小説『魔界の少女【完結】』
作者:YossiDragon()

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護衛役はその手に注意しながら木ノ下の至近距離に接近した。そして彼に向かって霄と零の二人が

攻撃しようとした。しかし、彼女達二人の剣撃をいとも簡単に受け止めた木ノ下は、彼女達がその場から

距離を取ろうと動く二人のその足をガシッとつかむと、彼女達二人を勢いよく足を引っ張って持ち上げ、

公園の渇いた地面に叩きつけた。

「ぐあっ!!」

「がはっ!!」

二人は地面に叩きつけられて重傷を負った。

「くっ…強い!」

「このままじゃ私達が負けちゃう…!」

地面に武器をつき杖代わりに自分の体を支える霄と零…。その近くに他の護衛役も唇を噛み締めながら

どうすれば目の前の敵を倒すことが出来るかを精一杯考えた。



その頃、護衛役の一人である雫はというと、呑気にハミングしながらポケットに手を突っ込み路地を

歩いていた。そんな時、彼はふと横を見た。そう彼が通っている道は、偶然にも光影中央公園の

近くだったのだ。そのため彼は、ふと横を見た瞬間に映る衝撃的瞬間を見つけてしまった。

それはあまりにもの恐怖でその場から逃げ出すことの出来ない状態の九女…霖に対して勢いよく

突進してきている木ノ下の姿だった。それを見た彼は急に眼の色を変え、瞬間移動すると

瞬時に妹の霖の目の前に現れ突っ込んでくる木ノ下を水のバリアで防いだ。

「てんめぇ〜!人の妹に何してやがんだ!!」

「ふんっ!坊主…お前も護衛役か?妹ということはお前はここにいるお嬢ちゃん達のお兄ちゃんという

ことか…」

「くっ!おい露!」

「な、何?兄さん…」

「あのバカはどうした…」

「響史くんのこと?」

「そうだ!」

「それなら鍵屋に新しい鍵をもらってくるって、鍵屋に行ってるけど?」

「なぁにぃ〜?…あのボケ…。もういい。あいつには一度ビシッと言っておかねぇとな…。

だがそれよりも今は、このデカブツを倒した方がいいみてぇだな…」

雫は拳にグローブをはめ、関節をボキボキと鳴らす。その表情はまさに鬼としかいいようがない。

「覚悟しろ!!」

「おもしろい!!お前は少しくらいこの俺を楽しませてくれるんだろう?」

そう言って木ノ下は地面に手をつき、木材の手を出現させた。その手が、雫の行く手を阻む。

「ちっ!メンドくせぇな…。これでもくらいやがれ!!『水速』!!」

雫は脇を閉め拳を握ると、一旦それを後ろに引き勢いよく突き出した。またそれと同時にその拳に

水の魔力が纏う。それにより、木ノ下の出現させた木材の手が粉々に粉砕された。

「ほ〜ぅ!これは驚いた…。なるほど、そこそこやるな…。ではこれはどうだ?」

そう言うと、木ノ下は両手をパンと音を鳴らしてくっつけると、一気に魔力を高めた。

すると、彼の腕に木材が纏わりついた。

「くらいやがれ!『ウッド・アーム』!!」

「そんな攻撃俺には効かねぇぜ?」

「そいつはどうかな?」

木ノ下はニヤリと何かを企んでいるかのような不気味な笑みを浮かべると、そのゴツい腕を思いっきり

真横に振るった。すると、彼の腕に纏わりついている木材が釣竿の様にグニャッとしなり、

雫の脇腹に直撃した。

「ぐうっ!!」

彼はそのままアスレチックに激突した。

「ぐはっ!!…ってぇ〜!」

