小説『魔界の少女【完結】』
作者:YossiDragon()

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「す、水連寺雪って…ことは…ご、護衛役!?」

〈何を今更驚いてるの?分かってたことでしょ?…雪は護衛役…姫様を守る役目を担う者…。ならば、

その使命は姫様を悪者の手から守り抜くことだよ!〉

「悪者はそっちだろうが!!」

〈何を言ってるの?悪者はそっちだよ…。雪からお姉ちゃんやお兄ちゃんを奪ったクセに…〉

「何だって?」

前半部分は声が通っていて俺の耳にもちゃんと聞こえていたが、後半部分は声が小さくて上手く

聞き取れなかった。

〈まぁ、細かいことは会ってゆっくり話そうか…。まずは今の現状を教えてあげる〉

「な、何だ?」

〈さっきも言ったけど、亮祐くんは雪の人質になっている…。そして人質になってるということで、

彼には氷漬けになってもらってるから…〉

「な、氷漬けだと!?そんな…死んだらどうすんだ!!」

〈だから急いだ方がいいんだよ…それに、弟思いのあなたなら、そうした方がきっと速いだろうなと

思って…。雪もまどろっこしいのは嫌いなんだよね…暗くなったら良い子は帰らないといけない…

そうだよね?だから、雪もお家に帰らないといけないの…。もちろん、姫様やお兄ちゃんお姉ちゃんを

連れて……ね?〉

「くっ!あんなところに瑠璃やあいつらを帰させたりしない!!あんなところに帰ればあいつらは大魔王に

酷い事をされるだけだ!!それだけは何としてでも防がないといけねぇ!!」

〈へぇ〜…弟思いの優しい人…それでいて本物の悪魔よりも悪魔っぽいと言われてるあなた…。でも

どちらかというと優しい人っていう方が強そうかも…〉

「それでどうすりゃいいんだ!?」

〈まぁまぁそう焦らなくても大丈夫だよ…そうだね、じゃあ……今の時間は分かる?〉

「えっ?…んと、午後六時十分くらい…か?」

〈それじゃあ今から二十分…つまり午後六時半までに光影中央公園に来てもらえるかな?亮祐くんと

一緒に待ってるからね?いい?二十分までに来なかったら、この子は死んじゃうから…忠告は…したよ?

じゃあね〜…待ってるよ…〉

そう言い伝えると彼女は通話を切った。

どうすればいいんだ?六時半までに光影中央公園…。行けないと言う事はないが、途中に障害がないとも

限らない。しかし動くしかない。時間は止まってはくれないのだ。待ってろよ亮祐!

自身の心に語りかける俺。そして俺は腕を大きく振り、目的地であり戦いの場となる場所へと向かった。



俺は呼吸を乱しながら、時間通り六時半までに公園に到着した。肩で息をし、膝に手をつき呼吸を

整える俺。呼吸が随分と楽になってきたところで、俺は俯かせていた顔を上にあげた。

そこには青髪に青眼の少女―雪と思われる人物がいた。その後ろには氷漬けにされた亮祐がいる。

端から見れば氷漬けにされている…ヤバイ!と思う人もいるかもしれないが、俺的にはそれ以前に矛盾に

思う部分がある。それが今の季節のことだ…。今の季節は―夏。即ち暑い…。それだというのに、どうして

冬の代名詞でもありそうな雪―それも氷なんかが、一番日中に陽の光を浴びて熱くなっていそうな公園の

地面の上に氷を作り出せるんだ?

