小説『魔界の少女【完結】』
作者:YossiDragon()

しおりをはさむ/はずす ここまでで読み終える << 前のページへ 次のページへ >>

瞬殺…まさにその言葉がふさわしい。まさに一瞬のことだった。俺が瞬きした時には、もう

戦いが終わっていた。瞼を閉じて再び開けた時には勝者が一目瞭然だったのである。

「しょ、勝者…霙!」

俺は彼女の手首を掴んで高々と掲げた。それと一緒に彼女自身も声を張り上げる。

「うおおっしゃ〜!!」

「くっ、なんっちゅうバカ力だ!くっそ〜どうやら嬢ちゃんにハナっから手加減は必要なかったみたいだな!!

うっしゃ、遊びは終わりだ!!ここからが、本番だぜ!!」

「な、何いぃ!?何言ってんだおっさん!今、あたしに負けただろ?」

「チッチッチ…お嬢ちゃん…これはただの練習だ!」

「な、せ…セコいぞっ!!」

霙の言葉はごもっともだった。珍しく彼女の言っていることが正しかったのである。

「分かった…確かに最初に全部言ってなかった俺のミスだ…それはすまなかったな…スマン!!」

―軽ッ!?


彼女は心の中でそう叫んだ。

「今度こそはちゃんと本番だからな…まずは、ルールとして勝負は三本勝負!そんでもって、

どっちかが二勝した時点で試合は即終了だ。つまり、どっちかが二連勝するか、もしくは最初の試合と

最後の試合で勝てばそれでいいというシンプルなものだ。分かったか?」

「あ、ああ…」

少し不機嫌そうに頬を膨らます霙。無理もない…せっかく勝ったのに、その勝利をないものとして、

再び試合をしなければならないのだから。

「そんでもって、勝負ときちゃあ…やっぱコレがなきゃ面白くねぇだろう?」

そう言って、彼は何かを提案した。俺は心の中で嫌な予感がしたため、それだけはない方向でと

願っていたが、願いもむなしくその予感は見事的中してしまった。この予感をもっと別の物に

有効活用したいものである。

「負けた方が勝った方の言う事を何でも聞く…ってのはどうだ?」

「な、ななっ!?」

「そ、それってあまりにも無理がありませんか?」

「そんなことはないだろう?」

「で、でも…―」

「大丈夫だ響史…要はあたしが勝てばそれでいいんだから…」

「よく分かってるじゃないか…お嬢ちゃん」

親方はニンマリと白い歯を見せて不敵な笑みを浮かべた。これはまさに何か企んでいる顔だ。

昔からの付き合いだから分かる。彼…親方こと『木ノ下 毅』は、昔から悪戯好きなところがあり、

俺が幼き頃、家族一緒に家を建てるというか、リフォームをする時のこと…俺達は親方のところへ

行った。そこで、親方はちょくちょく姉ちゃんに悪戯行為を働いていたのである。悪戯というのは

無論、先程霙にしたことと似たようなものである。

すると、霙がさっきのことの後で、何かを想ったのだろう…親方に質問した。

「ち、ちなみに…何でもって…本当に何でもなのか?」

「どういう意味だ?」

分かったうえで聴いている。彼の表情を見た感じ、俺にはそう思えた。

「だ、だから…さっきみたいに、またあたしの胸…触ったりとか」

「何だ嬢ちゃん…触ってほしいのか?」

「なっ!?一体…どこからそういう方向に展開すんだよ!!」

霙は顔を真っ赤にしてその場に立ちあがった。

「まぁまぁ落ち着いて…座って座って…」

俺は彼女を慌てて落ち着かせた。そうでもしなければ、このまま彼女を野放しにしておけば、

武器…即ちハンマーを取り出して暴れ出しそうだったからである。

「まぁ、どうすっかはその時の俺の気分次第だぁな…」

彼はあごに蓄えたひげをいじりながらそう言った。

「と、とにかく勝負始めませんか?」

「ん?そうだな…よ〜し、さっきは油断したが…次はそうはいかんぞ?」

「おもしれぇ…さっきと同じように瞬殺してやる!!」

