小説『魔界の少女【完結】』
作者:YossiDragon()

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「せ、せまい…」

「ちょっくっつかないでよ!」

「しょうがないだろ?ここ狭いんだから…」

「そもそも何であんたがここにいるのよ!!」

「それはこっちのセリフだっつ〜の!」

俺が今小声で口げんかしている相手―それは麗魅だ。ではなぜこのように口げんかをしているのか…。

それには無論理由がある。

その理由というのは、今現在俺達二人がいる場所に原因があった。

俺達がいるのは畳の部屋の押し入れの中だった。押し入れの中は結構暗く、それ相応の広さは確保できた

ため、俺はこの場所を隠れ場所にしていたのだ。

そしてなぜ俺が今押し入れなどに隠れているのかというと、その理由は今現在警察の方たちが俺達を

捕まえようと血眼で探しているからだ。彼らは俺達を見つけ次第逮捕すると言ってきた。

だが、生憎とこの歳でカチャリと手錠をかけられるわけにはいかない。そんなこと死んでもゴメンだ。

そのため俺は、死んでも捕まるものかという決死の覚悟を決めてこの場に隠れているのだ。

しかし、それだけではまだ理由不十分…。まだ麗魅がここにいる理由を伝えていない。

その理由とは少し前に遡るのだが、俺が先に押し入れに隠れていると近くを誰かが捜索している気配

というか、物音を感じたのだ。そこで俺は隙間から相手の様子を窺おうと外の光景を片方の眼で覗いていた。

すると、そこには予想外の人物…つまり敵ではなく味方である麗魅がいたのだ。何でも彼女の話によれば

隠れる場所を探していたとのことで、ならばここの場所は広いから安全だということで彼女を招きいれた

次第なのである。

だが、それが誤りだった。彼女を押し入れに招き入れると同時に、誤って今現在隠れている押し入れの

上の段に積み重ねていた敷布団が、自分たちに雪崩のように流れ込んで俺達二人の体を押しつぶしてきた

のだ。

そして現在のような状況に至る……。



「ひゃあっ!」

「な、何だ?」

「今、私の胸触ったでしょ?」

「んなわけあるかっ!第一触ったとしたらもっと柔らかい感じがあるだろうか!!俺が今触れてる物には

そんなものねぇぞ?…あっそうか…お前は胸が小さ―」

刹那―俺は、背後から後頭部を麗魅に思いっきり殴られた。加減を知らない悪魔の少女に殴られた俺。

本来ならば気絶するか、脳内出血を起こして死ぬかもしれない。

まぁ後者はそうそうないだろうが…。

「もうっ!サイテー!!あんたなんか嫌いよ!!」

「へいへいそうですか…どうぞご勝手に…。それよりも今の状況ちゃんと理解してんのか?

早いとこの家からあいつらを追い出さねぇといけねぇんだから!」

「分かってるわよ!!」

と麗魅がぷいっと頬を膨らませてそっぽを向く。

“あいつら”というのは少し前にも話したが、今現在この家の中を家宅捜査中の警察の連中のことだ。

やつらは今、銃刀法違反をしている霞さん―と、ついさっき新たに発見した銃砲法違反の霄と零を探して

いた。

ついでにその共犯者ということで、俺達まで追い掛けられているのだ。

「そういえば警察のやつらを追い払ってくれるってルナーのやつ言ってたが、いつになったら

追い払ってくれるんだ?」

「ルナーって…叔母さんのこと?」

「ああ…。あいつとある条件を交わして約束したんだが一向に事が先へ進まない。まさか忘れてるなんて

ことはないよな?」

「さぁね〜…あんたとの約束なんてどうでもいいって思ってるんじゃないの?」

「んなわけあるか!俺との交渉の時あいつは喜んで引き受けてくれたぞ?」

「……。あんた一体あの人とどんな約束交わしたわけ?」

「えっ…あっ、いやそれは…!んなこと今はどうでもいいだろ?それよりもあいつのとこにいかねぇと!!」

目を四方八方に揺らがせながら、俺は麗魅から顔をそむけた。

それには理由がある。その理由というのはその交渉というか交換条件のことだ。交換条件の際俺は、

彼女に警察を追い払ってもらうかわりに女体化することを彼女に約束してしまったのだ。

それが失敗だった。かといって今更撤回してもらうわけにもいかずそのまま放置してしまっていたのだ。

俺は何とかして空間を開け、そこの隙間から外へと脱出した。

「ちょっと私はどうするのよ!まさか置いていく気?」

麗魅は薄情者!!という顔で口をへの字に曲げ俺を睨み付ける。

「そう言うなよ!逆にここにいた方が安全だぜ?警察のやつらもこんな細かいとこまでは調べたり

しないはずだ!!」

「お、お願いだから私をこんな暗がりに一人にしないでよっ!」

さっきよりも少し声を大きくして俺に言う麗魅。どうしてそこまでして暗がりから出たがるのか。

悪魔というのは逆に暗がりを好み明るみを苦手とするのではと俺は心の中で思った。

だが、彼女が暗がりを嫌うのには訳があった―という話はまた別の機会にでもするとしよう。

仕方なく俺は彼女を外に引っ張り出してあげた。

「あ、ありがとう…」

彼女に目じりに何か光る物があった。一瞬涙にも見えたが、それを俺が追及しようとする前に彼女自身が

そのことに気付いてしまい慌ててそれを人差し指で拭い取ると、ゴミが目に入っただけなんだからっ!!

