小説『魔界の少女【完結】』
作者:YossiDragon()

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「…条件が一つあるわ…」

「条件?」

その条件という言葉には、さすがに俺も気になった。もしかすると、俺にも関係があることなのかも

しれないと思ったからだ。

「その条件は、響史を…もう一度女体化させてほしいの!」

「ん?女体化やと?」

「なっ、ルナーお前!何を訳の分からないことを!!」

「いいじゃない!もう一度女体化するだけでいいのよ?それだけであんた達の望みが叶えられるなら

安い物じゃない!!」

彼女は俺の鼻に人差し指をグイッと押し付け、もう片方の手をくびれた腰に当てて、少し顔を上向きに

させて言った。

「だからって…何で俺が女体化しねぇといけねぇんだよ…」

「だって…見たいんだもん!」

ルナーは赤面で少し俯き気味だったために少しその声が聞き取りずらかった。

「何だって?」

「うっさい!やるのやらないの?」

彼女は俺に詰め寄る。俺と彼女との顔の距離がすごく狭い。

「ち、近いっ!」

俺は彼女をグイッと押し返した。

―どうする?このまま警察(あの人達)をほったらかしにしてもアレだしな〜。


正直言ってどうすればいいのか凄く困惑していた。誰かに決断を譲りたいくらいだ。

しかし、このまま考え続けても結果が出てこないことは長年の経験上目に見えているため、俺は仕方なく

「分かったよ…」と、コクリ、縦に頷いた。

「やった!!」

ルナーは満面の笑みでガッツポーズをとる。彼女の笑顔の裏に一体何が隠されているのか今の俺は

まだ何も知らない…。

ピンポーン!

まさにルナーがリビングから出て行った直後のことである。

突然うちのインターホンがリビング中に鳴り響いた。今現在この部屋には、俺と霞さんの二人しか

いないため、俺達二人は互いに顔を見合わせた。

「誰か来たみたいやで?」

霞さんがまるで自宅にいるかのようにテーブルにベタ〜ッと体を伏せて、俺に言う。

おかしい…。普通ならインターホンが鳴るはずがない。なぜなら今日俺は、別にインターホンを

鳴らされなければいけない様な、出前やお届け物と言った物は頼んでいないからだ。

では友達からではないのか…というとそれもまた可能性の中から除外される。

それは、俺の友達が俺の家に来ることがまずほとんどと言っていいほどないからだ。あるとしても

10年に1度や2度…。とすると一体誰が俺の家にやって来たのか…。条件が絞られてくると俺はある可能性と

いうよりも確信めいた、あてはまる人物…というか組織があった。

そう警察だ。

そういえば先程からサイレンが鳴っていない。ということは、諦めて帰ったか、どこかでパトカーを

降りたかの二択だ。だが、最近の警察はそう簡単に犯人逮捕を諦めたりはしない。とすれば、どこかで

パトカーを降りたという残り一つの選択肢を選ぶしか道はない。

即ちそれは、俺の家のすぐ側にパトカーを停め、俺の家の玄関前に立ち、インターホンを鳴らしている

という結果に辿りつくことになるのだ。

まぁ一言でいえば見つかったと言った方が早い…。

俺が玄関付近にゆっくり歩いていくと、修理してもらったばかりの玄関ドアをガンガンと少し乱暴に

叩く音がした。

ドンドンッ!!

