小説『魔界の少女【完結】』
作者:YossiDragon()

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第三十三話「罰ゲームの悪夢」

その日…俺は夢を見た。まさに悪夢とも言える夢…。

「響史…神童響史!」

「ん?」

どうやら俺は夢の中でも寝ていたようだ。ゆっくり上半身を起こすとベッドの上にいつもなら瑠璃や

麗魅達悪魔の女の子たちがいるはずだが、今回は勝手が違っており、目の前にいたのは同じ悪魔では

あるが男の雫だった。彼は俺を再び仰向けにさせると、俺の顔を挟むように左手と右手をふかふか

ベッドについた。

「な、何のつもりだ?」

「何のつもり?無論決まっている。罰ゲームだよ…」

「ば、罰ゲーム!?って一体何をする気だ!?」

「そんなこと…一つに決まってるじゃないか!」

そう言うと、彼は唇を突出し頬を染めて俺に顔を近づけてきた。

「や、やめろ…やめろ〜!!!」

その瞬間に悪夢から解放され現実世界に意識が戻ってきた俺は目覚める瞬間に飛び起き、上半身を

勢いよく上げた。そのために、俺の上にまたがっていたらしい誰かに頭同士をぶつけてしまった。

「いって〜!!」

「いった〜!!もう何なのよ…!」

俺が涙目で目を開けると、俺の上にまたがっていたその正体は露さんだった。

彼女は俺と同じく涙目で額に出来たたんこぶを、やさしく擦りながら俺に言った。

「どうしたの?急に大声出して…」

「実はかくかくしかじかで…」

俺は悪夢の内容を思わず露さんに話してしまった。今思えば話さなければよかったとつくづく思う。

「あっはっは!!じゃあ何?響史くんは兄さんに夢の中で唇を奪われようとしてたってこと?」

「ええまぁ…」

「何それ…すごく笑えるんだけど!!」

彼女は涙目で笑いでお腹が痛いのかお腹に手を触れていた。腹を抱えるとはまさにこのことを言うのだろう。

すると、彼女はようやく笑い終え、涙を人差し指で拭い取ると俺に言った。

「でもそれは私にも原因があるかもね…」

「えっどういうことですか?」

俺は悪魔には夢の中に入る力も持っているのかと疑問に思った。だが、よく考えればそれは悪魔ではなく

夢魔であるという答えにいきついた。

すると彼女は答えた。

「実は…朝方響史くんのかわいい寝顔見てたら何だか女の子に見えて来ちゃって…」

「…眼科に行くことをお薦めします!」

「え〜っ!?褒め言葉なのに…」

「褒め言葉って言えませんよそれ…」

どうしてという表情をする彼女に対して俺はそう言った。

「まぁ…それでね?思わず響史くんにキスしようとしてたの…」

「な、ななな何人が寝てる間にしようとしてるんですかー!!」

「ご、ゴメンってば…!でも嫌じゃないでしょ?」

「そ、それは……」

思わず口ごもる。そうなってしまうと、完全に彼女にこの場の主権を持って行っていかれてしまう。

「言えないってことは、本当はまんざらでもないってことよね?ってことは、してほしいってこと?」

「べ、別に…そういうわけじゃ…」

俺はふっと視線を彼女に合わせないように顔をずらした。そのずらした方に再び露さんが動く。

「うっ…って…それよりも今何時ですか!?」

「えっ?何時って…そろそろ十時じゃないかしら?ほら…」

そう言って露さんはデジタル時計に表示された時刻を指さす。

