小説『魔界の少女【完結】』
作者:YossiDragon()

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第二十九話「俺の誕生日(後編)」



「まったく…ここの店員は役に立つ奴が一人もいないのか?使えない人間だな…」

彼女はぶつぶつ文句を言いながらどこかにマシな店員はいないか目で探した。と、その時少し年配の

男の人が少し偉そうにしながら他の店員に指図しているのを見つけた。

「うむ…あいつならば、どのイチゴを買えばいいのかも答えてくれるだろう…」

そう決心した彼女は歩幅を大きくして少し足早にその男の元に近づいた。

「おいお前!」

「はいなんでしょう?」

「答えろ!」

「ひぃっ!!?」

質問されているのに、質問の内容を言わずに答えを要求し、さらに妖刀斬空刀の剣先を男に向けて

脅す霄…。男が驚くの無理はない。彼は真っ直ぐ腕を上に上げ、顔を真っ青にしてもう一度言った。

「お、お客様…落ち着いてください…何のご用でしょうか?何か店内で問題でも?」

「少しついてきてもらおうか…」

彼女のその言葉に男は心の中で思った。

―私は一体何をしたのだろうか…。身に覚えがない。ついてこい?まさか、ヤクザと関係が!?

そういえば、先日通りですれ違ったヤクザっぽい男にぶつかったんだよな…まさか、それのところが

私の情報を手に入れて殺しに来たとか?いやいや、そんな…少しぶつかっただけで殺されるなんて

ないだろう!!しかし、分からない。だが、それくらいしか身に覚えが…。


そんなことを心の中で唸りながら考えていると、霄が急に止まった。

「どうかされましたか?」

「これだ…」

彼女の指さす方を見ると、そこにはズラ〜ッと並べられたイチゴがたくさんあった。

「イチゴがどうかされましたか?」

「見て分からんか?このイチゴどのイチゴが一番いいのか選べと言っているのだ!」

「何だそんなことか〜」

「ん?どうかしたか?」

「いえいえ…」

霄が腕組みをして店員の様子を伺う。

「そ、そう…ですね。やはり、このイチゴなんかいいんじゃないでしょうか?」

「ほう…このイチゴは何がいいのだ?」

彼女の言葉に店長は

「やはり何と言っても味ですかね…まぁ値段は少し張りますが…」

「う〜む、ならば仕方がない…これで足りるか?」

彼女の持つ不気味な雰囲気を醸し出している剣を見ながら店長は彼女の掌に乗っている残金を

見た。

「え〜と、あぁ…ちょっと足りないですね…」

「そうか…ならば仕方がない……」

「ではおやめに…―」

「安くしろ!」

「ええええええ!?い、いや…そのようなことは私には…」

「店長ならば、そのようなことも可能だろ?」

そう言って彼女は剣先を店長に突き付けた。

「うっ…くっ…、わ…分かりました」

店長は堕ちた。完全に悪魔に負けたのだ…。まぁ剣を突き付けられれば無理もない。

むしろここまで耐えられるのもすごいものだ。

「では、レジへどうぞ…」

「案内しろ!」

「……分かりました。こちらです」

店長は、内心ブツブツ文句を言いながらも、逆らえばあの剣で何をされるか分かったものでは

ないため、仕方なく彼女を案内した。



「ここがレジです…」

「うむ…」

「いらっしゃいませ〜ポイントカードはお持ちですか?」

「いや…持っていない」

「新たにお作りしましょうか?」

女性のレジ係が霄に訊く。

「別に構わん…どうしても、作らないといけないものではないのだろう?」

そう言って、彼女はキッとレジ係の女性を睨み付けた。

「ひっ…は、はいっ!べ、別に構いません…申し訳ありません…。で、では…え、えと…

いちごが1パックですね?…り、りょ……料金は320円です…」

「何!?」

「えっ…どうかなさいましたか?」

「高くはないか?」

「で、でも…値段はこちらで間違いございません」

女性店員は困っているような顔をしている。

「訳が分からん…店長は先ほどこのイチゴを安くすると言っていたぞ?」

「えっ、そうなんですか店長?」

「あ、ああ…まぁ……な」

「分かりました…えと、では料金を変更して…290円です…」

「うむ…では300円から頼む…」

「は、はい……えっ、300円お預かりします…レシートはどうなさいますか?」

「では一応、もらっておこう…」

「10円のおつりです……あ、ありがとうございました」

女性店員は顔を真っ青にしてお辞儀をした。店長も随分と顔色が悪い。

霄はその二人を不思議な顔をしながら見ると、目的を果たしたため、さっさとその場から姿を消した。

作り笑顔を作っていた彼らははぁ〜と全身から脱力して、地面に座り込んだ。

「た、助かった〜」

「大丈夫ですか店長!?」

「ああ…君こそ、大丈夫かね?」

「はい…私は大丈夫です…。しかし、さっきの女の子誰だったんでしょう?」

「分からん…しかし、今後はああいうお客様には要注意だ!」

「はいっ!!」

そう言って、店長と店員は自分の持ち場に戻って行った。



「ねぇ、お兄ちゃん…。これで、いいの?」

「ん?おお…大丈夫だ!よく出来たな霖…」

俺は彼女の頭を優しくなでてあげた。

「えへへ…お兄ちゃんに褒められちゃった!」

彼女は嬉しそうに頬を赤らめた。これまた、この仕草がかわいいからたまったもんじゃない。

こんな姿、亮太郎に見せたら大変なことになりそうだな…。

―≪ぐへへ…霖ちゅわ〜ん、次、この格好してもらえないかな〜≫

≪そ、そんな…そんな格好できないよ〜!!≫

≪そんな遠慮しないでさ〜…ほらほら≫

≪い、…いやぁあああ≫


「ダメだああああああああ!!!」

「ど、どうしたのお兄ちゃん…?」

「い、いや…ちょっと」

―危ない危ない…もうやめよう。こんなことさすがにダメだろ…。


俺は自分の心にそう言い聞かせ、ケーキ作りに集中した。

クリームも完成したところで、とうとうケーキ作りも終盤戦。

「じゃあ、クリーム塗りたくるか…どうだ、霖やってみるか?」

「えっ、いいの?」

彼女は嬉しそうに笑顔で俺に訊いた。

「ああ…お前がよければ…」

「うん、じゃあやる!!」

「じゃあ、これヘラな…」

俺は彼女にヘラを手渡した。

「うんしょ…これをこうやって…」

「へぇ〜…なかなか手つきがいいな〜。やったことあんのか?」

「ううん…初めて…だよ。でも、なんていうのかな…雰囲気的な?」

「そんなんで、上手く出来るもんなのか?」

彼女の言葉を聴いて俺は少し不思議に思った。一度もやったことのない初めてのことを、こんなにも

上手にやりこなしてしまう…。全く、悪魔とは末恐ろしい生き物だ。

こんなこと、常人の俺達人間には恐らく不可能に近いだろう…。

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