小説『魔界の少女【完結】』
作者:YossiDragon()

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「…ぷはっ!ごほっごほっ!!な、何だこの変な味は…!?」

「病気の時に飲む薬と同じで、薬なんだから美味しいわけないでしょ?まったく…それでどう?」

「どうって…なんかこう体がポワ〜ッとあったかいっていうか、火照ってるっていうか…」

「なるほど…体が火照る…っと!他には?」

「他には…そうだな……って!勝手に人の体を実験台にすんじゃねぇ!!」

「これも罰ゲームの一環なんだから我慢なさい!それとももっとヤバい罰ゲームにした方がいいの?

あんたがそういう感じで、もっとキツい物を選んでMに目覚めるっていうのもそれはそれでありだけど…」

ルナーはあごに手を添え考える。Mに目覚める?冗談じゃない。ただでさえ、男が女に変わるとか

訳のわからないことをさせられてるんだ。その上Mに目覚めさせられたりでもしたらたまったもんじゃない。

しかし、そうやって頭の中で考えることもだんだんとなんだか辛くなってきた。どうやら薬が全身に

回ってきたようである。

「なんか…頭がボ〜ッとする。しかもなんかフラつく感じが…」

「結構副作用が働くみたいね…。でもその辛さもほんの少しの間よ、我慢して!」

「っく…も、もうだ…め……」

俺はそのまま横に倒れた。雫のベッドに倒れ意識を失った俺はこのまま死んでゆくのかとさえ思った。

体の構造を無理やり変えられてるような感じ。



体中が痛い…。ズキズキする。だが、それもだんだんと収まってきた。そうなってくると急に

グチャグチャに混乱していた俺の考えが急に綺麗に整理されてくる。そして俺はパッと目を覚ました。

何だか体が軽い…。

俺はゆっくり体を起こすと目の前の光景を眺めた。そこには目をキョトンとさせているルナーと雫がいた。

二人もまるで珍しい珍獣でも見たかのような顔だ。

―何だ俺の顔に何かついてるのか…ってあれ?声が出ない。


もう一度声を出してみる。すると次の瞬間俺の口から出たのは思いもよらない声だった。

「何?私の顔に何かついてるの?」

そうまるで少女のような声。俺が出そうと思った言葉が勝手に女の言葉に返還され自動的に声になって

口から出る。

「どうやら成功みたいね!」

「どういう意味よ!?どうなってるの?どうして普通に喋ってるのに女の子みたいな言葉になるの?」

「それは私が特別に作った自動口調変換機よ!それを使えば、どんな風に喋ろうと私が指定した口調で

喋らせることが出来るの…。例えばこの口調をお嬢様口調に変えると…さぁ喋ってみて?」

機械のスイッチを切り替えルナーが俺に喋らせる。

「これは一体どういうことですの?」

「ねっ?」

「ちょっ、戻してくださいます?こんな口調じゃ私も恥ずかしくてかないませんわ!!」

「あははは!すんごく面白いわコレ!自分で作っててなんだけど…我ながら良い物を作ったわ!」

そう言ってルナーは笑いながらお腹を押さえた。そしてスイッチを切り替え元の口調に戻す。

「ところで…どう体の調子は?」

「どうって…なんか体が軽くなった感じがするけど…」

とふと俺はあることを想った。目線を下に下げると今まで男の体つきだった俺の体が急に女の体つきに

なっていたのだ。

「な、何よコレ!」

「今頃気付いたの?気付いたうえで無視してたのかと思ったわ!その長い銀色の髪の毛も、その胸も

腰もお尻も手も足も全て男の子から女の子に変えてるんだからね…そりゃあそんな体になるわよ!」

「で、でも…よりにもよって、どうしてこんなに胸が大きいの?」

俺は自分の胸の大きさに少し疑問を抱きルナーに質問する。

「さあ?あんたの好みじゃないの?」

「べ、別に…俺は大きいのがいいってわけじゃ…」

「じゃあ小さいのがいいの?」

「い、いや…そういう訳でも…俺は普通でいいんだよ!」

「そんなこと言ったって今更変更は効かないし…。細かいところは変換できないのよね…。

だから、体の一部を変えたり…なんてことも不可能よ!変えられるとしたら丸ごとのみってことね!!」