と腕組みをしてソッポを向いてしまった。



ここは響史の家の屋根裏部屋。ここにはルナーが空間を捻じ曲げて作り上げた研究室がある。

要は屋根裏部屋と俺の家の二階が境界線となり、屋根裏部屋に入るとそこはもう人間界ではなく鏡界なのだ。

しかも屋根裏部屋ほぼ活用することがないので神童家の者に迷惑がかかることはない。家の者と言っても

響史しかいないのだが。

そんな屋根裏部屋もといルナーの研究室には様々な研究資料や発明品などが散乱している。

部屋は一つしかないため、ほぼベッドや仕事に活用するデスクのみとなっている。風呂や食事などは

人間界ある神童家にある物で代用している。そのため最近では、食事も響史達と一緒に済ませている。

そして今やこの部屋の持ち主となってしまってる居候の一人ルナーはというと、デスクに突っ伏して

寝ていた。

そばには何やら怪しい試験管が置いてある。その近くには肌荒れ防止用に使うクリームの様な感じの

容器が置かれていた。

とそこへ警察の人間がやって来た。彼らは隈なく神童家の中を捜索しているうちにこの場所を見つけた

ようだ。

「ここは何だ?」

「どうやら研究室か何かのようですね…」

警部の疑問に部下の警官が自分が思った素直な感想を述べる。

「ん?誰だこの娘は…」

そう言って警部の目に入ったのは小柄な体で白衣を身に着けたエメラルド色の髪の毛をしたツインテールの

美少女―ルナーだった。

だが、彼らからしてみれば彼女はただの見知らぬ人物。しかもなぜこんな怪しい場所にこんな子がいるのか

と、彼らは不振がっていた。

「おい!起きたまえ!」

警部はルナーの右肩に手を置き、軽く彼女の体を揺さぶった。しかしう〜んと小声で唸って体を

よじらせるだけで目を覚ましはしなかった。

「おい起きろ!」

少し口調を強めて揺さぶる強さもそれに比例して強くする。

「う〜ん…」

…やはり起きない。

「くっ!!」

さすがに我慢の限界だったのだろうか。彼は強硬手段に打って出た。

警部はルナーの両肩に手を置くと今までにない激しい動きで彼女の体を揺さぶった。

「う、う〜…あわわわ!!えっ、ちょ何!?うっちょっ…何なの!?」

ルナーは体を激しく揺さぶられてうまく喋れない。

「ちょっ離して!!」

ようやく警部の腕を肩からどけると、彼女はさっと後ろに身を引き背後に立っている人物の姿を確認した。

それを見て彼女は少し小首を傾げる。

「あんたたち誰?」

ズコッ!

