小説『魔界の少女【完結】』
作者:YossiDragon()

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第二十八話「俺の誕生日(前編)」

今日は6月6日…。季節はもう梅雨の時期…。ジメジメした環境のせいで、ダニなどが猛烈に

繁殖したり、カビが発生したりする厄介な季節…。特にこの季節が嫌いだという人も少なくはないと

思う。俺もまた、その一人…。しかし、よりにもよってそんな季節に俺の誕生日はある。

そう、即ち6月6日は俺の誕生日なのだ…。今年で俺も高校一年生…。そして、16歳になる。

学生生活の半分を終えたと言っても過言ではないかもしれない。留年をすれば別だが…。

だが、そんな日に限って親はいない。かといって、弟がいるわけでも姉がいるわけでもない。

弟にいたっては友達(雛下の弟)の家に泊まりっぱなしで一向に帰ってくるそぶりを見せない。

まぁ、悪魔がたくさんいるこんな状態で帰ってきてもらっても、困るっちゃあ困るのだが…。

ちなみに、姉もあれ以降、全く電話してこない。親に至っては、手紙もよこさない程…。出稼ぎといえども、

息子の一年に一度の誕生日くらい祝ってやろうという気はないのかとさえ思う。

それも誕生日が嫌いな理由でもある。そんな俺は今日もまた重いまぶたを開け、穴の開いた天井を

見つめる。横を向けば、女子…もう一方を向いても女子…。こんなジメジメした時期にこうくっついて

いては、暑苦しいことこの上ない。まぁ、気分的に最悪というわけではないが…。

ほんのちょっとばかし、俺は隣でスースー寝息を立てながら寝ている霊の頬をつねった。牡丹餅の

ように白く柔らかい肌。つねってみても、もち同然に柔らかい。ここまで伸びるのかというほど、

伸びる…。彼女は俺に頬をつねられたせいか、少し不機嫌そうな顔をしながらも、しばらくすると

また元の自然な顔に戻り、また寝息を立て始めた。

「はぁ…今日は学校…か」

俺はベッドから出て、窓越しに外の様子を眺めた。時刻は七時ちょっと前…。もう夏が近づいていて、

陽が上るのが早いせいか、辺りは少し明るくなっている。しかし、それはいつもならば…の話。

今日はちょっと勝手が違った。今日は天気予報の宣言通り、雨…しかも、土砂降り…。本当、誕生日

だというのについていない。一応、俺は制服に着替え下に降りてテレビのスイッチを入れ、重いまぶたを

擦りながら朝の天気予報を見た。お天気お姉さんが明るい声で、天気を視聴者に伝える。

{今日の天気は大雨で〜す♪}

―何でそんなに嬉しそうなんだ?