「出て来いっ!ここにいるのは解ってるんだ!!今ならまだ注意だけで見逃してやらんでもないぞ!!」

聞き覚えのない男の声…。おそるおそる俺は玄関扉の鍵を開け、扉を開こうとした…が、逆に扉は

扉の向こうにいる男の手によって開かれた。

「逮捕だ〜…って、誰だお前は?」

「そちらこそ一体誰なんですか?」

俺はあくまで知らないフリをして相手に素性を訊く。

すると、見た目的に少し偉そうな感じの男が、警察手帳を開いて俺に自慢げに見せつけた。

「我々は警察だ!!ここに青髪に青眼の女が来ていないか?いや来ているはずなんだが…」

「えっ、えと…何のことですか?」

話をはぐらかし、彼らを家の中に入らせないように試みる俺。しかし、努力もむなしく彼らは、

半ば強引に中に家の中に入ってきた。

「ちょっ、ダメですって!!」

「うるさい!我々の邪魔をするのならば、公務執行妨害で逮捕するぞ!!」

「それは…困るっていうか」

冷や汗を流し、頬を人差し指でかく。

「とりあえず、リビングにこの家に住んでいる住人を全員連れてきてもらおうか!!」

警察の中でも一番偉そうな感じの男が、俺に命令する。俺は相手のその態度に対し、少し嫌悪感を抱いた。

だが、ここで逆らえば本当に逮捕されそうな雰囲気を彼は放出していたため、仕方なく俺は彼の命令に

従った。



「響史…何なんだ?私はこれでも忙しい立場なのだが…」

霄がリビングの壁に背中をもたれかけ、腕組みをして瞑っていた片方の目を開け、俺を見つめながら

言った。

「すまない霄…。ちょっといろいろあってな…」

「響史さん…。この方達は誰なんですか?」

相変わらずの半目で俺に訊いてくる零。

「ああ…こいつ…ごほん!この人達は、警察だ」

「けいさつ?」

言葉を口にしながら首を傾げ、不思議そうな顔を浮かべる彼女の顔を見て、俺はさらに教えてあげた。

「警察っていうのはだな…。まぁ簡単に説明すればこの人間界の治安を維持する組織みたいなもんだ!」

「へぇ〜…そんな組織があるのですか…。それでそんな方達がこんな庶民の家に何の用なんですか?」

「しょ、庶民の家って!!…まぁそれはおいといて…」

俺はそこから彼女の背に合わせて少し膝を曲げて背を低くし、小声で耳打ちした。

「何か、霞さんを追ってるみたいなんだ…」

「姉上を?」

「ああ…」

「ん?おいっそこっ!何をコソコソしてる!!」

警察官の一人が俺達二人の行為が目に入り、少し声を張り上げて言う。

「げっ!こ、これはその…」

「さては作戦を立てていたのか!?」

「なっ、そんなわけないでしょ!!」

勝手な解釈をされてはたまらないと思い俺は首を激しく振ったが、逆にその行動が怪しいと思われたのか

彼は怪しい者を見るような目でこちらを凝視してきた。

すると、俺と警察官の間に零が壁を作った。また、それと同時に彼女は剣を取り出してそれを相手に

向けて構えた。しかし、それがまずかった。

「き、貴様!警部!!大変です!!この娘、剣を持っています!!」

「ぬわぁにぃ!?そいつはけしからん!!銃刀法違反だぁ!!逮捕!逮捕する〜!!!」

警部と呼ばれる男は声を荒げ、ロープにくっつけた手錠をブンブン振り回す。

「ま、待ってください!!これは別にそんな怪しいものではなくてですね?」

「うるさいうるさい!そこをどけ!!さもなくば、貴様も共犯者で逮捕する!」

―理不尽!理不尽すぎる!!それだけは勘弁してくれ!!