脇腹を優しく擦りながら痛そうな表情を浮かべる雫。彼の眼には少しばかり涙が浮かんでいた。

「どうした?もう終わりか?」

「てめぇだけは許さねぇ…。こいつでしめぇだ!はぁ〜〜っ、『万連水拳』!!」

雫はうんと魔力を高める。彼の周囲の小石がガタガタと揺れだしふわぁ〜っと浮かび上がる。

そして一気にその魔力を解放すると目の前の木ノ下に向かって目にも留まらぬスピードでパンチを

繰り出した。

しばらくしてその攻撃がやむと、木ノ下は体中打撲の痕だらけになっていた。

「ぐうっ…!」

「諦めろ…人間…。てめぇの負けだ!」

「何を言う!俺はまだ戦える!!」

「その人間を操っているのか知らねぇが、その人間の体はもう限界だ!これ以上やれば、体の方が

朽ちるぞ?」

雫に忠告を受ける木ノ下だが、彼は決して首を横に振らない。その上彼はまだ雫に抗おうと抵抗の

攻撃を見せる。そのことに呆れたのか、雫ははぁ〜とため息をつくと彼の顔を鷲掴みにし、自分の手から

木ノ下の顔面を包み込むように水泡を出現させた。

「しばらくその水で頭を冷やしやがれ!」

そう言うと、彼は彼の顔面を握る力を強めた。親方と言われる木ノ下も、さすがに悪魔の力には敵わない

のか、すっかりと諦めたような表情を浮かべてぐったりしている。その苦しそうな顔を見て

居た堪れなくなったのか、霖が兄である雫の腕をガシッとつかみ、ウルウルした目で彼を見つめ言った。

「もうやめてお兄ちゃん!これ以上やったらこの人死んじゃうよ!!」

「こいつはお前らを殺そうとしたやつだぞ?たとえ、無力な人間であってもそればかりは

許せない…」

「お願い!!」

彼女の必死な頼みに、だが断る!という程鬼ではない雫は仕方なく拳の力を弱め、水泡を消した。

木ノ下はその大きな巨体をフラつかせ、その場に前向きに倒れた。

ドスンという音と共に砂煙が舞い上がる。

「し、死んじゃったの!?」

「いや死んでいない…。気絶してるだけだ…」

すると、木ノ下が目を覚まし口を開いた。

「…み、見事だ…。さすがは護衛役…その力を認めよう。この…守護者の証を受け取るがいい!」

そう言って彼は雫に守護者の証である指輪を渡した。彼はまるで興味ないというようにそのまま

バケツリレーのように霖へとすぐに手渡した。

「えっ?」

「それがほしかったんだろ?」

そう言うと、彼はその場からさっさと消えようと公園の入口へと歩いて行った。

それを露が止める。

「待って兄さん!」

「ん?」

「どこに行くの?」

「家だ…。そうだ、露…。ついでにあのバカに伝えておけ!お前には話があるから後で家に来い…とな」

「わ、分かったわ…」

露は彼のその険しい表情を見て、少し後ずさりしながらも頷いた。

みんなが沈黙してその場に佇んでいたその時、急に木ノ下がわけのわからないことを話し出した。

「おい、お嬢ちゃん達…俺どうしてこんなとこにいんだ?」

「はっ?何言ってんだ!あんたが急にあたし達を襲ってきたんだろ?」

「俺がお嬢ちゃん達を?ガッハッハ!!冗談はよしてくれ!!俺は女の子に手を上げるようなヤボな

マネはしねぇ!!絶対にだ…。何でこんなとこにいんのかよく分かんねぇが…おっと!もうこんな時間だ!!

急がねぇと坊主が首を長くして待ってるかもしんねぇぞ?」

木ノ下は時計の針が五時を指し示しているのを見て慌てた様子で言った。

彼は、響史が鍵屋に向かう前の状態に戻っていた。とすると、さっきまでの彼は一体誰なのだろうか?