彼女はそう言って、彼と手を組んだ。俺は互いの準備終了の確認を取った。

そして、準備が整ったことを確認し終えると、開始の合図を送った。

二人の戦いが再び始まる。結果は―――またしても圧勝だった。

そう霙の勝利である。

「ぐぬぬ〜…だが、まだ一勝…次で俺が勝てば、同点だ…」

「ふん!そうはさせるか!!」

そう言って、二人は二回戦を始めた。

「そう言えば…勝負に負けたやつのことだが…―」

「えっ?」

まさにその瞬間である。霙が親方の声に反応しているその隙を狙って、親方が大人げなく彼女の腕を

倒した。

「うおおおお俺の勝ちだ〜!!」

「なっ!そんなのないだろ!!今のは明らかな反則だ!!響史だってそう思うよな?」

「確かに今のはあんまりですよ親方!」

しかし、彼は少しも悪びれず、

「ふんっ…話を聴きながら集中することも出来ぬとは、まだまだ若いなお嬢ちゃん!」

と彼女をバカにした。

「くっ…!」

「とにかく、勝負は勝負だ…さて、互いに一勝…三回戦…これですべてが決まるな〜」

「絶対に負けるわけには…」

霙はぐっと拳に力を込め、親方の手を強く握りしめる。

「三回戦目…開始!!」

その三回戦はとにかく長かった。お互いにひけを取らず、全力を振り絞って対抗しているのだ。

「くぅう〜!!」

「ぐぬぬ〜!!」

唸り声を上げる二人…。二人の周囲には想像による炎が燃えさかっていた。

「だ、大丈夫か?二人とも…」

俺は二人の事を心配しながらも無理に割って入って逆にやられてしまっては元も子もないと

なるべくその戦いに割り込むようなことは全力で避けておいた。

しかし、だんだんと疲労がたまってきたのか、それとも暑さのせいだろうか。霙と親方の握っている

手はジワジワと汗で滑り、そのチャンスを待ってましたとばかりに、親方は

「スキあり!!」

と彼女の腕をバンッ!!と倒した。

「し、しまった!!」

「うっしゃーーーーー!!!ハッハッハ…俺の勝ちだ!」

親方は腰に手を当て、高笑いした。

「くっそ〜…まさか、このあたしが負けちまうなんて…。しかも、よりにもよってこんな変態男

なんかに…」

「ヘッヘッヘ…そんな口聞いてていいのかい?この後、お嬢ちゃんは俺に何をされるか

分からないんだぜ〜?」

「ぐっ…」

危ない表情を浮かべている親方の姿に俺は思わず二人の間に割って入った。

「ん?何のつもりだ…坊主」

「親方!もうやめてください!!これ以上、霙に何するつもりですか!?さすがにこれ以上は…

俺も止めますよ?」

俺の言葉に親方は止まってくれる…そう思ったが、それは違った。むしろ、彼は再び笑いだし言った。

「坊主…すまないが、そこをどいてくれ!俺は勝負事はハッキリ決める性格なんでな…」

「でも!」

「響史…もういい。あたしのことは気にすんな…大丈夫だ!こんなおっさんにあたしの体を自由になんか

させはしない!!」

「おいおい、勘弁してくれよ!随分と勘違いしてるようだが、それは大きな間違いだぜ?」

「「えっ!?」」

俺と霙の二人の声が重なる。

「どういうことですか?」

「ハッハッハ…だから、別に…そっちの命令はしないってことさ!さっきのはどれほどの力が

使えるかという力比べというか…力量を計る物だ!!」

そう言うと、親方は奥の部屋から何かを持ってきた。それは安全第一と書かれたヘルメットだった。

それを俺と霙の頭にボスッとかぶせた。

「うしっ!んじゃ、坊主の家に行って…屋根の現状を確かめてくるか…!」

「えっ…あぁ、はい!」

俺と霙の二人は互いに顔を見合わせながら親方の後についていった……。

-161-
Copyright ©YossiDragon All Rights Reserved 
<< 前のページへ 次のページへ >> ここまでで読み終える