞬間、俺の前髪が

数ミリ瞬時にカットされた。

「ぬぅおわっ!!?…な、何だ?」

俺は足元に落ちている自分の銀色の髪の毛を見ながらゴクリと息を呑んだ。そう、この前髪は別に

鎌鼬にあったわけではない。霄の妖刀によるものだ。その証拠に、目の前には背中を見せた状態の

霄がいた。邪悪なオーラを体に纏わせて……。

「あ、あの…霄」

「随分と遅かったな…響史。一体何をやっていたのだ?」

ヤバイ…随分とこれはご機嫌斜めだな。それも、無理はない。買い出しに行って時間は相当経つ。

その間、無論料理を作れる奴等存在しない。かといって、霄が作ったりしたらそれはもう大変なことになり、

汚物処理班の方々のお世話になることになる。しかも、それを食べようものなら瞬時に、デストロイである。

「いやぁ…これにはまぁ様々な事情がありまして」

「ほう、事情…。では、その事情とやらを詳しく細かく明細に述べてもらおうか?」

「あの…その前にトイレに行ってきてもよろしいでしょうか?」

「却下だ!!」

「はい…」

俺は強制的にその場に正座させられ、彼女にベラベラと買い出しから今までのことを全て話した。

話が過去から現在に近くなるにつれて、彼女の体から怒りのオーラが消えて行った。そして、話終わる

頃には完全に彼女の体から怒りのオーラが消えてなくなった。これで、俺の命は救われた…そう思った。

しかし、そううまくはいかないのだった。ガラガラとリビングの扉が開いたかと思うと、そこから

現れたのはバスタオルなどつけずに全裸で俺に向かって走ってきた霖だった。

「ななっ、お前何で裸なんだよ!!」

「お兄ちゃん助けて!!」

「た、助けてって何かあったのか?」

「お、おお…お姉ちゃんが…」

「お、お姉ちゃん?」

俺は頭の中に当てはまる姉を探し出した。しかし、次の瞬間それが誰なのかそして、どうして彼女が

姉に追い掛けられることに対して助けてと言ったのかも理解できた。

「り・ん・ちゃ〜ん♪」

それは、無論かわいい女の子なら誰でもOKである変態女の露さんである。

「いやぁああ!!」

霖はサッと俺の後ろに隠れて俺の裾をギュッと握った。

「何で逃げるの霖ちゃん?」

「こ、怖い…」

「怖くないよ〜?怖くないからこっちにおいで〜ぐへへ」

「露さん…言葉の語尾に不気味な声が…」

「そこどいて、響史くん!私には、霖ちゃんとチョメチョメするっていう使命があるの!!」

「真剣な顔で言うな!!」

俺は思わず、彼女にタメ口で言った。

「もうっ!少しくらいいいじゃない!!そこどいて!!霖ちゃ〜ん!!」

彼女の暴走はとどまることを知らなかった。俺は呆れた顔になりながらも彼女に言った。

「霖も怖がってるんですから、やめておいてくださいよ…」

「そ、そんな…私のことが怖い?う、ウソ!嘘よそんな…い、いやああああああああ〜!!!」

急に彼女は顔を真っ青にして、叫びながらリビングのドアを開け放ち、どこかに行ってしまった。

―相変わらず、恐ろしい人だ…いろんな意味で。


「霖?もう、行ったから大丈夫だ…」

「うぅ…ホント?」

「ああ…」

「はぁ〜よかった。露お姉ちゃんだけは、どうも苦手で…」

―いや、あの人は誰でも苦手だと思うぞ?


俺は深く彼女に同意した。



それから、俺はこれ以上皆にご飯を与えなかったら本当に、霄達に殺されそうなので急いで

晩御飯を用意して彼女達に振舞った。彼女達は目を輝かせてそれを食べつくした。その時の彼女達の

食いっぷりったらなかった。悪魔ということが関係しているのかは知らないが、少なくとも大量…

大皿五枚はある量の晩御飯をメンバー全員がペロリとたいらげてしまうのだ。これはもう、悪魔である

ことを認めざるを得ない。こうして、俺の慌ただしい休日も幕を閉じ、また明日から学校生活が

始まるのだった……。

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