小説『魔界の少女【完結】』
作者:YossiDragon()

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「ちっ!!」

確かにかわされたが、相手の武器はなくなった。これで相手に攻撃が出来る―そう思っていた。

しかしそれはただ単にそれは俺の勘違いだった。雪はニヤッと笑みを浮かべると俯かせていた顔を

上げ、正面を向いた。同時に正面から突っ込んでくる俺と目が合う。俺は構わず剣を横薙ぎに振るう。

ガキィィィィィン!!

金属音が聞こえた。何故だ!?彼女の体には鉛でも埋め込まれているのか…。恐る恐る目を開けるとそこには

俺の剣が銃で防がれていた。

「ば、バカな!?さっき武器は破壊したのに…しかも、今度は拳銃!?」

「二丁拳銃だよ…。これであなたを撃ち殺してあげる」

―笑顔で言われても嬉しくない。


そんなことを想いながら俺は剣を再び構える。すると、彼女は二丁拳銃の銃口をこちらに向けてきた。

「くっ!?」

「鉛玉…でもいかが?」

彼女はそう呟くと同時に引き金を引き、同時に二つの銃口から銃弾を放った。

俺はそれを何とかかわしたが、ギリギリだったために銃弾の一つが俺の頬をかすめた。シュッと横に傷が

出来、たら〜っと赤い血が細い線を作りながら俺の頬を垂れる。それを手の甲で拭い取る俺。

「やったな…」

「かわした…か。じゃあ次は何にしようかな…」

まるで何かを選んでいるかのような言葉。それが何を意味しているのか俺には理解できない。

と、その時、瞬時に雪がその場から姿を消した。目を見開き周囲を探す俺だが、彼女の姿はどこにもない。

刹那―俺のみぞおちに衝撃が走った。

「ごばぁ!!」

俺は不意打ちをされ、身構える事も出来ず口から吐しゃ物を吐き出した。

「ぐうっ!?な、何だ?」

「これでも倒れないんだ…。少々厄介だね…」

そう言うと今度は背後から何かの殺気が…。慌てて後ろを振り返るとそこには両手で長い槍を構える

雪の姿があった。

「そ、その槍…はっ!ま、まさか!?」

「今更気づいても遅いよ…」

ヒュンッ!!

「うわっと!」

俺は身を反らして槍での突き攻撃をかわすと、二、三歩後ろに下がった。

「…なるほど。鞭に銃、拳に槍…そう来るってことは…次は長剣か?」

「わぁ〜お、どうやら気付いたみたいだね…ご明察。そうだよ、これはお姉ちゃんやお兄ちゃん達の

武器なんだ…」

「だが、どうしてそれをお前が使えるんだ?」

「これは雪の雪の力で作り出した武器なんだよ…。だから本物じゃない。でも、ちゃんと機能は

果たすんだ…。そのおかげで攻撃も可能になる」

「じゃあそれがお前の武器なのか?」

「うん…」

「お前自身の武器はないのか?」

「……ない。雪に合う武器なんて…この世にはないんだよ」

「合う武器が…ない?どういうことだ?」

俺は悲しそうに顔を俯かせる雪に訊いた。彼女はゆっくりと口を開いて言った。

「悪魔は成人の悪魔になると儀式を行った後にそれぞれ個人の武器を持つことを許されるの」

「えっ!?でもあいつらやお前は成人じゃねぇだろ?」

「人の話は最後まで聴いて…」

―人じゃなくて悪魔だけどな…。


苦笑いしながら心の中でツッコむ俺。

「例外があるの…」

「例外?」

「うん…例外というのが、雪達のような悪魔。既に成人の悪魔の魔力を持ち合わせている者のことを言うの。

元々悪魔が武器を持つのには二つ理由がある。一つは将来護衛役になって主を守ることになる場合…。

武器を持ってないと主を守れないからね…。まぁたまに特殊能力などを武器にする悪魔もいるみたい

だけど…。そして二つ目が魔力を抑えるため」

「魔力を抑える?」

疑問符を浮かべる俺。彼女はハァとため息交じりに言った。

「悪魔の魔力は膨大…。でもまぁ他の領土に足を踏み込めば、過去に作られた制度の『ストッパー』が

作用して力を抑え込まれるんだけど、雪の様に武器を持っていない者や、武器を持っていても自分の

魔力を制御できな者が時々力の暴走を起こすの」

「力の暴走?」

「何ていうのかな…風船に空気を入れるでしょ?その風船には入りきれる空気の量が決まっていて、それ

以上入れようと破裂してしまう。それと同じこと…要は空気が魔力のこと、風船がその魔力の母体って

ことだよ。母体が破裂することをイコール…力の暴走だと考えてくれればいいよ」

う〜ん、よく分からない。とりあえず、成人の魔力を持っている人は武器を持ってないと魔力を抑えられ

ないということは何となく理解できた。だが、だとすれば特殊能力者はどうなるんだ?

