小説『魔界の少女【完結】』
作者:YossiDragon()

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「ところでお前…どこかであったか?」

「いいえ!!」

きっぱりと俺は答えた。少しの疑問が大きくなりでもしたら、絶対に勘のいい霄にバレてしまう。

そう思ったからだ。

「…そうか?だが、やはりどこかで見かけたような…」

彼女はさらに俺の顔を覗き込んでくる。これ以上この場所にいるのは絶対にヤバい!

直感的にそう察した俺は、思い切ってでまかせを言ってみることにした。

「あ〜っ!あんなところに美味しそうなツナマヨおにぎりが!!」

「何!?どこだ!?どこにある!!」

その素早い動きったらなかった。彼女はサッと俺の指さす方向に顔を向け、おにぎりを懸命に探す。

―い、意外にも引っかかってくれた…。とにかくあいつがでまかせに信用しきってる間に……。


そう思って、なるべく足音を立てずにダッシュで逃げようとしたまさにその時である。

「おおっ!本当にあったぞ!!」

ズザザザザザッ!!!!

俺は思わず何もない地面ですっころびうつぶせ状態でスライディングしてしまった。

驚きだったのだ。でまかせで言ったはずの事が実際に本当のことになっていたのだから。

―そ、そんなわけない…。


と俺は思った。だが実際に彼女の手に握られていたのは確かに紛れもないツナマヨおにぎりであった。

―何でだあああああぁ!!!?


俺はツッコミたかった。

だが実際にツッコめばよけいに彼女に怪しまれる。ここはグッと我慢だ。

「貴様…モグモグ…なかなか良い目をしているな!あんな遠くにあるツナマヨおにぎりを見つけるとは…。

私にもそのようなことは出来ない」

霄は感心するかのようにおにぎりを口いっぱいに頬張り俺を誉める。

―くっそぉ〜!まさか適当に言っただけなのに、実際に道端におにぎりが落ちてやがるなんて…。

こんな時は逃げるが勝ちだ!!


そう決心した俺は彼女が余所を向いている今がチャンスとばかりに猛ダッシュで逃げ出した。

しかし、そううまくいくはずもなく俺はまたしても誰かとぶつかって本日二度目の尻餅をついた。

「いったた…もうっ、何でこう何度も何度もぶつからないといけないの〜!!!」

地面に両手をつき、ゆっくり体を起こしながら俺は心に思ったことを口にした。そして誰とぶつかったのか

を確認しようと顔を上げるとそこにいたのは、露さんだった。

彼女はぶつかった衝撃で俺と同じように地面に倒れていたが、とっているポーズが何とも妖しいものだった。

おまけに露さんは口に手を運びよよよと泣いていた。だがそれが嘘泣きだということには、さすがの俺も

分かった。

「あの〜どうして泣いてるんですか?」

俺は一応確認の為に相手に訊いてみた。

「すみません…怪我した際に足を挫いてしまったみたいで、立てないのです…」

何故か露さんの口調は割と丁寧な感じがした。こう清廉な感じだ。まさに彼女にはふさわしくない言葉が、

今の彼女にはぴったりだった。

「わ、私のせいですか?」

ぶつかった衝撃というのならば、わざとではないがぶつかってしまった俺に責任があると思い、恐る恐る

彼女に訊いてみた。

「えっ!?あっ、そ…そうかもしれません」

一瞬…一瞬ではあったが、彼女が俺の言葉を聞いていなかったような感じがした。

―何かこれは裏があるな…。


そう俺が怪しく思っていたその時、後ろから霄が顔を覗かせた。

「ん?姉者…こんなところで何をやっているのだ?」

「あら、霄ちゃん。偶然ね…私はこれから可愛い女子を見かけたから、お持ちかえ―あっ!!」

口が滑った。彼女の顔をみれば、そのくらい読心術を使わずとも読むことはたやすかった。

かといって別に俺が読心術を使えるわけではないが…。

「それって…私を襲うってことですか?」

「ち、違うのよ?ぶつかった瞬間、相手がすごく可愛かったから遊んであげようと思って…」

「その遊ぶって言う言葉に、危ない意味が含まれてる感じがします…」

「あれ?」

「ど、どうかしましたか?」

俺は思わず彼女にバレてしまったかと思った。

「いや…気のせいみたい…。ごめんね?あなたと喋ってたら、ある人を思い出しちゃって…」

―それってまさか、俺のこと……じゃ〜…ない…よな?


