小説『魔界の少女【完結】』
作者:YossiDragon()

しおりをはさむ/はずす ここまでで読み終える << 前のページへ 次のページへ >>

彼女はドヨ〜ンとどす黒いオーラに包まれ一人台所のテーブルのところで椅子に座り膝を抱え込んで

体操座りするような形で顔を俯かせたまま動かなくなった。

「アレでいいのか?」

「しばらくはあのままでいいだろう…妹達もうんざりしてたようだしな…」

「まぁ確かに…あのペースにはついていけねぇわな…」

俺は納得の頷きを二、三回繰り返した。



そして、俺は霖と多少不安ではあるが、霄…の二人を連れて

台所に向かった。

「じゃあ、とりあえず…ボウル出すか…」

俺はエプロンをきちんとして、背中に腕を回し紐をきちんと結ぶと同時に、気も引き締めた。

初めて挑戦するケーキ作り…初めてとはいえ、失敗するわけにはいかない。失敗すればそれは死を

意味する…何せ、今回のケーキ作りには不安の塊である霄がいるのだから…。俺は深く深呼吸をして

収納棚から銀色のボウルを取り出した。それを、木で出来た頑丈なテーブルに次々に置き、それを

霖が手際よく並べていく。様々な大きさのボウルが綺麗に並べられたところで、俺は他に必要な物を

探した。

「お兄ちゃん!ヘラとかも必要なんじゃない?」

「おぉ…そうだな…」

俺は料理などの情報など経験豊富そうな霖の助言を聴き、言われた通りに行動した。そして、道具なども

全て準備し終えたところで、ついに作業を開始することにした。

「え〜と…とりあえず、何をすればいいんだ?」

しょっぱなから俺は分からなかった。しかし、霖は間髪入れずに答えた。

「まずは何ケーキ作るのか考えないと…」

「そうだな…普通にやっぱイチゴのケーキとかがいいんじゃないか?素人にも頑張れば作れそうだし…」

「うん、そうだね!じゃあ、とりあえず卵とかイチゴとかそういうの準備しないと…」

「え〜と、確か卵は…」

俺は冷蔵庫の扉を開け、扉のところの卵置場を覗き込んだ。良かった…五、六個の卵がまだちゃんと

残っていた。俺はその卵を手に取り、テーブルに置いた。

「おっとっと…」

コロコロと転がって行く卵の動きを慌てて止めた俺は、それを床に落ちたりしないようにたくさんの

ボウルの内の一つに入れた。

「えっと…イチゴは…しまった!そういえば切らしてたんだった…」

「だったら、私が狩ってこよう!!」

「おい!また字間違えてんぞ!!買う!いいな?狩ってくるんじゃねぇぞ?買うんだからな…」

「解っている…」

俺は少し多少心配ながらも、彼女のことを信じることにして、お金を渡した。

「いいか?ちゃんと買って来いよ?」

「二度言わなくても分かる!」

彼女は少しムスッとした顔で出て行った。

「はぁ…大丈夫だろうか…」

「大丈夫だよお兄ちゃん…霄お姉ちゃんなら…」

「霄だからこそ…危ないんだよ」

「確かに…否定はできないけど…」

さすがの彼女にも、これ以上霄をかばうことは出来なかったようだ。

とりあえず俺達二人は、卵やバニラエッセンスミキサー、薄力粉などを用意した。



「じゃあ、割るぞ?」

「う、うん…」

「せ〜の―」

「きょうし〜」

「うわぁああ!!」

「な、何よ…急に…。私の方が驚いちゃったじゃない!!」

麗魅が片方の手で自分の胸に手を当て、文句を言った。

「人が集中してんのに、話しかけるからだろ!!」

「わ、悪かったわね!それよりも、何してんの?」

「見て分かるだろ?卵割ってんだよ…」

「へぇ〜、面白そうね…私にもちょっとやらせてよ!」

「わがままお姫様に出来んのか?」

「なっ、バカにしてんの?そのくらい、私にだって出来るわよ!!」

「ほう、じゃあやってみろよ!」

