小説『魔界の少女【完結】』
作者:YossiDragon()

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だとすれば、彼女がスキだらけの技で攻撃してきて、俺にそのスキの部分を攻撃されても攻撃は

効かず、逆に俺がやられるのにも合点がいく。そう、守護者の力を使えばそんなことをするのも

可能に違いない。今までだってそうだ。本来ならばありえない重力操作や、自身の体の一部を金属化

させたりなど…。普通の人間ならばできないようなことばかり。彼女の竹刀から溢れるあの炎も

それの一種に違いない。そう仮説を立てた俺は、まずは彼女にいくつかの質問を投げかけた。

「一つ聞きたい…。どうして、俺は竹刀で戦ってるのにお前は真剣なんだ?」

その言葉に剣道部員達は疑問の言葉を立て続けに発し始めた。

「どういうことだ?」

「えっ、部長のあの剣…竹刀じゃなかったのかよ?」

などという言葉。すると、その周囲の声を玲は片方の手を上げて静まらせた。そして、静まったことを

確認し終えると彼女は、ふぅと一息つき言った。

「そうね…敷いていうなら、あなたを試してたってとこかしら…?」

「試す?俺を?」

「ええ…でも、ちゃんと気づいてくれたようで良かったわ。竹刀のままじゃあ、あなたも不利でしょ?

いいわよ…真剣で戦ってくれて…その方が私も力を抑えずに済む」

「それともう一つ…その腕についている鎖…その先端についてる指輪…それ、守護者の指輪だよな?」

「へぇ…しばらく会わない間に、目も良くなったのね…。あなたの成長が見れてますます嬉しいわ!

