小説『魔界の少女【完結】』
作者:YossiDragon()

しおりをはさむ/はずす ここまでで読み終える << 前のページへ 次のページへ >>

「ねぇねぇ響史君…どうして、そこまであの子たちの面倒見るの?」

彼女の言葉に俺は洗い物をしている手を止めた。そして、俺はふと顔を上げ、目の前の窓を見つめた。

「そうですね…上手くは言えませんが、やっぱり心配だから…ですかね?」

「心配?」

「ほら、あいつらほっといたらどんなことでもしでかしそうじゃないですか…。そういうの俺、

見てられない性格(タチ)なんですよ…」

俺はキュッと蛇口を閉めて、水を止めるとハンドタオルで濡れた手を拭いた。

「ふぅん…でもまぁ、あの子達もよくあなたの言う事聞いてるわよね〜。姫様二人も…瑠璃様はまだ

分かるけど、まさかあの麗魅様まで、あなたに逆らわないようになるなんてね…」

「全く逆らわないってわけじゃありませんけどね…。それよりも、残り護衛役って誰がいるんですか?」

ふと思った疑問を俺は彼女に訊いてみた。すると、彼女は頬杖をついて俺から目を逸らすと言った。

「そうね〜。後残ってるのは、姉が一人と、妹が一人…そして弟が一人の三人…かしらね」

露さんの指を折って行くようすを見ながら俺は少し小声で言った。

「もうそんだけになるんですか…結構人数も増えて賑やかになりましたもんね〜」

「響史君的には、ウハウハハーレムで嬉しいんじゃないの?」

「なっ、そんなこと……なくはないですけど…」

「へぇ、珍しく素直じゃない…。何かあったの?」

「いえ、特には…ただ、せっかくの…一年に一度しかない誕生日なのに、親も姉も弟も帰ってこない

なんて俺って愛されてないのかなって…少し思っちゃって…」

「まだ会ったことないけど、弟と姉がいるの?」

「ええまぁ…姉は一度家に来たんですけど、丁度その時はまだ露さんいませんでしたもんね…。

この家の玄関あるじゃないですか?」

「ええ…」

「アレ壊したのが姉ちゃんなんですよ…」

「ず、随分…強いお姉さんなのね…」

「ええまぁ…。昔っから喧嘩っぱやかったですからね…。小さい頃は、近所の男子とよくサッカーとか

してたらしいですよ?俺はそういうのはあまりしないんで、よく分からないんですけど…」

「引きこもり気味な性格なの?」

露さんが再びこっちを向いて訊いてくる。

「昔、ちょっと…」

俺は指でほんの少しの動きをしながら言った。すると、彼女は少し微笑みながら言った。

「まぁ、いいんじゃない?好き嫌いは人それぞれだし、人それぞれ個性ってものがあるから世の中

面白いんじゃない!」

「…」

「どうかした?」

俺があまりにも呆然としているのを見て、彼女が心配そうに訊いた。

「いや、露さんにしては珍しく真面目なこと言ってたからつい…」

「バカにしてるの?」

「いやいや…とんでもない!!」

「私だって、真面目な時くらいあるわよ!!」

露さんは少しふくれっ面でそっぽを向いた。おとなしい時の露さんは本当にお姉さんのような雰囲気を

している。いっそのこと、ずっとこのままでいてくれたらいいのに。と、俺は思った。



それからしばらくして、霖が髪の毛をタオルで拭きながら霄と一緒に戻ってきた。

「お待たせ…」

「おう…シャワーの使い方分かったか?」

「うん!すんごく暖かくて気持ちよかったよ?」

「そうか!それはよかった」

俺は彼女の笑顔を見て、少し元気になった。去年まで俺は自分の誕生日を一人で過ごしてきた。

一人で誕生日プレゼントを買い、一人で小遣いはたいてケーキを買い、ロウソクを一人で立て、

そして一人で誕生日を祝う歌を歌い、ロウソクの火を消してクラッカーを盛大に鳴らす。

しかし、盛り上がるのはそこまで…。その後は、ずっと静けさだけの続く時間だった。一人寂しく

ケーキを食べる時の辛さときたらたまったものではなかった。去年などは、甘いケーキがしょっぱく

感じるくらいだった。だが、今年は違う。今年は、皆が居る。悪魔だろうとなんだろうと関係ない。

俺の誕生日を祝ってくれる人が他にいる。それはすごく喜ばしいことだった。俺は最初、今年の

誕生日なんか来なければいいのにと思っていたが、その考えは今となっては影もない。

それほどまでに俺は嬉しい気持ちでいっぱいだったのだ。

「向こうの準備は終わったかな…」

俺は三人と一緒に、リビングへと向かった。扉を開けると、そこには本当に俺の家かと見紛う程の

光景が広がっていた。カーテンの衣替え…折り紙を使った飾り…そして、天井からは金色の丸い

クス玉が吊り下げられていた。さすが、魔界で長年パーティを開く準備をしていただけのことはある。

あんな大人数を見事まとめあげられるのは、そこそこの力がなければ不可能に近い。

「すごいな…準備終わったのか?」

「おう!俺をなめるなよ?俺はこう見えても、あちこちのパーティ会場の準備を整える役目を果たして

いたからな…だから、俺はパーティーマスターの称号を得ている!!」

「ぱ、パーティーマスター?」

