小説『魔界の少女【完結】』
作者:YossiDragon()

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「何であんたがそんなの持ってんだよ!」

「そんなのはどうでもいいだろ…」

―どうでもいい…のか?


霙は少し疑問に思いながら、本人がどうでもいいと言っているのだからどうでもいいだろう。

と考え、そのままその話はスルーすることにした。と、その時、彼女はある事に気付いた。

そう、気が付くと既に彼女の髪の毛は鷲田の手によってツインテールにされていたのだ。

「い、いつの間に!?」

「俺の力をナメんなよ?」

「これって、力って言えるのか?しかも、ちゃっかし結び方うまいし…」

「ワリィかよ…」

その少し暗い鷲田の顔を見て、霙は彼の身に何かあったのだろうかと思い、気になって訊いてみる

ことにした。

「なぁ、ワシダ…あんた、何かあったのか?」

「なっ、何にもねぇよ…」

「いや、ウソだ!絶対に何か隠してるだろ?」

「ふっ…やはり、女の第六感ってのは恐ろしいねぇ〜。隠してても、あっという間にバレちまう…。

ああそうさ…。俺は隠し事をしてる…」

急に正直になった鷲田は、ベラベラと訳を話し始めた。

「…俺には妻と一人の娘が居てな…」

「妻と娘?」

「へっ、以外だろう?…だが、今の俺にはそんな二人はもういねぇ…」

彼の言葉に疑問を抱いた霙は彼に訊いた。

「何で?」

「殺されたんだ…」

「えっ!?」

「一年前にな…俺は、あるヤクザとつるんでた…。んで、そこで働いていた俺には相棒ともいえる

友がいた…だが、やつはある日突然…俺を裏切って組織の金を盗んだ。当然、俺と相棒は

怪しまれたさ…だが、その時やつは何て言ったと思う?」

「……何て言ったんだ?」

「やつは、俺が盗んだって言って全ての罪を俺になすりつけやがったんだ…」

「なっ!」

「へっ…笑えるだろう?俺はその後、組織のボスにこの傷をつけられた」

そう言って、鷲田はサングラスを取ってその傷を見せた。確かに、彼の左目の下には三本の引っかき傷

のようなものがあった。

「いわば、これが傷跡ってやつだ。この傷跡を背負ってる限り、俺はこの仕事をやめるわけには

いかねぇ…。俺はどうにかして無実を証明しようと足掻いた。しかし、それは儚く散った。

去年のクリスマスだ…」

「くりすます?」

ついこの間初めて人間界を訪れた霙にとっては、“クリスマス”という単語は初耳だった。

「そうさ…その日も結局俺は無実を証明できずに家に帰った。しかし、家に帰った時、俺は全身から

血の気が引くのを感じた。指先まで冷え切ってた…」

「何が…あったんだ?」

彼女は鷲田の過去を聴いて随分聞き入っていた。

「妻と娘は殺されてた…クリスマスパーティを開く準備してるときのことらしい…。それは、

周りの様子を見て分かったさ。ケーキや、飾り付け…二人の頭につけている三角帽子…。

まだ娘は高校一年生…今年で16歳になるはずだった。丁度クリスマスイヴが娘の誕生日…なんだ」

「そう…だったのか」

「俺は我を失った。そして、二人を殺したのが相棒だと分かり、俺は全身に怒りのオーラが纏うのが

分かった。そして、俺はやつを殺した。二人が殺された時とは違った残虐な方法でな……」

「……なんかゴメンな…」

「いいんだ。話したらなんだか、スッキリした。それと、お前は娘に似てんだ…初めて会った時も、

自分で目を疑ったもんだ」

「じゃあ、髪の毛結ぶのがうまいのも、その黒いゴムも……」

「ああ…よく娘の髪の毛を結んでやってたんだ。妻は、弁当作りで忙しかったからな…それくらいは、

俺がやってやろうと…な」

鷲田は穏やかな表情で言った。そんな彼の顔を見て霙はすくっと立ち上がった。

「なぁ…頼む!次のレッスンを教えてくれ!!アタシに教えてくれ!!」

「どうしたんだ…急に」

「このツインテールも娘に似てるからそうしたんだろ?」

「…分かってたのか」

「だから、アタシじゃ力不足かもしれないけど、アタシを実の娘だと思ってさ…」

「…いいのか?」

いつの間にか、彼の顔は不良やヤクザと言った顔ではなく穏やかな父親の顔になっていた。

「ああ…早く!時間がもうないんだ!!アタシも早く誕生日プレゼント用意しないといけないし…」

霙は公園の時計の時刻を見てそう言った。

「分かった…じゃあ、始めよう!」

それから、霙と鷲田の誕生日プレゼントについての様々なレッスンが始まった。



暗がりの住宅地…。街灯がチカチカ点滅しながら灯って行く。

「随分遅くなっちまった…でも、あいつ…案外いいやつだったな。なんか、初めての時と印象が

違った…。なんか、親父…思い出しちまった。いっけね、早く戻んないと響史達が待ってる!!」

