小説『魔界の少女【完結】』
作者:YossiDragon()

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三年の女子達は一斉にそのメタボ男を取り囲んで顔を真っ赤にして胸や下半身に手を当てて隠していた。

そして口をへの字に曲げて眉毛を釣り上げて相手を睨み付けていた。

当の本人はと言うと、よほどの変態なのか睨まれているのに一向にニヤついた顔つきをやめない。

結局その男は女子達にボコ殴りにされて保健室の外へと放り出された。というよりかは、蹴り出された

という方が妥当か…。

―ゴクリ!俺達ももしかしたらああいうことになってたかもしれない…。


そう思うと、冷や汗がこめかみから流れていくのが理解できた。

生唾を呑みこみ、横目で亮太郎を見る。彼もさっきまでニヤニヤしていたが、今の騒動で顔つきが

通常モードになり、さらにその表情を強張らせていた。

「あ、危なかった〜!」

と表情を強張らせたまま胸を撫で下ろし安堵のため息をつく亮太郎。

内心では俺も彼と同様に胸を撫で下ろしていた。いっそのこと、彼女達が身体測定やら発育測定やら

を終えたら、むさ苦しい会議室に帰ろうかとも思っているくらいだ。

しかし懲りないのかそれとも自分はあんなヘマはしない!と思っているのか、亮太郎は次の二年生の

身体測定にも出席するようだ。

―ホント、こいつは生粋の変態だな…。まるで露さんみたいだ…。


そう俺が思っていた時、ふとある嫌な予感が俺の脳裏に駆け巡った。

―そう言えば、二年って確か露さんだった…よな?あの人は可愛い女子なら誰でもいいと来てる。

例えそれが人間であったとしても…。となると―大変なことになりそうだ。


隣で未だに興奮している亮太郎を横目で見ながら俺は無言で、そんなことを考えていた。



そして、三年の女子の身体測定などが終わり二年の女子がやってきた。

本当は俺も隙を見て帰ろうと思ったさ。だが、そううまくもいかなかった。なんとさっきの騒動で

時間が少し延びてしまったせいか、三年の女子と入れ替わりになるように二年の女子が入れ違いで

保健室に入ってきたのだ。

―う、ウソだああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!