「なぁ、さっき言ってたけど特殊能力を持っているやつは武器を持ってないんだろ?その場合は

どうするんだ?」

「人間にしてはいい質問だね…」

―ほめられたのか?それともけなされたのか?


「特殊能力者の場合は、必然的に空気中に魔力を散らせているから平気なの…。雪達の様に武器所有者とは

違う体質でね…。だから、あっちのことは何にも心配する必要はない。例えバカ凄い魔力を持ち合わせて

いたとしても…ね。それで話を戻すけど、雪は武器を持ってない。だから必然的に力の暴走が

起こりうる可能性があるの…。そして雪には合う武器がない…」

「その合う武器がないってどういうことだ?」

「成人を迎えた悪魔…もしくは、成人の魔力を持った悪魔にはそれぞれの相性にあう武器が渡されるんだけど、

雪にはその武器がなかったの」

「どうして?」

「雪の魔力が異常に高すぎたから…」

「つまり、武器に入りきる魔力の限界量を越えてるってことか…」

「そういうこと…かといって、雪には特殊能力者みたいに空気中に魔力を分散させる力が無い」

「ちょっと待てよ…じゃあ、今までお前はどうやって戦ってたんだ?」

「悪魔には使い魔などの従えることの出来る者がいるんだけど、雪の場合その使い魔を使ってるの」

「使い魔にその魔力を抑えてもらってるってことか?」

「ちょっと違うかな…厳密的に言えば、半分の魔力しか抑えてもらってないの…」

「じゃあ後半分は?」

「抑えられない…」

俺は何となく理解した。つまり雪は武器を持たず、さらに特殊能力者の様に空気中に魔力を分散させる

力もない。だから力の暴走が起こりやすい。でも、彼女には使い魔がいてその使い魔に魔力を抑えこんで

もらっているということ。即ち、さっきまでの彼女の攻撃は全てその使い魔を利用してでの攻撃だった

とうことだ。しかし、手から発しているあの冷気は一体どういう仕組みなんだ?

解決すると同時に新たな疑問が生まれる。俺は彼女に更なる質問をした。

「じゃあさ、お前はどうやって手から冷気を放出してるんだ?」

「これは…雪の体温だよ」

「た、体温?」

「雪の体は普通の悪魔と違って物凄く低いの…。0℃を下回ってる…」

「それって氷が出来る温度じゃん!あっ、そうか…それで亮祐を氷漬けにしたりしてるのか…。

じゃあ、その武器は?その武器はどうやって形成してるんだよ!」

質問を繰り返す俺に対し回答を繰り返す雪。

「これはさっきも言ったように使い魔を介して魔力を空気中に出してもらって、そこに雪の力を流し

こんでるの…」

何だか頭がゴチャゴチャしてきた。ああもういい。とにかく俺は彼女を倒さなきゃいけない。

そう改めて決意した俺は彼女に向かって剣を構えた。

と、その時である。

ドクンッ!!

