小説『魔界の少女【完結】』
作者:YossiDragon()

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第三十話「体験入部!!」

時刻は午前12時ちょっと過ぎ…。陽もすっかり昇り、夏の天気にはふさわしいほどのカンカン照りの日。

光影学園…光影都市の中にたった一つしかない学校で、多くの学生…というかほぼ全員がこの学園に

通い詰めている。俺もまたその一人。

そして、その学園には生徒たちを取り締まる組織、『生徒会』が存在する。その生徒会のメンバーは

一人一人が曰くつきのある謎の人物の集まりで、個性豊かな人物が勢ぞろいである。おまけに、経験上…

生徒会のメンバーの大抵が、俺が探し求めている太陽系の守護者のリングを持っている。

何故、彼らがそれを持っているのかは謎であるが、俺はそれをどんな方法を使ってでも手に入れなければ

ならない理由がある。それは、瑠璃と麗魅を母親に会わせるため…そして、何よりも俺の目的は魔界で

領地侵略を行っているという大魔王を止めるためだ。そのためには、天界にいる女神…つまり、

瑠璃達の母親に会わなければならないのだが、どういうわけかそこへ行くためのゲートが閉じてしまって

いるらしい。まったくもって、迷惑な話だ。そのゲートとやらが閉じなければ、今頃俺はこんなに苦労する

こともなかっただろう。まぁ、今更そんなことを言っても始まらない。

そして、ここはその生徒会のやつらがなんやかんやする生徒会室。ここには歴代の生徒会の集合写真が

額縁に入れて飾ってある。おまけに、棚には生徒の名簿やらが記載されたファイルなどの資料が

収納されてある。

「やはり、そろそろアレを再開させた方がよろしいですかね…」

「そうね…高等部の一年生も随分待ってるみたいだし…」

金色の髪の毛をなびかせながら机に腰かけている金城瞳が言った。

「でも、またアレが起こるかもしれないぞ?」

「それはそれで厄介ッスね…」

「ん〜…どうしたものか。とりあえず、一年生の部活動だけでも決めておきますか?」

喋り方と座っている椅子の豪華さからしておそらく生徒会長であろう人物が皆の意見を訊いた。

「あたし的には、それもありかと思いますけど…それに、最近何だか部活の先輩達がグチってるんで

そろそろ一年生仕入れないと、あたしが大変な目にあいそうで…」

「あなたも一年生でしょ?火元さん…」

副会長の水滝麗が、顔を青ざめさせている火元と呼ばれている赤髪の少女に言った。

「あっ、そうでした…」

「全く、あなたはあの時と今では全然キャラが違うんですね…」

「あはは…よく言われます」

火元は自分の頭をなでながら照れ隠しをした。

「とりあえず、では今日…体験入部開いてみましょうか…」

「そうですね…」

こうして、生徒会の話し合いによって体験入部が始まる事となった。



所変わって、教室棟…。俺、神童響史は昼休みを優雅に過ごそうと、屋上に向かって歩いていた。

しかし、その俺の行動を阻止するかの如く、瑠璃が俺の腕に自分の腕を巻きつかせ、話しかけてきた。

「ちょっ、何するんだよ…俺、これからちょっと用が…」

「何の用?」

「いや、別に話すほどのことでも…」

「じゃあ、いいじゃん!ねぇ響史!昼食食べに行こうよ〜!」

「はあ?さっき、弁当食ったじゃん!!」

俺は彼女がほんの数分前、バクバクと、姫様という高貴な人物には見えないくらい、むちゃくちゃな

食べ方をしている彼女の姿を思い出して言った。

「でも…まだ食べたりないんだもん!」

彼女は少し不満げな表情を浮かべて俺に意味ありげな視線を流した。いわゆる流し目光線というやつだ。

「麗魅と一緒に行けばいいじゃねぇか!」

「響史とがいいんだもん!!」

―嬉しいような悲しいような…。


俺はすっかりまいってしまい、頭をかいた。すると、彼女は言った。

「ねぇお願い〜!響史ってば〜!!」

彼女に迫られ、俺は思わず首を縦に動かしてしまった。今、思えば何でそんなことをしたのか

さっぱり分からない。

とにかく、俺が今心の中で思うことはただ一つ。俺の優雅な一時は、それを実現することなく夢の中に

儚く散った。



時刻はもう午後三時…本来ならばもう帰られる時間…だが、今日だけは違った。それは、今日

突然発表された体験入部のせいだ。体験入部とは、主に部活動をやりたい人物などがやる活動で、

本命が決まる前に、体験してどんな部活なのかを経験するということを目的とするものだ。

まぁ、中等部から部活に入っているやつらの中には、そのまま継続で入らなくていいやつもいるが。

中等部の時にやっていた部活動をやめて高等部で新たな部活をやるというのもありのために、

こういうものが存在する。俺もまた、その一人。俺は家の家事などが忙しく、部活動などを

やっている暇などさらさらなかった。特に、中等部の頃は…。だが、今は違う。今日も、霖が家で

家事洗濯など、あらゆることを成し遂げてくれている。全く悪魔だと言うのに、ありがたい子だ。

しかし、俺は部活動に入るつもりなどさらさらない。なるべく、家にいたいからだ。それに、そこまで

つきあっている友達も多くはないからな。

そして、俺達のクラスの帰りのHRが終わり、俺がさっさと教室から出ようとしたその時、突然教室の

