小説『魔界の少女【完結】』
作者:YossiDragon()

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第三十七話「雪を降らせし少女」

魔界…。瑠璃や麗魅、護衛役の少女達が元々生活していた世界。ここは、瑠璃や麗魅の父親である大魔王

ビジスターが支配者として君臨している。太陽など存在するはずもないため、毎日が夜のような状態。

そのため、必然的に彼らは日光を浴びていないために日焼けもしない。そのため、透き通るような肌が

特徴的となる。また、特徴として十字架や聖水、また聖書などを苦手とする。さらにもう一つ挙げると

すれば、その異常な力(パワー)だ。どれほどの力があるのかと言えば、超巨大なハンマーを振り回す

霙を想像すれば分かりやすい。



大魔王の城、玉座…。玉座に座る多大な威圧感をあふれさせる人物…彼こそがここ―魔界を治める大魔王

ビジスター。牙の様に伸びた八重歯に尖った耳。さらに耳たぶにはピアスをつけている。赤く鋭い双眸。

真っ黒な漆黒のマント。深々と腰かけ偉そうに足を組んでいる辺りからいかにもと言った感じだ。

そんな彼の目線の先には二人の青髪の少年少女がいた。護衛役の二人だ。そう、この二人が残りの二人。

見た目的に二人とも中学生以下と言った感じだ。

「とうとう、お前達だけになってしまったな…。まったく、お前達の兄や姉は何をやっているんだろうな?