すると、俺が脳内に疑問符をたくさん思い浮かべていることに気付いたのか少女が口を開く。

「ようやく来たね…。どうやら、亮祐くん同様…夏なのにどうして氷を形成出来るのかって不思議に

思ってるみたいだね…」

この声…どうやら彼女が護衛役の水連寺雪であることは間違いないようだ。まぁ、亮祐を捕らえてる

時点で理解は出来るのだが…。彼女は手をふりかざすと、冷気を放出し始めた。その冷気は一気に

公園全体を包み込んだ。

「どう?寒気がしない?それとも身震いもの?」

「な、何を言ってんだ?」

「あれおかしいな…。効いてないの?じゃあもう少し気温下げていこっか…」

そう言って彼女は、さらに冷気の出力を上げた。どうやら彼女はさっきから冷気を放出していたらしいが、

最近俺は感覚が鈍くなってしまっているようで、今くらいの出力でようやく「うぅ、寒っ!!」と認識

出来るくらいの物だった。

「どうやら感覚が鈍ってるみたいだね…」

「!?」

彼女は俺の心でも読めるのか?いや、そんなはずはない。もしくは女の勘と言われる第六感か?いや

しかし、この年齢で既に使いこなせるとは…。まぁ今はそんなことどうでもいい。それよりもまずは、

亮祐の安否の確認だ!

「おい雪!」

「馴れ馴れしく下の名で呼ばないでよ…」

「えっ?…じゃあ、雪ちゃん…?」

「何か…キモい…」

―ええ〜っ!?そっちが雪って呼ぶのがダメっていうから「ちゃん」を付けただけなのに…。そこまで

言われるのか?


