小説『魔界の少女【完結】』
作者:YossiDragon()

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「ま、まぁとりあえず、親方…あれが俺が言っていたやつです!」

すっかり気を落としている霰を放っておいて、俺は穴がポッカリ開いた天井を指さした。

「こらまたすんげぇ穴作ってくれやがって…。まぁこんくれぇなら、今日中には終わらぁな…」

親方は腰に手を当て、上を見上げて呟く。

「とりあえず…道具揃えねぇとな…。おい、坊主…後さっきの嬢ちゃん…」

そう言って、彼は俺と霙の二人を側に近寄らせるように手招きした。

「何ですか?」

「お前ら…ちょっくらお使いとして俺んちまでひとっ走りして道具一式持ってきてもらえるかい?」

「俺達二人がですか!?」

俺は少し嫌そうな顔をして言った。しかし、親方はそんなこと微塵も気にせず話を続けた。

「あぁついでに、庭の面積測っておいてくれ…」

「どうして庭の面積を?」

「ん?まぁ後々分かる…!ほら行った行った!!」

親方は俺達をさっさとこの場から追い出したいのか、シッシッとまるで厄介払いするかのような

扱いをしてきた。結局、俺達二人はそれにあらがう事も出来ず、仕方なく俺の部屋から出た。

「ったく…何なんだあのじじい!!」

「まぁまぁ…あの人にもあの人なりの考えがあるんだろう…それよりも、どうする?」

「ん何が?」

霙が首を傾げて俺の目を見る。

「だから…道具一式って…どっちが持ってくる?ていうか、いっそのこと二人で行くか?」

「なっ、い…いいって!あたし一人で出来るから…」

「でも、荷物重いかもしれないぞ?」

「お前分かってないな〜!あたしは、悪魔で力持ちなんだぜ?だったらこのあたしの力にかかれば

人間界の重たい物なんかへっちゃらなんだよ!」

彼女の自慢げな表情を見た俺は一瞬どうしようかと迷ったが、自分に任せてと言わんばかりの彼女の

目を見ていると、どうしても断りきれない俺は、仕方なく彼女を一人で荷物運びに行かせ、

その一方で俺は庭へと向かい、未だにチャンバラごっこを続けている霄と零を無理やりどかせると、

長いメジャーを手に持ち、メモリを読み間違えないように真剣に面積を測った。



その頃、霙はと言うと…。

「ったく…響史はホント心配性だよな〜!あたし一人でも大丈夫だって言ってんのに…」

ぶつぶつと呟きながら、左右をブロック塀に囲まれた狭い道を歩く霙。

そして親方こと木ノ下毅の家にやって来た霙は少しオドオドしながら誰もいないことを確認すると

家の中に入って行き、静かに目的の物を探そうと近くをあさくり始めた。

その姿はまさに空き巣や泥棒といわざるを得ない…。

―どうして…別にあたしは悪い事やってるってワケじゃないのに…。こんなにも、緊張するんだ?

でも、何だろう…。なんだかこういうのワクワクする…。


霙は今まで体感したことのない感覚を感じていた。探求心…何か目的のあるものを探し追い求める心…。

と、その時彼女はハッとしてあることを思い出した。

―そういや、道具一式って何だ?