その通り…これは守護者の証…私は太陽系の守護者『火星の守護者』なの…」

「マーズってことか…」

「ええ…」

彼女は首を少し傾げて俺にそう言った。

「じゃあ、さっきのスキだらけの技も…全部お前の作戦だったってことか?」

「どういう意味?」

「お前は、一年前と同じ技ばっかり使ってた…。この一年間で新たな技を作ることだって可能だった

はずだ!だが、お前はそれもせず俺が知ってる技ばかり使った…。そして、俺が知っているスキの

部分に攻撃させた。俺は最初自分の目を疑った…そりゃそうだよな…。本来ならば、お前に攻撃が

当たるはずなのに、その攻撃は効かず…逆に俺がやられてんだからな…」

俺は自分が受けた傷の箇所をぎゅうっと押さえた。

「そこまで解ってるのなら十分ね…」

「何?」

「おめでとう…合格よ!」

「合格…何のことだ?」

彼女の言う合格という意味が俺にはどういう事なのかさっぱりだった。しかし、彼女はその点について

詳しく俺に教えてくれた。

「今まであなたと戦ってたのは試験よ!」

「試験?」

「そう…あなたが、どれほどの力…及び敵が持ってる能力を見切れるかどうかの…ね。でも、見事

あなたはそれをクリアした。だから、合格…。あなたは……ね」

「あなたはってどういう…―」

「あなたの連れてるその子にも試験を受けさせるのよ!」

玲は正座しっぱなしでつらそうな顔をしている霄をビシッと指さした。

「霄に!?」

俺は驚いた。今までそんなことはなかった。前回は俺と護衛役全員での鬼ごっこ…に見せかけた

お互いの能力を駆使して協力して戦うための物…。どうやら今回は、それぞれの能力の高さを見極める

ための試験のようだ。

「なるほど…私にも戦うことが可能だとはな…面白い!私の力、とくとお前に見せてやろう!!」

「言っておくけど、あなたには全員の護衛役の代表として戦ってもらうわよ?」

「どういう意味だ?」

彼女は不思議な顔をした。

「簡単な話よ…もう既に解ってると思うけど、今回の試験は能力を見極めるための試験…。でも、私は

見て分かる通り剣のことしか分からないの。だから、剣を使う護衛役としか戦う事が出来ないの。

そうしないと、その他の武器を使う護衛役と戦ったところで、能力がどれほどの物か

分からないからね〜。分かった?」

「つまり、私が負ければそれは…護衛役全員の敗北を意味しているということか…」

「そういうこと!理解が早くて助かるわ…。さっ、じゃあそろそろ始めましょうか?部活の時間も

限られてるから…」

そう言って、玲は竹刀を床に突いた。すると、竹刀が壊れ、その中に隠された真剣がその全貌を

露わにした。鋭く鋭利に光り輝く彼女の剣…。その剣にはうっすらとだが、熱気が纏われていた。

「さぁ行くわよ!」

俺は彼女が急に戦いを始めたために、慌ててその場から避難した。そこからは二人の壮絶な

戦いが繰り広げられた。炎と空…二つの戦い。相性的にはどっちもどっちと言った感じ…。

長い髪をなびかせながら戦う女同士の戦いは凄まじいものだった。互いに引けを取らず、持てる技を

駆使して戦った。

「『二連風』!!」

「『烈火守護』!!」

霄が繰り出した攻撃を、玲が防ぐ。凄まじい戦いに俺も部員も口をポカンと開けていた。

「くっ…『千連空刃』!!」

玲が防御したのを見て、すぐさま技を切り替えそれを瞬時に繰り出す霄。大量の風の刃が空気を

切り裂きながら玲の体を襲った。二人は俺と同じ年齢だというのに、どことなく俺よりも年上に見えた。

と、その時霄の放った技の衝撃波の一つが玲の右腕をかすめ取った。シュンッ!と刃が玲の剣道着ごと

彼女の腕を斬りつける。

「あぐっ!!」

彼女は慌てて自分の右腕を抑えた。白い剣道着が一部だけ赤く染まる。

「お、おいっ大丈夫なのか?」

「気が散るから声かけないで!!」

俺は玲に怒られた。心配しだだけなのに、彼女はすごく怒っていた。俺は何か悪い事でもしただろうか。

いや、それほどまでにこれは激しい戦いなのだ。一瞬でも集中を切らしただけでこっちが

やられてしまう。

「くっ…やったわね〜!!少し本気を出させてもらうわよ!」

玲は魔力を込め、一気に身の回りに炎を出現させた。その熱気に俺は自分の顔を腕で覆った。

凄まじい熱気と炎に彼女の赤い髪の毛が激しく揺れる。しかも、その紅茶の様な赤い瞳も、メラメラと

燃えているように見えた。

「秘技!『業火蓮玉』!!」

激しい業火の炎。今まで彼女が使っていた炎とは少し質が違うのか、少し黒ずんで見えるその炎は

玲の体の周囲を円を描くように動き、さらに彼女が業火の炎を纏った剣をヒュンッと振るうと、

そこから発生した炎の球が霄の体を襲った。

「ぐわっ!!」

「そ、霄!!」

俺は思わずその場に立ちあがってしまった。そして、はっとしてその場にまた座った。

拳を強く握り、心の中で彼女の事を応援した。しかし、霄がやられるわけにはいかない。だからと言って、

玲を斬られるのもそれはそれで喜ばしくないことだった。心の中で惑う気持ちに翻弄される俺。

そんな時、霄はついにストッパーが外れてしまったのか、邪悪な魔力を溢れさせ、気迫としてそれを

彼女にぶつけた。

「ぐううっ!!」

―な、何なの…この異常な魔力の上昇は!?信じられないっ!くっ…これが悪魔の実力?

