小説『魔界の少女【完結】』
作者:YossiDragon()

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俺達が家に着いた時には、走りすぎのせいかもう体力の限界だった。無理もない。

本来ならば、この時間帯昼ご飯を食べて失った体力も回復しているはずだが、今日はまだ食べていないため、

体力を回復できていないのだ。

「はぁはぁ…疲れた。って、うわぁ本当に木材がちゃんと届いてる!」

「す、すごい…あたしにもこんなことできない…」

―悪魔にも無理って…一体どんな力なんだ?親方って一体…。


庭に親方よりも一足先についていた俺達は、彼の到着を待つためにデッキにとりあえず座った。

何度も走って足が限界な俺達二人は、デッキに座ると霖に冷水をもらった。それを飲みながら

一息つく。すると、冷水を飲み干したところで親方が帰ってきた。

「おう!どうやらちゃんと届いたみたいだな!!」

庭のグリーンカーペットに敷かれた木材を見て親方が言う。

「さてっ!んじゃあ、そろそろおっぱじめるか!!」

「屋根の修理ですね?」

「おうよ!さあ坊主、とりあえず屋根の上に上がらにゃいかねぇから、はしご持ってきてくれねぇか?」

「梯子ですか?ん〜あったかな…」

俺は過去の記憶を頭の中から探りながら倉庫の方へ向かった。



それからしばらくして、俺は自分の身長以上あるはしごを、両手でしっかりと抱えて庭へ向かった。

「も、持ってきましたよ…」

「おうご苦労様!じゃあここに置いてくれ!」

「は、はい…」

俺はよっこいしょっとはしごを置き、屋根に先端部分が架かるように梯子を立てかけた。

「これでいいですか?」

「おう!んじゃ、ちょっくら屋根の穴の大きさ見てくらぁ…」

―さっき二階にいたとき見なかったのか?


心の中でなぜ二階で確認しなかったのだろうと思いながら俺は再びデッキに座った。



五分くらい経ってだろうか…。親方が梯子をガタガタ言わせながら降りてきた。

無理もないこの巨体だ。この巨体の体重が動けば鉄の頑丈そうな梯子も、弱弱しい普通の梯子に

想えてくる。

「よし…屋根の穴の大きさは測り終えた…。後は、その大きさに合わせて木材を切って、打ち付けりゃあ

屋根は修理出来んだろ…。後、足りない分の瓦は知り合いに頼んどいた…。五時くらいに届くらしいから、

その間に玄関も直しといてやるよ!!」

「ありがとうございます!!」

俺は深々とお辞儀をしながら言った。



幸いにもドアを修理するのはほんの短時間で済んだ。曲がったネジは余っている物を使い、後は壊れた

鍵の部分を換えればいいだけだった。

そんな時だった。

「ちょっくら坊主取りに行ってきてくれねぇか?」

「えっ俺がですか?」

「俺も今手が離せねぇんだ…頼む!」

「わ、分かりました…じゃあ、麗魅…他の奴らのこと頼んだぞ?」

「え、ええ…」

「ちょっと響史!どうして私には頼んでくれないの?」

「悪い瑠璃!今、そういうのにかまってる暇ねぇんだ!!帰ってきたら付き合ってやるからそれまで

おとなしくしておいてくれ!!んじゃな!!」

俺はそう言って半ば不安な気持ちを抱えながらも鍵屋へと向かった。



昼ご飯を食べる時間はとうに過ぎ、もう時刻は三時近くと言うとき…。

突然親方こと木ノ下がふっふっふっと笑い出した。

「さてと…これで邪魔者はいなくなったな…」

「邪魔者?」

霄が腕組みをして木ノ下に訊く。

「ふんっ…そうだ!ずっと家にいられちゃこっちとしても困るからな…。ようやく護衛役だけに

なった。まぁ二人の悪魔の姫君もいるみたいだが…?」

彼女達は驚いた。無理もない…。ただの人間に自分たちの正体を既に知られていたからである。

「どうして私達の名前を?」

「俺は『木ノ下 毅』…。太陽系の『木星の守護者』だ。これからお前達にはある試験を受けてもらう…」

「し、試験?」

「そうだ…試験だ。この試験はただの試験じゃあない…。お嬢ちゃん達には、俺と戦ってもらう…。

そんで、お嬢ちゃん達の力がいかほどのものか俺が見極める…。もしもアウトだった場合、

試験は不合格…。この守護者の指輪は渡さない」

そう言って彼は、大きな指で小さな指輪を見せた。

「ここで戦うの?」

「んにゃ、ここで戦えば周りの住宅地にまで被害が出ちまうからな…。場所は変える…」

「どこにするの?」

「そうだな…光影中央公園…ってのはどうだ?」

「それで構わない…。その代わり、昼ご飯をまだ食べていないからその後でも構わないか?」

「そうだな…いいだろう。では、集合場所は光影中央公園…時刻は3時30分だ!

