小説『魔界の少女【完結】』
作者:YossiDragon()

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「…くん。神童くん!!」

俺は俺を呼ぶ声で目が覚めた。眠気眼を擦りながら、伏せていた顔を上げる。俺の目線の先には

うちの学校のスカートが映った。

―女子か…。瑠璃達か?


そう考えながらさらに顔を上にあげると、そこには相変わらずの笑顔で俺に接してくる雛下琴音の姿が

あった。

「どうした雛下?俺、眠いんだけど…」

「もうつれないな〜!昔みたいに“琴音ちゃん”って呼んでもいいんだよ?」

彼女は、昔俺と一緒に遊んでいた時の様な口調で喋っていた。二、三ヶ月前までは全く知らない相手と

喋るみたいな絡みの仕方だったのに、どうして急に昔の様な口調に戻ったんだ?

と俺は疑問に思った。とどのつまり、彼女と俺は幼馴染なのである。そのため、俺の弟の亮祐と雛下の

弟である健太もよく一緒に遊ぶことが多い。ちなみに、今現在亮祐は彼女の家に泊まっている。

しかも、未だに帰ってこない。

「それは昔の話だろ…ていうか、用がないなら俺二度寝したいんだけど…」

「もうそろそろ昼休み終わりだし…教えてあげようかな〜と思って!」

「ふ〜ん…。用はそれだけか?」

「ひっどいな〜…用が無かったら話しかけちゃダメなの?」

頬を膨らませ俺を見つめてくる雛下。

と、その時、急に雛下が表情を変えて俺に質問してきた。

「あっ、そういえば…。ねぇねぇ神童くんってさ、瑠璃ちゃんや麗魅ちゃん以外に妹っているの?」

そう言われた瞬間なぜか、脳裏に

(お兄ちゃん!)

と満面の笑みで俺を見つめてくる霖の姿が映った。

「いや…いねぇけど…」

―ていうか、瑠璃や麗魅もホントの妹じゃねぇしな…。まぁ義理ってことになってるみてぇだから

関係ないか…。


「そっか…。じゃあアレだれだったんだろ?」

再び耳にするアレ…。何故だろうか。アレと言われると必然的に気になってしょうがなくなってくる。

さっきの亮太郎も然り、今目の前にいる雛下も然り。

「アレってなんだ?」

「ああ…。実はこの間、お母さんに頼まれておつかいに行ってた時のことなんだけどね?ほら、今

神童君の弟…えっと、あっそう亮祐くん!が、私の家に泊まってるじゃん?」

「ああ…」

俺はコクリと相槌を打った。

「それで、中央公園で弟の健太と亮祐くんが遊んでたの…」

「別に何の問題もなさそうだけど…」

「最後まで聴いて!!ここから先が問題なの…。実は、その光影中央公園で遊んでたのはその二人だけ

じゃなくて、もう一人を含めた三人だったの!」

「三人?もう一人って…誰なんだ?近所の友達か?」

「それだったら私にも分かるよ!でも、あの子はどこでも見た事のない子だった…。冷たい表情を

していて、そうまるで雪みたいな…。しかもその子、棒付きキャンディー舐めてた!」

「棒付きキャンディー舐めてたら怪しいのか?」

「怪しいってわけじゃないけど…。本当その子普通の子には見えなかったの!!髪の毛も水連寺さん

達みたいに青かったし…」

雛下の話を聴いていた俺は、後半部分の言葉を聞いてまたしてもガバッと上半身を起こした。

「おい今何て言った!?」

俺はガシッと雛下の両肩を両手で掴んで彼女の栗色の双眸を見つめる。

「あっ…えっ、あの…」

彼女は突然俺に詰め寄られ顔を紅潮させて必死に俺から視線を逸らした。

そして一分くらいしてから彼女はボソッと

「あ、青髪の女の子…」

と答えた。再びその言葉を聞いて俺は脱力して椅子にストンと座った。雛下は片方の手にもう片方の手を

重ねるようにして心配そうな顔で俺を見ていた。

「あ……。う、嘘だろ?」

―まさか護衛役が!?どうして…確か護衛役は残り二人…。でも、どうして俺じゃなくて亮祐に接触

する必要があるんだ!?待て…既に長女や次女など上の方は埋まってしまってる…。ってことは、今回の

刺客は霖よりも下…即ち十女ってことか!?まさか、子供だから俺じゃなくて亮祐を襲うつもりなのか!?

