小説『魔界の少女【完結】』
作者:YossiDragon()

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第三十六話「身体測定」

今日は週の始まりである月曜日――学校だ。本来の週の始まりは日曜日…ではなぜ俺は週の始まりを

月曜日と言うのか。理由は単純。休日が日曜日で終わり月曜日から再び学校が始まるからだ。

まぁそんなこんなで今日は身体測定の日。

しかしもう六月の中旬だというのにどうして今頃になって身体測定をするのか。理由はいくつかある。

二つほど挙げるならばまずは一つ目、今年は転校生が多いからだ。まぁ瑠璃達のことも含まれるが。

二つ目は…あれ?ド忘れした。まぁ二つ目はアレだ……なしだ。

現在俺は学校の自分の教室にいる。

「ねぇねぇ響史!体操服とかどうすればいいの?」

「体操服…ってそんなもん―」

俺はそこで口ごもる。そう言えばそうだ。彼女達はまだウチの学園の体操服を持っていない。

あの時校長先生に採寸してもらったのはいいのだが、在庫がないとかで結局あのまま渡されていなかった

のだ。

そのことを思い出し俺は彼女達を連れて校長室へと向かう。



コンコンコン。

ドアをノックする。

「どうぞ!」

相変わらずのオカマ声。見ずとも聴くだけで背筋がゾゾッとする。

ガチャッ。

ドアノブを回し扉を開けると、目の前にはオカマ姿の校長先生の姿があった。

牡蒲満―否、牡蒲未知子校長。彼は元々男だが、今では乙女となっている人物だ。その外見と声から

ありとあらゆる生徒達に毛嫌いされている。俺も多少苦手である。

しかし今回ばかりは用事のため我慢するしかない。

「失礼します…」

「あら神童君…それに水連寺さん達も…今日は一体何の様かしら?」

「校長先生…実は瑠璃達がまだ体操服とか持ってなくて…」

「えっ?まだ渡してなかったかしら…」

校長先生が頬に手を当て首を傾げる。そんなことやったってかわいいなんて思わないぞ!?

と軽く心の中で呟きながら俺は彼―もとい彼女の行動を見ていた。

しばらく腕組みをして考え込む校長先生。すると、考えた末彼女は教頭を呼びつけた。

「嶋鳴先生!!」

「は、はいっ!!」

気の弱い教頭先生が校長先生の声に過敏に反応し、瞬時に校長室へとやってくる。

まるで執事のようだ。

「神童さん達がまだ体操服とかをもらってないらしいの。在庫はこの間届いてたでしょ?渡しておいて

もらえるかしら?」

「か、かしこまりました!みなさんどうぞこちらへ…」

教頭先生が瑠璃達を手招きして奥の部屋へと案内する。



数分後、彼女達がようやく戻ってきた零以外――体操服姿で。何故に!?

「おいっ!何でここでその格好してるんだ?」

「だって急がないともうそろそろ身体測定始まるらしいし…」

「えっ、もうそんな時間なのか!?」

慌てて腕時計の示す時刻を確認する俺。確かにそこには身体測定開始予定時刻の9時が示されていた。

なるほど、なら零が体操服姿じゃないのも頷ける。

というのも、零達中等部の身体測定は別の日なのだ。そのため、体操服姿にわざわざ着替える必要も

ないのだ。

「ヤッベ!俺も着替えないと…!!」

「でも、男子と女子は別の時間帯なんでしょ?」

麗魅が蜜柑色の髪の毛をいじりながら俺に訊く。

「まぁそうだが…。一応先に着替えておかないといけないだろ?それに、亮太郎のやつの話によれば

着替えた後――あっ…いや、なんでもないっ!!」

俺は最後までいいかけたが、そこであることを思い出し慌ててその話を終わらせた。

「怪しいわね…何か企んでるんじゃないの?」

顔を覗き込むように腰に手を当て俺を見上げる麗魅。

―顔が近いって!!


「あの〜…随分と忘れ去られてるけど、あなた達いつまでもここで戯れていていいのかしら?

早くしないともうそろそろ時間よ?」

「あっ、そうだ!おい行くぞ!!」

「ああ待ってよ響史〜!!」

瑠璃が、着なれない体操服をビヨ〜ンと引っ張ったりして遊んでいたため、少し出遅れて校長室を

後にする。

「じゃっ、失礼しました〜!」

俺は軽く礼をし、校長室の扉を閉めた。そして、そこで瑠璃達とは別行動ということで、後は変態だが

しっかり者の霰に任せて俺は1年2組の教室へと猛ダッシュした。急がなければ着替える前に教室から

閉め出しを喰らってしまう。それだけはゴメンだ!