警部率いる警察一同がズッコケる。

「まったく…今時の子供は警察を知らないのか!」

とプンスカ憤慨している警部。

「あんたたちが警察!?」

ルナーは少しびっくりしたような顔をしている。

「そうだ!我々が警察だ!!」

偉そうに腰に手を当て、鼻高々に言う警部。

「だったら話は早いわね…」

「ん?何のことだ?」

「あいつに頼まれたのよ…。あんたらを追い払ってくれって!」

「追い払うって…我々はそこらへんのゴキブリじゃないんだぞ!?」

警部が顔を真っ赤にして言う。しかしルナーはそんなことお構いなしに話を続ける。

「というわけであんたたちにはこの家から出て行ってもらうわ!」

「ふんっ!犯人を逮捕するまで我々は帰らんぞ?」

「へぇ〜…言うわね!五界を総べる支配者の一人であるこの私に逆らうんだ…」

「五階?ここは屋根裏部屋ではないのか?」

「おっと…これはあんたらに言ったらいけないんだった…。まぁ気にしないで!というわけで

力付くでも出て行ってもらうわよ?」

ルナーは少し妖しい目をして口元を不吉に緩ませる。彼女のその不気味な表情に思わず身震いする

警察の人間。

彼らの反応を見たルナーはすかさず懐から何かを取り出した。それは一見白いボールのようなものだった。

しかし素材は金属のようで、ルナーがそれを叩くとカンカンと独特の金属音がした。

それを大きく振り上げるとニヤッと小悪魔的な笑みを浮かべた。

「な、何を…!?」

「ばいば〜い♪」

振り上げている手とは逆の手で警察に小さく手を振るルナー。それから彼女は勢いよく振り上げていた

手を振り下ろした。同時に金属のボールが研究室の床に叩きつけられピカッと眩い光を放つ。

研究室中がその光に包まれ、その光が収まると辺りは金属ボールから放出されている煙によって

覆い尽くされた。彼らが何事だと慌てふためいている隙を狙い、屋根裏部屋から脱出するルナー。

「ポチッな!」

ルナーは愉快に懐に忍ばせておいた赤いスイッチを取り出しボタンを押した。

刹那―研究室に設置されていた何かの装置が作動。ピーという電子音と共に装置の蓋が開き、

中から一つの黒い球体が姿を現した。それは装置から独立し、コロコロと研究室の床を転がり

警部の足元にコツンと当たって静止した。

「ゴホゴホッ!」

先程の金属ボールによる煙を吸ってせき込む警部。と、その時自分の足元に当たっている謎の物体を

拾い上げた。

「ん?なんだこれは―」

彼がそう口にした途端、その球体は警部及び周囲の警官を巻き込んで大爆発を引き起こした。

大爆発と言っても中に火薬は入っていない。中には対象物の記憶を消す作用のある煙しか入っていない。

爆発することで、なるべく広い範囲にその煙が拡散するように設計されているのだ。

一方でその大爆発はルナーにも影響していた。というのも爆発の威力が大きすぎたのだ。そのせいで

爆風も強いものとなり、その爆風によって屋根裏部屋の入口の扉にべったりくっついていたルナーも

軽く吹き飛ばされてしまった。

「きゃあああ!!」

彼女が爆風に巻き込まれて宙を回転していると、下の階から見覚えのある銀髪が―神童響史だ。

「ちょっ、危ないからどいて!!」

「えっ!?」

響史は何かを考えていたのか下を向いていたため、彼女が自分の方に向かってきていることに

気が付かなかった。

ドンッ!!

鈍い音を立てながら二人は二階の踊り場に倒れそのまま気絶してしまった。



―うっ…あれ…重い。何だこれ…でもなんか温かくもある。何だこの感じ…。


むにっ。

「あんっ!」

―あれ?今俺何か触った?なんかすごく柔らかいものに触れたような気が…。ていうか今の声って…。


恐る恐る俺が目を開けると、仰向け状態の俺の上には、その上から覆いかぶさるようにルナーが

倒れていた。そして俺のその手の感触の正体は、やはり彼女の胸だった。

「うわあああああああああああ!!」

俺は慌てて彼女の胸から手を放し、スルスルと覆いかぶさっているルナーを起こさないようにしながら

抜け出した。

しかし、俺の先程の声に気付いたのか彼女はパッと目を開け、そのエメラルド色の双眸で俺を睨み付けた。

彼女の目つきが鋭い。やはり完全に怒っている。どうやら気付いていたようだ。

俺が彼女の胸を触っていたことに…。

「あ…あんたってやつは…!」

「ち、違うんだ…これはその不可抗力で…っ!!」

「サイテー!!」

バゴオォォォン!!!

凄まじい拳の一撃が、俺の頬に直撃する。俺は口から血を吐きながら壁にぶつかった。

ズルズルと背中を壁にすりつけながらその場にペタンと座り込む。

「…はぁはぁ。まぁいいわ。警察のやつらももう大丈夫だろうし…」

「えっ?…警察のやつらも大丈夫ってどういうことだ?」

「ああ…彼らの記憶を消してやったの!」

「記憶を消した?どういうことだ?」

「要は、私達に出逢った記憶の部分だけを消したの。そうすれば追われることもないでしょうし…。

まぁもう一度霄や零の刀を見たら無理だろうけど…」

ルナーは腕組みをして屋根裏の方を見上げる。俺もそれを目で追い、屋根裏に警察がいることを理解する。

すると噂をすれば何とやらで屋根裏部屋の入口が開き、そこから警察の方々が降りてきた。

「我々はここで一体何を?」

「あんたたちは急に事件の捜査だとか言って私達の家に上がってきたの!すんごく迷惑してるんだから

何もないなら帰ってよね!!」

腰に手を当てズイッと顔を前に突き出して警部に強気に言う。

「そ、そうだったのか…それはすまないことをした。そ、捜査は終了だ。ここには何もないようだし、

我々は引き上げるとする!邪魔をしたな…」

そう言うと警部は部下を引き連れて俺の家を後にした。

「……はあ〜すんげぇ疲れた!」

警察がいなくなると同時に全身の疲れが力と一緒に抜けて行き、俺は床に再び座り込んだ。

「そんなこと言ってられないわよ?」

「えっ!?」

「忘れたの?約束したじゃない…あいつらの記憶を消す代わりに女体化してくれるって!」

「そ…それは……その、また別の機会にってことで…ダメ……か?」

「…いいわよ」

「ホント?」

「ウソ!」

「なっ!て、てめぇ!!」

「さぁさぁおとなしく約束通り女体化されなさい!!」

ルナーは不気味な手つきで俺に近寄ってくる。

「い、いやだあああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」

こうして俺の慌ただしい一日は幕を閉じるのだった……。

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