脈動が俺にも聞こえる音量で聞こえた。

「な、何だ!?」

「うっぐっ!こ、これは…ど、どうして?ただでさえ人間界にいることで魔力にストッパーがかかってる

はずなのに…」

「ど、どうしたんだ?」

「ち、…力の暴走が…」

「な、何だって!?」

雪の体から凄まじい冷気が放出され始めた。なるほどこれが力の暴走か。って納得してる場合じゃない。

このままでは周りにも被害が出る。

「くそ…俺はどうすればいいんだ!?」

「ぐっ!あなたには関係ない…!これは雪と雪の力の問題!関係ない人は下がってて」

そう言って蹲り出す雪。しかし、俺も近づこうとするものの凄まじい魔力の気迫と冷気、さらに威圧感が

俺をそれ以上前に進ませなかった。さらに彼女の足場から、円形に地面が凍りつき始めた。

どうやら相当な力の量のようだ。

「まずい…亮祐にも被害が!!」

俺は何とか腕で目をガードし、先へ進む。

「来ないで!!」

彼女から罵声を浴びせられた。

「ど、どうしたんだよ…」

「うるさい…うるさいうるさい!あなたには分かんないよ!!雪の気持ちなんか!!雪だって本当は武器を

持ちたかった!でも、魔力が多すぎてそれが叶わなかった。こんな魔力さえなければ!!」

そう叫びながら彼女は蹲ったまま宙に氷の礫を形成する。

「な、何してんだお前!?」

「人間に悪魔の気持ちなんか分かんないよっ!!」

そう言うと彼女は叫び声を上げながらヒュンッ!!と勢いよく氷の礫を俺に向かって投げてきた。

「くっ!!」

俺は夜月刀を高速回転させてそれを防御した。しかし、防御する代わりに気迫と冷気、威圧感によって

再び後ろに押し戻される。

「くっそ〜!!」

俺は防御することなど完全無視で彼女の元へ足を進めた。さらに冷気などの威力が強まる。

「ぐうぅ〜!!」

「来ないでーー!!」

同時に氷の礫が俺に向かって飛んでくる。しかし、防御を捨てた俺に防御する術はなく無抵抗の体の

あちこちに氷の礫の鋭利に尖った先が突き刺さった。

ブスブスブスッ!!

「っぐ!!!?」

あちこちから激痛が走る。だが、彼女はそれ以上に苦しんでいるに違いない。

俺はようやく彼女の元に来た。そして彼女に声を掛けようとする。

「お、おい…ゆ―」

グサッ!!

刹那―俺の腹に勢いよく何かが刺さった。それは氷の剣だった。そう、雪が蹲っていた体を突然起こし、

俺に向かって剣を突き刺したのだ。剣は俺の背中から突き出ている。それほどまでに刀身が長く、

深く俺の腹に刺さっているのだ。

「ごばっ!!」

俺は血反吐を吐き、口の端から血が垂れる。

「う…っ!」

俺は苦しみながらも彼女の体を抱きしめた。

「しっかりしろ!大丈夫だ!!お前は寂しかっただけなんだ!!姉や兄を俺に奪われて独りぼっちで

寂しかったんだろ?だから、同じように俺から家族を奪おうと亮祐を人質にした!確かに姉や兄を

お前から奪ったのは悪かった。それは謝る。でも、それはあいつらに酷い事をされないようにするため

だったんだよ!!」

「う、うるさい!嘘だ嘘だ!!」

そう言ってさらに剣を差し込んでくる雪。

「ぐっ!…本当だ!現に俺は澪にも声をかけたんだ。けどあいつはそれを断った。それに、あいつは

大魔王にお仕置きを受けてるんだろ?もしも俺が霄達を人間界(ここ)に引き留めてなかったら、あいつら

も澪と同様のことをされてたかもしれない!そう考えたらよかったと思わないか?」

「う…そ、それは…」

「正気を取り戻せ!!力の暴走なんかに負けてんじゃねぇ!!魔力を制御しきれない?自分に合う武器が

ない?ないなら作ればいいじゃねぇか!!安心しろ、お前もこっちに来れば姉や兄にいつでも会える!

魔界に居た時のように、一人で悲しむ必要もなくなるんだ!だから戻って来い!!」

「うっ…くっ…き、響史…おにい…ちゃん」

彼女はそう呟くと同時に、氷の剣を消した。俺に刺さっていた鋭利物がなくなり、俺は少し痛みが減る。

さらに、彼女は涙を流しながら俺に抱き着いてきた。

「ご、ごめんなさい…ごめんなさい!あなたの言うとおり、ホントは寂しかっただけなの。お姉ちゃん

やお兄ちゃんがいなくて…遊んでもらえる相手がいなくて…うぅ、ホントはこんな風にお姉ちゃん達にも

抱きしめてほしかった!!うぅ…うわあああああああん!!」

彼女は涙を流しながら俺の肩に顔をこすり付け泣き出した。そんな彼女を俺は無言で抱きしめ続けた。

抱きしめていても彼女の体はすごく冷たかったが、それ以上に彼女の心はもっと冷え切っていたかも

しれない。そう思うと、これくらいのことはへっちゃらだと俺は思った。

こうして、俺と雪の戦いは終わりを告げたのだった……。

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