そんなのダメだ!!何とかしないと…。


俺は机に肘をつき、頭を抱えた。さっきまで眠たいなどとほざいていた俺の様子が急にガラリと変わった

ことに不審感を抱いたのか、雛下が俺の顔を覗き込むようにして訊いてくる。

「大丈夫?顔色が悪いけど…。そんなに気になるんだったら、今日放課後にでも私が様子を見て来て

あげようか?」

気を使ってくれているのか彼女は俺に優しく訊いてきた。

「じゃあ、頼めるか?」

―まぁ確かに、もしかしたら人違いかもしれないし…。第一、護衛役じゃなくても青髪の人だっているんだ。

生徒会の水滝先輩とか…。


そう俺は自分に言い聞かせ、彼女に任せることにした。



放課後…。

私は神童君に頼まれて(というか自分で積極的に行ってきてあげると言ったのだが)、光影中央公園に

来ていた。

そこには、亮祐くんと弟の健太と神童君に話した女の子がいた。

やっぱり、口に棒付きキャンディーを頬張らせている。しかも、その女の子の瞳は髪の毛同様海の色の様

に青かった。

―綺麗な子だなぁ〜…。


そんなことを頭の中で考える私。女の子は私の目をじ〜っと見つめたまま一言も喋らない。

健太と亮祐くんはそんな彼女はほったらかしにして二人で談笑していた。

「あなた、名前は?」

私はふとそんなことを彼女に訊いてみた。すると彼女は、口に頬張っていた棒付きキャンディーを取り、

冷たく凍えるような声で話した。

「…雪」

雪…。確かにそう聞こえた。まさに、この女の子の容姿や雰囲気…その口調、何もかもがその名前に

ふさわしかった。夏だと言うのに、ここに来た瞬間寒気がした。それも、もしかしたらこの子のせい

かもしれないとも私は思った。

「雪ちゃんは、どこから来たの?」

私は膝に手を付き少し身をかがめて、少女―雪ちゃんに訊いた。

「遠いところから来た。ていうか、お姉ちゃんにそんなこと話す必要あるの?」

冷たい口調で言う小柄な少女。その眼は少しも笑っていない。

「い、いや…」

少し戸惑う私…。

と、その時、雪ちゃんが急に私の胸を触って、いや揉んできた。

「っひゃあ!!」

予期せぬ彼女の行動に、私は思わず悲鳴めいた声を上げてしまった。

「…ふっ」

気のせいかもしれない。だが、一瞬私には彼女が笑ったように見えた。でも、彼女は顔を俯かせていた

ために、その真偽が確認出来なかった。

「お姉ちゃん…胸小さいね」

その一言を聞いた瞬間、私は多大なショックを受けた。私は顔を真っ赤にして雪ちゃんに対して注意

しようとしたが、その前に弟の健太が口を開いた。

「おい雪!姉ちゃんに何てこというんだ!!姉ちゃんはこれでもすんごく気にしてんだぞ!?毎日毎日、

風呂上りに牛乳飲んだりして日々努力してんだからな!!」

「ちょっ、健太やめてよ!恥ずかしいっ!!」

両手で顔を覆い、今の表情が分からないようにする私。

―ていうか、健太…それ、フォローになってない!!


と心の中で呟く私。

「少なくとも、私のお姉ちゃんよりかは小さいね…」

「う…うぅ、ひ…ヒドイよ〜!!」

私は堪えられなくなった悔し涙を目じりから零しながら180度ターンした後、腕を目に当てて

その場から逃げ出した。

「く〜っ、お、覚えてろよ!姉ちゃんは必ずボン、ボン、ボン!!でお前を見返してやるからな!!」

―健太…それじゃあ太っちゃってるじゃん…。普通はボン、キュッ、ボンッ!!でしょ…。


などと、泣きながら冷静だった私は思った。



光影中央公園に残された二人…。少年―亮祐と、少女―雪。亮祐は自分の少し前に立っている少女を

見つめていた。

「雪ちゃん?」

「うん?」

「いや…その何でもない。あっ、そろそろ帰らないと…もうそろそろ六時だ…」

公園に設置されている時計の時刻を確認し、家に帰ろうとする亮祐。

しかし、その彼の行動を雪が止める。

「あなたが帰る必要はないよ?」

「えっ?」

亮祐の頭上に疑問符が浮かぶ。一方で棒付きキャンディーを咥える雪。

「どういうこと?」

「あなたはこれから私に殺されるんだから…。そのために二人きりにしたんだしね…」

少女はさっきとは違い、何かを企んでいるかのような意味ありげな笑みを浮かべている。

雛下琴音がいた時に浮かべていた冷たい表情が、不気味な表情へと豹変する。

「神童響史…。私はあなたを殺す!」

「えっ!?」

刹那―困惑した表情が一変して驚愕の表情に変わる。同時に彼は口を開いた。

「…僕の名前は神童亮祐で、響史じゃないよ?」

「…え?」

「だから、僕は亮祐…。響兄ぃは僕のお兄ちゃんだよ!」

「ど、どういうこと?あなたは神童響史じゃない?」

「うん…」

「でも、この写真には…」

「ちょっと見せて?」

雪の持つ写真を渡してもらい写真に映った人物を確認する亮祐。そこには彼には少し似ていたが、

瞳の色が違う青年―神童響史つまり、亮祐の兄が映っていた。

「やっぱりこれ僕の兄ちゃんだよ…」

「そ、そんな…ひ、人違い?」

「第一、僕の瞳の色は黄緑…。兄ちゃんはエメラルドっぽい感じの色だよ?」

亮祐にさらに言われ、最初の時とは全く異なりすっかり少女らしい顔つきになる雪。同時にあたふた

し始めるその様子は、少し幼げな感じがした。

「まぁ、人違いなんてよくあるし…」

さりげなくフォローする亮祐。

「う…うぅ。ま、まぁいいよ。雪の完璧な計画が少し狂ってしまったけど、それは少し修正すれば

いいだけのことだし…。というわけで、改めて―神童亮祐!あなたには雪の人質になってもらうよ!」

「え、えぇ〜っ!?」

彼女の言葉に亮祐は驚きの声を上げた。

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