小説『魔界の少女【完結】』
作者:YossiDragon()

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第三十二話「変態男襲来!」



ここは、神童響史…つまり俺の家。ようやくたどり着いた俺と霙と親方の三人は、俺の家の玄関前に

立った。

「ほ〜ぅ、しばらく来なかったが、随分とまぁ立派に建ってやがるな…こいつを建てたやつは、

相当腕の立つ奴だろう」

「あの…それって要はツッこめってことですか?」

「ん?」

「い、いや…別に。あっ、それと玄関もついでに直してもらっていいですか?鍵…かけられないことは

ないんですけど…、少し鍵かけにくくて…」

「こりゃまた、ハデにやってくれたな…。一体誰がやったんだ?」

「すみません…うちの姉です」

「おぉ…、あの可憐な女の子が…こんなことをねぇ〜」

親方は過去の記憶を振り返り、姉ちゃんのことを脳内コンピュータで検索し思い出す。

「そんじゃまぁ御宅拝見っと!」

「ちょっ…何しに来たんですか親方!!」

「冗談だってガハハ!!」

俺の肩をバシバシと叩き笑い出す親方…。正直言って、この人のペースにはついていけない。

俺達三人はようやく家の中に入った。

「屋根ってことは上か…」

当然のことをわざわざ口に出して呟く親方。すると、行きがけ消して行ったはずのリビングの

灯りが点いていることに気付いた俺は

「あれっ?」

と、少し早足で数歩歩いてリビングへ入る扉を開けた。

「どうした坊主?屋根は二階だろう?」

「あ…いえ。先に行っててください…後で行きますから…」

「あたしが案内する…」

「おう、そいつは助かるぜ!」

親方はそう言って、霙と一緒に二階へ上がって行った。

俺はなるべく急がないと、二人きりになった途端、あの人が霙に何かしでかさないとも限らないと

心のどこかで不安になり、急いでリビングへの扉を開け、中に入って行った。

そこには、朝ごはんを作っている霖と、ゴロゴロしている瑠璃と、それに何かを言っている麗魅と、

庭でチャンバラごっこ的なことをしている霄と零の五人がいた。

すると、ジャーッとトイレの水が流れる音が聞こえ、ガチャッとトイレの扉が開きそこから露さんが

姿を現した。

「ふぅ〜っ!スッキリした……あれ?響史くん…こんなとこで何してるの?」

「露さん…皆起きてたんですか?」

「そりゃあ、こんな時間だし…それに、この時間帯に起きるのが一番いいのよ」

「えっどうしてですか?」

俺の質問に彼女は何の躊躇もなく答えてくれた。

「だって、皆幸せそうな表情浮かべた寝顔がかわいいんだもん!!あの寝顔見てたら興奮して、

思わず食べちゃいたくなるくらいだもん!!」

―ダメだこの人!早く何とかしないと…!!


心の中でそう決意する俺。

「それよりも響史くんことこんなところで何してるの?ていうか、今までどこにいたの?

霙ちゃんも一緒だったみたいだし…あっ分かった!さては…二人してチョメチョメしてたんでしょ?

それに、家にいなかったってことは、まさか…野外…―」

「うわああああ!!ちょっと朝っぱらからそういうことやめてくださいよ露さん!」

ガシャンッ!!