声に出して叫びたかったところだが、生憎とそういうわけにもいかなかった。

まぁこんな状況だ、仕方ない。

二年の女子達は三年生と比べてやはり少し幼い雰囲気の残っている女子が多く、亮太郎も俺と同じ意見

なのか隣で同じようなことを呟いていた。しかし、彼はそれだけでは飽き足らずいたらぬことも

呟いていた。

「やっぱ、三年と比べて二年はまだまだ発育途中のやつが結構いるな〜!!」

この一言。隣にいるのが俺ならまだしも、今の発言を他の女子が聞いていたら、即座に彼は血祭りに

上げられていただろう。

「神童もそう思わないか?」

俺に同意を求めてくる亮太郎。

「そうか?中には胸の大きい女子もいるみたいだが…」

「まぁそれはそれだ…。割合的には小さい子が多いだろ?」

「まぁ確かに言われてみればそうだが…」

そう俺が呟いていたその時、近くを青髪の少女が横切った。―露さんだ。彼女は相変わらず長い髪の毛を

耳の少し上の部分で一つにして束ねていた。

しかし、結んでいて尚この長さ。結ばずにいたら地面に髪の毛がつくということだろうか…。

それはある意味見てみたい気もするが、今はそんなことを考えている暇はない。

「おぉっ!?おい神童…あの人は誰だ?」

亮太郎が指さす方を見てみる。それはさっきから俺が見ていた相手―露さんだった。

―そう言えばこいつにはまだ会わせてなかったな…。ん?いや待てよ?こいつをもしも仮に露さんに

会わせたとしたらどうなるんだ?変態コンビの誕生?それはますます危ない!女子が好きな変態と

可愛い女子なら誰もいい変態…。そこにさっきの変態メタボ男も合わせたら変態(バカ)三人…。

略して三馬鹿の誕生じゃないか!!そいつはツッコミが炸裂しまくりしそうだな…。


そんなことを考えていると、亮太郎が俺の顔を覗き込みながら訊いて来た。

「どうした〜神童…。ロダンの考える人みたいにう〜う〜唸りやがって…。さては、美少女が何人もいて

選びきれないとか思ってるんだろう?だが甘いな…俺は1人とか絞らず、全員をチョイスするぜ!!」

「何の話だよっ!!…そうじゃねぇ。ただ単に考え事だ。それよりも何だっけ?」

「だからあの青髪の美少女だよ!あの子悪魔的キャラ…二年の先輩の中にいたっけ?」

―小悪魔…まぁ悪魔であることには違いないのだが…。


「霄達の姉だよ…」

「ぬわぁにぃっ!?じゃあ、あの先輩もお前の従兄妹だというのか!?く〜っ、神童!ますます俺はお前を

殺したくなってきたぜ!!」

「ははは…笑えねぇ…」

俺は苦笑した。彼の目が、完全に笑みを浮かべつつ全く笑っていなかったからである。

「決めたっ!!なんか俺、あの人といいコンビが作れそうだ!!今度話しかけてみよう!!」

「おいやめとけ!それだけはやめとけ!!本当に三馬鹿が誕生しちまう!!」

「ん?何の話だ?」

「あっ、いや…その…何でもない」

「変なやつだな…」

―お前にだけは言われたくない!!


ロッカーの中で語り合う俺と亮太郎。一方で、二年の女子達も身体測定を終えて発育測定をしていた。

と、その時である。「きゃあ」という声がした。てっきり俺は新たな変態でも現れたのかと思った。

だがそれは違った。厳密的に言えば、新たな変態ではなく元々の変態だった…。

そう、露さんである。彼女は相変わらずのスキンシップと言いながら同級生のまだ発育途中の胸を

大胆に鷲掴みしていた。

「きゃっ、ちょっ水連寺さんっ!!」

「いいじゃんいいじゃん!スキンシップだよスキンシップ!!」

「もう〜っ!」

女子同士だから許されるのだろうが、これが相手が亮太郎の様な男だったら完全に死亡フラグものである。

「うぉおおおおおっ!!」

涙を流しながら亮太郎がガッツポーズを決める。

「どうかしたのか?」

「どうかしたって分からないのか神童!あれこそが女子同士だから許されるという伝説のスキンシップだ!!」

―あれ伝説なのか…。


「く〜っ、俺も一度でいいから女になりてぇ〜!!決めた!俺死んで生まれ変わったら絶対に女に生まれて

やるっ!!んで、俺もあんな風に伝説を作り上げるんだ!!」

彼の言葉を聞いていて俺は一つ引っかかる部分があった。そう、一度でいいから女になりたいという

彼の一言。俺は既に一度女になっている。しかも、その姿を亮太郎にも見られた(本人には気付かれてない)。

だが、実際の所女子になったところでいいことなんて一つもない。むしろ、俺の女体化した姿が気に入ったのか

毎度毎度ルナーに頼みごとをしたら、その見返りとして女体化することを求めてくる。

全く持って勘弁してほしいものだ。あれははっきり言って女装するよりも恥ずかしい(経験談)。

そうこうしているうちに、露さんはまた別の女子に背後からまとわりついていた。

相手もよく彼女につきあってくれているものだ。頬を赤らめて目じりに涙を浮かべて…表情も――あれ?

何か少し喜んでるような…。いや、気のせいか?