「そこを何とか…」

「どけ響史!口で言っても分からないやつらには剣で分からせてやる!!」

「やめろ霄!そんなことしたらよけいに話がややこしくなる!!」

「くっ、ではどうしろと?」

「それは…」

「何をゴチャゴチャ言っている!!そういえば、ここの家主以外ほとんどが青髪に青眼…。まさか、

貴様らはあの銃の女の仲間か!?そうとなれば、貴様らも逮捕するぞ?」

「や、やめてください!!それは違います!!」

「うるさい!現にそこの娘は二本の剣を持っているではないか!他の娘も何か武器を所持しているのでは

ないか?」

「そ、それは…」

俺は相手に言い返す言葉がなくなり口ごもってしまった。すると、その隙をついて彼はさらに話を

進めた。

「このままでは埒があかぬ!!こうなれば最後の手段だ…身体検査を行う!!」

「し、身体検査!?」

俺はそれだけは何としてでも防ぎたいと思っていた。なぜなら、彼女達は今手ぶらで何も持っていない

状態ではあるが、体のどこかに、きっと各々の武器を隠し持っていると思ったからだ。

「ふっ…動揺しているな?ますます怪しい…。お前らこいつらを全員拘束しろ!!」

「はっ!!」

警部の命令に警察官が護衛役の少女達を次々に捕まえて行く。もちろん無抵抗というわけではない。

しかし、迂闊に反撃してしまえば公務執行妨害で逮捕…。どちらにせよ、こちらに逃げられるという

可能性は無いに等しい状況だったのだ。場は明らかに不利だった。

「くっ!」

「ふっふっふ…。抵抗はしない方がいいぞ?どうなっても知らないからな…」

警察とは思えない口調。

「なぁ〜にすぐに済むさ…。おとなしくしていればだがな…」

「どうしてこんなことを…」

俺が相手に訊くと、警部はニヤリと笑みを浮かべて言った。

「簡単なことだ!私は警察だ!!犯罪は阻止しなければならない!!絶対にだ。そして、次なる犯罪が

起きる可能性のある者はあらかじめ排除しておく!!それがこの私のやり方だ!!だから、この私の邪魔を

する者は例え味方だろうと消す!!」

「くっ、あんたは考え方そのものが腐ってやがる!!」

「ふんっ!何とでもいうがいい…。だが、貴様の仲間はここで終わりだ!この外国人共とどのような

関係かは知らないが、残念だったな…。貴様らの犯行は実現する前に我々が食い止める!!」

「俺達は何も犯罪なんて起こそうと思っていない!!」

「ウソをつくな!では、なぜこのような武器を持っているのだ!!」

彼は警察官に体を拘束されている零の両手から二本の剣を奪い取り、それを見て言った。

「それは守らなくちゃならない人がいるから…」

「くっはっはっは!!」

警部はいきなり大声で笑い出した。

「このご時世に武器を持たないと守れないような敵が存在するというのか?ふんっ、何とバカな者たちだ。

今の時代はこのような武器を持たずとも対抗できるのだよ!!」

自慢げに彼はポケットから銃を取り出す。

「あんたらだって銃を持ってるだろ?だったら剣くらい…」

「我々は自分の命を守るためにこの銃を使うのだ!貴様らのその武器は、一般人を傷つけるための

代物でしかない!!」

「その剣だって人を守るためにあるんだ!!」

「ほう?それがどういう意味なのか私には分からんな!」

剣を一振りし、側にあったティッシュの紙を切りその切れ味を確かめる警部。

「この切れ味…守るためとはいえこれほどの切れ味は必要ではあるまい?」

「確かにそうかもしれないが…使い方を誤らなければ人を傷つけることはない!!」

「こいつらを信用出来ると?」

「ああ!」

俺は真剣な眼差しで彼にきっぱりと言った。彼はしばらく俺を見つめたまま黙りっぱなしだった。

と、その時近くから誰かの声が聞こえてきた。

「んっ…あっ!そこは…」

その声の正体は露さんだった。彼女が警官からの身体検査を受けている最中に、妖しい声を洩らしていた

のだ。

「何をそんな声を出しているんだ!!」

少し若い感じの警官が、突然彼女が変な声を洩らしてきたため、少々たじろぎ気味に彼女に訊いた。

「だってあなたがそんなところ触るから…」

「お、俺はそんなところ触ってないぞ!?」

焦り顔でそう言う警官。周囲の警官も二人のその二人のやりとりに、他のメンバーを身体検査中なのを

すっかり忘れてしまっていた。

「嘘よ!だってあなた今、私のおしりに触れてるじゃない!」

「な、何っ!?」

「…ふふっ、うっそ〜!あはは、大人のくせに騙されてなっさけな〜い!」

「くぅ〜っ!大人をバカにしやがって!!」

「騙される方が悪いのよ!ふっ!!」

そう言うと露さんは何もないところから槍を取り出した。やはり、どこかに隠し持っていたらしい。

俺はその様子を、警部のことを少し気にしながらチラチラ見ていた。

露さんはその巧みな槍捌きで警官達を圧倒、彼らの手から見事妹達を救い出していた。

そして彼女達を逃がすと、俺の方をチラッと見た。それから目で合図をする露さん。その合図が

何を示しているのか、俺には容易に理解できた。

「何をボサッとしている!!早くあいつらを逮捕しろ!!」

一連の出来事を彼も見ていたらしい。露さんの攻撃を受けて怯んでいる警官達に彼は命令した。彼の

命令を受けて慌てた様子で俺の家中を捜索しだす警官達。

「へっ!警察ってのも全然役に立ちませんね…。子供…しかも、女に負けてるんですか?」

「ぬわぁにぃ〜?」

「こうなったら俺も本性出しますよ!あいつらに遅れは取らない!!警察の言う事やること全てが

正しいとは決して思わないことですね!!」

「ふんっ面白い!ならば、我々に勝って見せろ!貴様ら全員が逮捕されれば貴様らの負け。もしも

我々が降参すれば貴様らの勝ちだ!!」

「いいですよ?俺達は絶対に負けない!!」

「よぉ〜しならば始めよう!必ず貴様ら犯人を逮捕してやる!!!」

こうして俺達と警察との追いかけっこが始まったのだった。

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