「…じゃあ何て呼べばいいんだよ!」

「…雪で」

「結局そのまんまかいっ!!」

俺は会ってまだ間もない彼女に対して鋭いツッコミをかました。

「で、亮祐はどうやったら返してくれんだ?」

「それは簡単…雪を倒せばいいんだよ」

「な…に?」

一瞬困惑してしまった。しかし、彼女の口から出た言葉は容易に想像出来たことなのだ。なぜなら、

彼女は護衛役。主を守る彼らは主のためならば命を捨てることも厭わないのだ。

だが、その考えは俺は間違っていると思う。第一もしもそうだとしたら、人の命を軽く見ている主なんかが、

仮に護衛役にちょっと死んでみて!と言われたとしよう。そうなれば彼女達は潔く腹を切るということ

になる。そんなの俺には我慢しきれない。彼女達の様な、自分とあまり歳の変わらない少女達が訳の

分からない主のために死ぬなんてのは間違ってる。

「ていうか、そもそもお前らは瑠璃や麗魅の護衛役なんだろ?だったらどうして大魔王の指図を受ける

必要があんだよ!!」

「澪姉ちゃんのためだよ…」

握り拳を作る俺に対して彼女はそう答えた。

「澪の?」

俺は首を傾げる。一体どういうことなのだろうか…。澪と言えば一ヶ月前か何かで俺んちに、麗魅と

一緒に刺客としてやって来た護衛役だ。まぁその結果は俺に敗北したわけなんだが…。その際に彼女に

かけられていた魔術が作動。それによって刻印を受けていた澪は、危うく死にかけて生死の境を

彷徨うはめになったのである。それもまぁ俺が助けた訳なんだが…。俺は彼女に残るよう勧めたのだが、

妹達のことが心配だからと魔界に戻ってしまった。

「そう…大魔王様にいじめられてるの…」

―はっ!そういうことか!!俺の恐れていたことが現実に…。そう、罰を受けているのだ。任務をしくじ

ればそれは何かしらの罰が待っているということ…。即ちそれが彼女にも執行されたのだ。

にしても大魔王のお仕置き…。一体どんなものなのだろう。考えただけでも身の毛がよだつ。


そんなことを考えていると、雪は急に俺に襲い掛かってきた。

「ぬわっと!!急に何しやがんだ!?」

「先手必勝だよ…」

「油断も隙もねぇ…」

ふとついさっきまで俺がいた場所を見ると、地面がピキピキッと音を立てて凍りついていた。

あっぶねぇ…危うく俺もああなるところだった。

「そろそろ始めようかな…さて、じゃあ行くよ神童響史」

ボソリそう呟くと、彼女はギュンッと一気に俺の近くに急接近してきた。

「くらえ」

同時に俺の目前をキラリと冷たい物が横切る。俺はマトリックスの様に背中を反らしそれをかわした。

「っぶねぇ!!ったく、ウカウカしてらんねぇな!!」

「余裕ぶってるの?」

「違うわ!これでも必死なんだよ!こうなったらこっちも武器展開するぜ!!」

「武器?…人間が武器を持ってるのなんて初耳だけど…」

目をキョトンとさせて動きを止める雪。

「だったらしかとその眼に焼き付けな!!行くぜ、妖刀『夜月刀』!!」

「!?」

彼女は目を見開かせて驚いていた。それほどまでに俺の剣にビビッたのか?それとも何か他の理由が

あるのか…どちらかは分からないが、とにかく一つだけ言えること―相手は強い。

「行くよ」

再び接近してくる雪。俺はそれを軽くあしらい、相手の背後を取ると幼い女の子を切るというのは

不本意だったが、彼女に向かって剣を振るった。しかし、それを彼女に受け止められる。

同時にもう片方の手で俺の顔に彼女の小さな手が触れかけた。

「うわぁっ!!」

まるで気味の悪い物を避けるかのように彼女の手から離れる俺。その理由は至って単純…、彼女の氷漬け

攻撃を受けないようにするためだ。一瞬、一瞬だったが確かに彼女の手が俺の顔に触れかけた時、微かな

冷気を感じた。間違いなくあれは俺に向かって氷漬けの攻撃を放とうとしていた証拠だ。

それだけは勘弁だ。氷漬けにされれば、恐らく少しも微動だに出来ず、相手に殺られるだろう。

現に氷漬けを受けている亮祐も、瞬き一つせず瞳も動かさずにただ一点だけを見つめていた。

と、その時、俺の足に何かが巻きつけられ俺はそれに足をすくわれてズッコケた。同時に地面に顔を

強打してしまう。

「いっつつ…」

俺が赤くなった顔を押さえながら前を見ると、そこには真っ白な雪で出来たかのような鞭を持っている

雪の姿があった。

「なっ…む、ムチ!?」

「そう…。これはムチ…これであなたをビシバシ叩いてあげるよ」

「いや、それは…何か別の扉を開きそうで怖いんだけど…」

「大丈夫…心配ないよ?」

「いや…満面の笑みで言われても何のフォローにもなってない!」

畏怖して後ろに下がる俺をよそに、彼女は何かを企んでいるかのような笑みを浮かべて鞭をピシッ、

ピシッと音を立てながら同時に左右へ引っ張った。

「うりゃ」

「ひぃっ!!」

鞭を振るう彼女に、それから逃げる俺…。ヒラリ、ヒラリと身を翻してそれをかわす俺だが、体力的にも

限界はある…。だんだんと疲れが溜まり、結果的には―

バシッ!!

「いってぇえええええええ!!!?」

俺は背中にモロに一撃をくらい、背中を擦りながら制服が汚れるのもお構いなしに公園の地面を

転げまわった。

「いていていていて…いってええええええええええええええええええ!!!!!な、何なんだよこの異常な

痛さは!!ムチって、こんなに痛いもんだったのか!?」

ムチの恐ろしさ…また、これを「気持ちいいっ!もっとやってください女王様!!

ブヒィィィィィィ!!!」と言って頬を赤く染めて喜ぶM男の恐ろしさを改めて再認識する俺。

「くっそぉ!こうなったらこっちも反撃だぁ!!」

そう言って俺は涙目で剣を握り、片足を踏み込むと相手の間合いに入り込んだ。

「なっ!?」

驚愕の表情を浮かべる雪。しかし俺は構わず一発斬撃を―と思ったが、ギリギリの所で彼女は真っ白な

雪のようなムチを盾代わりにして自身の身を守りぬいた。

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