俺は、ふとそう思った。人がこんなに暗い心境なのに、相手はすごく嬉しそうな顔をしている。

しかし、次の速報のお知らせの言葉を目で読んだ後、俺も一気に暗い心境がパッと明るくなった。

そこにはこう書かれていた。

【大雨により、現在暴風警報発令中…】

その文字を読んだ瞬間、俺は一気に目を見開いた。眠気も吹っ飛ぶほどの嬉しさ。なぜなら、こんな

土砂降りの中、風も強いのに学校に行くなんて御免被るものだったからだ。外は雨だったが、

俺の心の中はカンカン照りの快晴状態だった。

「ふわぁあ〜…。ん〜、響史どうしたのそんなにルンルンしちゃって…」

「お、瑠璃…今日は、学校休みだってさ!」

「えっ、そうなの!?」

彼女は少し拍子抜けの様な顔をしていた。

「ああ…今、速報が出てな…この辺り一帯は、暴風警報発令中だから、今日は学校もないんだ」

「へぇ、そうなんだ…。ところでさ、さっきカレンダー見たんだけど今日の日にちに赤ペンで

丸印つけられてたけど、今日は何か特別な日なの?」

「ん?ああ…今日は、俺の誕生日なんだ…」

「えっ!?へ、へぇ…そうなんだ。偶然……だね」

「?…まさか、お前も今日誕生日なのか?」

「いや、私じゃ…ないんだけど…」

俺は彼女の少し焦っている姿を見てよけい気になった。他に可能性があるとすれば、護衛役の連中

だが…。そもそも、悪魔に誕生日なんて存在するのかどうか…。


「誕生日ならちゃんとあるよ!!」

「人の心を読むな!!…って、悪魔にも誕生日あってあるんだ…」

俺は初めて知った。

「うん!ちなみに、私の誕生日は麗魅と一緒で、6月9日だよ!!」

―俺の三日後!?しかも、あっという間だし…。


「それで俺以外に今日誕生日のやつがいるのか?」

「うん…まぁいるにはいるんだけど…」

「それって…―」

ピンポーン♪

俺の声を遮って、インターホンの音が流れた。

「誰だ…こんな時間に…」

「私が出ようか?」

「いや、大丈夫だ…それに、お前パジャマ姿だろ?そんな格好で出たらはしたないだろうが…」

「そうだね…」

瑠璃は笑顔でそう答えた。俺は少し面倒だなと思いながら玄関に向かった。そして、はーいと

ダルい声を出しながらドアを開けた。すると、そこに立っていたのは予想外というか久しぶりの

人物だった。

「よっ!久しぶりだな…神童」

「お、お前は…雫!?」

そう、それは青髪に青い目をした護衛役の男…雫だった。しかし、一体全体こんなところに何を

しにきたのだろう…。

「こんなところまで、出向いて何しにきたんだ?って顔してんな…」

「むっ…!?」

「何々、隠そうったってそうはいかねぇぜ?まぁいい。今日はお前らに用っていうか…話が

あってきたんだ…」

「話?」

俺は首を傾げて訊いた。すると、彼は間を開けずに答えた。

「実はな…、今隣にアパートが出来ているの知ってんだろ?」

「あぁ、そういえば…近頃なんか、近所が騒がしかったな…」

「まぁ、そういうわけだ…」

「どういうわけだ?」

「簡単に言えば、そのアパートに住むってことだ!」

「えっ!?つまり、お前が隣に住むってことか?」

「そういうことだ…それよりも、妹達はいるか?今日は大事な日なんだが…」

「大事な日?…誕生日とか?まさかな…ははは」

「…よく、分かったな。その通りだ!」

雫は真顔で言った。俺は一瞬、動きが止まった。

「えっ!?」

「ん?つまり、今日は俺の誕生日なんだよ…」

「ええええぇええ〜〜〜!!!!?」

俺は本日、一番の大声を出した。

「そんなに驚くことはないだろう…」

「じゃあ、瑠璃が言ってた今日が誕生日のやつって雫!?」

「うん…まぁね」

「お〜、姫…覚えていてくれたのか…」

「そりゃ、そうだよ…。あの時、だって…」

「うわぁあああ!!やめろ…それ以上は言うな!!」

「おっと、そうだったそうだった…」

「ん?何かあったのか?」

「いや、なんでもない…それよりも、お前のその反応からすると、ひょっとしてお前も誕生日

だったりするのか?」

「まぁな…」

「そうか…じゃあ、今日は皆に祝ってもらおうな!!」

「ん?祝ってもらう…って、それ…お前も含まれてるのか?」

「当たり前だろ…あいつらは、元々俺の妹達であり、お前の妹ではない…。その点について文句は

あるまい?」

「うっ、まぁそうだが…」

「はは〜ん、さてはお前…祝ってもらう人がいないんだろ?そうだろ?見た所、姫や妹たち以外、

誰もいなさそうだからなこの家…」

雫は腕組みをして俺を見下した。

「なっ、んなこと……ねぇよ」

「そうか?まぁ、いいが…」

雫はそう言って、俺の脇を通り抜けると勝手に家に上がりこんだ。

「えっ、ちょっ…お前何してんの?」

「何って…決まってるだろ?家に上がってるんだよ…」

「いや、そうじゃなくて…」

「誕生日の準備しないといけないだろ?年に一度の誕生日だ…派手にやらないとつまらないだろ?」

彼は帽子をテーブルの上に置き、その近くに上着を置いた。カッターシャツと長ズボン姿になった

雫は、さっそく持ってきた荷物の中から様々な小道具を取り出した。

―うわぁ…本当に本格的だな…。


「何ボケッと突っ立ってるんだ…お前も手伝え!!姫は…そこで、休んでいてくれ…」

「何で…俺が…それに、今日は誕生日なんだぞ?」

「誕生日だからこそだ…」

「はぁ…」

俺は、トイレに行くという口実でその場を切り抜け、隙を見て瑠璃を呼んだ。

「なぁ、瑠璃…」

「なに?」

「あいつって…ああいうやつだったか?」

「いや…。誕生日のこことなると、つい張り切っちゃう人なんだよあの人は…。今までもそうだった

からね…」

「へぇ…」

「妹達のためとか言って、張り切っちゃって…クス玉とかも用意してたな〜…」

「えらく、本格的だな…。まぁ楽しそうでいいじゃねぇか…」

「多分、今日もここに来たのは久し振りに妹達と楽しみたいのが理由なんじゃないかな…」

「……いいよな、兄妹がすぐ近くにいて…」

「響史は近くにいないの?そういえば、お姉ちゃんとか弟とかは?」

「どっちも、家に来ない…。親も出稼ぎでいないし…。じいちゃんや、従姉妹には別に来てほしくない

ってわけじゃないけど、絶対に来てほしいわけでもないし…。正直微妙なんだよな…」

「じゃあ、今まで私たちが来るまではどうやって誕生日の日過ごしてたの?」

「……一人で、ケーキ買ってきて、三角帽子かぶってクラッカー一人で鳴らして、電気を誕生日.Verに

して、一人で歌って……自分に誕生日プレゼント与えてた…。あの時のケーキはしょっぱかったな…」

俺は昔のことを語りながら、遠くを見つめた。

「それは、あまりにもかわいそすぎる…。分かった!響史…私達が誕生日プレゼントにいいものあげる

から楽しみに待ってて!!」

「いいもの?…ああ、分かった。それよりも、他のやつら起こして今の状況を伝えないとな…」

「そうだね!!」

俺と瑠璃は二階へ行き、部屋の扉を開けた。夏の時期のせいか、ほとんどのやつらがだらしない恰好で

寝ている。まったく、人の家で…どうしてこうも図々しくいられるのか、理由がさっぱり分からない。

とりあえず、俺と瑠璃は片っ端から彼女達を起こしにかかった。にしても、本当に姉妹だなと思うのが、

起こしても起こしても、全く起きないという点…。ここは本当によく似ている。

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