結局俺はその様子を、隣で溢れ出る鼻血を自分の手で押さえながら、目をオロオロさせて興奮しまくっている

亮太郎と交互に呆れ顔で見ていた。

そして二年も終わった。

とうとう残るは一年生…。よりにもよってこの時が来てしまうとは…。

なぜ俺がこうも一年生に来てほしくないのか。もちろん、知り合いが何人かいるというのも関係しているが、

何よりも一番の問題なのは瑠璃や麗魅達悪魔が大勢いることだ。二年の場合は露さんだけだから、まだ

いいようなものの、彼女達の事だ。必ず何か騒動を引き起こしてくれるに違いない。

そう俺は考えていた。

「なぁ亮太郎…そろそろ戻らないか?」

「何言ってんだ神童!!ここまで来たんだ…今更帰れるか!!それに、俺の一番の楽しみは一年生だった

んだよ!!」

「どうして?」

俺は彼に理由を訊いた。すると

「そんなこと決まってるだろう!!瑠璃ちゃんは麗魅ちゃんはもちろんのこと、俺らのアイドル

タマちゃんがいるからだ〜!!」

「し〜っ!静かにしろって!外に聞こえたらどうすんだ!!」

「おっとすまねぇ…」

「ていうかお前、霊をいつの間にアイドルにしたんだ?」

「は?何言ってんだ神童!今頃そんなこと言ってるなんて時代遅れだぜ!!」

「俺は時代に乗り遅れているのか?」

「ああ…今の時代、この学園に水連寺霊と言われてイコールアイドルって出なかった奴はクソだ!!

この光影学園にいる必要ない!!」

「悪かったなクソで…ていうか、そこまでひどい言われされる覚えねぇんだけど…」

「まぁお前は知らずともいいよな…。タマちゃんとはいつでも会えるんだから…」

「まぁな…」

―家にいるし…。


俺達二人が会話していて一分後に一年生の女子がやってきた。人数も多いのだが何よりも知っている顔ぶれ

ばかりで俺は困惑していた。

見つかったら何ていわれるだろうか…。ここには幼馴染の琴音もいるし、部活の馴染みで玲もいるし

瑠璃達もいる。

うぅっ!想像しただけで身震いものだ。

「おおっ来た来た…キターーーーーーーーーーーーーー!!!」

「だから静かにしろって!!」

俺が慌てて亮太郎の口をふさぐ。

「ん?」

「霄、どうかした?」

「いや…今、ロッカーの方から変な気配を感じてな…」

―やっべぇ!?そうだ、一年には霄がいるんだ…。こいつはアホだが割りと勘の冴えわたるやつだからな。

気を付けねぇと…。ん?待てよ…今思えばそんなにも恐れる必要なくないか…。考えてもみろ…。

まず、瑠璃…のほほんとしている危険さ特になし。麗魅…胸に関することを話すと無性に怒り出す

ツンデレ…だが、特に危険はない。霄…いつも剣を常備しており怒らせると何をされるか分からない。

だが、常識知らずなところもあるため危険さはほとんどない。霊…猫耳に尻尾…キャラ的にはアイドルだと

亮太郎たちにチヤホヤされてるが、彼女自身には特に害なし。霙…すぐに攻撃してきそうなバイオレンスな

少女。だが脳筋バカのためこれも危険なし。霰…普段は霊に近寄ると襲い掛かってくる変態だが、今回は

霊の体操服姿に興奮状態のために周囲のことなど気にしてはいない。そのため危険なし。

ということは総合的に問題ないのか!?


そう考えた俺は少し彼女達を甘く見ていた。事件はまさにその時起こったのである。

突然霄が俺達のいるロッカーに近寄ってきた。

「ま、まさか…バレたのか!?」

「んなわけねぇだろ…。まだ俺何もしてないし…」

「その発言だとこれから何かやる予定のように聞こえるのだが…ってそんなこと言ってる場合じゃねぇ!!」

言い合う二人の外で霄は腕組みをして小首をかしげる。

そして片眉を吊り上げてついに行動に出た。そう、常備していた妖刀『斬空刀』の柄で、ロッカーの

扉を勢いよく着いたのだ。

右から三番目―ではなく四番目の扉を…。

―ってあれ?どうして三番目じゃなく四番目を…。


そう俺が不審に思っていた時の事である。

ガチャッ…。

ひしゃげた扉が倒れ、そこから姿を現したのは「いや〜参ったな〜!さっすが霄ちゃん!まさか

私がいるのに気付くとはこれは恐れ入った!!参りました〜!!」と、満面の笑みで頭をかいている露さん

だった。

―いっ、いつの間に!?