その音に敏感に反応した俺は、サッと後ろを振り返った。そこには、水で濡れないようにと袖をまくり、

白く丸い皿を下に落として手をブルブル震わせている霖の姿があった。まだ起きたばかりで、

いつものように髪の毛を両結びにしておらず、また緑色のリボンもつけていなかった。

すると、彼女は俺にこう言った。

「ま、まさか…お兄ちゃんがお姉ちゃんとそんなことを!?」

「ち、違う違う!ちょっと露さんのせいで、霖に変な誤解させちゃったじゃないですか!!」

「私のせいじゃないでしょ?それは、誤解を生むような行動をしたあなたの責任よ!」

露さんは俺に罪をなすりつけた。まったくもって困ったものである。

と、その時…俺はふと思った。

―あれ?そういえば…書き置きを置いておいたはず…。


「書き置きどうした?」

「書き置き?何それ…」

不思議そうに首を傾げる露さんに俺は言った。

「こう…白い紙で…メモ用紙みたいな感じのなんですけど…なかったですか?」

「見てないわよ?ねぇ霖ちゃん…」

「うん…どこに置いてたの?」

書き置きを置いておいた場所を彼女に訊かれ、俺は場所を指し示した。しかし、確かに置いておいた

場所には、既に書き置きの姿はなかった。

「おっかしいな〜。そうだ!リビングに一番最初に来たのは誰だ?」

「一番最初?え〜っと、あっ…確か霄ちゃんじゃなかったかしら?瑠璃姫様も見たよね?」

「え〜?確かそうじゃなかったっけ?」

瑠璃はゴロンとリビングに横になり、仰向け状態でこちらを向いた。

「霄は、あぁ…いたいた!」

俺は庭で零とチャンバラごっこをしている霄を見つけ、彼女の元へ向かった。

「なぁ霄!お前書き置きどうした?」

「すまないな響史!今は少し忙しい!!とおりゃ!!」

「なかなかやりますね姉上…しかし、私の実力はまだまだこれからです!!」

霄と零の二人は、チャンバラごっこにしては結構ハードな遊びをしていた。

「ちょっ…ストップストップ!一時停止!!」

俺の言葉に二人はピタッと止まった。

「ちょっ…あの〜、もしも〜し…そっちの一時停止じゃなくて…その勝負をやめろと言ってるんだが…」

「何だ…それならそうと早く言ってくれ!」

そう言って二人は再び動き出した。

「それで書き置きどこにやったか知ってるか?」

「書き置き?ああ…あの紙切れか…。あれならば、私が読み終わったから捨てたぞ?」

「何でそんなことするんだよ!!」

「書き置きとは…慌てていて、伝えることが出来ないから仕方なく使うものなのだろう?

ならば、私は既に読み終えているから捨てても構わないだろう?」

「お前だけ知ってても、他のやつらが知らなかったら意味ないだろ!?」

「…おぉ!響史…お前、頭いいな…」

「いや、普通分かるだろ!?」

俺は、彼女がなるほどと言った風な顔をしているのを見て言った。

すると、上からぎゃああと誰かの叫び声が聞こえてきた。その声が、親方の物だと分かった俺は

慌てて二階へと駆け上がった。

―そういえば、まだ霊と霰を見ていない。ということは…まさかな。


心の中で最悪の状況を予想しながら、それが現実のものにならないことを必死に願い、自分の部屋の

扉を開ける俺…。扉を開けると、そこには異様な光景が広がっていた。

霙は扉のすぐ近くで唖然としていて、親方はというと…邪悪なオーラに身を包んだ霰に詰め寄られている

ところだった。

「ど、どうしたんだ一体…」

その俺の言葉に霙はハッと我に返って俺に言った。

「じ、実は…―」

何でも霙の話によれば…だ。どうやら、親方が二階に上がって俺の部屋に入ったはいいのだが、

未だに寝ている霊と霰に気が付いたらしく…思わず悪戯心が芽生えてしまったために、二人に

ちょっかいを出したらしいのである。しかし……相手が悪かった。霰だけならまだ何とかなるだろうが、

霊にもちょっかいを出そうものなら、一番憤怒するのは無論…考えるまでもない霰である。

彼女がどれだけ姉の霊を好きなのかは今までの暮らしぶりで理解している。そんな彼女が、自分の好きな

相手にちょっかいを出されて、我慢していられるはずもない。

それにしても、悪魔相手によくもまぁやってくれたものである。先程から、霰は邪悪なオーラを

放出し続け、明るいはずの部屋を暗く変化させていた。

「あ〜な〜た〜だ〜け〜は、ゆ〜る〜し〜ま〜せ〜ん!!!!」

霰の不気味な声が、親方の足を一歩後ろに後退させる。

「お、おい…坊主!な、何なんだあの子は…!?それに、どうして坊主のベッドにあの子らが?

