小説『魔界の少女【完結】』
作者:YossiDragon()

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「お、おまちどおさま…」

屋台のおやじからその出来たてのたこ焼きを受け取った女性は、いただきますと言ってさっそく

一個目のたこ焼きを食べてしまった。

「お、おい姉さん…まだ料金が…」

「ん?料金?…何やそれ…」

「えっ…が、外国人なのかい?」

「いや…まぁそうと言われればそうやし…違うと言えば、違うし…。つ〜か、金か…。そんなもん

持ち合わせとらんわ…。どうすればいいねやろ…。悪いけど、ツケっつ〜わけにはいかへんか?」

「つ、ツケ?」

「やっぱ…ムリか〜」

女性は大きくため息をついた。すると、その彼女の困り果てた顔を見ていたおやじは、しばらく考え

込むと意を決して彼女に言った。

「わ、分かった!今日は大サービスで、お姉さんには、それ…ただでプレゼントしてやるよ!!」

「ほ、ホンマか!?」

「お、おうよ!その代わり、うちの店の評判もっと広めてくれよな?」

「分かった!宣伝バシバシしまくってやるさかい、楽しみに待っといてな!!」

「そう言ってもらえると、こっちも楽しみになってくるぜ!!」

おやじは鼻の下を人差し指でこすりながら言った。

「ほな、ウチさっそくこの店宣伝してくるわ!!」

「おう頼んだぜ!!」

しかしそう上手く行くはずもなく、屋台から暖簾をくぐって外へ路地へ出て行こうとしたその時、

突然誰かに呼び止められた。

「ちょっと待ってもらおうか!!」

「な、何や?」

「ふっふっふ…お嬢さん…あんた今、そこの屋台のたこ焼きただで食ったな?」

「せ、せやけど…ちゃんとこれはおやじにタダにしてもろたんや!!」

「ほう?だがな…、生憎とそんなことを言われても罪には変わりはない…。おとなしくお縄を頂戴

してもらおうか?」

「くっ…さっきから聞いてれば、あんたら誰や!?」

「ほう我々を知らないとは、一体どこのモグリだ?我々は警察だ!!」

そう言って男はサッと警察手帳を自慢げに見せた。そこには確かにその男の顔写真が載っていた。

「け、警察!?…って何や?」

「ズコッ!!…警察を知らない…。一体お前はどっから来たんだ?それにその青い髪の毛と青い瞳の色…。

さては外国人か?」

「外国人…そう言われればそうやし…、そう言われなければそうでもないし…」

「はっきりしないやつだな…。まぁいい。とにかくお前は確実にこの私の手で逮捕してくれる!!

覚悟するがいい!!」

「くっ…ウチはこんなところで捕まるわけにはいかへんねん!!」

そう言うと彼女は懐から二丁拳銃を取り出した。

「なっ!?お、お前…銃まで所持していたのか!!それは確実に逮捕ものだな…こんなこともあって、周囲に

部下を待機しておかせて正解だった…」

警察の男は羽織っているコートのポケットから無線機を取り出すと、部下と連絡を取った。

「あ、あ…聞こえるか?私だ…今目の前に犯罪者がいる…至急、路地の場所まで来てくれ!!」

連絡を取り終え、無線機を再びポケットにしまう男…。その様子をじっと見ていた女性は拳銃を

構えながら後ろに少しずつ下がっている。

すると、ウ〜というサイレンの音が鳴り響き、警察の男の背後からパトカーがやって来た。

しかし、初めてその乗り物を見る彼女にとってはその乗り物がパトカーであるとは到底思っておらず、

ただうるさい音を出す鉄くずの様にしか見えていなかった。

「くっ…新手の敵か!?」

最終的には敵と勘違いしてしまう始末である。

「ふっふっふ…お前らこの女を取り囲め!!」

「はっ!!」

部下達がぐる〜っと女性の周囲を取り囲む。彼女は全方位に見知らぬ人物が立っていることに少し

緊張しながら後ずさりした。しかし後ろに下がれば敵…。横に逃げても敵…。斜めに逃げても敵…。

360度あらゆる方向に敵がいるのだ。そんな経験、どうやら彼女にはなさそうだった。

―くっ…何やこいつら…。なんやゾロゾロ沸いてきおって…。警察とか言うとったな…。

とにかく今はこの場から逃げた方が得策そうやわ…。せやったら…。


心の中で何かを決めた彼女は、銃口を彼らに向けた。

「なっ!?ま、まさか…なりふり構わず発砲するつもりか!?」

警察の男は目を見開いて驚いた。思わず後ずさってしまう。他の部下も、少しびっくりしているようだった。

しかし、彼女は少し口元を緩ませてニヤッと笑みを浮かべると、足元に向かって銃口を構え、引き金を

引いた。

バーン!!

