小説『魔界の少女【完結】』
作者:YossiDragon()

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今日の天気は快晴…。何事もなく平凡な一日を過ごすはずだった。

俺は一階へ降りて、テレビを見ていた。

「はぁ〜…なんか疲れたな…」

「あっ、響史起きたの?」

玄関扉を開けると同時に、瑠璃が俺の存在に気付いて言った。

「ああ…他の皆は?」

「中央公園に行ったり、買い物に行ったりしたみたいだけど?」

「そうか…。家にいるのは俺とお前だけなのか?」

俺はふと思ったことを口にしてみる。

「ん?…いや、確か露がいたと思うけど…」

「露さんか…」

「まるで私がいたらいけないみたいな感じの言い方ね…?」

「うわっ!!」

露さんの声がいきなり背後からしたため、俺は思わずびっくりして声を上げてしまった。

「びっくりするじゃないですか!!」

「ごめんね?ところで、私がいなかったら姫様と何するつもりだったの?」

「えっ?な、何の事ですか?」

「何って決まってるじゃない!…“危ない事よ”!」

人差し指を唇に当て、片方の目を閉じてウィンクしながら露さんは言った。その言葉の後半口に出した

危ないことと言う言葉に俺は酷く反応した。

「なっ、ななんな訳ないじゃないですか!!」

「あら〜?その反応だと何の事なのか、うっすら分かってるみたいね〜?」

「な、何が言いたいんですか?」

「べっつに〜?あっそうだ!一つ響史君にお願いがあるんだけど、聴いてもらえるかしら?」

その言葉に俺は

「内容にもよります…」

と少し警戒しながら相手の話を聴く準備を整えた。

「えっとね?実はこれを買って来てほしいの…」

そう言って俺は、彼女に何かの紙切れを手渡された。それは広告らしきものだった。それをよく見てみると、

広告の内容は、タコ焼きだった。

「タコ焼き?…これが食べたいんですか?」

「これがね…、私の姉が好きな物とよく似てるのよ…」

「露さんのお姉さんって澪のことですか?」

「あ〜違う違う!澪ちゃんじゃないわ!まぁ、その内来ると思うけど…」

「刺客としてってことですか?」

「さあね〜…お姉ちゃんはコロコロ気が変わりやすい人だからね〜…まぁとにかく、それ買ってきて!

頼んだわよ?」

「えっ、これもう引き受けること絶対!…的な感じになってんですか!?」

「そりゃそうでしょ?」

露さんは当たり前じゃないと言った顔で俺に言った。俺は参ったな〜と頭をかきながら財布を片手に

玄関へと向かった。

それにしても、玄関ドアを直してもらったおかげですごくドアの開閉がしやすい。やはり、壊れてる時と

壊れていない時とでは使い勝手が違う。そう俺は改めて思った。

そして、玄関扉を開けた俺は外へ出た。今日は快晴のために風もどことなくポカポカしていて暖かい。

「え〜と…この広告に載ってる地図によれば…こっちか!」

俺は道に迷った際に地図を見て歩く時のように、広告の地図と現実の場所を頭の中で一致させながら

目的地の場所へと向かった。



ようやく俺が辿りついたのは人通りがあまり多くなさそうな十字路だった。その角を曲がり、少し

先へと進むと、そこにはリアカーを引いたおじさんがいた。さらに、そのリアカーには屋台が

ついており、その屋台の暖簾には「たこ焼き屋」と書いてあった。

そして俺は、財布を片手にその屋台に近づいた。

「すみません…」

「へい、らっしゃいっ!!お客さんは運がいい…。お客さんがこの屋台に来てくれたお客さん第一号だよ!