ま、まさか…お前、姉ちゃんだけでは飽き足らず、あの子らも!?」

「一体どんな勘違いしてんですか!!めちゃくちゃ誤解ですよ!!」

俺は手と首をぶんぶんと激しく左右に振った。

「ていうか、一体彼女達に何したんですか?」

俺のベッドにペタンと座り込み、顔を赤らめてボ〜ッとしている霊を見て俺は彼に訊いた。

すると、親方はボリボリと頭をかきながら参ったな〜と言った風な顔をして言った。

「いや、それがこの部屋に入った瞬間、てっきり俺は男の部屋だからムワッとした男の臭いが充満

してるものだろうと思ってたんだ…」

「俺どんだけ体臭ひどいんですか…第一、ちゃんと脱臭剤を置いてますよ!!」

「…だが、入った瞬間俺の鼻孔をついてきたのは、思いもよらない匂いだった。そう、ふんわりとした

女の子の匂いだ…」

「は、はぁ…」

まぁ、彼が言うのも無理はない。俺の部屋は俺の部屋なのだが、彼女達は風呂上がりの後に、俺の部屋に

勝手に上がってきたり、何かよく分からない匂いをつけて家に帰ってきたり、おまけに俺の部屋に

あんな人数が入って一つのベッドで寝ているのだから、匂いが付かない方がむしろおかしいのである。

「それで…俺は不思議に思って中に入って行った。そしたら、坊主のベッドなのに…何かしらんが

美少女がふたり抱き着き合って寝てるじゃねぇか…。おまけに、片方は猫耳に猫の尻尾…。

そりゃ〜男なら、やらざるを得んだろう!!」

「真剣な顔して言えることじゃないですよ…それ」

「俺だって必死に自分の荒ぶる心を抑え込もうとしたさ…だが、その瞬間俺は見てしまったんだ。

その決定的瞬間を…」

「決定的瞬間?」

「そう…あの…あの猫耳が、ピクピクッ…って動いたんだ!!そんな猫のような仕草されたら、

もう抑えられないに決まってるだろう?何しろ、猫だぞ?癒し系だぞ!?そこんとこ、分かってんのか

坊主!!」

親方はなぜか俺に詰め寄って、何かを懸命に伝えようとしているかのように言った。

「そりゃあもう触ったさ…」

「猫耳をですか?」

「…いや、胸を…」

「なんでだよ!!猫耳について語ってたから、猫耳触ったんじゃないんですか!?」

「いや〜だって、胸おっきかったんだもん…触りたくなる手頃な大きさだったんだもん!!

おじさんだってな…おじさんだってな…あんなババアの触るくらいなら、ピチピチの若い女の子の

触った方がいいに決まってるじゃないか!!」

「そんな開き直られても…」

俺は参ったなと思いながら頭をかいた。なぜなら、原因は今、彼が喋った話の中に既に含まれていた

からである。

「それ一応…謝っといたほうがいいんじゃないですか?」

「いや…けしからん胸を持つ、あっちが謝るべきだ!!」

「どういう理屈ですか!」

俺達2人が言い争っていたその時、後ろから殺気を感じ、ふと後ろを振り返った。そこには、

鬼の形相で立ち、フラフラと体を右に左に揺らしている霰の姿があった。

「あ、あのさ…霰。この人もわざとじゃないんだ許して…」

「そこをどいてくださいですの神童響史!その男だけは…その男だけは許しませんの!!」

「そもそも、何でお前寝てたんじゃないのか?」

「私が寝ていたら、お姉さまのかわいい寝顔を見ていられないじゃありませんか!!」

「は、はぁ…」

俺はそうですか…という反応しか出来なかった。というよりも、それ以外反応のしようがない。

「霊…大丈夫か?」

ずっとボ〜ッとしている霊を見て、俺は彼女に声を掛けた。すると、彼女は急に俺に抱き着いてきた。

「き…響史〜!うわ〜ん、こわ…怖かったよ〜!!」

「こ、怖い?」

「だ、だって…変態が…二人もいて…私何されるのかなって思ったらすごく怖くなっちゃって…」

―変態二人…まぁ確かに。


俺は心の中でそう思いながら目の前の二人を見た。

「ちょっ…お、お姉さま!その二人のうちの一人って…私のことですの?」

「ふえっ?だって…それ以外…誰がいるの?」

「そ、そ…そそそそんな!!!?」

霰は大ショックを受けた。そのショックの大きさのあまり、架空の雷が彼女の頭上に降ってくる

ありさまである。

霰はその場にガクリと膝をつき、土下座に似たようなポーズをとって、一気にショボンとしてしまった。

どうやら、これで彼女から殺気は取り除かれたようである。

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