それと…もう一つ、坊主にはこのことを伝えてはならない…以上だ!!」

木ノ下はそう言い残すと、扉を開けどこかに行ってしまった。

「ま、まさか…あの人が守護者だったなんて…」

「あんな変態にそんな力があるなんて到底思えないんだけどな〜!」

「まぁそう言わずに…響史くんに伝えちゃいけないってことは…、つまり私達だけであの人を倒さない

といけないってこと…。皆出来そう?」

今いる中で一番年長である露が妹や二人の姫に訊く。

「出来るも何も、やるしかないだろう…。第一、相手はたかが人間…。私達の敵ではない!」

霄が腕組みをして頷きながら言った。

「でも、金星と地球の時は手こずったわよね?」

「むっ!そ、それは…そうだが」

姉に弱いところをつかれ、少し後ずさる霄。

「…とりあえず、昼ごはん食べない?私、お腹空いちゃった!簡単なもので済まさないと、三時半に

間に合いそうにないからおにぎりにしよっか!」

「何!?おにぎりだと?」

「えっ?」

「おにぎりは絶対にツナマヨだぞ?」

「あっ、うん…」

霖は霄に詰め寄られコクリと頷いた。そして彼女は急いで台所へ向かい、せっせと残ったご飯で

おにぎりを作った。



場所は光影中央公園…。ここは周りを住宅地に囲まれているためによく小さな子供がやってくる。

しかしなぜか今は人っ子一人いない。その公園の中心に一人の人影…木ノ下毅である。

彼は腕を組み、側にスコップを突き刺して仁王立ちしていた。

そしてふと横目で時計の針が指し示す時刻を確認する。針が約束の時刻を指示しているのを見ると、

彼はニヤッと白い歯を見せ、再び正面を向いた。するとそこには、護衛役と二人の姫がはぁはぁと

息を切らしながら立っていた。

「ふんっ!…来たか。待っていたぞ?」

「はぁはぁ…体力も回復したし、力は十分に発揮できる!」

「ほう?そいつは楽しみだ!じゃあさっそく始めるか!!」

そう言うと彼は一気に力を解放し、一気に突っ込んできた。瑠璃と麗魅の二人は時計が設置されている

場所の付近にあるベンチに座り、護衛役と木星の守護者との対決を見守る。

護衛役の七人はそれぞれ武器を構え、相手の攻撃をかわした。

すると木ノ下の近くにいた霄が彼に攻撃を仕掛けた。しかし、彼はそれにいち早く気付き、

腕で彼女の剣を受け止めた。本来なら彼女の妖刀で彼の腕は切り落とされているはずだが、

何故か切り落とされていない。その理由は明らかだった。斬りつけていたのは彼の腕ではなく、

彼の腕を覆っている木だったのだ。

「な、何だ!?」

「ふん!『ウッド・アーム』!!」

そう言って彼は、木を纏った腕を勢いよく振るった。すると、鞭のように払われたその木は

霄の鳩尾に見事命中し、彼女は吹き飛ばされてアスレチックに背中を強打した。

「ぐあっ!!」

「霄ちゃん!」

露が武器の槍を構えながら彼女の名前を呼ぶ。そして、キッと木ノ下を睨み付けると魔力を込め、

槍を振り回した。

「はあっ!『千連水槍』!!」

「くうっ!うおおお!」

木ノ下は力を込め、彼女の攻撃を受け止めた。

「なかなか力はあるようだな…だが、次はどうかな?」

その言葉と同時に、片手を地面につく。すると、モコモコと彼がついた手の少し離れた場所の地面が

盛り上がりそこから太い木材が姿を現した。さらにその木材の先は、手のような形をしていた。

「『ウッド・ハンド』!!いけ〜!!」

彼の叫び声と共に、動き出す木材の手…。その手は、近くにいた露とその後ろにいた霰を標的にし、

二人をつかんだ。そして捕えるとその手は高々と上空に掲げた。

「ぐうっ!!だ、大丈夫霰…ちゃん?」

「わ、私は大丈夫ですけど、お…お姉さまは大丈夫ですの?」

霰が、背中合わせに姉に心配の言葉をかける。

「ええ…でも、ずっとこのままってわけにはいかないわね!!」

そう言うと、露は自らの手に水の魔力を張り、木材に手を当てた。

「はぁっ!!」

彼女が声を張り上げると、木材から一気に水があふれ出し、腐敗して腐り落ちた。

それにより二人は見事拘束状態から抜け出すことに成功した。

「ほう?そのような力もあるのか…」

「私はここにいる中じゃ一番上なのよ?これくらいの上級技くらい普通に使えるわよ!」

「なるほど…だったらこれならどうだ!!」

木ノ下はさらに力を強める。すると、指輪が眩い光を解き放ち、強力なオーラを放った。

それと同時に、彼女達に強風が吹きつけた。彼女達の長い髪の毛を強風が靡かせる。

視界が強風で良好ではない中、彼女達が見たのは木ノ下の周囲に出ている木材の手だった。

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