小説『魔界の少女【完結】』
作者:YossiDragon()

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「何でまた下に降りてきてやるんだよ…屋根裏で何やってんのか知らねぇけど、そこでやりゃいい

じゃねぇか…」

「だ、だって…失敗したりして、家が壊れたりしたら下敷きになっちゃうじゃん!!」

「それは、下でも同じなのでは…」

「どうせなら…道連れに……」

「ボソッととんでもねぇことぬかすな!!」

俺はとんでもないと言う顔で言った。そして、彼女はモノモドシ銃を使って、どこからか持ってきた

鶏に向かって光線を命中させた。すると、鶏の体がパァアアと光り輝き、卵に戻り…というより退化?

してしまった。

「す、すごい…のか?」

「す、すごいのよ!!それよりも、これでこの銃の力が分かったでしょう?」

彼女は自慢げにそう言った。確かに、銃の威力は解った。しかし、これで本当にこの机が直るのか

どうか…。それが俺は不安で仕方がなかった。だが、どうこう言っている暇もなかったため、俺は

彼女から銃を貸してもらおうとした。

「なぁ、それ貸してくれないか?」

「えぇ〜っ?どうしよっかな〜!」

「いいだろ?なっなっ!」

「ん〜、じゃあ貸してくださいルナー様!って言ったら貸してあげてもいいわよ?」

「なんで俺がそんなこと言わなきゃいけねぇんだよ!!」

「ふ〜ん、別にいいのよ?言わないなら、貸さないだけだから…」

「くっ…」

俺はさすがにこのままでは時間がないと思い、仕方なく彼女の要求を呑むことにした。

「…か、貸してください…」

「声が小さくて聞こえないんだけど?」

「うっ!……くっ、モノモドシ銃を貸してください…ルナーさん…」

「ルナー様…」

「る、る…ルナー様…」

「しょうがないわね…」

何度かの言い直しでようやく彼女からモノモドシ銃を受け取った。それを手に持ち、俺は引き金部分に

指を添え、対象物に銃口を突き付けた。

「こいつを引けばいいんだよな?」

「そうよ!」

彼女は自信満々に言った。しかし、先程の卵のように上手くいくのだろうか?俺は引き金を引いた。

一か八かの賭けだった。時間が押しているため、これ以上手間をかけるわけにはいかない。と、その時

またしても事件が起きた。

「あ、あれ?おい…モノモドシ銃から光線がでねぇんだけど…」

「えっ?そんなわけ…」

ルナーは少し焦った様子で慌てて駆け寄り、俺から銃を引き取ると銃の状態を確かめた。

「あぁ…充電切れね…」

「充電切れ…」

―電池式なのか…。


俺はそう思った。だったら、電池を変えれば簡単な話だと思い、俺は急いで買いだめしておいた

電池を持ってきた。

「これ…使えるか?」

「単四ってある?」

「単四…えらく小っちゃいな…」

俺はそうつぶやきながらビリビリと透明の包みを外した。それを彼女に手渡すと、彼女は手馴れた様子で

それをはめ込んで行った。

「それ、充電式だから、電池切れても捨てるなよ?」

「へぇ…便利ねぇ…」

―充電出来る事しらねぇのか!?


俺は再び、銃を構えた。そして引き金を一気に引いた。すると、銃口からビビビッと黄色い光線が

発射され、その光線が使い物にならない状態のテーブルや割れて中身が飛散している卵や紙袋から

零れている薄力粉などに命中した。すると、それと同時に光線が命中した物体全てが黄色く光り輝き、

元の状態に戻って行った。

「す、すげぇ…」

「どう?これが私の実力よ!!」

「いや、ホントこれすげぇよ!!サンキュールナー!!」

「なっ、だからルナー様でしょうが!!」

彼女はそう言って、俺から強引にモノモドシ銃を奪い取ると、実験結果をレポートにまとめあげる

だのなんだのと言って、屋根裏に戻ってしまった。俺は元に戻ったテーブルなどを見て急いで遅れた

時間を取り戻そうと試みた。手のスピードを速め、急いで材料などの下準備に取り掛かった。

ボウルに卵を卵白と卵黄に分けて入れ、卵白をミキサーで低速でしっかり泡立てる。

作業はほぼ俺と霖の二人だけでやった。他のやつがやって、また時間を削られてはたまらない。

そう考えたからだ。



チン!とオーブンに入れておいたスポンジが焼きあがる合図が鳴った。俺は火傷しないように

分厚い生地で出来ている手袋を両手にはめ、黒いプレートの上に乗っかって美味しそうな匂いを

漂わせているスポンジを取り出した。俺はそれをテーブルの上に置き、スポンジを二枚にスライスした。

その間に、霖が手際よく生クリームにグラニュー糖を加え、角が立つまで泡立てた。

―くそっ…もう時間がねぇのに、霄のやつ…まだイチゴ買いに行って戻ってこないのか?


俺はスポンジをスライスしながらそんなことを考えた。



その頃、当の霄はというと、

「う〜ん……う〜ん…どうしたものか…」

と、目の前にある、ツヤツヤした甘そうな色をしているイチゴを、凝視しながら唸っていた。

すると、それに気付いた店員が彼女に近寄ってきた。

「お客様〜どうかされましたか?」

明るく振舞い、未だ唸り続ける霄に訊く店員…。すると、彼女はこう言った。

「うむ…イチゴを買って来いと言われたのだが、種類がたくさんあってどれを買えばいいのか

分からぬのだ…」

「おつかいでございますか?」

「おつかい?それは…なんだ?」

「えっ…えと…、まぁ頼まれた物を代わりに買いに行くようなものですかね……」

「なるほど…それよりも、お前に一つ聞きたいことがある…」

「はい!何でございましょう?」

店員の男は、笑顔で彼女の質問の内容を聞いた。

「どのイチゴがいいのだ?」

「はっ…はい?」

彼は困惑した。無理もない…。いきなり、客にどのイチゴがいいと言われても単刀直入には答えられない。

「え、え〜と、私的には…やはりこの真ん中の辺りのイチゴなどがお手頃かと…」

「うむ!ではそれにしよう!」

「えぇえええ!!?」

「む?ダメなのか?」

「いえ…ダメというわけではございませんが……」

「他に何かいいものがあるのか?」

霄は店員の曖昧な態度に少しムスッとしながら訊いた。

「そう、ですね…こちらのイチゴは値段は高いですが、甘くておいしいですし…こちらのイチゴは

値段はお手頃ですが、味がさほどよろしくない…。選ぶのは私ではなくお客様の方ですので…」

「無責任な男め!!」

「ええええええぇえぇぇぇぇぇ!!!?」

店員が驚くのも無理はない。彼は質問されたから答えただけなのに、どれにするか選びきれず選択を

自分から彼女に戻したことを、無責任と言われるのだから…。

「もういい…お前には失望した……」

「……あ、あ」

彼はショックを受け、膝から崩れ放心状態に陥った。

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