こんなの…勝てるわけ…。


彼女が気迫に耐えるように腕で顔を覆っていると、霞む視界の中、激しい烈風の中に一つの人影が

見えた。そう、霄である。彼女はさっきまでの目つきとは違い、まさに悪魔といった目つきで玲の

目の前に現れた。そして、彼女の頭を片手で鷲掴みにした霄はその手に力を込めた。

「ぐっがぁ!!い、っ…痛い!!は、離しなさい!!離せってば!!ぐがああああ!!!」

霄は徐々に力を込め、玲をその場に持ち上げた。霄の腕をがっしりつかみ、激しく足をばたつかせたり

して抵抗する玲…。しかし、そんな抵抗もむなしく霄の力はどんどん強くなっていく。

すると、玲は剣から大量の炎を辺りにまき散らし、彼女と霄の二人を取り囲むようにした。

「ふっ…こんなことをしても無駄だ!!」

「ふっ…そうかしら?」

苦しそうに唇を噛み締めながら玲が言った。それと同時にその炎は勢いよく鋭利なとげのようになり、

霄のがら空きの背中から思い切り突き刺した。

「ぐうっ!!くっ…ま、まだこんな…力が残っていたとはな…」

「ふっ…まだまだこんなもんじゃないわよ!!」

「何!?」

玲はニヤッと口元を緩ませると、足を強く踏み込み、霄の元へと突っ込んできた。

「ふんっ全てを捨て去った捨て身の攻撃か…面白い!その精神は認めてやろう…だが、所詮…人間は

人間だ〜!!」

そう言って、彼女は大量の鎌鼬を繰り出した。しかし、それでも屈しない玲はその攻撃を自らの

体を回転させながらかわした。

「くっ…これならどうだ!!」

そう言って、今度はさっきの倍の鎌鼬を彼女に浴びせた。すると、その鎌鼬は彼女の腕や脚やら

あちこちを切り刻んだ。

「…っ!!でも、このくらい!!」

と、その時彼女に襲い掛かってきた一つの鎌鼬が彼女の一つに結っていた髪の毛の結び目をかすめた。

しかし、彼女はそのことに気付かず、そのまま霄の懐へと侵入した。そして、彼女に向かって攻撃した。

「くらえ!!」

「それはこちらのセリフだ…もう、これでおしまいだ!!」

霄はぎゅうっと拳を握り、瞬時に宙を移動する玲の近距離に瞬間移動すると、彼女の無防備な腹に

きつい一発をお見舞いした。

「ぐがっ!!」

玲が宙を移動するのをやめ、お腹を痛そうに抑えていると、霄はそこに追撃するかのように

今度はケリをお見舞いした。玲はそのまま、地面に墜落した。

―おいおい、さすがに人間にあれはヤバイんじゃないのか?


俺は心の中でそう思った。すると、舞い上がる煙の中に一つの人影が見えた。しかし、その姿が

一瞬俺には玲には見えなかった。ボロボロになった剣道着に、袴…そして、痛そうにお腹を押さえ、

もう片方の手は、既に剣を手放していた。そう、もう戦える状態ではないのだ。

おまけに、彼女の髪の毛も一変していた。先程の霄が放った鎌鼬によって、彼女の髪の毛を斬られて

いたのだ。

「はぁはぁ…」

息を乱しながら体をよろめかせ、移動する玲。その反対側からは、霄がやってくる。

その姿を見た俺は霄がまだ彼女に攻撃しそうに見えた。

「くっ…も、もうだ…め……」

そのまま彼女はその場に前方に倒れ掛かった。俺は慌てて彼女の体を受け止めた。

「あ、…し、神童君…ご、ごめんなさい。ちょ、ちょっと……や、やりすぎちゃいました。

あはは……いたっ!!」

「おいっ、あまり無茶すんなよな…」

「ごめんなさい…本当はこんなつもりじゃなかったんですけど…」

俺が彼女の話を聴いていると、背後から霄が声を掛けてきた。

「そこをどけ…響史!ケリを着ける…」

「待て霄!もう終わったんだ…玲はもう戦えない。こいつの負けでいいだろ?」

「ふんっ…いまいちスッキリせんが、まぁ致し方ないな…。人間にしては頑張ったほうだ…」

霄は剣を納めてくれた。

「大丈夫か?」

「はい…ごめんなさい…。あっ、…それとこれ…」

そう言って彼女が俺に手渡したのは守護者の証だった。

「神童…いや、響史君にあげます…」

彼女は、なぜか昔のように俺の事を下の名前で呼んだ。

「ああ…それと剣道場どうするんだ?随分ボロボロになっちまったけど…」

俺は鎮火して火の気はもうないが、すっかり黒ずんでしまった剣道場の床や天井などを見て言った。

「それは心配いりません…生徒会が全力で修繕しますから…」

「そういやお前生徒会に入ってたんだっけ…」

「はい…あっ、もう立てますよ?」

「あっ、ごめん…」

「いいですよ…それよりもさっきはありがとうございます!」

「えっ、何が?」

「受け止めてくれて…」

「ああ…それじゃな…」

玲にかけてあげるような言葉が底をつきてしまったため、そのまま無言でいるのも気が引けた俺は

その場から逃げ出すかのように去ろうとした。しかし、彼女が俺を呼び止めた。

「えっ…」

「あの響史君…また剣道部に入りませんか?」

「何度も言っただろう…俺は気を改めるつもりはない…。すまないが、部活はもう入らないって

決めたんだ!」

「そう…ですか…」

俺は玲のその泣きそうな顔を見て、しばらく沈黙を続けた後、口を開いてこう言った。

「その…なんだ。練習の付き合いくらいならしてやってもいいぞ?」

「ほ、本当ですか!?」

「あ…ああ…」

頬をかきながら目を逸らす俺。その俺の言葉を聞いて嬉しそうに眼を輝かせる彼女。

「分かりました!じゃあ、練習絶対につきあってくれるよう約束してください!!」

「や、約束!?わ、分かった…」

「じゃあ行きますよ?指切りげんまん嘘ついたら針千本飲〜ます!指切った!!」

「何指を切っただと!?切ってないではないか!!」

霄が話に割り込んできて言った。

「お前、それはただのおまじないみたいなもんだって以前も言っただろう?」

「そう、なのか?」

「ふふっ…楽しそうでよかったですね響史君!!」

玲はくすっと笑みを零しそう言った。こうして、俺は5個目の守護者の証を受け取ったのだった……。

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