俺と亮太郎はいつの間にか同じ言葉を心の中で叫んでいた。だが、本当にその通りなのだ。二年が

終わった時、確実に全員がその場から退散していた。なのになぜ、彼女がこの場に…しかも俺達のいる

ロッカーのすぐ隣から姿を現したのか…。全く持って謎である。これも悪魔の力なのか…。

そんなことを考えているうちにまた一つ騒動が終わった。

しかし事件というのは連続的に起こる物でまたしても問題が発生した。

「や、やべぇ!と、トイレ行きたくなってきた!!」

と亮太郎の一言…。

「ま、マジかよ!我慢しろよ!もう少しで一年生の身体測定も終わるんだからさ…」

「く〜っ、我慢だ!!」

何とか耐える亮太郎。

すると、一方で瑠璃と麗魅…二人も何やら発育測定のことでもめているようだった。と言っても揉めて

いるのは麗魅が一方的だが…。

「お姉さまには分からないわ!私のこの気持ちが!!」

「どうしたの急に…」

「お姉さまは大きいからいいかもしれないけど…私はその…ち、小さいのよ!」

「そうかな?私も麗魅も身長大差ないけど…」

「身長の話じゃないわよっ!!」

「えっ?違うの?じゃあ、体重?」

「それも違う!!」

「う〜ん…何だろ」

相変わらず天然気のある瑠璃…。なぜ気付かない…。そのことに麗魅も大層ご立腹の様子。

すると、それが災いしてか彼女は怒りのあまり双子の姉である瑠璃を軽く後ろに突いた。それを予期

してなかった瑠璃はそのまま後ろに倒れた。そして丁度彼女の後ろに立っていた霰に彼女の背中が

ぶつかり、霰が霊の体に抱き着くような形になった。

「い、いやあああああああああっ!!」

声を上げグーパンを繰り出す霊。それにより、霰はおっとっととなりながら霄にぶつかった。

「うおっ!」

さすがの霄も少し油断していたのかそのまま倒れかけその拍子に斬空刀を手放してしまった。

同時に斬空刀が宙を舞い、回転しながら弧を描きながら霙の後頭部に直撃した。

「いてっ!」

霙は痛みの拍子に俺達の入っているロッカーに持っていたハンマーをぶつけた。

結構な重量のあるハンマーは扉を蹴散らし、俺達二人の姿が周囲の視線に晒された。

無論次の瞬間響き渡る声は想像がついた。

「きっ、きゃあああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!」

本日二度目の悲鳴。もちろん叫ばれた相手は俺達二人だ。しかも、タイミング悪く発育測定の最中

だったために体操服の上を脱いで下着姿…。彼女達は脱いだ体操服を上から当てるような状態にして

俺達二人に涙目で襲い掛かってきた。

「うわあああああああああああああああああ!!ご、ごめんなさーーーーーーーーーい!!」

俺と亮太郎の二人は慌ててその場から逃げ出した。

しかし、ふと逃げてる最中に隣を見ると、一緒に逃げていたはずの亮太郎の姿がない。

―しまった!おいてきてしまったのか!!って今更戻ってる暇なんかねぇ!!


そう言って結局俺は彼を置き去りにして逃げてしまった。

その後、午後の身体測定の際保健室に向かうと、無惨に荒縄に縛られ亮太郎が天井からぶら下げられて

いたことは言うまでもない……。

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