それを見た俺は一気に顔を青ざめさせた。

「ちょっと…大丈夫?」

心配そうに顔を覗かせる露さん。と、その時俺の視線に彼女の胸の谷間が見えた。

「どこ見てるの?」

露さんは俺のことをジ〜ッと見つめ、少し頬を赤らめた。

「やらしいわね〜響史くん!」

「べ、別に見たくて見たわけじゃ…!」

「ちょっとそれどういう意味?」

「い、いや…深い意味では…!!」

「響史くんのバカ〜!!」

こうして俺は、慌ただしく日曜日の朝を迎えた。



今俺は雫の家…というかアパートの前にいる。325号室ここがやつの家だ。何故俺がこんな場所で

佇んでいるのかというと、理由は昨日の夕方まで遡る。しかし、全貌を話すと長くなってしまいそうなので、

簡単に済ませると罰ゲームを受けることになったのだ。

昨日の夜で屋根と玄関の修理は終えたために、俺の家は完全復活を果たした。

そして俺はインターフォンを鳴らす。ピンポーンとチャイムが鳴り、ガチャッとドアノブが回って

扉が開く。中から現れたのは当たり前のことだが、雫だった。

「おう来たな…1分01秒の遅れだが…」

「いちいち細かいんだよ!!」

俺は彼にぶつぶつ文句を言った。

「まぁ中に入れ…」

そう言って彼は俺を家の中に招き入れた。中に入ると、まぁまぁ部屋は片付いていた。

しかし、台所はひどい有様だった。まぁ家も以前はそうだったが…。学校生活が忙しくて家事も

ままならなかったのである。だが今は違う。今は悪魔であるが心優しい霄達の妹である九女、霖が

手伝ってくれているからである。だから今はここまでひどい有様にはなっていないのだ。

「…こっちだ」

雫は少し不機嫌そうに俺をベッドのある近くまで歩かせると、彼はそのベッドに腰掛けるように言った。

せまいから仕方のない事なのだが…。すると、彼は俺にこう言った。

「じゃあとりあえず…これから罰ゲームを始める!覚悟は出来ているな?」

「ああ…まぁ」

俺は曖昧な返事をした。

「よし…じゃあこれをしろ!」

雫は俺に何かを手渡した。よく見るとそれは、目隠しだった。

「これで何を?」

「それの用途は一つしかないだろう…。目を隠すんだよ…」

「一体お前、俺に何をしようってんだ?」

「まぁいいから…」

「…はぁ」

俺は少し不審感を抱いたが、彼が早くしろと急かすので仕方なく目隠しをした。

すると真っ暗な視界の中、彼は俺の首筋に向かっていきなり強い衝撃を与えた。俺は無防備だったために

抵抗することも出来ず、気を失ってベッドに横向きに倒れた。



目を覚ますと俺はまだ暗闇に居た。

―あれ?俺死んだのか?…じゃあここは…天国?それとも地獄?でも、花畑も三途の川も見えないし、

じゃあ…一体ここはどこなんだ?


俺はとりあえずこれが夢なのか夢じゃないのかを確かめるために頬をつねった。

痛い…。

はっきりそう分かった。ということは少なくともこれは夢ではない。さらに痛みがあるということは

死んではないということだ。

―となると…。


俺は過去の記憶を振り返る。そしてあることを思い出した。

―そうだ…確か俺は雫に呼び出されて罰ゲームを…。


ゆっくり体を起こすとすぐさま男の声が聞こえてきた。雫の声である。

とその時ふと俺はあることを感じた。やけに足がスースーするのである。いきがけズボンを穿いてきた

はずなのに一体これはどういうことだ?