俺は微かな可能性が外れていることを願って軽く相槌を打った。

「それじゃあ私はこれで…」

「ねぇちょっと待って?」

「えっ!?」

―なぜ引き留められる?


「あの〜…もしよければ…」

「お断りいたします!!」

「そ、そんな…まだ何も言ってないわよ?」

露さんはえ〜っと言った顔をした。

「と、とりあえず…嫌な予感がしたので…」

「もうっ…つれないんだから…」

「姉者はそういう雰囲気を醸し出しているからな…。避けられるのも無理はない!」

「霄ちゃんまで…」

どんどんしょんぼりしていき、肩を落とす露さん。少し涙目で顔を俯かせ、何かをブツブツと呟く。

「じゃあ私もいろいろと忙しいので…」

「え〜っ、いいじゃんいいじゃん!一緒に遊ぼうよ…いろいろ…」

「そのいろいろの部分に不審感を感じます…」

「大丈夫よ!あそこにはしっかり者の男の子もいるし…。いざとなったらその人に頼ればいいから…」

―その頼れる人物はここにいますけどね……。


俺は心の中でそう呟いた。

「とにかく行くわよ!」

「えっ、け…結局行く感じになってるんですか!?」

心の中でいろんなことを呟いている間に、彼女はいつの間にか俺の腕に自分の腕を絡ませ、

半ば強引に俺を連行した。



そして俺達は俺の家に到着した。ブロック塀沿いに歩いていき、門の扉を開けようと露さんが手をかけた

その時である。反対側の通りから見覚えのある人物が歩いてきた。

「あれ?…あんた達、ウチになんか用?」

そう、それは俺の姉…神童唯だった。

「ね、ねぇ…うっ!」

俺は慌てて口に手を当てる。露さんに絡まされている腕とは逆の方で…。

「ん?おっ、そういえば…あんたは確か、数か月前に響史に会いに来たときに会ったね…。

え〜と確か名前は…」

「水連寺霄だ」

「水連寺霄…霄ちゃんでいいかな?」

「別に構わぬ…」

霄の方が年下なのに、何故か上からの物言い。しかし、姉ちゃんもそのことは別に気にしてはいなかった。

「響史はいるか?」

俺は考えていた。姉ちゃんのことだ、実の弟が女体化していることが分かるかどうか…。

もしも分かった時、姉ちゃんはどんなリアクションをするのか…それが気がかりでならなかった。

「響史くんなら今は、出掛けてますよ?…響史くんのお姉さんですか?」

「うん?あ、ああ…まぁね…」

「へぇ〜…二十歳ですか?」

「よく分かったね…。今年で二十歳になるね…。いや、それにしても…響史も随分とたくさんの女の子を

家に招き入れてるみたいだけど…ちょっとあいつを正してやらないとね…」

「えっ!?」

俺は思わず声を出してしまった。その声に気付かないほど耳が遠い姉ではない。しかも、姉ときたら

大体こういうことには敏感だったりする。

「どうかした?」

「えっ…あっ、いや…」

ふと視線を逸らす。なるべく目を合わせないように心掛ける。目が合って、ふとしたきっかけがあれば、

バレてしまいそうな感じがしたからだ。勘というやつである。

「ん?…ちょっと顔をよく見せて…」

姉ちゃんは俺のあごを動かないように固定してグイッとこちらに向けた。姉ちゃんの顔との距離が

僅か数センチほどしかない。俺の目を姉ちゃんの金色の瞳が見つめる。

気付けば俺はダラダラと冷や汗を垂れ流していた。

「あんた名前は?」

「…か、神崎響子です…」

「これから私達と一緒に遊ぶ約束なのよね〜♪」

露さんが笑顔で俺に言う。それを聞いた姉は、ふぅ〜んという感じで言うと、俺のあごからゆっくり

手を放した。

