小説『魔界の少女【完結】』
作者:YossiDragon()

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満腹状態の俺達の目の前に、ケーキ係である俺達が作ったイチゴのケーキがどどんと置かれる。

そして、霖が笑顔で言った。

「じゃあ、雫お兄ちゃんと響史お兄ちゃんの誕生日を祝って…歌おー!!」

「ちょっと待った!」

雫が手を前に突出し、マッタをかけた。

「えっ、何?」

彼女は少し拍子抜けな顔をしていた。

「ろうそく、ささってないだろう…」

「あっ、そうだった…ろうそくは…えっと…」

「それなら私持ってるわよ?」

露さんが、また何かを企んでいるかのような顔を浮かべているのを見て、俺は彼女の動きに少し

警戒した。すると、彼女が懐から取り出したのは、通常使われるロウソクではなく、真っ赤で血のような

色をした太いロウソクだった。

「これよ!」

「えっ…こんなにロウソクって、太かったっけ…?」

「い、いや…これ明らかに…―」

俺は途中で口ごもった。最後まで言っていいものかどうか躊躇ったからだ。しかし、彼女は

そんなことお構いなしに、何も知らない無垢な少女の目の前で言った。

「苛めるのが好きな人が、苛められるのが好きな人に与える行為に使う代物よ!」

「そ、それって…」

瑠璃が顔を真っ赤にして頬に手を当てる。麗魅もその隣で、恥ずかしそうにしている。

しかも、彼女は俺と目が合うと、さっと目をそらした。

「まぁ、とにかくロウソクなら何でもいいか…」

「いや、よくないだろ!!ちょっと待ってろ…今、ロウソク持ってくっから…」

その場に立ちあがり、俺は台所に向かい微かな記憶を頼りにロウソクのしまわれている場所を

突き止めると、そこからロウソクの入った袋を持って、リビングに戻った。

「これだ…」

「おお…これがロウソク…随分と細いんだな」

「そのロウソクが異常にぶっといだけだよ!」

「そうなのか…」

「そうなんだよ…とにかく、刺すからな…」

「ああ…」

袋から取り出してロウソクを順番に刺していく俺。そして、刺し終えたところで手をケーキから

遠ざけると雫が急に騒ぎ出した。

「おい!何やってんだ…ロウソクの本数が足らないじゃないか!」

「なっ…そんなわけねぇだろ…だって、俺は今年で16なんだから…本数あってるだろ…」

俺はケーキに刺さっているロウソクの本数を一本一本丁寧に数えて彼に言った。

しかし、雫はこう言った。

「俺は今年で18だぞ?」

「えっ…」

「だから、俺は今年で18だ…」

「そんなこと言ったって、ケーキは一つしかねぇし…」

「じゃ、ここは年長者に譲って18本っと…」

「おい!何勝手に本数増やしてんだよ!んなことしたら、無駄に俺が年食うじゃねぇか!!」

彼が勝手にロウソクの本数を増やすのを見て、俺は慌てて彼の手を抑えた。

すると、霊が口の周りに魚の脂をベットリつけて言った。

「大丈夫だよ!響史は、十分年食ってるから!」

その満面の笑みで言われた言葉に俺は物凄いショックを受けた。

「お、俺…そんなに老けてるように見えるのか…」

「あっ、ち…違うよ!べ、別に響史の髪の毛の色が銀髪じゃなくて白髪に見えるってワケじゃ…―」

「うっ!!」

俺はさらに心に深い傷を負った。彼女は本当に能天気な顔をして、恐ろしい言葉をホイホイと

投げてくるから恐ろしい。

「さてと、じゃあ…まぁ18本もう刺しちまったことだし、このまま始めようぜ?」

「はぁ…もういいよ。好きにやってくれ…」

「本数なんて関係ないよ…要は気持ちの問題なんだから…」

瑠璃が珍しくいいことを言って俺は少し驚いて、さらにその言葉に少し感動してしまった。

そして、ケーキに刺した18本のロウソクに火を灯され、準備が完了した。電気を誕生日.Verに変え、

三角帽子を各々被る。男子二人がケーキの真正面に正座で座り、その向かい側の席に女子達が

にこやかにほほ笑みながらクラッカーを構える。それから、カウントダウンを始め、0の数字を発した

と同時に、クラッカーの紐をグイッと引っ張った。

パンパンパン…!!鳴り響く本日二度目のクラッカー音。そして、

「「お誕生日おめでとう!!」」

と皆からの祝いの言葉が捧げられた。俺達は2人して、顔を見合わせ喜んで一斉にロウソクの火を

消した。全部消えたロウソクから何とも言えない臭いを出す煙がモワモワと舞い上がる。

また、それと同時にパチパチと手を叩く音が聞こえてきた。

「これで響史も晴れて16歳だね〜!」

「ああ、そうだな…」

「さてさて、じゃあここからはお待ちかねの誕生日プレゼントタ〜イム!」

パーティを取り仕切るかのように瑠璃が声を張り上げて言う。すると、それを合図に誕生日プレゼント

係に任命されていた霙が少し俯き気味にこちらに歩み寄ってきた。その変な歩き方に俺は疑問を抱き、

彼女にどうかしたのかと訊いた。

「ううん…何でもない。それよりも、いいか?よ〜く、耳を澄まして聞いといてくれ!」

「わ、分かった…」

彼女の真剣な顔でいう姿に、思わず俺まで緊張してしまった。

「ふぅ〜…」

―なぜに深呼吸を!?