そう言って、霙は響史の家を目指して息を切らしながら走って行った…。



「そ〜っと、そ〜っと…うぅ〜出来た〜!!」

「おぉー!よくやったな霖!」

「ありがとうお兄ちゃん!!」

霖は嬉しそうに、笑顔で言った。霖との協力もあって何とかベースは完成した。後は、霄が買ってくる

予定のイチゴを切って乗せれば完成だ。

「おせぇな〜まだ帰ってこないのか?」

俺がはぁ〜とためいきをついて椅子に腰かけたその時、ガチャッと音を立てて、扉が開き、外から

霄が入ってきた。そう、お使いから帰ってきたのだ。

「お帰り霄…随分遅かったな…大丈夫だったか?」

「うむ…この私にこのようなことが出来ないはずがないだろう…」

「そ、そうだな…んで、イチゴは?」

「イチゴ…ああ…これか?」

彼女は手に持っていたビニール袋を差し出した。

「おお、これこれ!」

俺は彼女の手からビニール袋を受け取り、中からイチゴの入ったパックを取り出した。その中には、

瑞々しい感じのイチゴが入っていた。

「偉く高いの買ってきたな…お金足りなかったんじゃないのか?」

「問題ない…安くしてもらったからな…」

「えっ?今日って特売の日じゃないだろ?」

「何を言っている響史…安くしてもらったといえば、ネギったということだ!」

「ネギったって…お前、そんな言葉よく知ってるな…って!それダメだろ!!お前、

何てことしてんだよ!!」

俺は思わず彼女の言葉にノリツッコミしてしまった。

「いちいちうるさいな…ちゃんと目的は果たしたのだ…問題はあるまい?」

「まぁ、問題はないけど…いろんな意味でそれは問題ありまくりだろ……」

あきれてものも言えなかった。それほどまでに俺は拍子抜けだったのだ。

そして、霄が買ってきたイチゴをパックから取り出し、水で洗うと、まな板の上に乗せて綺麗に

半分に切った。それから、霖と俺と料理を大変な代物に変えてしまうおそれがない作業だということで、

霄にも手伝わせた。三人寄れば文殊の知恵…というわけではないが、三人で力を合わせたことにより、

あっという間に作業は終了…無事、誕生日ケーキが完成した。

「ふぅ…これで、ひと段落ついたな…二人ともお疲れ様…」

「ん…?ふぁ〜あ…あれ、寝てたわ…」

俺の声に反応したのか、さっきまでちっとも動かなかった露さんがムクッと顔を上げた。

また、それと同時に、近くにあった、生クリームが入ったままのボウルに当たってしまった。

そして、ボウルはテーブルの端から真っ逆さまに落ちてしまった。それにいち早く気付いた

霖は慌ててそのボウルをキャッチしようと試みた。しかし、そう上手くいくわけもなく、

ボウルはそのまま彼女の頭にかぶさってしまった。また、それと同時に中に入っていた生クリームも

彼女の体全身にぶっかかってしまった。

「きゃあ!!」

「お、おい大丈夫か霖…?」

「う、うん…私は平気…でも、床がクリームで少し汚れちゃった…」

「床は拭けば何とかなるけど、それよりもお前のその格好…」

「ふふふっ、まるでアレみたい…とでも言いたげね響史くん?」

「なっ、ち…違いますよ!起きた途端、卑猥なこと言うのやめてください露さん!霖が変な誤解したら

どうするんですか!」

俺は顔を真っ赤にして彼女にそう言った。彼女の目つき及び、その表情はまさに俺のことを小馬鹿

にしているようにしか思えない。

「その時はその時よ!それよりも、早くしないと服がシミになっちゃうんじゃない?」

「そっ、そうだ!霖、髪にもかかっちゃったみたいだからシャワー浴びてこい!シャワーの使い方…

分かるよな?」

「し、しゃわー?」

彼女は首を傾げた。やはり、魔界で水浴びしかしたことのない彼女達にとって、人間界のシャワー

というのは神秘的存在なのだろうか。

―はぁ、どうする?俺がシャワーかけてやる…ってわけにもいかねぇし…。


俺が迷っていたその時、突然露さんが手を上げてアピールした。

「あっ、はいはいっ!!私がシャワーの使い方教えてあげるわ!!」

「じゃあ、霄頼むわ!」

「承知した…」

「ええ〜っ!?どうして私じゃないのよ〜!」

「露さんがやったら、どうなるか分かったもんじゃありませんから…。それはもう、今までの付き合い

で解ってますから…」

「私達いつから付き合ってたのかしら…?」

「そっちの付き合うじゃありません!!」

俺は彼女が頬に手を当てて、こっちに意味ありげな視線を向けてくるのを見てそう言った。

結局、霖のことは霄に任せることにして、俺はクリームで汚れた床を濡れた雑巾で綺麗に拭き、

器具などを片づけた。

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