「じゃあ、響子ちゃん後、霄ちゃんと…」

「あっ、露です…」

「露ちゃんと…改めましてこんにちわ、響史の姉の唯です!弟が大変お世話になっております…」

「あっ、いいえ…こちらこそ!」

姉ちゃんは、割とこういうことに関しては礼儀正しい人だった。だが、相変わらず口調までは昔の様には

いかないようである。あの事件がなければこんなことにもなりはしなかっただろうに…。

思い出しただけで俺は腹立たしい気分だった。

「どうかした?響子ちゃん…怖い顔してるけど…」

「あっいえ…何でもありません…」

「ん〜…さっきから思ってたんだけどさ、響子ちゃんって…どことなく響史に似てない?」

「そういえば…」

「えっ、そ…そうですか?」

俺はあくまで柔らかく否定した。ドストレートに否定すれば逆に怪しまれかねないと思ったからだ。

「だって、目の色とかその髪の毛の色とか…すごく似てると思うのよね…」

「偶然じゃないですか?」

「そう…かな」

「まぁそれよりも、外だとアレですし…中に入りませんか?お姉さんもどうぞ!」

「ええ…」

本来姉にどうぞと言ったりする必要はない。なぜなら元住人だからだ。なのに、なぜか居候の立場である

露さんが、偉そうにそんなことを発言する。俺はそんな彼女を横目で見ながら姉ちゃん達にバレないか

ヒヤヒヤしながら自宅へと足を踏み入れた。



場所は俺の部屋…。しかも、そこには女体化した俺と姉ちゃんの二人きりだった。

露さんと霄は、用事があるとのことでどこかに出掛けてしまったのだ。そのため、現在二人きりという

何とも危険な臭いがプンプンしている状況に陥っているのだ。俺はなるべく会話をしないように

口を一文字に結んだままでいたが、慣れない体のせいかいつも以上に体力が落ちていて、疲れもたまり

睡魔が襲ってきた。そうなってくると、上半身がコックリコックリなって瞼が重くなって閉じてくる。

それに気づいたのか、無言だった姉ちゃんが口を開いた。

「大丈夫響子ちゃん?」

「えっ、あ…はい」

「いや〜…それにしても響史のやつ、どこに行ったんだろうね?全く、家に女の子だけ残して男の子が

どこかに行ってるなんて危険極まりないじゃないか!約束…覚えてないんだろうな…」

―約束…。


俺はその言葉が頭の中でずっとグルグル回っていた。

「よ〜しこうなったら、約束を忘れている罰として部屋を詮索させてもらうかな…。

エッチな本とか出てくるかもしれないしね…」

まさに突然のことだった。約束を忘れているわけではない。俺も本来ならばこの時間帯になれば

家に戻ってくるのだが、現在こんな姿でいるからにはただいいまと言って戻ってくるわけにもいかない。

だが、厳密的には家に戻ってきてはいるのだ。ただ女の体でだが…。

と、俺が独り言を心の中で呟いている間にも、姉ちゃんは俺の部屋を詮索していた。

机の引き出しを開けて、その奥を調べたり、本棚の裏を見たり…いろいろ。

「あ、あの…あまり他人の部屋を詮索したりするのはいけないんじゃ…?」

「あ〜いいのいいの!大切な約束を忘れて外で遊んでるあいつが悪いんだから!!」

そう言って彼女はついに俺のベッドの下に手を掛けた。その瞬間俺は思わず声を荒げて彼女の

服に手をかけた。

「ちょっ、そこは!!」

俺は言葉を言い終わった後でハッと気付く。しまった…。そう思った。

「…ふっ、どうして……赤の他人の部屋を詮索してるだけでベッドの下に手をかけた瞬間に、

急に慌てだすんだ?」

「そ、それは…」

「そろそろ…正直に話したらどうだ?響史…」