火星の守護者である玲の場合、武器を構えると人格が変わり別の人格が出てくる。

彼もまた彼女と同じパターンであろうか。



彼らが家に帰ると、響史の家の玄関前に響史本人がいた。彼は家に帰ったはいいが、他のみんながいない

ために、その場でず〜っと彼らが帰ってくるのを待っていたのだ。

「おっ!お前ら一体どこに行ってたんだ?ったく親方もいないしどこに行ったのかと思ったぜ!」

「ごめんね響史…」

「まぁいいって!あっそうだ!親方鍵持ってきましたよ?後、瓦は庭の方に…」

「おうそうか!んじゃあすぐに終わらせるからお前らはゆっくりしてていいぜ?」

「いいんですか?手伝いますけど…?」

「素人にやらせるよりかは一人でやったほうが早く終わるからな!」

「まぁそれもそうですね…」

俺は親方に言われ納得し、彼を庭に残すとなぜか無言の瑠璃達と一緒に家の中に入って行った。

「どうして誰も言わないんだ?」

「いや…その」

「あっお、お兄ちゃん…」

「ん?」

霖が俺から視線をそらすようにして俺に何かを言おうと近づいてきた。

「どうかしたのか?」

「こ、これ…」

そう言って彼女から受け取ったのはまぎれもない守護者の証だった。

「どうして霖が!?」

「それについてなんだけど…」

今度は露さんだ。一体何を言うつもりなんだろう。いつもなら俺に何かしらの冗談の言葉を述べて

俺のリアクションを楽しむ露さんがなぜか今はしょんぼりして暗い感じだった。

「どうしたんですか…露さんらしくない…」

「その…兄さんが響史くんに用があるって…」

「雫が?」

俺は首を傾げた。一体何用だろうと思った。

「確か隣だったよな…」

そう独り言をつぶやき俺は玄関扉に手をかけ、外へ出ると隣に新しく出来たアパートの325号室の扉の

前に立った。

―何だろう…。ドキドキする。ていうか、どうして霖達が太陽系の守護者の証である指輪を持ってたんだ?

まさか、あの時爆発音が聞こえてた時か!?


俺は様々な思いを頭の中で駆け巡らせ、呼吸を整える。そしてピンポーンとチャイムを鳴らした。

そこから出てきたのは青髪で蒼い瞳をした雫だった。彼はすごく目つきの悪いまなざしで俺を

じと〜っと見ていた。そっちから呼んだくせに何様だ!?と俺は思った。

「よ…よう!」

「てめぇ…よくも!!」

そう言うと、急に彼は俺の胸ぐらをつかみ、グイッと上にあげた。俺の体が宙に浮かび、足が

ブランと垂れる。

「ど、どうしたんだよ!?急に…」

「どうしたんだよ?じゃねぇ!!てめぇよくも俺の妹に怪我負わせやがったな?」

「な、何の事だよ!?」

「てめぇ…いつもあいつらといて気付かないのか?」

彼に言われ俺は咄嗟にさっきいつも騒がしい彼女達がショボンとして喋っていないのを思い出した。

「まさかあれが…」

「やっぱり思い当たる節があるみてぇだな!!」

「一体…何があったってんだよ!!」

「ふんっ!霖に何か渡されなかったか?」

「そういえば…守護者の証を…まさか!!」

「そうだよ…あいつらはお前の代わりに守護者のやつと戦ってたんだよ!!そして、あいつらは

相当やられていた。俺が見つけて助けに行ってなかったらおそらくやられてた…。

なぜあいつらがやられたか…。その理由は単純だ…。てめぇがあの場にいなかったからだよ!!」

「そ、そんなの俺のせいじゃねぇだろ!!俺は親方に頼まれて鍵を…」

「異変に気づきもしなかったってのか?」

「そ、それは…」

俺は思わず顔を俯かせた。彼は呆れたような顔で俺の胸ぐらをつかんでいる手を放した。

ドサッ!!

「いてっ!」

俺は体を地面に打ち付け打ち付けた場所を優しく擦りながら雫を見た。

すると、彼は俺に言った。

「まぁいい…。本題はここからだ。てめぇには、俺の妹を傷つけた罰を受けてもらう…」

「ば、罰!?」

俺は少し冷や汗をかいた。悪魔の罰ゲームそれは一体どんなものだろうと少し恐怖を感じたからだ。

「というわけで、今度の日曜日…朝の10時に俺の家に来てもらう…いいか?必ず、一人でこい…

それが条件だ……じゃあな」

そう言うと、彼はギイィと扉をゆっくり閉め、ご丁寧に鍵まで閉めた。

今日はもう外に出ないと言う意味だろうか。とりあえず俺ははぁとマジかよとため息をつき、

家へと帰った。

「おかえり…どうだった?…って、うわあ!どうしたの随分顔やつれてるけど?」

「ちょっとな…」

―やべぇ…罰ゲームが不安でならない。一体罰ゲームって何なんだ!?


俺はそんなことが頭の中でグルグル回転したまま眠りについた…。その夜、

俺が罰ゲームの内容が気になって、なかなか寝付けなかったことは言うまでもない……。

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