俺は一体ただ誕生日プレゼントを渡すだけなのに、どうして深呼吸する必要があるのかと疑問を抱いた。

しかし、次の瞬間俺は思わずめったに見せない霙の姿に思わずドキリとしてしまうのだった。

「そ、その今日はその…誕生日……おめでとう。響史…、兄貴…。た、誕生日プレゼントなんだけど、

…何も思いつかなかったから、代わりと言っちゃなんだけど私の体を…あ・げ・る」

「「ぐはっ!!!」」

俺達二人はその凄まじい衝撃の言葉に思わず吐血してしまった。それほどまでに、彼女のその女の子

っぽい姿が印象的だったのだ。

「くっ…い、今のはズルいだろ…つ〜か、そんな技を一体どこで習得してきやがった…!」

「…さ、さすがは俺の妹…まさかそんな隠し技を持っていたとは…水連寺 雫一生の不覚!!」

雫は悔しそうに握り拳を作り、唇を噛み締めた。

「じょ、冗談だって!これが誕生日プレゼントなわけないだろ!!ちゃんと、あるから…」

そう言って、霙は手のひらを差し出すように言い、俺達がそうするとその手のひらの上に、彼女が

手を置き何かを置いた。これが、誕生日プレゼントなんだろうか。しかし、何だろう。手に乗るサイズ。

キーホルダーか何かか?にしても、重さを全く感じないとはこれいかに。

そして、彼女が手をどけたところで、俺達二人は同時に自分の掌を見つめた。だが、そこには何もない。

「ん?何もないぞ?」

「お前もか…。霙、これはどういうことだ?」

「見えないのか?これは、私の武器をモデルにした超ミニマムサイズのハンマーの形をした水晶だ!」

「そんなもの…わざわざ作ったのか?ていうか、全然見えないし、すぐになくしそうだな…」

「うっ、うるさいな〜。何を用意すればいいのか分からなかったんだよ!」

霙は顔を赤くして、俺に文句を言った。

「何で俺が怒られないといけないんだよ!!」

「だ、だったら…最後の手段だ!」

「さ、最後の手段?」

俺が疑問に思い彼女に質問しようとした瞬間、彼女は急に俺にぎゅうっと抱きついてきた。

「な、なにを…!?」

「お、男は女の人にハグされるとうれしいんだろ?」

「そ、そそそれは…」

顔中真っ赤にする俺…。呂律が回らず、頭の中もパニック状態に陥っている。それにしても、こっちに

来たばかりの彼女がどうしてこんなすごいテクニック?を持っているのかが分からない。誰かに

教えてもらったのだろうか?俺は謎だらけだった。だが、今はそれよりもこの現状だ。

さっきから彼女の胸が俺の体に当たっていて…心臓の鼓動がすごく早くなっているのを感じる。

しかし、密着しているせいだろうか。彼女の鼓動も微かにだが、感じ取ることが出来る。その鼓動の

速さから彼女もどうやら、恥ずかしいようだ。まぁ、無理もないだろう。今まであまり女の子っぽい

ことをした経験の少なそうな彼女にとって、いきなり異性にハグはあまりにも過酷だからだ。

「大丈夫か?」

「あ…ああ…アタシにはこれくらいしかできないからな…」

「も、もういいぞ?十分誕生日プレゼントはもらったし…。そもそも、この誕生日パーティを出来た

時点で既に誕生日プレゼントをもらったみたいなもんだしな…」

俺はそう言って、彼女の肩を優しくつかみ彼女を引き離した。霙はすっかり息が上がって呼吸を

乱している。小さい頃の発表会本番に一人で出演する時みたいだ。

「羨ましい男だなお前も…」

「な、何がだ?」

雫にいきなり、背中をバシッと叩かれ、その叩かれた場所をさすりながら彼に訊いた。

「こんなに可愛い少女たちに囲まれて一つ屋根の下で暮らせるんだからな…」

「でも、相手は悪魔だぞ?」

「悪魔でも女は女だ…そうだろ?現に、さっきだって霙に抱き着かれて、正直のところ嬉しかっただろ?」

「ま、まぁ…嬉しくないと言えばうそになるな…」

「そ、そうなのか?」

「あ、ああ…まぁな」

俺は霙から目をそらし、頬をポリポリとかいた。

「もうそろそろ誕生日パーティもお開きだね…」

「そうだな…皆、今日はその…ありがとうな。おかげで、一生で一番の宝物になったよ…。

これからもよろしくな!」

「改めてそんなこと言われたら、こっちまで照れちゃうよ…」

そんなこんなで俺の誕生日パーティは最終段階…霖がケーキを切り分け、皆の目の前に切り分けた

ケーキを置く。皆は膨れたお腹をさすりながらゆっくりそのケーキを口に運んだ。

―う、うまい!……だが、なぜだ?素直においしいと口に出せない。おいしいのに、苦しいなんて

こんなにつらいことはあるだろうか。


俺はそんなことを心の中で呟きながらケーキを口いっぱいに頬張りケーキの味を噛み締めた。

その時食べたケーキは最初は甘かったが、後からなぜだかしょっぱく感じた。しかし、そのしょっぱさは

今までのしょっぱさとは違ったしょっぱさだった。こうして、俺は誕生日の一夜を悪魔の少女たちと

共に過ごしたのだった……。

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