小説『魔界の少女【完結】』
作者:YossiDragon()

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次の日の朝…。

俺は夏に突入しようとしているこの時期に掛け布団まで掛けて寝ていた。…理由は至って単純。―雪が

いるからだ。本人によると、何でも彼女の体温は0℃以下だとかで相当な冷たさを誇っている。そのため、

彼女に抱き着かれている俺は掛け布団を掛けてぬくぬくの状態にしておかないと凍死してしまうのだ。

しかも珍しいことに、雪が来てからここ最近霄達が俺のベッドで寝くなくなった。ありがたいのは

ありがたいのだが、こう冷たいと逆にあいつらがいたほうがもっと暑くなってよかったかもしれない。

と思うようになってしまう。

ふと時刻を確認する俺。

「もうこんな時間か…」

今現在俺のベッドには俺と雪と霖と瑠璃、麗魅の五人…。親方こと大工の木ノ下さんにベッドもリフォーム

してもらっているため、この人数だと逆に大きく感じてしまう程だった。

「そろそろ起きねぇとな…」

上半身を起こすために無理やりにでも雪を引きはがす俺。

「…ん…ぉ、お兄ちゃん…」

「お、起きたのか?」

「…ぅん、むにゃむにゃ…」

「何だ寝言か…ビックリさせんなよ」

【よっ!】

「うわあああああああああああああああああああああああっ!!!」

【しーっ!雪ちゃんが起きちゃうだろ?】

背後から喋りかけてきたのは、冷凍の氷竜ことエアリスだった。

「急に話しかけてくんなよ、ビックリするだろ?」

【もうビックリしただろ?】

「うっさい!てか、お前俺の部屋にいたのか…つーか、まだ召喚解いてなかったのか?」

【いいだろ別に…君には関係のないことさ…】

「はいはい…そうかよ。そうだ…そろそろ着替えねぇと…おい、瑠璃…麗魅起きろ!」

「…うっさいわね…殺すわよ?」

「…こっわ!寝言で恐ろしいこと口にしてんじゃねぇよっ!!」

麗魅から寝言で恐ろしいことを言われ、思わず後ずさる俺。

しかし、こんなところで引き下がってちゃいられない。

「おい起きろ!ほら、瑠璃も!!」

俺は左側に寝ている麗魅だけでなく、右側に寝ている瑠璃も起こそうと体を揺さぶった。

「…っ…ん、ふえっ?」

寝ぼけているのか、瑠璃は眠気眼を擦りながらゆっくり体を起こした。

「瑠璃は何とか大丈夫そうだな…ほら麗魅!さっさと起きろって!!」

「うっ…ん…う〜ん!」

小さい子が駄々をこねるように唸り声を上げ威嚇する麗魅。こうなったら強硬手段だ!

俺は彼女の寝ていて無防備な姿を見ると、両手を彼女の体に伸ばし――脇腹辺りをこれでもか!と

言うくらいくすぐった。

刹那―ガバッ!と飛び起きる麗魅。同時に彼女は目に涙を浮かべながら身をよじりだした。

「きゃはははははっ!やっ、やめてっ!くすぐったい…くすぐったいって!やめて…やめっ…ちょっ、

やめてって……やめろって言ってんでしょーがっ!!」

最終的にはやめてと言ってもやめなかった俺に怒ったのか、彼女は俺を殴り飛ばした。

「ぶべらっ!!」

そのまま俺はベッドから出て部屋の地面に背中を強打した。

「いっててて…」

ゆっくり体を起こす俺の目の前に仁王立ちして腕組みする寝間着姿の少女―麗魅の姿が!しかも、くす

ぐられたことか、それとも寝起きは機嫌が悪いタイプなのか彼女はすごく怒っていた。

「何でそんなに機嫌悪そうなんだ?」

「あんた信じらんないっ!女の子の脇触ってくるなんて変態よっ!!」

「起きないお前が悪いんだろ?」

「起きてたわよっ!」

「じゃあ何でさっさと体を起こさなかった?」

「そ、それは…その…あの…ごにょごにょ」

俺の質問に、さっきまで優勢だった彼女が急に勢いを失くして口ごもり、小声で何かを呟く。

「何だって?」

「だ、だからその!…あ〜もう何でもないわよバカっ!!」

ガチャッ!…バンッ!!