扉が開け放たれ、そこから教室内へ見知らぬ人物が姿を現した。その人物は、ぐるぐるメガネを

かけ、さらに額にはハチマキ、その他にも様々な物を身に着けていた。

「頼もう〜でござる!」

明らかに意味ありげな語尾…。

「はあ…何か御用ですか?」

「ここに、水連寺霊殿はおられるか?」

その名前に本人が俺の横を通って前に出た。

「私だけど…」

霊はなんだろうと言った表情で彼らを見た。

「おお〜…なるほど!さすがは噂にあるだけのことはあるでござるな…まぁ密かにではござるが、

会員も存在するくらいでござるからな…」

「あんたたちは何なんだ?」

「ん?拙者たちは、アイドル研究部の者でござる!ちなみに拙者は隊長の『米倉 宗介』と申す者

でござる!今回は霊殿に是非ともお願いがあって参った次第でござる!実は、拙者たちのクラブは

最近、やる活動もなくて活気が薄れているのでござる!そこで、学園で人気があるという霊殿に

協力を仰ぎたかったのでござるよ!」

米倉と名乗る男は言った。ベストでよく見えないが、どうやら二年生のようである。

―ということは、先輩か…。あんなんにはなりたくないな〜。


俺は心の中でそんなことを呟いた。目の前の現実を受け入れたくなかったのである。

「う〜んやっぱり私は遠慮しとくよ!」

「ええっ!?な、何故でござる?」

納得がいかない様子の米倉先輩…。後ろの隊員たちも同様の顔をしている。

「だってやっぱ私は家でゴロゴロしたいし〜…それに、人の注目を浴びるのもそこまで好きじゃ

ないんだよね〜…助けたいっていう気持ちはあるんだけど…ごめんね?」

「くっ…そうで…ござるか…。分かったでござる…しか〜し、拙者たちはあきらめないでござるよ?

必ず、必ずそなたを振り向かせて見せるでござる!!」

「分かりましたから…いい加減お引き取り願えませんか?それと、そこ防がれると教室から

出られないんですけど…」

少し遠慮気味に俺は彼らにそう言った。すると、先輩たちは俺に向かってこういった。

「さっきから聞いていれば、そなたは何者なのでござる?霊殿とやけに親しそうに接しているで

ござるが…」

「俺はこいつらの従兄妹だ!!」

「な、なんとい…従兄妹でござるか?なんと、うらやま…いやいや、そんな……う、くっ、まさか

一緒に暮らしているとまで言うつもりはないでござろうな?」

「そ、それは…」

「なっ、その反応はもしや…!?」

「んなわけねぇだろ!!」

俺は相手が先輩だと言う事も忘れ、思わずムキになってしまった。

「そ、そうでござるな…もし、そうでなかったら拙者たちはそなたを殺していたところでござる…。

無益な殺生はしない主義でござるからして…ところで、そなたの名前を聞いてなかったでござるな…」

「ああ…神童…神童響史です…」

「神童氏…それでは、我々…しゃ…おっと、アイドル研究部一同…必ず霊殿を協力させてみせるで

ござるからそのつもりで…」

「は、はぁ…」

勘弁してくれと言った顔で俺は彼らを見たが、彼らはそんなことお構いなしに話を続けさっさと

教室から出て言った。諦めて帰ってくれたのはいいが、必ず霊を協力させるというのは、どういう意味

だろうか?それだけはないようにと願いたいが…。

―ん?そういえば…アイドル研究部なんて部活あったっけ…?


ふと疑問に思うその部活…。

しかし、ずっと考え込むのもアホらしいので、しばらく考えて分からなかった俺は、考えるのを

諦め、教室から出た。

昇降口で靴を履き替え、外へ出る。すると、俺と一緒に歩いていてふと掲示板に目が行った霄が

急に立ち止まった。

「いてっ!おい…急に止まるなよ!!ビックリするだろ?」

考え事をしていた俺の前を歩いていた霄が急に足を止めたので、そのことに気付かなかった俺は

そのまま霄にぶつかってしまった。すると、彼女は掲示板のある広告を見て目を丸くした。

「なぁ響史…これは一体何の部活なのだ?」

「ん?どれが?」

彼女に指さされた広告に書かれている内容を見て俺は驚愕した。

そこに書かれていたのは“剣道部”…。俺はあることを思い出し、思わず黙り込んでしまった。

それに気づいた霄は俺の顔を見て訊いた。

「どうかしたのか?」

「いや、ちょっとな…それより剣道部が何だって?」

「…どういう活動をする部活なのだ?」

「ああ…そうだな。竹刀を振るって相手と闘うスポーツみたいなもんだ!」

「スポーツか…剣道…竹刀というのは?」

「まぁ、木刀みたいなもん…かな?」

「なるほど…」

納得したのか、彼女は肘に手を添え、もう片方の手を自分のあごに添えて考え込んだ。

そして、何か閃いたのか急に指を鳴らし、俺の手を強引に掴み、どこかへ連れて行った。

「お、おい!どこに連れてくんだ!?」

「剣道部の道場だ!」

「なっ…どうして俺まで…!?」

「お前も妖刀『夜月刀』を使いこなす剣士…ならば、剣の道を究めるのも一つの手であろう?」

「そ、そんな理不尽な理由知るかーーーーーー!!!」

俺は結局悪魔の力に逆らえるわけもなく、そのまま強制的に連れて行かれてしまった。

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