小説『魔界の少女【完結】』
作者:YossiDragon()

しおりをはさむ/はずす ここまでで読み終える << 前のページへ 次のページへ >>




ようやく俺が解放されたのは、剣道場の入口の前だった。

「ん?…ま、まさか本当に来ることになるとは…」

「よしっ!では…―」

「待て待て!本気なのか?」

「当たり前だ…生半可な覚悟で行って、コテンパンにやられるのはシャクだからな…」

「そりゃそうだが…」

俺は不安な気持ちでいっぱいだった。今すぐここから逃げ出したいそんな気分だった。

しかし、そんな俺を無視し、彼女は剣道場の入口の扉を開けた。

「頼もう!」

霄の言葉に剣道場の中にいた剣道部の人達が一斉にこちらを見る。そして、何事かとこちらに

歩み寄ってくる剣道部員のメンツを見て、ある人物がいないことを確認しホッと安堵のため息をついた。

だが、それはほんの一瞬のこと。すぐに、聞き覚えのある声が聞こえてきた。

「すみませ〜ん、通してくださ〜い!!」

その声に周りの部員がガラッと道を開ける。そして、その隙間を通って、彼らよりも少し身長の

低い赤髪の少女が姿を現した。そう、その見覚えのある顔に、赤い髪…そして、極めつけはその

紅茶の様な瞳の色…。彼女は俺達二人…というよりも、一方的に俺だけを見て瞬時に俺を理解し、

指をさして大声を上げた。

「ああーっ!?し、神童君?神童君じゃないですか!」

「響史、知り合いなのか?」

「あ…ああ、火元 玲つって…前、ちょっとな…」

「ちょっとなんてもんじゃないですよ…中等部の頃からの付き合いじゃないですか〜」

「中等部?」

首を傾げて不思議な表情を浮かべている霄を見て、玲は言った。

「はい…神童君は中等部の頃、私と一緒に剣道をやっていたんですよ?」

「剣道部に所属していたのか…」

「今はやってねぇけどな…」

「どうして、やめたんですか神童君?」

「退部する時に言っただろ?家のやることとかがいっぱいあったし、親が出稼ぎでいなくなって、

自分でやらないといけなくなったからだよ!」

俺は目をそらすようにして玲に言った。

「そうですか…」

赤い髪の毛を後ろで一つ結びにしている彼女は、その髪の毛をいじりながら少し悲しげに言った。

そして、彼女はふとあることを思い出して俺達に訊いて来た。

「…ところで、今日は何しに来たんですか?」

「ああ…こいつが剣道部の体験に行きたいって聞かないもんだからさ…」

俺の言葉に、彼女は少し残念そうに小声で言った。

「…なんだ、神童君じゃないんですか…」

「ん?何か言ったか?」

「何でもありませんっ!ということは、神童君の隣にいる…―」

「霄だ!水連寺霄!!」

「水連寺さん…」

―水連寺?どこかで聞き覚えのあるようなないような…まぁ、いっか!


玲は何か頭の中に引っかかるものがあったが、あまり深く考えるのも時間の無駄だとそのまま

その違和感を無視することにした。

「じゃあ、手始めに小手調べと行きましょうか……神童君?」

「えっ、何で俺?俺は別に体験入部に来たわけじゃねぇし…それに、さっきも言っただろう?