ルナーは実験結果をノートにまとめながら俺に言った。

「ていうかこの服どうしたの?さっきまで私男の服着てたのに…」

「ああ…それならあなたが気絶してる間に着替えさせてもらったわ…。下も…ね!」

「う、ウソでしょ?」

俺はスカートを恐る恐るめくり確かめた。確かに…。ていうか、自分の体なのになぜか自分の体を

直視できない。とその時俺はある疑問が浮かんだ。下着までご丁寧に変えてある…。それはつまり、

下着まで脱がされたと言う事…。

「な…なななお前俺の下着脱がしたのか?」

「ご、誤解しないでよ?ちゃんと女の体になってから変えたに決まってるでしょ!?」

彼女は顔を真っ赤にしながらそう言った。

―よ、良かった。そ、そうだよな…よかったよかった。って、別によかったってわけでもないか…。


俺はとりあえず状況をまとめることにした。今の俺の体は女…。男ではない。声も女…。声を出そうと

すると女の口調になる。しかしここにいるのは確かにルナーと雫の二人だが、もしも家に帰ろうと思った

場合、どうすればいいのだ?というか、24時間この体で過ごす…それは即ち、この体で風呂なども

済ませないといけないということ…。そんなことが俺に可能なのか?というかこれでちゃんと用を

足せるのか?

様々な疑問が俺の脳裏を駆け巡る。それと共に俺に不安がどんどんのしかかってきた。何よりも、

外に出た際に知り合いに合わないかどうかが心配だ。

「ていうか…女の子の時のあんたって…結構可愛いのね…」

「えっ?な、何?」

俺がルナーが小声で言った言葉に対し訊くと、彼女は急に俺にグイッと顔を近づけた。

「ちょっ…あ、あの…近いんだけど?」

「そういえば…女の子の時の名前つけてなかったわね…」

「お、女の子の時の名前?」

「おおそうだったそうだった!」

さっきまでおとなしかった雫が急に話に割り込む。

「名前どうする?」

「そうだな…。あまり名前をいじりすぎると逆になんかアレだから…元の名前の二か所だけを変える

ことにしよう!」

「それもそうね!」

「あ、あの〜…」

俺の言葉は完全無視され、そのまま雫とルナーの二人は俺が女の子になっている時の名前を考える

ことに専念した。そして五分くらい経ったところで俺の方を向くと、二人はなぜか少し笑みを浮かべて

俺の目を見た。何だか気味が悪い。俺はゴクリと生唾を飲み、二人が口を開くのを待った。

「…あなたの名前決まったわ!」

「あ…うん」

「あなたの名前は『神崎 響子』よ!」

「か、神崎…きょ…響子?」

「ああそうだ!だから今日一日お前は…神童響史ではなく、神崎響子として過ごすんだ!…分かったな?」

「うん…」

少し不安な表情を浮かべる俺に対し、再びルナーが俺に顔を近づけた。

「ねぇ響子ちゃん…」

「な、何?」

「ほっぺた触ってもいい?」

「えっ?どうして急に…」

「いいから!」

そう言うと彼女は無理やり俺の頬を人差し指と親指で挟み込むようにしてつまんだ。

「うわぁ、やっぱり女の子の体に変換させると、肌も女の子になるんだ〜!このきめ細やかな肌。

さっすがは私ね!」

俺の肌を誉めてるのか、自分の科学技術を誉めているのか俺にはそれは分からなかった。

「あ〜このスベスベの肌…羨ましいわ〜!」

「ちょっそんなにくっつかないでよ〜!」

「いいじゃないちょっとくらい!!」

ルナーは強引に俺の頬と自分の頬をすり合わせる。彼女の体温が俺の頬を伝って感じ取れる。

すると、彼女は突然ピタッと動きを止めた。

「ん?どうかしたの?」

「そうだ!ねぇ、さっき作った発明品があるんだけど…ちょっと試してみない?」

「い、いや…!」

「ふっふっふ〜!今のあなたに拒否権はないわよ?」

何だか、雫に罰ゲームを与えられているはずが、いつの間にかルナーに罰ゲームを受けさせられている…

そんな感じがした。

そして彼女は急に何かを懐から取り出した。

「じゃじゃ〜ん!これは『チェンジクロスライト』。このライトを持って着せたい相手の顔を見て、

着せたい服を頭の中に思い浮かべるの!そしてここのスイッチを押すと…あ〜ら不思議!