俺はなんじゃそらといった顔で彼を見た。すると、彼は平然とした顔でパーティーマスターという

称号の証拠を見せた。そのキンピカに光り輝くカードには確かに、銀色の文字でパーティーマスターと

書かれていた。

「…本当にあるのか」

「だから言っただろう…。伊達にパーティの準備をしてるわけではないからな!!はっはっは!!」

雫は自慢げに笑った。

「響史!そっちはケーキ出来たの?」

「ああ…後は、プレゼント買いに行った霙が買ってくるのを待つだけか…」

俺はリビングから外の様子を伺った。カーテン越しに外を見ると、もうすっかり辺りは暗くなりかけ

だった。

「今日ももう数時間で終わりなのか…」

「そう落ち込むことないよ!」

「そうなんだけどさ…今、思うと一年間ってあっという間に経つもんなんだなぁ〜って…」

「そういうものなんだよ!」

瑠璃に言われて、俺は言葉を口にせず、笑顔で彼女に答えた。

時間が刻一刻と過ぎていくのに、なかなか戻ってこない霙に俺達はだんだんとイライラを感じていた。

と、その時、ガチャッと扉が開いて、霙が息を切らしながら家の中に入ってきた。

「随分遅かったじゃねぇか!!」

俺は彼女にそう言った。すると、彼女は胸を抑えて呼吸を整えてからこう言った。

「だって、何買えばいいか全然分かんなくて…」

「そんなに迷わなくてもいいのに…」

麗魅が腕組みをして横目遣いで言う。

これで、メンバー全員が揃った。準備が整い、後はテーブルなどの移動のみ。ケーキ前の前菜もとい…

料理も作り終えているため、運べばいいだけ。俺達は全員フル稼働で、最後の仕上げをした。

そして、時刻は七時…。

時は満ちた…。いよいよ、今年初めて体感する大勢での誕生日パーティ。こんな経験は一生に一度

かもしれない。だとすれば、この一時を大切にせねば。俺はそう心に誓った。

長テーブルに料理が並べられ、長テーブルの茶色の木が見えなくなるほど、大量の料理が

覆いかぶさっている。皆がクラッカーを片手に持ち、もう片方の手で紐を持つ。そして、せーのという

掛け声に合わせて一斉にクラッカーの紐をグイッと引っ張った。パンッ!!というクラッカーが

リビングに響き渡る音。それは一人で鳴らす時とは迫力も音量も断然違っていた。

「なんか、いいな〜」

しみじみとした気分になった俺は思わず、涙ぐんでしまった。

「ちょっと、響史まだパーティは始まったばっかりなんだから、ここで泣いたらダメだよ!」

瑠璃に言われそれもそうだと俺はゴシゴシと腕で顔をこすった。

「じゃあ、まずは料理から食うか!」

「そうですね!」

「「いっただきま〜す!!」」

俺の合図で皆が手を合わせ、感謝の気持ちを込めていただきますを言う。そして、その言葉を言うや否や、

皆はガツガツと料理にむさぼりついた。ローストチキンや、ハンバーグ…ステーキなど様々な料理が

並んでいて、まるで豪華な豪邸の食事のように思えた。作った本人でも少し張り切りすぎたかなと

思う程だ。だが、大勢での誕生日パーティ。どうせやるなら、派手にやった方がやった感があると

言うものだ。そう思うと、俺は逆にやってやったぞという気持ちになった。と言っても、料理の

ほとんどは霖が一人で作ったものだが…。まったくもって、彼女の料理の腕前は大したものだ。

料理店でも開けそうなくらい本当に美味しいのだ。そんな彼女が作った料理はあっという間に

皆にガッツかれてなくなっていった。



誕生日パーティが始まってから一時間後…。時刻は八時…。俺の誕生日デーも、後四時間ほどしかない。

料理を食べ終わって、皆は満腹状態のお腹をさすった。

「しくじったな…料理あまりにも作りすぎたんじゃねぇか?これじゃ、うぷっ!ケーキ入らない…かも」

「そ、そんなせっかく作ったのに〜」

霖が急に悲しむ表情を浮かべた。その目はすごくウルウルしている。そんな表情を見て、食わない

わけにはいかない。

「わ、分かった…食うって食うから…」

「よかった〜!だって、私はまだまだ入るからね〜!」

―えっ!?


俺は疑問を抱いた。何かの聞き間違えだろうか、いや聞き間違えじゃない。確かに彼女は今、

まだ入ると言った。そんなバカな…。あんなに大量の料理を食ったのに、あんなに甘ったるいケーキを

まだ食べられるというのか。いくら成長期の体だからと言って、一体彼女の小柄な体系のどこに

あの大きなケーキが収まりきるのだろうか。俺は悪魔は満腹感をも凌駕するのかと驚愕した。

「というわけで、本番いっくよ〜!」

「「えええええ〜〜〜!!?」」

霖以外のみんなが声を揃えて言った。皆満腹で体の抵抗は出来ないものの、言葉の抵抗は苦しくても

何とか言うことが出来る。しかし、やはり言葉だけで逆らうことなど出来るはずもなく、

俺達はこれから満腹状態でケーキを食う事になるのだった…。

-154-
Copyright ©YossiDragon All Rights Reserved 
<< 前のページへ 次のページへ >> ここまでで読み終える