小説『魔界の少女【完結】』
作者:YossiDragon()

しおりをはさむ/はずす ここまでで読み終える << 前のページへ 次のページへ >>

「うんしょ…これをこうやって…」

「へぇ〜…なかなか手つきがいいな〜。やったことあんのか?」

「ううん…初めて…だよ。でも、なんていうのかな…雰囲気的な?」

「そんなんで、上手く出来るもんなのか?」

彼女の言葉を聴いて俺は少し不思議に思った。一度もやったことのない初めてのことを、こんなにも

上手にやりこなしてしまう…。全く、悪魔とは末恐ろしい生き物だ。

こんなこと、常人の俺達人間には恐らく不可能に近いだろう…。

「簡単だよ…コツさえ解ればこのくらい…」

「す、すごいな…」

「えへへ…あっ、そうだ。これ出来たらどうするの?」

霖が、俺の顔を覗き込みながらボウルに入った生クリームを見つめる。

「そうだな…。とりあえず、パン生地に盛り付けて…それからこの袋に入れてトッピングとか

するかな…」

収納棚から生クリームを入れるための袋を取り出す。その先には、銀色をしたギザギザ口の開いた

物がついている。

「分かった!じゃあ、これから盛り付けていい?」

「そうだな…時間も結構押してるし」

そう言って、俺は彼女にその袋を手渡した。

―そういえば…霙のやつ、誕生日プレゼントちゃんと用意できたかな…。


と、ふと心に思った俺は物思いに耽った表情で、外を見つめた。



その頃、当の本人はというと…。

「はぁ〜。ダメだ…どうしても思いつかない!!そもそも、どうしてアタシが誕生日プレゼント用意する

係になってるんだ?兄貴はともかく、どうしてあいつまで…」

霙はブツブツと文句を言いながら、通りの角を曲がった。

ゴツン!!」

「いてっ!!」

「うわっ!!」

彼女は俯いて道路をボ〜ッと眺めながら道を歩いていたため、思わず目の前にいた通行人にぶつかって

しまった。

「ったく…、どうして俺はこう何度も何度も誰かとぶつかるかねぇ〜…メンドくせぇ…」

「なっ!!お前はあん時の!?」

「て、てめぇは…いつぞやの怪力娘!!」

見知らぬ人にぶつかった霙が指さしている相手は、ほんの数日前に、彼女が人間界にやって来た際に

襲われかけた不良のリーダーだった。

「なんで、こんなとこに…」

「ふんっ…俺がどこにいようと俺の勝手だろうが!!」

彼はそっぽを向いて強気な口調で言う。すると、今度は不良リーダーが彼女に尋ねてきた。

「そっちこそ、何やってんだよ…」

「それは…アタシの勝手だろ!!」

「そうかよ!まぁいい…てっきり、誕生日プレゼントを買って来いと頼まれたはいいが、何を買いに

行けばいいのか分からず路頭に迷ってるのかと思ったんだがな…」

「!?」

彼女は以外という顔をしていた。まさに、拍子抜けだった。無理もない…何の事情も知るはずが

ない不良のリーダーが、こんなことを知ってるとは、到底思いもしなかったからだ。

「まさか…当たったのか?」

「…うっ」

「がっはっはっは!!やはり、当たったみてぇだな〜。何だ、そんなことだったら俺様に任せとけ!!

そういうのはな…簡単なんだよ。特にプレゼントする側が女で、される側が男ってのがベストだ!!」

「どういうことだ?」

霙は一応参考ばかりに聞いておくことにした。すると、彼は道端じゃなんだと、光影中央公園へと

彼女を連れて行った。そして、公園のベンチに腰かけた所で、再び話を始めた。

「そうだな…まずはだ…。そのムスッとした表情を何とかしねぇとな〜」

「顔はプレゼントと関係ないだろ…」

「んなわけねぇだろ!プレゼントする時に、そんな顔してたら相手が気分を悪くするかもしれねぇ

だろうが!!」

そう言って、彼は霙の顔を鷲掴みにし、無理やり口元をグイッと上に上げた。

「ちょっ、やめろよ!!」

彼の大きな手を振り払い、自分の顔を優しくなでる霙。その彼女の表情は、さっきよりも引きつった

というかこわばった感じが拭われ、マシな顔になっていた。

「まぁとりあえず第一段階は終了ということで、次…第二段階行くぜ!」

「ま、まだあるのか?」

「当たりめぇだ!こんなんで終わりなワケねぇだろうが!!いいか?まずは後ろを向け!」

「えっ?」

「んで…もう一回こっちを向け!」

「一体何がしたいんだよ!」

「それは、これを見ろ…」

彼女の手に握らされたのは一枚の紙だった。

「いいか?そこに書いてある通りに読むんだいいな?」

「わ、分かった…」

「よし!じゃあ始めるぞ!TAKE1」

彼は映画の監督の様に言った。

「お、お誕生日おめでとう!誕生日プレゼントあげるね…あ、アタシのか・ら・だ……って

言えるかあああああああああ!!!」

「なんでだよ…結構、良かったぞ?初めてにしては上出来じゃないか!」

「うるせぇ…こんなのやってられるか!!第一、何でアタシ自身がプレゼントされなきゃなんねえんだ…」

「そりゃ…お前のし…―」

ボカッ!!

「それ以上は何か危険なにおいがするからやめろ!!」

「いってぇな…仕方ねぇじゃあ次、第三段階だ…」

「まだあるのか〜?」

霙の言葉に、腰に手を当てて答える不良リーダー。

「そういえば、アタシ…あんたの名前聞いてなかったな…。あんた名前なんていうんだ?」

彼女の質問に彼は少し間が開いたが、しばらくして彼は答えた。

「俺の名前は『鷲田 泰三』だ!」

鷲田はそう答えた。

「ワシダか…。それで次のレッスンは何なんだ?」

急に霙は乗り気になった。

「おう…そうだな。次はやはり、プレゼントだな…。相手の欲しい物とか分かんねぇのか?」

「ああ…あんまし、気にしたことなかったからな…。よく分かんない」

「そうか…。うぅ〜ん、どうしたもんかな…。仕方ねぇ…まぁ、てめぇは顔立ちがいいから

大丈夫だろう…」

「な、何を…―」

彼女の言葉を遮り、鷲田は突然彼女の背後に回り込み、霙の青く透き通った綺麗な髪の毛に触れた。

「ちょっ、何触ってんだよ…」

「前々から思ってたが、てめぇ…案外綺麗な髪の毛してんじゃねぇか…」

「なっ、何恥ずかしいこと言ってんだよ!」

霙は少し嬉しかったのか、照れくさそうに頬を赤らめながらそっぽを向いた。

「とりあえず、これをこうして…」

彼女の言葉など完全無視で、髪の毛を触り続けていた鷲田は、彼女の髪の毛を持ち上げ、

こっちに向くよう指示した。

「…よしっ!なかなか様になってんじゃねぇか…」

満足そうに頷く鷲田…。そんな彼の顔を、霙は見ることが出来ずにいる。恥ずかしくて上を見上げる

事が出来ないのだ。

「何で、うつむくんだよ…十分かわいいじゃねぇか…。ん?」

「私はこういうのは苦手なんだよ!」

鷲田に言われて、霙は思わず上を見上げてしまった。

「ようやく顔上げたな…」

「なっ……ぅ」

彼女はさらに顔を赤らめた。すると、鷲田はポケットから何かを取り出した。それは、二つの黒いゴム

だった。

-152-
Copyright ©YossiDragon All Rights Reserved 
<< 前のページへ 次のページへ >> ここまでで読み終える