何とライトを持ってる相手に見つめられた人の服装が一瞬にして変わるんです!」

まるでテレビCMの通販のような言い方だった。さらに彼女はその説明をしながら実際にそれを

やってみせた。その瞬間俺の服装が一瞬にしてなぜかメイド服に変わった。

「な、何よこれ〜!!」

俺はメイド服のスカートの裾をグイッと引っ張って一生懸命下に下げようとした。実はこのスカート。

なぜか異様に丈が短いのだ。丈が膝より上にあるために、少し上半身を前方に倒しただけで

見えてしまいそうになる。しかし、そんなこと断じてお断りだ。俺は急いでそれを脱ごうとした。

しかし脱ごうとしても脱げない。何度繰り返してもやはり無駄だった。

「ど、どうなってるの〜?」

「チッチッチ!無駄無駄!それは絶対に脱げないわよ?このライトのスイッチを消さない限りね!」

ライトをユラユラまるで挑発しているかのように揺さぶるルナー。俺はそれをタイミングを見計らって

奪おうとした。だが、あともう一歩のところで彼女がライトを持っているその腕を上げた。

「へへ〜ん!残念でした〜!これは渡さないわよ?」

「お、おい…あまり人の部屋で暴れないでくれよ?」

「大丈夫だって!ほ〜ら響子ちゃん!こっちよ?」

「その名前で呼ばないで!ってく〜っ、どうしても口調が女言葉に…」

「ほらほら、取って見なさいよ!無理だと思うけど〜?」

その言葉にさすがに頭にきた俺は彼女が隙を見せているその間にライトを手に取った。

しかし、ライトを取った俺の手にルナーも手を伸ばす。とうとう俺達はライトの取り合いになってしまった。

その仲介役として雫がまぁまぁと俺達二人をなだめる姿がある。アパートの三階ということもあって、

下の階の人や左右の部屋の人に迷惑をかけたくないのだろう。

だが、今の俺達二人にそんな言葉理解できるはずもなく、ライトはグイッグイッと右左と行ったり来たりを

繰り返し、最終的には同時に右と左にライトが引っ張られた。それにより、ライトは破損。

それと同時に小さな爆発が起き、俺はメイド服を着たまま、あろうことかベランダから外へ

放り出されてしまった。

―いってて…ったく!ルナーのやつが無茶なことすっから!ていうか…最悪だ!女の格好してるだけでも

ヤバイってのに…よりにもよってメイド服着てる状態で…!!


俺は途方に暮れ左右を何度も確認しながら知り合いに会わないように俺の家へ向かった。

だが、家の中に入ればどんなことをしても絶対に瑠璃達に会ってしまう。と、そんな時である。

非常事態が起きた。そう人間としてこれだけは抑えきれないもの…そう尿意だ。

こんなことならば、男の状態だった時に雫のアパートで済ませておくべきだったと今になって後悔する俺。

しかし今更遅い。そんなこと分かってる。とにかく急がなければ!