そういえばと頭の中に思い浮かべる彼女…。確かに、悪魔である彼女にとって、大工にとっての道具一式が

何なのか分からない。そうなってくると、彼女は困惑する他行動のしようがなかった。

「はぁ…しくじったな…。響史に訊いて来ればよかった…」

はぁとため息を洩らし、髪の毛をワシャワシャといじくる霙…。その行動には、少しメンドくさいなと

彼女が心の中で思っている…そんな感じがした。

しかしこんなことをいつまでもしていたとしても、時間が無駄になるだけ…。時間は有効活用するべき。

時間は待ってはくれないのだ。第一、遅くなればいつまでもあの変態男が家にいることになる。

それは彼女にとっても困る…そう思ったのか、彼女は意を決して来た道を走って戻って行った。



陽もすっかり上がり…そろそろ昼ごはん時…。しかし、今はそれどころではない。俺はメジャーで

庭の面積を測り終え、デッキに腰かけるとはぁと気が抜けていくようなため息をし、団扇…ではなく

手で自分の顔を仰いだ。顔もすっかり赤くなり、汗もビッショリかいていた。体中が汗ばんで

気持ちが悪い。屋根の修理とやらが終わったら、とりあえずシャワーを浴びたいものだ。

何よりも、この汗臭い臭いを漂わせたまま、側にいる瑠璃達と触れ合いたくなかった…。

俺はそこまで激しくはないものの、少し潔癖症の部分がある。その証拠に、床が汚れいていたり、

物が散らかっていたりすると、どうしてもすぐに片づけて、綺麗にしたくなるのだ。

「疲れたな…」

「はいお兄ちゃんお水だよ!」

「おうサンキュー!」

俺は霖が親切にも注いでくれた新鮮なミネラルウォーターをゴクゴクと喉を鳴らしながら一気に

呑み干し、口元から垂れてくる水を手の甲で拭いふぅ〜と息を吐いた。

「ああ…おお〜…なんか、体の熱が抜けてく感じだ〜」

「よかった。お兄ちゃん随分頑張ってるみたいだからね…でもその感じだと、まるで畑仕事終えた

お爺ちゃんみたいだよ?」

笑顔で言う霖に、食卓のテーブルを囲んでいるうちの一人である霄がふっと小さく笑った。

その声が俺に聞こえ、俺は少しムッとして彼女に訊く。

「おいっ!そこ!!なんで笑ってんだよ!」

「いや…響史が…お爺ちゃん…ぷぷっ!!」

「いや笑いごとじゃねぇだろ!!」

俺はちょっとちょっとと言った風に彼女を指さす。と、その時…霙が息を切らしながら戻ってきた。

「はぁはぁ…きょう…し!」

「ど、どうしたんだ?そんなに息切らして…。ん?あれ…お前、道具一式は?」

「その…道具一式…のこと…なんだが、……道具一式って何だ?」

両ひざに両手をつき、荒い呼吸を整える霙。

「分かんないのに行ったのか?」

「ああ…しくじっちまった…。響史…それで、道具一式って?」

「俺もよく分かんない…」

「だったらそう言えよ!ったく…無駄な時間だった…」

「そうだ!親方に訊いてみよう!」

「げっ!?あ、あの…変態男に?」

彼女は明らかに嫌そうな顔をしていた。

「仕方ねぇだろ…どっちも知らねぇんだし、訊くとすればあの人に訊いた方が早いだろう…」

「そ、そりゃ…そうだけど」

霙はついに観念した。そして俺は二階へ、重い足を上げ向かった。彼女もその後に続く。

扉を開けようとした…まさにその時である。俺がドアノブに手をかけると、中から奇妙な声が聞こえてきた。

俺達二人は互いに顔を見合わせ、ドア越しにその声を聴いてみた。

「これ…気持ちいいんですの?」

「ああ…そこそこ…そこがいいんだ。もっとこう強く押さえて…」

「は、はいですの…」

「ちょっ、霰…そんなに強く握っていいの?」

「だってこの方がこうしろと…」

「猫耳のお嬢ちゃんは…下の方を…握ってくれないか?」

「ふえっ?し、下を!?」

「大丈夫だ…怖くないからな…ほら早くしてくれ!」

「う、うん…」

中から聞こえてくる何とも言えない会話…。その会話を聞いていた俺達二人は互いに顔を見合わせ、

顔を真っ赤にするとバンッ!!とその扉を激しく開け放った。

「ちょっと!親方何してんですか!!」

「霊姉ぇと霰も何やってんだよ!!」

「み、霙お姉さま!?」

「ひゃっ!霙!?それに、響史も!」

「びっくりしたな〜脅かすなよ坊主!!」

「そんなことよりも、この二人に何させてたんですか!」

「何って…みりゃ分かるだろ…マッサージだ!」

「ま、マッサージ?」

俺は今まで上がっていた熱が冷めていくのを感じた。冷静になるにつれ、きょとんとしてしまう。

「ど、どういうことだ?」

「だから…俺はこの二人に、マッサージを頼んでたんだよ!」

「でも、下の方握れって…」

「ああ…ふくらはぎのことだ!最近歩きづめのせいか、よく凝るんだよな〜。だから、ふくらはぎを

猫耳のお嬢ちゃんに…肩や背中をこっちのツインテールのお嬢ちゃんに頼んでたんだ…」

「な、な〜んだ…マッサージだったんですか…」

「何だと思ってたんだ坊主…まさかアレだと思ってたのか?」

親方が悪質的な笑みを浮かべ、俺を見る。

「ち、違いますよ!!」

「ん?ていうか、道具持ってきてねぇじゃねぇか!」

「そのことなんですけど…道具一式って一体何のことなんですか?」

「はぁ…ったくそんなことも分かんねぇのか…しょうがねぇな…。とりあえず、庭の面積は計り終えたか?」

マッサージを終え、肩慣らしということで腕を回し首を左右に傾ける。

「ええ…まぁ一応…」

俺は親方の大きな手に小さな紙切れを渡した。

「おう…確かに!んじゃ、一旦俺んちに戻って道具一式がどれか教えるからついてこい!」

「は、はあ…」

「ま、まさか…あたしも行くのか?」

「あったりめぇよ!お嬢ちゃんの怪力は、俺が見込める程の力だからな!!それ相応の働きをしてもらわ

にゃならん!!」

そう言って、親方は俺達二人と一緒に一階へと降りていき、また親方の家へと向かった。



家に着くと、俺達は道具一式を持たされた。

「親方…わざわざ戻ってきたんですから、親方が運んでくださいよ〜!」

俺は重たい道具一式を何とか持ち上げながら彼に言った。

「何言ってんだ!俺はこれからやることがあんだ!!ちょっとそこどけ!今から木材出すから…」

親方はその強靭な腕に立派な木材を抱え込み、それを表に出した。

「こんなにたくさん…一体何度運べばいいのやら…」

「ん?何言ってんだ…無論、俺が運ぶに決まってるだろ?それも向こうにわざわざ行かずにな…」

「そんな無茶なこと出来るんですか?」

「まぁ見てろ!」

自慢げに鼻を人差し指で触り、鼻をすする親方。そして、木材を軽々持ち上げると、まるで投げ槍の

ようにその木材をブンッ!!と空へ向かって勢いよく投げた。

「なっ!!?」

「ちょっ何やってんだよ!!」

俺と霙の二人は親方が何をやっているか理解できず、彼に訊いた。

「何って…坊主の家に木材運んでんだよ!」

「木材を…って!それ俺んちに被害が出るんじゃ…!?」

「大丈夫だって!…坊主が測ってくれた面積がちゃんとあってれば…の話だがな」

彼はボソッと横目でそう呟いた。

「それで測れって言ってたんですね!」

「おうよ!」

「な〜んだ…ただの変態男じゃなかったんだな!」

「その呼び名はなんとなくアレだがな…」

親方は少し肩を落としてそう言った。

そして木材を全て投げ終えると、俺達三人は再び俺の家へと向かった。

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