ガララッ!!

俺はすっかり勘違いをしてしまっていた。

そう―男子の身体測定は午後から。即ち着替える必要はないのだ。

「きゃあああああ!!」

「な、何っ!?」

「ちょっ、神童何であんたここにいんのよ!?」

「へんた〜い!!」

「出てってよ〜!!」

1年2組の教室は既に女子更衣室と化していた。次々に物を投げられる俺。はっきり言って校長室へ

行っていた俺が、ここが女子の着替え場所になっているということを知るはずがない。

むしろ知っていたらよほどの勘の良さか、神だ。

だから俺がこのような事態に巻き込まれても致し方ない。

だが、何だろう。昔の俺だったら鼻血ものでその場に失神して倒れてしまっていただろうが、

家での瑠璃達とのコミュニケーションを毎日取り続けていたらいつの間にかそんなもの平気になって

しまっていた。これが慣れというものなのか。まったくもって恐ろしいものだ。

俺は慌ててその場から退散した。

ひとまず俺は廊下をトボトボと歩いていた。1年2組の他の男子連中がどこにいるのか知らない俺にとって、

この広い光影学園の中から彼らの居場所を探し出すのは至難の業だった。

すると、会議室の手前で俺は何かに腕を引っ張られた。

「うわっ!」

気付くと俺は会議室の中にいた。そこには、1年2組の男子だけではなく、他クラスの男子生徒も何人か

いた。2年と3年も一緒だ。

「神童!どこに行ってたんだ?随分と探したぜ?」

悪友こと藍川亮太郎が俺の心配をしていたと言って俺の肩に腕を回し調子づいた言葉を述べる。

この感じ…経験上何か嫌な予感しか感じない。

まさにその予感は的中した。

次に亮太郎の口から発せられた言葉はとんでもない一言だった。

「っつぅわけで、保健室いこ〜ぜ♪」

俺は聞き間違いだと思いたかった。だが、それは聞き間違いではなく本当のセリフだった。

ではなぜ彼は保健室に行こうなどと言い出したのか…。理由は明らかだ。

理由はただ単に女子の身体測定を覗きたいから…。相変わらずの変態精神だ。これはもう才能と思うほか

ない。というか、はっきり言ってこの言葉は既に随分前の時刻に聴いている。

瑠璃達と校長室へ体操服を取りに行く前に。

確かに彼は保健室へ行こうと言っていた。だが、それは着替えた後…しかし彼は着替えてない。

「お前着替えてないじゃん…」

「は?当たり前だろ?先生の話聞いてなかったのか?男子の身体測定は午後から…だろ?」

「あれ、そうだっけ?」

「そうだよ!」

「わりぃ、俺勘違いしてたわ…」

頭をかきながらペコリと軽く謝る俺。

すると彼は半眼で俺を怪しいものを見るような目で見てきた。

「本当にそうか〜?」

「何が言いたい?」

「本当は、保健室で繰り広げられる女子の身体測定のシチュエーションをイマ〜ジンしてたんじゃねぇのか?」

「何で所々英語取り入れてくるんだよ…。ていうかそんなんじゃねぇよ!ただ単に謝ってんだろ?」

「ふ〜ん…」

いまいち信じていない様子の亮太郎。

「はぁ〜…で、何で俺まで行かないといけないんだ?」

俺は嘆息しながら彼に俺を一緒に連れて行く理由を訊いた。

「んなもん決まってんだろ?楽しみというのは共有しないといけねぇ!だからこそ俺の親友(ダチ)として

お前を推薦したんだよ!!どうだ?ありがてぇだろ?安心しろ!そうそう見つからないような特等席を

用意しといたからさ!!」

亮太郎は笑みを浮かべたまま嬉々しながら俺に淡々としゃべり続けてくる。

確かに俺はお前を親友(ダチ)じゃなく“悪友(ダチ)”と思ってるよ?だからと言ってどうして俺まで

そんな死亡フラグビンビンな状況に飛び込んでいかないといけないんだ?

―んなもん一人で行けよ!


と俺は彼にそう言いたかったが、あまりにもこいつの気持ちを無下するのも可哀そうだと思い、仕方なく

のってやることにした。

「お〜さっすが俺の親友(ダチ)!話が分かるぜ!!」

亮太郎はそう言って親指を俺に向かって突き立てた。

俺達は男ばかりでむさ苦しい会議室を後にし、魅惑の保健室へと向かった…。

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