小説『魔界の少女【完結】』
作者:YossiDragon()

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第三十五話「家宅捜索」

陽もすっかり落ちて、真っ暗な路地のあちこちに点きはじめる電灯…。その狭い路地を、ロケットという

よりかはミサイルと言った感じの、拘束された状態の女性が低空飛行を続ける。

そして、その後ろを警部がロープに引っ張られて連れて行かれる。

「うおおおおお!止まれぇ〜い!!」

「ふっ、残念やけど…一度発射したら約一時間は止まらへんで?」

「な、ぬわぁにぃ〜!?」

警部は引っ張られながらとんでもないと言わんばかりの声を上げた。銃口から出る炎がさらにスピードを

上げ、さらに先へと進んでいく。



それから約30分が過ぎ、警部もそろそろ腕の筋肉がつりはじめ、ロープを握る手の感覚もなくなりつつ

あった。それにより、彼はだんだんとロープを掴んでいた握力を緩め、最終的にはそのロープを

手放してしまった。手放せばどうなるかは大体想像できる。彼は想像通り、地面に叩きつけられたまま

その場に放置状態にされた。

「…っぐ!おのれ…警察をバカにしおって!!あの女…許せん!!」

警部はアスファルトの地面に拳を強く叩きつけた。

「…っ!!?」

どうやら痛かったようだ。まぁ当たり前だが…。



その頃未だにアスファルトの地面すれすれを滑空し続ける青髪の女はというと…。

「どうやら握っている手が疲れてロープを手放してしまったようだな…。よし…、そろそろ止まっても

良い頃だな…」

そう言うと、女性は引き金を引いていた指を離した。それと同時に、銃口から出ていた炎が消え彼女は

その場に着地した。

「ふぅ…ん?この近くから懐かしい魔力が…この気配…、まさか霄達!?」

女性は隣の塀に視線を移した。どうやら、このブロック塀の先から魔力の気配が漂っているらしい。

「ちょっと見てみるか…」

少し興味が沸いたのか、彼女はブロック塀に飛びかかり壁をよじ登った。そして上り終えると、

そこから彼女は中の様子を窺った。そこはごく一般的な家で、中からがやがやと騒がしい喋り声が

聞こえてくる。しかし窓で声を遮られているせいか、少しこもった感じの声で聞こえるために、その声が

聞き取りにくかった。もう少し近くでその声を聴こうと、身を乗り出したその時である。

「よっ…うわっ!?」

彼女は思わず体のバランスを失い、ブロック塀の上から家の庭の草木の生い茂った地面にドスンと

大きな音を立てて落ちた。



「ん?なんだ?」

家の中にいた俺は、その大きな音に反応しその場に立ち上がると、窓ガラスに手を伸ばし鍵を開けた。

そして窓ガラスを開き、外の様子を確認する。左右を確認したが怪しい人物の影は見当たらない。

最後に正面を確認する。その時である。俺の視界に飛び込んできたのは、草木の地面にしりもちをつき、

おしりや頭を優しくさする女性だった。彼女は青色の髪の毛に青い瞳をしており、髪の毛の所々には

緑色の葉っぱがまとわりついていた。その様子から、彼女がブロック塀をよじ登って中に侵入した

のだと言う事は容易に理解できた。

「あなたは…」

「お、お姉ちゃん!?」

俺の背後から露さんが声を上げた。どうやら、目の前にいる女性は露さんの姉のようだ。となると、

あてはまる人物は完全に絞られる。まず、青髪と青眼という時点で水連寺一族…つまりは悪魔。

更に、露さんの姉ということは、見た目的に長女である澪はないとして残る位置は次女しかないのだ。

なぜなら露さんが三女だからである。次女ということは、相当な力の持ち主だと俺は思った。

しかも、ここに来たということは俺の命を奪いに来たに違いない。瞬時に俺は理解し警戒態勢をとる。

「ちょっ、ちょ待ちぃや!ウチは別にあんたと戦うためにここに来たんとちゃうんよ!それよりも、

少しウチをかくまってくれへんか?」