「えっ!?」

意外だった。まさか既にバレていようとは…。だがそこではい俺です。と言う程俺も簡単な男ではない。

姉ちゃんが口から出まかせを言っているという可能性も考えられなくはない。

「な、何の事ですか?」

「私にそんな嘘が通用するとでも思っているのか?お前は、神崎響子ではなく神童響史…まぎれもない

私の弟だろ?ちなみに…ここにエッチな本があることは私が高校生の時から知っていたぞ?」

「えっ!!?う、ウソ!?…あっ!!」

「ふっ…ふふっ!!あはははは!!もういい加減観念しろよ響史!もう無駄なあがきだって…」

「た、確かに…」

俺はおとなしく負けを認めた。

「いや〜にしても、まさかお前が女装してるなんてな…。しかも、相当な完成度の高さだ。

一瞬本物の美少女かと思ったぞ?その体…一体どうやったんだ?」

「えっ…あっ、いや…これは」

ムニッ。

「ひゃっ!!」

「あははは!何可愛い声出してんだ?相変わらず面白いな…響史は!」

姉ちゃんは目じりに溜まった涙を拭いながらそう言った。

「それで…これはどういう構造してんだ?」

「これは…そのかくかくしかじかで…」

俺は殊の事情を話した。しかし、悪魔とかそういうことは一応伏せておいた。バレでもしたら、

姉ちゃんも事件に巻き込まれたりする可能性もある。そう思ったからだ。

「ふ〜ん…なるほどね…そんなことが…。まぁ事情は分かった。その罰ゲームとやらでそんな体に

されたと……」

「ああ…まぁそんな感じ…」

「じゃあ…その発明家って人を探し出して戻してもらえばいいわけじゃん?」

「えっ…あっ、うん。まぁそうなんだけど……」

俺は姉ちゃんが何を考えているのだろうと思った。すると彼女は、急に立ち上がるとふと天井を見上げた。

―まさかルナーが天井裏にいることを彼女が知っているのか?


そう俺が思った時である。姉ちゃんが部屋から出て行った。そしてしばらくして再び俺の部屋に入ってきた。

発明家のルナーを連れて…。

「えっ?…どうやって見つけてきたの?」

「ん?簡単だったぞ?天井裏に向けてくさやの臭いを漂わせて、外にあぶりださせたのさ…」

―ひ、ヒドイ…。


道理で彼女からくさやの臭いがするわけだ。おまけに彼女自身も、涙を流しながら姉ちゃんに小柄な体を

抱えられている。

「うぅ〜…もう、何なのよ〜!どうして天才の私がこんな目に合わないといけないわけ〜?

大体何なのよあんた!私に気安く触らないでくれる?」

「ん〜?」

「ひぃっ!?」

姉ちゃんの鬼の形相を見た彼女は一気に顔を青ざめさせた。

「あんたに頼みがあるんだ…」

「は、はいっ!!な、何でしょう?」

ルナーはすっかり声がビビッていた。無理もない。姉ちゃんの笑顔の裏に隠れた顔…それが彼女にも

見えたからだ。

「響史の体を元に戻すんだ…」

「えっ?でも、まだ女の体から男に戻すっていう薬は完成してないって言うか…その〜あの…」

「元に戻せ!!」

「わ、分かりましたっ!!!」

ルナーは涙目でそう言った。

「では誓え!!今から一時間以内に響史の体を女から男に戻すと!!」

「はいっ!今から一時間以内に響史の体を女から男に戻します!!」

「よしっ!じゃあ早くいけ!!」

「はい!!」

ルナーは慌てて屋根裏へ駆けて行った。

こうして俺は女の体から男に戻るのだが、その合間になんやかんやあるのは言うまでもない……。

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