そう言って麗魅はプンスカ頬を膨らませて扉を開けて俺の部屋を後にした。俺は肩をすくませ分からないと

言ったジェスチャーを取った。

【何とも言えない姫様だな…。あれが瑠璃姫の双子の妹君なのだろう?】

エアリスが一部始終を見ていた感想を俺に呟く。

「ああそうだ…」

【とてもそうだとは思えないな…】

「まぁ、顔も髪の毛も瞳も同じだし、双子の姉妹だということは解るんじゃね?」

【…の割りには、あの姫君は瑠璃姫と比べて胸が少し足りないような…】

「ば、バカっ!その言葉を口にするのは禁句――」

俺がそう言い掛けた時だった。

ババンッ!!!

さっきよりも勢いよく俺の部屋の扉を開け放ち、殺意のオーラを多大な魔力と共に全身に纏わせた麗魅が

現れた。

「今何か言った!?」

「言ってない言ってない言ってない!!」

「…ふ〜ん、あっそ!」

バンッ!

一瞬怪しい物を見るような目で見て来たものの、どうやらバレてはいないようだ。危なかった〜。

「…なっ、言っただろ?」

【そ、そうだね…】

エアリスも今の麗魅の気迫に少し気圧されたのか、声がビビッていた。



「さて、弁当食べるか…!」

俺はプール授業前の昼休み時間に弁当を食べようとしていた。

すると、亮太郎が俺が弁当を食べようとしていた所にやってきた。

「おい神童!例のブツは持ってきただろうな?」

「ブツ?」

「バッキャローっ!!ブツっつったら水着に決まってんだろーが!」

「ああ水着ね?はいはい…持ってきましたよ…」

俺は亮太郎にそう伝えると手始めに玉子焼きを食べようと口を開けた。

と、そこへ今度は真剣な面持ちで、学級委員長こと雛下が、俺にベラベラといろいろ話している亮太郎を

突き飛ばして俺に話しかけてきた。

「神童くんッ!!」

「は、はいっ!?」

「ちょっと聞いてよっ!私、昨日神童くんに頼まれて光影中央公園に行ったんだけどさっ!」

彼女―雛下の表情には怒気と少々の恥辱があった。一体何があったというのだろうか?

「何があったんだ?」

「それが…、その例の青髪の女の子に胸を触られた――いや、揉まれたのっ!!こんな風に…」

そう言うと彼女は俺の食事中の、箸を持っている手とは反対の手首を取って自信の左胸に運んで自ら

揉ませた。

―!?…な、なななっ!?


「ちょっ、お前何で自分の胸触らせてんのっ!?」

「どんな風に揉まれたのか分からないと思って……」

涙目になりながら震える声でそう呟く雛下。いや、どんな風に揉まれたっていうか今お前の胸触った

せいで俺の心臓の鼓動音がバクバクなんですけど!!

すると、その状況を見ていたのが亮太郎だった。彼はスックと立ち上がって俺に向かって文句を言った。

「ぬわああっ!!神童っ、お前だけズリィぞ!!委員長、俺にも揉ませてくれぇえええええぇっ!!!」

「い、いやあああぁあああああああああああっ!!!!」

ドゴッ!!!

鈍い音が響き渡り、亮太郎が吹っ飛んでいく。てか、女の子がグーパンか…。痛そうだなありゃ…。

「…ぁ、かっ……か、かん…む、りょ…う…っ…カクッ!」

―りょうたろぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!ま、まさか…死んだ?いや、こいつに

限ってそれはないだろうが…。


その時だった。この間も俺達の教室にやって来た男子生徒三人が再びやって来た。

そして、またしても亮太郎の名前を呼ぶ。

「おい亮太郎…ダメだ。全然ビクともしねぇ…こりゃ、完全に逝っちまったか?」

俺がそんな縁起でもないことを呟いていると、教室内に入ってきた男子生徒三人が横たわる亮太郎を

グルッと囲みしゃがみこみボソボソッと何かを呟いた。

刹那――スックと亮太郎がその場に立ちあがり、「うおおおおおおおっ!プールだ、水着だ、青春だぁあああ

ああああああああっ!!」と、声を張り上げて亮太郎が完全復活を果たした。

同時に、昼休み終了のチャイムが鳴り響く……。

ついに、プールの授業が開始されるのだった……。

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