俺は彼女に卵を手渡した。彼女の手に卵が握られる。

「うわぁ…これが人間界の卵…すんごく小っちゃいわね…」

―じゃあ、魔界の卵は一体どんだけデケェんだよ…。


俺は頭の中で魔界の卵というものがどれほどの大きさなのか想像してみた。しかし、グロい想像図が

完成したので、今すぐ想像するのをやめた。

「どうやって割ればいいの?」

「は?」

「だから…その…割り方が分からないのよ!!」

「いやいや…普通にコンコンパカッ!って…」

「そんなんじゃ分からないわよ!!」

「とりあえず、わりゃあ分かるって!!」

俺はその時彼女が悪魔だということをすっかり忘れていた。悪魔が人間と同じパワーもとい握力とは

限らない。案の定、もしもの事態が、現実のものになってしまった。

グチャッ!!

「きゃぁああ!!な、何よコレぇええ!!?やだ、手がベトベトするぅ〜」

彼女は悪魔…そう、つまりコンコン…パカッとするはずが、コンコン…グチャッ!!となってしまったのだ。

擬音では分かりにくいかもしれないが、ようは力の込め過ぎということだ。だが、本来卵の殻というのも

常人ならばそう易々としかも、片手でなと割れはしないのだが、それをあたも簡単に、さらに少女が

やってしまうのだから恐ろしい。まったくもって、悪魔と言うのは謎ばかりである。

「あ〜あ…汚しちまって…しかも、卵一つダメになっちゃったじゃねぇか…」

「あ、あんたがやらせたんでしょ?私のせいじゃないもん!!」

「お前がやりたいっていうから…」

俺は彼女の手についた卵を丁寧にふき取った。

「ちょっ…く、くすぐったいってば!!」

「おい、動くなって…うまくふけねぇだろうが!ったく…怪力女が…」

その俺が発した最後の一言が彼女の気分を害したのだろう。彼女はブチッと来て、指先をピンと

伸ばすとそのままその手を振り上げ、テーブルに向かってその手を振り下ろした。すると、空気を切り裂く

ビュンっという音がしたかと思うと、スパン!と、あの頑丈なテーブルが、真っ二つに、真ん中から折れて

しまった。無論、その上に置いてあった材料も、全て終わりである…。

「ぬぅうおおぉおおわああああああああああああああああああ!!!!」

俺は、本日二度目の叫び声を上げた。

「なん…なんてことしてくれてんだ〜〜〜!!!」

「耳元でうるさいわね!!」

「それどころじゃねぇだろ…材料が全ておじゃんだぞ!!どうしてくれんだ!」

「また、買いに行けばいいじゃない!!」

彼女は呑気に、笑顔でそう言った。

「んな時間ねぇんだよ!!…ったく、どうすりゃいいんだ。マジで…」

俺が頭を抱えて唸っているとふっふっふと腕組みをして何かを企んでいるかのように笑い声を上げながら、

ルナーが俺の背後に近づいてきた。

「困っているようね…」

「…悪い…今、お前と相手してる暇ないんだ…」

「なっ!?暇を持て余して遊んでほしい子供みたいな言い方しないでよっ!!」

彼女は赤面でそう言った。

「それで、本音は?」

「私が作った発明品を試したかったの…」

「発明品?」

―そういや、こいつ…なんかよくいろんなもん作ってたな…だが、それが使い物になるかどうかは、

甚だ疑問ではあるがな…。


俺は心の中でそう呟きながら彼女の言う発明品とやらを見せてもらった。

「これが私の作った発明品その名も『モノモド銃』よ!!」

「もっと、マシなネーミングはなかったのか?」

「うっ、うるさい!!私が作ったんだから名前だって私の自由でしょ?問題は名前よりも質よ!!」

そう言って彼女はその銃を片手に持つと、実験を始めた。

-149-
Copyright ©YossiDragon All Rights Reserved 
<< 前のページへ 次のページへ >> ここまでで読み終える