一発の銃声が真っ暗な路地に響き渡る。寝ている住民が居れば、滅多に聞かない効果音に思わず

飛び起きるかもしれない。

その銃口から放たれたのは銃弾ではなく、閃光弾だった。それにより、眩い光が警察一同の視界を

一時的に奪う。その隙を狙って彼女はその場から瞬時に逃げ去った。彼女はあらかじめ懐に忍ばせて

おいた遮光眼鏡でその閃光から自分の目を守っていたのだ。

―とりあえず作戦は成功や…。せやけど、あいつらにはあの白と黒のバケモンがおるからな…。


彼女の言う白と黒のバケモンというのは、警察の乗り物であるパトカーである。しかも、残念ながら

パトカーは生き物ではない。しかし彼女には、そうは思えはしないのだろう。

女性は民家の屋根の上を渡り注いでいた。まるで忍者のように屋根から屋根へと飛び移る彼女。



一方、警察一同はというと…。

「…くぅ〜…。くそ、ようやく視界が戻ってきた……ん?し、しまった!ホシがいなくなってやがる!!」

「どうしますか警部?」

「決まっとる!探せ!!草の根かき分けても探し出せぇ〜い!!」

「はっ、了解!!おい、行くぞ!!」

パトカーで現場に来ていた部下達が急いでパトカーに乗り込んでいく。開いているパトカーに警部と

呼ばれる男も乗り込む。

そして警察官達数十名と警部一人を乗せたパトカーはウ〜とサイレンを鳴らしながら犯人だと言う

女性を追い掛けた。路地裏を抜け、少し広い通りへ出る。それからさらに先へと進むと、ついに彼らは

屋根の上を渡り注いでいる彼女を見つけた。

「ゴルァ〜!!!そこの民家の上を走ってる女、止まれ〜!!お前は完全に包囲されと〜る!!!」

男がスピーカーで、夜なのに構わず大声で彼女に止まるよう命令する。

するとその男のセリフを隣で聴いていた運転をしている部下がふと疑問に思ったことを言った。

「すみません警部…あのまだ完全に包囲されてないんですが…」

「う、うるさ〜い!!一度でいいからこのセリフ、言ってみたかったんだよ!!!」

警部は恥ずかしさを紛らわせるため、すぐ隣だというのに運転手に向かってスピーカーで叫んだ。

「うわああああああ!!ちょっ、み…耳が…耳が〜!!!」

部下は耳をやられ、慌てて耳を押さえたためにハンドルを手放してしまった。それにより、パトカーは

グニャグニャと変な動きを始めそのまま横転した。

さらに、このパトカーが一番最前列を走っていたため、後ろから来ていたパトカーも巻き添えをくらい、

パトカーのほとんどが全滅してしまった。

「ったく…誰だこんな事態を引き起こしたのは!!」

―あんただよ警部!!


やっとのことで、横転したパトカーの山から出てきた運転手の部下が心の中でツッコむ。

そんなやりとりを警察がやっている間に、彼女は隙を見て、向かい側の屋根へと助走をつけて飛び移ろうと

一気に走りこんだ。そして彼女が空中をフワ〜ッと弧を描きながら飛んでいたときのことである。

そのチャンスを逃すまいとばかりに、警部が手錠にロープをつけた、まるでル○ン○世に出てくる○形○部の

ように、それを彼女に向かって投げた。

カチャッ!

手錠は、運よく彼女の左足首に引っかかった。それを確認した警部は、一気にそのロープを引っ張った。

無論引っ張られれば落ちるのが当たり前。それは彼女もそうだった。

「ぶべらっ!!!」

地面に叩きつけられた彼女は頭から地面に落ちた。それと同時に、顔面が地面に埋もれる。

「っつ〜…て、てんめぇ〜!!」

「ふんっ…犯罪者に情けは無用だ!!」

「せやからウチは、犯罪者とちゃうねんて!!」

「問答無用!!足首にロープがついたままでは、お前の足は使い物になるまい?」

そう言って警部は抵抗出来ない隙を狙って、彼女を急いでグルグル巻きにした。

「くっ…せやったら…」

彼女は何かを考え付いた様にニヤッと笑うと、上半身を下に向け、頭の先が警察一同に見えるように

すると、拳銃の引き金を引いた。

そして同時に

「ブ〜スト!!」

と叫んだ。銃口から炎が燃え、まるでロケットの様に真っ赤な炎が出現した。また、同時に彼女は

体を拘束されたまま超特急でミサイルの様に出発した。無論、紐の先を握っていた警部も一緒に…。

彼女は警察一同をまるでボーリングのピンのように薙ぎ払い、そのまま警部を引っ張って

飛んで行った。さらに、彼女が低く飛んでいるため、警部はロープに引っ張られながら地面に

叩きつけられては浮き上がり、叩きつけられては浮き上がりを何度も繰り返していた。

「お、おい…待て!待てぶべらっ!!ぷはっ…だから、ちょっ…止まれ!!ぶべらっちょ!!」

警部の顔は部下たちから距離を取ればとるほど、どんどん原型を留めぬものとなっていった。

その様子を部下たちは、ただなぎ倒されたまま地面に突っ伏して呆然と眺めているだけだった……。

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