全く…お前も生き残っているのが不思議でならんぞ、澪?」

「は、はい…大魔王様」

彼が言う生き残っているのが不思議というのは、彼女が以前神童響史の家に刺客として麗魅と一緒に

訪れた際にしくじった時のことだ。そこで彼女はしくじったために本来ならば死んでしまうはずだった

のだが、運よく響史に助けられたためにまだ生存していた。

「ふんっ…やはり、あれほどのお仕置きではたらんかったか…」

頬杖をつき、横目で澪を眺める大魔王。その口元は明らかに緩んでいた。

「おねえちゃんには手を出さないでください…」

「ほう…言うな。ならば、今回の刺客にはお前を向かわせよう!行け…。いいか?しくじればどうなるか

は解っているな…」

「分かってます…」

二人の少年少女の内の一人、少女の方がコクリと縦にゆっくり頷く。彼女は大魔王の威圧感に

押しつぶされることなくその場に堂々と立っていて、それだけで見た目は子供でも中身は大人のような

感じがした。

「気を付けるのよ?」

「分かってるよ…おねえちゃん」

姉の澪にそう答える少女。

「ゆ〜たん…」

「心配いらないよ…。わたしは大丈夫だから」

そう言って笑みを浮かべ少年の頭を撫でる少女。どうやら、“ゆ〜たん”というのは少年が少女につけた

あだ名の様な物らしい。

こうして少女は姉弟に見送られて魔界を出発した。



人間界…神童響史達人間が毎日平和に生活している世界。ここもある人物が治めて支配しているのだが、

その人物はまだ明らかになっていない。



「うっ…うぅ〜んっ!!」

俺は今日も、また夏の暑さと人口密度の暑さによってうなされ起きた。周囲をなぜか美少女悪魔に

囲まれるというこの現実…いや非現実。だが、これが現実に起きているのだから恐ろしい。

しかも、メンバーの殆どが元々俺を殺しに来た刺客というのだからもっと恐ろしい。しかも、さすがに

十数人と寝ていたらベッドも耐えられないし、この夏の蒸し暑さで俺も耐えられない。

なぜ彼女達悪魔がこんな暑さに耐えられるのかは知らないが、俺はとにかくこの状況を打破しなければ

ならない。

そのためにはまず、俺の上にのっかっているというよりも抱き着いてきている少女をどけなければならない。

体を密着させハグするような感じに乗っかっていて、その上顔が俺の真横にあるため顔を動かして

誰なのかを確認するという作業が行えない。体格的にも小柄なため恐らく護衛役の少女―即ち水連寺

一族の九女である霖とは思うのだが…。

「お、おい…霖?すまないが起きてくれ…。動けないし、学校に行けない!」

「う…う〜ん…」

唸って体を少し動かすだけで起きようともしない。なぜ悪魔というのはこんなにも起きる時の動作が

遅いのだろうか。それとも、朝が弱くて起きられないのだろうか。

だが、それは違うと思う。第一、もしもそうだとすれば普段の学校生活は一体どうなるのだと矛盾が

生じるからだ。

すると、隣から声がした。

「あんたってさぁ、どうしてそうやっていつも女の子とイチャイチャするの?」

「なっ、何言ってんだ?明らかにこれ、一方的だろうが!!第一、これのどこがイチャイチャしている

って言うんだ!!」

その声の主は口調からも分かるが、双子の悪魔の姫君の一人―麗魅だった。

「あんたが今触れてるのどこか分かってる?」

「えっ…俺が今触れてる?…ん?何だこのあるようなないような感じの柔かさは…」

俺はその手が触れている感触に疑問符を浮かべながら呟いた。すると、隣から殺気を感じ動かない

頭をゆっくりと横に動かし殺気の方を向いた。そこには、鬼の形相で俺を睨み付け、

「あるようなないような感じの柔らかさで悪かったわねっ!!」

と俺の顔面に向かってグーパンを決めようとしている麗魅の姿があった。

「うわぁっ!ちょっ、待て!!」

俺は反射的に手でそのパンチを受け止めた。同時に凄まじい衝撃が俺の手から全身に駆け巡る。

「いって!」

俺は彼女の手から手を放し、慌ててベッドから出ようとした。しかし、霖がガッシリ俺にくっついて

身動きが取れない。そうしている間にも、麗魅は第二撃の準備をしていた。

「やばいっ!!」

俺は霖を体にくっつけたままベッドから死にもの狂いで脱出した。瑠璃達の体を踏まないようにしながら…。

「待ちなさいっ!!殺してやる!!」

「ちょっ、待てって!!霖もいるんだぞ?」

「安心なさい…当てないように考慮するから…」

「器用だな!!」

「ふっ、私を誰だと思ってるの?私は悪魔の姫君なのよ?これくらいの力加減くらいあるわよ!」

「何だかルナーみたいだな…」

俺は彼女のその口調と、偉そうな態度がまさにルナーのようだなと彼女と麗魅のイメージを重ねた。

「うっさい!とにかく観念なさい!!顔の原型が残らないくらいにまで殴ってあげるから!!」

彼女は笑顔を浮かべていた。しかし、顔は笑っても心は笑っていなかった。

「や、やべぇ…や、やめろ…うっ、うわあああああああああああああああああああああああああああ!!!!」

こうして今日も俺は慌ただしい一日を迎えた。



俺達は学校に行くために制服に着替え、朝食を済ませていた。時刻は7時ちょっと過ぎ…。

このくらいの時間から朝食を摂っていれば、学校に遅刻などということはない。下手なことを

しない限りは…。

「ねぇ…お兄ちゃん、その顔どうしたの?」

向かいの席に座っていた霖がイチゴジャムを塗りたくった食パンにかぶりつきながら俺に訊いた。

「ああ…ちょっとな…」

「この変態が私の胸触ってきたの…ううん、触ったなんてもんじゃないわ!揉んできたのよ!!」

「朝から盛んだねぇ〜響史くん!」

露さんが頬に手を当て少し頬を赤らめながら俺を見つめる。

「ち、違いますよ露さん!!ていうか揉んでねぇし、第一揉めるくらいの大きさねぇだろ!?」

「言ったわね!?いいわ…決めた!あんた、そこに正座なさい!!今すぐに制裁を与えてあげるから!!」

そう言って彼女はその場に立ちあがった。

「まぁまぁ二人とも落ち着いて?それに、急がないとまた学校に遅刻しちゃうよ?」

「お、お姉さまがそう言うなら…。今日のところは勘弁してあげるけど、次やったらただじゃおかない

からねっ!!」

「へいへい…」

俺はそう彼女の言葉を流して、食パンを流し込もうと牛乳を一杯飲んだ。



「しーんどーーっ!!」

相変わらずのハイテンションで俺に話しかけてきたのは変態男こと―藍川亮太郎だった。

「どうしたんだ?そんなにテンション上げて…」

「何ってそんなもんいつもと変わんねぇだろ?てか、俺よりもお前の方がどうしたんだよ!!」

「ん?何が?」

「お前…鏡で自分の顔見た事あるか?」

「何だよ…改まって」

「随分青がゲッソリしてるぞ?顔色も悪そうだし…昨日、夜遅くまで何かしてたのか?」

「べ、別に…特には……何も」

「ん〜?怪しい…さてはお前!!瑠璃ちゃんや麗魅ちゃんと夜中の一時を満喫してたんじゃねぇだろうな〜!?」

亮太郎が怪しい物を見るような目つきで見てきたため、机にベタ〜ッと寝そべっていた俺はガバッと

上半身を起こし、亮太郎に言った。

「んなわけねぇだろ!!?第一、何で俺があいつらと…!!」

「お前!!あんなに可愛い二人の妹を認めねぇってのか!!?あ、ありえねぇ!!俺だったら即OKだぜっ!!」

「俺とお前じゃ感覚が違う…。ていうか、そもそも理由が違うって言ってんだろうが!!」

「じゃあ何だってんだ?」

腰に手を当て俺を見下ろす亮太郎。再び俺は机に寝そべり彼に言った。

「いや〜…何ていうか、そのいろいろあるんだよ…。もう毎日が疲れるっていうか…」

「毎日女子に囲まれてるお前の言う事は凡人の俺にはわっかんねぇな〜!!」

「そうだな…」

「そこは何かフォローしてくれよ〜!!」

「だから今はそういう気分じゃねぇんだって…」

亮太郎の気分と今の俺の気分は全くの真逆の状態にあった。

―ていうか、何でこいつこの間の身体測定で制裁を受けたのにピンピンしてんだ?まぁこいつは

そういう男だから仕方ないかもしれないが…。


そう自分で納得した俺はふと廊下の方を見た。すると、三人の男子が亮太郎を呼んでいた。

「おい亮太郎…お前のこと呼んでるみたいだぞ?」

「ん?おおっ!情報屋のやつらじゃないか!!そうか…例の“アレ”についての件だな?今行く!!」

―例の“アレ”?アレとは一体何のことだ…?まぁ今はそんなことどうでもいいか。ていうか、あの

三人の男子生徒は情報屋なのか…。要はあいつらからいろんな情報を得てるってわけか…。


俺はそんなことを半眼で見ながら考えていた。そして、だんだんと日頃の疲れが眠気に変わり睡魔が

俺を襲ってきた。俺は特に抵抗もせず睡魔に身を任せ昼休みの教室で寝てしまった。

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