そう俺が頭の中で考えていると、雫が俺に言った。

「よし…もう目隠しはずしていいぞ?」

彼にそう言われ俺は言われるがまま目隠しを取る。すると、さっきから気になっていた下半身を見ると

俺はなぜかスカートを穿かされていた。

「ぬぅおおわあっ!!な、何だコレ!?」

「見て分かるだろ?スカートだ…」

「んなもん見りゃ分かる!そうじゃなくて何で俺が気絶してる間にスカート穿いてるんだってことだよ!!」

「俺が着せたんだ…」

「何でそんなことを…」

「何をいまさら、これが罰ゲームだろう?」

「こ、これが罰ゲーム!?」

俺は驚愕を露わにした。それほどまでにびっくりというか意外だったのである。悪魔の罰ゲームである

からには、もっと恐ろしいことをされるに違いないと思っていたのだが、まさかこんなくだらないもの

だったとは…。

「これのどこが罰ゲームなんだ?」

「男にとってそういう恰好は恥ずかしいだろう?その辱めこそが罰ゲームなのだ」

「一体どういう理屈だ!」

「お前には分からないのか?女装させられた時の恥ずかしい気持ちが!!」

「まるで女装させられたことがあるような言い方だな…」

「なっ!?」

「えっ!?」

いきなり沈黙する雫…。まさか本当にされたことがあるのか…。俺は恐る恐る彼に訊いてみた。

「まさか本当に女装させられたことあるのか…」

「し、仕方がないだろう!!姉貴たちに無理やりされたんだから…」

確かに家族構成として今の所俺が知っているだけでも兄妹の中で女九人くらいに対して男は雫しかいない。

ということは、遊ぶときにしても何にしても、そういうことされることも、なきにしもあらずとうわけだ。

「何か悪かったな…」

「いやもういい…それよりもその女装についての話だが…」

「な、何だよ!」

「これからお前には女の子として一日つまり24時間生活してもらう!」

「ど、どういうことだよ!?」

「それが罰ゲームだ!」

雫は軽く俺の話を無視して話を進めた。

「でも声とかどうするんだよ!!俺もう声変わりしてるし…上とか下とか絶対バレるだろ!!

何よりもまずこんなカツラしてたって無理があるし…」

「ふっ!無論そんなこと分かっている!」

「えっ?」

俺の言葉に対して彼は平然としていた。何か策があるのか…。すると突然インターフォンが鳴った。

その音に反応して雫が膝に手をつき立ち上がり、玄関へと向かう。

―こんな時に一体誰が?いや待て!ここは雫の家…。つまり訪れるやつも限られてくる。まさか露さんとか!?


万が一のことも考慮して考える俺…。しかしそこに現れたのは予想外の人物だった。

真っ白な白衣に身を包み、エメラルドの髪の毛をツインテールにしたルナーである。

彼女は白衣のポケットに手を突っ込みズカズカと家に上がりこんでくると俺の今の恰好を見て目を逸らし

口に手を運んでぷっと聞こえるか聞こえないかくらいの音量で含み笑いをした。

「な、何だよ!?」

「いや…よくお似合いだなって…ぷぷっ!!」

「笑うな!!」

ルナーの二度目の笑いに俺は指摘する。すると彼女は急に表情を一変して俺に顔をズイッと

近づけてくると俺に言った。

「あなたはこれから女になるの!」

「はっ?いやもう女装してるけど…」

「そういう上辺だけの物じゃなく本当にあなたはこれから男から女に生まれ変わるの!」

―馬鹿みたいな発明品の作りすぎでついに頭がイカれたか…。


そう俺は思った。しかし俺の疑いの目を見てルナーは言った。

「どうやら信じてないみたいね…。確かに男から女に生まれ変わる…そんなことは不可能に近い。

でも、それがもしも可能だとしたら…」

「どういう意味だ?」

「神童響史…あなたすっかり私が発明家だって忘れてるみたいね…」

「発明家…なっまさか!?」

「そうそのまさか…。つまりそんな不可能なことを可能にする方法…発明しちゃえばいいのよ!」

彼女の言葉に俺は思った。そう彼女は五界を総べる一人…。鏡界の支配者なのだ。そんなことも不可能

ではない。すると、彼女は肩に背負っている荷物から何かを取り出した。それは試験管に入っていて、

ピンク色に妖しく光り輝いていた。

「そ、それは?」

「これは『性転換エキス』簡単な話…男の人を女の人に変える薬よ!」

「男から女だけなのか?」

「今の所はね…でもこれを改良すれば女から男ってのも可能になるわ…というわけで今の話で分かったかも

しれないけど、これはまだ作ったばかりだからまだ実験してないのよ…。だからあなたに罰ゲームを

与えると同時に、これの実験台になってもらおうと…」

「それは確かに罰ゲームっぽいな…。ていうか、えっ何!?本当に女になるの!?」

「そりゃそうでしょ!私が作ったものなんだから…」

「だから余計に怪しい…イデデデッ!!」

「なんですって〜?」

彼女は俺の頬を強くつねり、俺が涙目になるとその手をはなした。

「いっつ〜…」

俺は優しく頬をなでながらルナーを見上げた。彼女は腰に手を当て偉そうに俺を見下している。

年上ゆえの威厳だろうか…。

「それで、これを飲めばいいのか?」

「そう」

彼女はそう言って薬を俺の口に無理やり押し付けた。試験管の口と俺の口が重なる。

「ぐうっ!!」

俺は口を一文字に結び、抵抗するが彼女は夢中になって無理やりそれを近づける。

俺の唇に指を当て無理やりこじ開けるとチャンスとばかりに薬を飲ませた。

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