かくまう…つまりそれは、誰かに追われているということ…。悪魔ともあろう人物が、一体何に

追い掛けられているというのだろうか…。まさか、他にも悪魔が来ているのか…。

俺は自然とそういう考えに行きついた。しかし、次に彼女の口から出て来たのは違う言葉だった。

「実はウチ…警察っちゅうやつらに追われとるんよ!!」

「け、警察!?」

なんでまた人間界の治安を守るための組織の人達から彼女が狙われるのだろうと俺は思った。

と、その時である。ウ〜と大きなサイレンが鳴り響き、俺の家のブロック塀の方に赤い光が見えた。

―あれは警察のパトカーのやつだ!


俺はこれは確実に彼女が追われているのは間違いないなと確信した。また、それと同時に彼女を助けて

上げようと思った。命を狙われているのならば助けはしないが、違うのであれば助けないことなどない。

逆に助けてあげたら何かお礼でももらえるかもしれないと、俺はその時考えたのだ。

「早く!こっちです!!」

俺は女性の白い手をガッシリと掴み自分の方へと引っ張った。

「お、おう!」

彼女はそのまま俺に引っ張られるようにして庭から俺の家へと入ってきた…というのは少し語弊

があるかもしれない…。厳密的に言えば、俺が彼女を招き入れたような物なのだから…。

サイレンも鳴りやみ、俺は警察の人達が付近にいないことを確かめると、

「もう大丈夫ですよ?とりあえず、深呼吸して落ち着いてください…」

と彼女に言った。すると、彼女ははぁ〜と大きなため息をつき大きく深呼吸した。その様子を見て、

まるで肩に乗っている重荷が取り払われたかのように、俺は思った。

「うぅ〜…ごっつ疲れたわ〜!いや〜人間界っちゅうもんも、あんまりいいところちゃうな!

平和にやっとってゆっくり出来る思っとったんやけど、誤算やったわ〜!!」

女性は肩慣らしをしながら言った。

「は、はあ…」

俺は軽く相槌を打つことしか出来なかった。

「せや…、まだ自己紹介しとらんかったな…。ウチは水連寺一族の次女…『水連寺 霞』や!ヨロシクな!!

え〜っと…」

「ああ…神童響史です!」

「響史!!」

霞さんは俺と交遊的に俺と握手してきた。会ったばかりでどんな人かも分からず、本来なら警戒している

はずなのだが、なぜか俺は彼女には安心感が持てた。それがなぜなのか俺には分からなかった。

「とりあえず、ここにいれば安全ですから…」

ソワソワと未だに外の様子を気にする霞さんに、俺は安心できるように教えてあげた。

それを聞いた彼女は少しは安心出来たのか、俺に軽く笑みを見せた。

「ところで、さっきから気になってたんですけど…俺の命を狙いに来たんじゃないんですか?」

「えっ?ああ…ちゃうで!ウチはな、ただ単に丸くてアツアツで、外はカリッと中はフワッとした

アレを食べたかっただけやねん!!」

「外はカリッと中はフワッとって……もしかしてたこ焼きですか?」

「おぉ〜それやそれや!!そのたこ焼きっちゅうもんを食べに来たんや!!」

「それだけのためにわざわざ人間界へ?」

「…っつっても、元々別の任務でここへ来とったんやけどな…。でも…ほら、知っとると思うけど

今魔界では大魔王が冥界へ侵略を開始しとるやんか〜?せやからその任務も無しってことになって、

魔界へ帰るにしても…手ぶらで帰るのは何だかウチも気が引けてん…」

その霞さんの話を俺の隣で聴いていた露さんが笑みを浮かべて口を開く。

「そりゃそうよ!手ブラで魔界へ帰るなんて…そんなのあまりにも変質者すぎる…―モグググ!!!」

露さんのそのベラベラと喋る口を笑みを浮かべて手で強引に塞ぐ霞さん。

「手ブラやのうて手ぶらや手ぶら!!分かったか?」

表情はそのままで口調を強める霞さんの顔を見て俺はさすがは次女だなと思った。彼女のその気迫が

あまりにも強すぎたのだ。

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