俺は家事で忙しいんだよ…」

「何を言ってるんだ…響史…家事は全て、霖がやってくれているではないか…」

「あいつ一人にさせたら、今度はあいつがダウンしちまうだろ?」

「むっ…それも…そうだな」

彼女はなるほどと言った風に言った。

「でも、久しぶりに戦ってみたくなったんですから、いいじゃないですか!ねっ、ねっ?」

玲が無理に俺を誘ってくるため、俺は少し困惑してあまりにも執拗な彼女の誘いにだんだん

面倒になってきた俺は、思わず彼女の誘いに応えてしまった。

「わ、分かった…」

「やった〜!!」

嬉しそうに飛び跳ねる玲…。その幼げな自然の行動が昔から変わっていないのを見て、俺は少し

笑みを浮かべてしまった。

「じゃあ、柔道着に着替えてくるので、待っててください…」

そう言って、彼女は柔道着に着替えに準備室へ向かった。

「響史…本当にやるのか?」

「仕方ねぇだろ…やるっつったら絶対にやるやつだからなあいつは…」

昔の事を思い出しながら俺はふとつぶやいた。



そして、準備が整い、玲が柔道着に着替えて戻ってきた。俺はなぜか知らないが、制服のままで

やることになった。周りの観客…というより、部員は四方を囲むようにして座った。

靴と、靴下を脱ぎ、裸足で畳の上に乗った俺は、玲の向かい側になる位置に立ち、正座で座った。

すると、玲から何かが投げられた。それは、俺が昔使っていた竹刀だった。

「…まだとってあったのか…」

「いつか必ず神童君が戻ってくると思ってましたから…」

彼女は正座で座り、隣に竹刀を置きながら言った。

「そうか…じゃあ、ありがたく使わせてもらうぜ!」

俺は竹刀を手に取った。久しぶりに握ったが、一年前の感じが再び俺の手から全身に伝わってくる

そんな感じがした。

「ふぅ…さてと、それでルールはどうするんだ?」

彼女にどんなルールにするのかを訊くと彼女は、すぐさまこう答えた。

「そうですね…ならば、私に傷を負わせることが出来たら勝ちということでどうですか?」

「傷を負わせるって…どの程度?」

少し不安な気持ちになりながら、俺は彼女に訊いた。しかし、彼女は間髪開けず答えた。

「もちろん、深手を負わせるまで…」

「そ、そんなこと出来るわけねぇだろ!?」

「ふっ…相変わらず甘いですね神童君…。でも、安心してください…そう簡単に攻撃をくらったり

するほど、私も落ちぶれてはいません!」

玲はエッヘンと腰に手を当て、偉そうにした。

「どうしても、やるんだな…?」

「はいっ!」

彼女はあくまでも真剣だった。その覚悟とその目に俺は圧倒され、断ることが出来ず…仕方なく

受け入れることにした。

そして、ついに試合が始まった。玲は剣を握ると性格が変わる。それは、昔からのことだった。

それは現在も変わらないようだ。

「さぁ、逃げてばっかじゃ私に深手を負わせることなんで出来ないわよ?」

です・ます口調だった先程までの話し方はどこに行ったのやら。彼女は普通の言葉で、俺を挑発した。

「くらえ!『火玉演舞』!!」

球形の形をした真っ赤な炎の球が彼女の周囲をグルッと囲み、物凄いスピードで回転する。そして、

速さを増したかと思えば、今度はその球形が歪な動きを始め、俺に攻撃を仕掛けてきた。

しかし、俺にはその攻撃を見切ることは可能だった。なぜならば、その技は一年前に俺と戦った際に

使った技と全く同じものだったからだ。しかも、その技には見え見えな程、はっきりしたスキがあるのだ。

その隙を狙えば、完全にこっちの勝利は確定だった。

「お前、俺をバカにしてるのか?そんなスキだらけの技、俺にとっちゃ止まって見えるぜ!!」

そう言って、俺は彼女が攻撃したその瞬間、あらかじめ知っているスキの部分を攻撃した。

「ふふっ、引っかかったわね?」

「な、何っ!?…ぐわぁあああ!!!」

誤算…いや、そんなはずがない。確かに俺は彼女の攻撃を知っている。しかも、ちゃんとスキの

部分を攻撃するタイミングも何もかもが全てジャストタイミングだった。なのに、なぜ攻撃が

効くどころか、逆にこちらがやられているのだ。俺は訳が分からなかった。

「困惑してるわね…でも、まだまだ戦いは始まったばっかりよ?」

玲は剣を持った手首にスナップを効かせ、竹刀を振り回した。すると、竹刀にまとった炎が剣の動きに

合わせてブオッと燃えたかと思うと、一瞬に消えた。剣を振り回すたびにそれが繰り返され、

俺はその攻撃を見ながらあることを思い出した。

「そういえば、あいつのあの技も見覚えがある…!」

そう思った瞬間、彼女の竹刀の動きが少し変化し、玲はその竹刀を剣道場の床に突き立てた。

「はあっ!『火炎八柱』!!」

玲がそう叫ぶと同時に、凄まじい熱気を帯びた八つの火柱が勢いよく床下から突き出した。

しかし、俺はその技にも見覚えがあったためにぎりぎりでその技をかわすことに成功した。

すると、今度は遠距離の特殊攻撃法ではなく、近距離の物理攻撃法で彼女は攻撃してきた。

「うわっと!」

ヒュンッ!と竹刀が振り払われ、俺の腹をギリギリかすめるかかすめないかの攻撃をしてきた。

「あっぶねぇ…」

「かわしてばっかりじゃなくて、少しは攻撃してきたらどう?」

彼女は上からの物言いで言う。しかし、俺にはどうも彼女の考えが理解できない。

さっきから彼女は俺の知っている技しか使ってこない。それも、スキだらけの技を。この一年間に

彼女が俺の全く知らない、皆無の技を作り上げているそう思っていた俺だったが、違ったのか。

それとも、あるのに使わないのか。俺はそれが頭の中で引っかかっていた。

そして、彼女はまたしても攻撃してきた。スキだらけの技で…俺はそのスキを突いた。しかし、

何度やっても彼女に攻撃が当たることはなく、逆に俺が彼女から攻撃されてしまう。

気付けば俺は、すっかり太刀傷を負わされていた。いくらなんでもこれはおかしい。一度だけなら

まだしも、二度三度と攻撃が当たらず、その上俺に彼女の攻撃が当たるなんてありえるわけが

ないのだ。と、その時俺は彼女の攻撃を受けながらある物を見つけてしまった。

それは、彼女の手首に巻きついている鎖の先についている指輪だった。その指輪に見覚えがない

わけがない。それは間違いなく、俺が探し求めている守護者の証。つまり、彼女は太陽系の守護者の

一人だったのだ。

-157-
Copyright ©YossiDragon All Rights Reserved 
<< 前のページへ 次のページへ >> ここまでで読み終える