と、そんな時である。更に最悪のハプニングが起こった。

「うおおおおおおっ!!」

この嫌な声は…俺は嫌々ながら後ろを振り返る。そこにいたのは、藍川亮太郎…通称変態バカだった。

「はぁ…」

俺は小さくため息をついた。しかし、その溜息が聞こえなかったのか、あるいは無視なのか亮太郎は

サッと俺の前に片足を立て俺の手を取った。そして普段は見せないような眼差しで俺を見つめると、

口を開いた。

「お嬢さん!…お名前は?」

「えっ?あっ…し…じゃなくて…神崎響子です…」

「神崎響子さん!僕の名前は…藍川亮太郎です!」

「…知ってます」

「えっ?」

「あっ!?」

「いや〜!嬉しいな〜まさか俺の名前を知ってくれてるなんて、結構俺って有名人?」

亮太郎は照れ隠しのように頭をかきながら言った。

「あの…私忙しいのでこの辺で…」

「ああっちょっと待ってください!」

「えっ…あのまだ何か?」

俺は早く家に帰って用を足したかったため、少し強気で彼に訊いた。

「何でメイド服なんですか?」

「えっ?あっ、それはちょっといろいろありまして…ていうか用なら早く済ませてくださいませんか?」

「ああ…あの!写メ一枚いいですか?」

「いっ!?」

俺ははっきり言ってこんなやつと…しかも男同士で肩を抱き合って写メを撮るのは御免だった。

しかし、向こうに取っては俺はただの美少女。こんなチャンスはめったにない…そう思ったのだろう。

「わ、分かりました…一枚だけ…ですよ?」

俺は思わず足をモジモジさせてしまったが、亮太郎はバカのために気付きはしなかった。

「はいチーズ!」

パシャッ!!

カメラのシャッターが切られる。

「じゃあさようなら!!」

「あ、ああっ!!」

亮太郎はまだ俺に何か用だったようだが、生憎と俺はそんなことに構ってる暇はなかった。

とその時俺はふとあることを思い出した。

―そうだ!この辺って確か光影中央公園の近くじゃん!!


そう思って俺は十字路を左に曲がり真っ直ぐ走って行き、公園に辿りついた。そして急いでトイレの前に

来た。と、そこで俺はある事を思い出した。

―しまった!俺今、女の体じゃん!てことは、これ…女子トイレでやらないといけないのか?

でも、それしかないよな。だって、男子トイレでやって他の男子にバレるわけにもいかないし…。

仕方ない!今なら誰もいなさそうだし…!!


俺はずっと考えていると漏れてしまうと思い、急いで女子トイレの個室に駆けこみカギをかけた。

そしてスカートに手を掛けた俺はまた思った。

―そういえば!女子って…どうすればいいんだ?


今まで男として生きてきた俺に取って、それは皆無だった。

―ええい!なるようになれ!!


俺は自分の意思を貫いた。



十分後…。

「はぁ…何とか終わったわ。でもまぁ、何とかなったわね。問題はこれからどうするか…。やっぱり

ルナーに会ってこの服元に戻してもらわないと…」

俺は目的を決めると、とりあえずルナーを探しに家の方角へと向かった。



しばらくして俺は自宅付近へとやって来た。その時である。俺の視界のはるか前方に霄の姿が見えた。

―げっ、そ…霄!?


俺は思わずその場で硬直状態に陥った。しかしぶんぶんと首を振り、頬をパチンパチンと叩く。

「とりあえず…別の方から…」

少し遠回りになるが何とかなるとそう踏んだ俺は、別の道を通った。少し足早に駆けて行き、角を

曲がる。と、その時俺は誰かにぶつかってしまった。

ゴンッ!

「いたっ!!」

尻餅をつき俺は尻をさする。そしてふと顔を上に上げると相手が悪かった。というよりも、予想外だった。

何と俺の目の前にいたのはいるはずのない霄だったのだ。彼女は俺がぶつかったや否や、すぐに鞘から

剣を取り出し切っ先を俺の首筋に突き付けた。

「曲者!!」

俺は涙目で両手を上げて降参のポーズを取った。

―何でこいつがここに!?さっき別の道を通ったはずなのに…。

とにかくバレないように何とか誤魔化してこの場から退散しよう!


頭の中で必死にこの場の回避方法を考えながら相手の出方をうかがう俺。すると霄は急に剣を引いた。

―あ、あれ?殺され…ない?


「大丈夫か?」

なぜか彼女は俺に手を伸ばしてくれた。

「あ、ありがとうございます…あの、ぶつかってごめんなさい!」

俺は一応謝るのが筋だろうとペコリと謝罪した。

「いや問題ない。それよりも怪我はないか?ぶつかってきたのが女でよかった。男であれば、知り合いで

あろうと切り落としていたところだった…」

―本当に女でよかった!!


その時ばかりは俺も女の体で良かったと思った。

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