よって今回は頼んでくれた倍の分タコ焼きをプレゼントするから、いっぱい買って行ってくれよな!!」

「えっ、いいんですか?」

「おうよっ!」

タコ焼き屋のおじさんが笑顔で親指を突き出す。

「じゃあ、1パックもらえますか?」

「おうよっ、んじゃあ倍の二パックで、一パックは俺のおごりな!!」

「ありがとうございます!!」

「いいってことよ!ほれ、おまちどおさま!!タコ焼き二パックね!!」

「料金は?」

俺は財布のジッパーをジジジ…と開けて、中に指を突っ込み小銭に手を触れる。

「本来なら二パックで1000円だが、一パックは俺のおごりだから…500円のワンコインでいいぜ?」

「本当にいいんですか?」

「もちろんさ!!男に二言はねぇ!」

「じゃあはい…」

おじさんの気が変わらないうちに、俺は500円玉をおじさんが広げている手のひらの上に置いた。

「丁度だね…。いつでも来てくれよな!!」

「はいっ…」

俺は少し駆け足で元来た道を戻り、家へと帰って行った。



家に帰りついた俺は、玄関扉を開けリビングへと向かった。

「あっおかえりなさい響史くん…。タコ焼き買ってきてくれた?」

「はい…。これです…」

露さんのワクワクする顔を見て、俺はビニール袋の中からタコ焼きが12個入った透明のパックを

取り出した。持ってみると、まだ出来たてのせいか少し温かい。

「へぇ〜、これがタコ焼きって言うんだ…」

透明のパックの蓋を開き、出来たてのタコ焼きの匂いを嗅ぎながら露さんが言う。

俺は一緒に入っていた爪楊枝を取り出し、一つを露さんに手渡そうとした。しかし彼女は受け取っては

くれず、目を閉じてあ〜んと口を大きく開けた。その動作を見て、彼女が俺に何を求めているのかは

俺にも理解できた。

「はぁ〜…それくらい、自分で食べてくださいよね」

「いいじゃないたまには甘えても…。言っとくけど、私年上なのよ?年上の人は敬いなさい?」

「あまり年上には見えないですけどね…」

「子供っぽいって言いたいの?」

露さんが少し頬を膨らませ、身を乗り出しながら俺の顔を見つめる。

「ち、違いますよ…甘える感じが幼く見えて…」

「可愛かった?」

「いや、それは…」

「何でそこで黙り込むのっ!!」

そう言って彼女はテーブルの向かい側に座っていた俺の頬に手を伸ばし、つねった。

「いててて…可愛いです!可愛いですって!!」

「えっ…」

彼女は急に頬をつねっていた手を放した。

「いっつ〜…もう何するんですか…」

「だって…」

その少し怒った感じの仕草が俺には少し可愛く見えた。

「はぁ〜…分かりましたよ…。じゃあ食べさせてあげますから、口開けてください」

「わぁ〜…ありがとう響史くん!」

露さんは満面の笑みを浮かべ、俺に嬉しそうにお礼を言った。俺はいやいやながらも彼女の口に、

爪楊枝で突き刺したタコ焼きを入れてあげた。

「あ〜…もぐっ!モグモグ…ん〜…うっまい!!おいしいぃい!!響史君!これすんごく美味しいよ?」

「えっ、本当ですか?」

俺は彼女に美味しい美味しいと言われ、急いで爪楊枝をタコ焼きに刺して自分の口へ放り込んだ。

少しまだ温かいタコ焼きが俺の口に入る。そのタコ焼きは、外がカリッとして中がふんわり柔かかった。

まさに極上の味…その一言しか俺の口からは言えない。

「ごくっ…ホント、これ美味しいですね!!」

「でしょ〜?姫様〜!!瑠璃姫様〜!!」

まだタコ焼きなど、人間界の食べ物を知らない瑠璃にこれを食べさせようと思ったのだろう。

露さんが瑠璃の名前を呼んだ。

「なぁ〜に〜?」

瑠璃がリビングの扉を開け、中に入ってくる。

「姫様、これ食べてみてください!さっあ〜ん!!」

「えっ?…あっ、あ〜ん!」

彼女は言われるがまま口を開いた。その口の中に露さんがタコ焼きを放り込む。そして口に入ったことが

分かった瑠璃は、その未知の味を舌で感じ取った。

「うわぁ〜!これすごく美味しい!!響史…これ何ていう食べ物なの?」

「これはタコ焼きって言うんだ…!」

「へぇ〜…これがタコ焼きって言うんだ〜…なんかこう、外はカリッとしていて中はふわっとしてるん

だよね〜…。しかも、そのふわっとした中に、コリコリッとしたのが入ってて…」

「それはおそらくタコを一口サイズに切ったやつだろうな…」

「へぇ〜…物知りだね響史は!」

「そりゃあ16年この人間界に住んでんだから知ってるのは当たり前だろ?瑠璃だって魔界のことは

詳しいだろ?」

俺の言葉に対し、彼女はコクリと頷く。

「そういうことだよ…」

「ふぅ〜ん…」

瑠璃はまだ少し疑問に思う部分があるのか、冴えない表情だった。



そんなこんなで時は過ぎて行き、時刻は夜の七時…。

外はすっかり真っ暗で電柱の明かりに集まって蛾やら何やらが飛び回っている。狭い暗がりの路地裏を

野良猫が不気味に目を光らせながらのそのそと歩いていく。

そして暗がりの十字路を進んで行くと、たこ焼き屋と書かれた屋台がリアカーと合体して置いてあった。

と、そこへ一人の女性が歩み寄って行き、その暖簾をくぐった。

「へいっ、らっ…しゃ…い」

「悪いな〜おやじ…。すまへんけど、その丸くてうまそうなやつもらえるか?」

「へ…へい…」

そのおやじは客である女性の雰囲気に少したじろいでいた。

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