小説『魔界の少女【完結】』
作者:YossiDragon()

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第三十九話「プール開きの悲劇」

現在の時刻…12:40……。これより、体育の授業――プールが始まる。水着を家から持ってきた男子や

女子がプール道具を持って更衣室も設置されているプール室へと向かう。

ここ――光影学園には様々な施設も完備しており、教室棟などのある本館にはそれ以外に食堂やホール

などもある。また、北館には旧校舎…。西館には先程のプール室…。東館には体育館…。南館には

中庭などの自然豊かな物が存在する。

現在俺は亮太郎と一緒にプール室へと向かおうとプール道具を探していた。瑠璃達は女子のため、雛下に

任せることにした。ドジな部分が多々ある彼女だが、いざという時には本領を発揮して本当に委員長並の

力を出してくれる。今回はそれを是非とも出して欲しいものだ。

ふとプール道具を探している手を止めた俺は、亮太郎に「どうした?」と様子を訊かれて口を開いた。

「やべぇ……亮太郎、どうしよう…」

「何かあったのか?」

「……プール道具がねぇ…」

「な、ななななあぁああにぃいぃぃぃいいいいいいいっ!!?」

忘れた本人である俺以上に、亮太郎はオーバーリアクションをしてくれた。

「どうすんだよっ!それじゃあ、俺と一緒に女子のプールでの泳ぐ姿を拝むという約束が――」

「そんな約束した覚えねぇぞっ!!!」

俺は激しいツッコミをかました。

「まぁ、それはおいといて…マジどうすんだ?もう授業始まっちまうぞ?水着に着替える必要があるから

って、体育教師の『織田 剣吾郎』が集合時間を50分に設定してくれてるとはいえ……もう後十分程度

しかねぇんだぞ!?」

亮太郎が腕組みしながら俺に今現在の時刻を伝える。

「くっそ〜…こんな時、ド○え○んの秘○道○で、『取○寄○バ○グ』みてぇなのがあったらいいん

だけどな〜…そんな科学の進んだ科学者みたいなのがいるわけないし――って、いるっ!!」

「ん?どうした神童?」

「わりぃ亮太郎!先に行っててくれ!すぐに戻ってくる!!」

あることを思い付いた俺は、疑問符を浮かべている亮太郎を先に行っておくように言って、公衆電話へ

と向かった。

緑色の受話器を取り、カードを挿入口に挿入する。そしてツーッという音が聞こえたところで、俺は

携帯を家に忘れていたので自分の電話番号をプッシュしていった。

ピポパポ!…プルルルル!プルルルル!

独特のプッシュ音が鳴った後に発信音が流れ出す。しばらくして、誰かが電話に出てくれた。

「あっ、もしもし俺だけど?」

〈は?俺俺詐欺?〉

「ちっがーーーーーーーう!!俺だ俺、響史だよ!!って、その声はルナー?」

〈……そうだけど?〉

少し間が開いたのが少々気になったが、今はそれどころではない。しかも、本人が出てくれれば俺としては

好都合だ!

「あのさ、お前に実は頼みたいことがあるんだけど…」

〈ふ〜ん…何かしら?〉

「何か企んでないだろうな?」

ルナーが何かを企んでいるかのような不気味な喋り方をしてきたので、少し不審感を抱いた俺は警戒

しながら相手に訊いた。

〈もっ、もちろんよっ!!〉

「それでさ…実はプール道具、家に忘れちゃってさ〜…今からプールの授業なんだよ!だから、その…

出来ればプール道具持ってきてほしいな〜…みたいな?」

〈それが相手に頼む態度?」

「いやホント、今そんな冗談にかまってる暇ないんだって!!体育教師の織田はメッサ怖い先生なんだぞ?

お前は知らないからいいかもしれないけどさ!」

〈うん…知らないわよ?〉

「とにかく、持ってきてくれよ!」

俺が必死にルナーに懇願していたその時だった。

カツカツと誰かが背後から歩いてくる足音が聞こえてきた。しかも、俺がルナーに懇願した声が

自分の口と、後ろから聞こえたのだ。

「ま、まさか――」

嫌な予感を感じ取りながら後ろをギギギ!とゆっくり半眼の眼差しで振り返る俺…。

そこにいたのは、自慢げな表情を浮かべ腰に手を添えもう片方の手に俺の携帯を持って自身の耳に

当てているルナーだった。相変わらずの白衣姿に細く白い首から垂れているアクセサリーと作業用

ゴーグル。おまけに、頭にはレンズ部分が四角い形をした赤縁のメガネ…。もう既に白衣がチャーム

ポイントと化してしまっている。また、その小柄な体に似合わぬサイズの白衣のため、少し屈むと

普通に地面に白衣の裾が着いてしまう程だった。そして一番俺が納得がいかないのが、小柄で童顔の

この少女――ルナーの胸が異常に大きいことである。何よりも、瑠璃より大きいのが不思議だった。

カツカツと靴底から鳴る音をわざと出しているかのように、俺の目の前にやってくるルナー。

しかも、彼女が背負っているのは青地に白い線がいろいろ入っている防水性のバッグ――俺のプール道具

だった。

「はい!」

ムスッとした顔で頬を膨らませ口をへの字に曲げたルナーが、俺に半ば強引にプール道具を押し付けてくる。

思わず俺は感動してしまった。何よりも、俺がプール道具をここに持ってきてくれと頼む瞬間にプール道具を

持ってきてくれたのが俺の心をブルブルッと動かした。

「お、お前…わざわざ持ってきてくれたのか…!あ、ありがとう!!」

俺はあまりにもの感動に冷静な判断力を失ってしまい、目の前に立っているルナーを抱きしめてしまった。

「ちょっ!は、離してよ!ていうか、勘違いしないでよねっ!べ、別に…頼まれたから持ってきたわけ

じゃないんだから!!」

と、ツンデレ発言…。これはまた様々な要素が含まれていること…。

「じゃあ何のためにここに来たんだ?」

「ちょ、ちょっと用があったのよ!!」

「ふ〜ん、まぁいいや!じゃあありがたくこれは受け取るぜ!!マジサンキューな?あっ、それと真っ直ぐ

家に帰るんだぞ?あまり校内をウロチョロされちゃ困るからな!!」

と、俺は彼女に念を押した。すると、彼女は顔を真っ赤にさせて文句を言ってきた。

「な、何よっ!そんなこと分かってるわよ!!小さい子じゃないんだから、いちいち言われなくても

いいじゃないっ!!」

「いや…実質、チビだろ?」

「なっ、ち…ちちちちチビなんかじゃなーい!!」

そう言ってルナーは、腕で顔を覆いながら踵を返して走り去ってしまった。

「まぁ、あれだったら真っ直ぐ帰るだろう…。よしっ、急いで水着に着替えねぇと!!」

独り言を呟き、俺はプール室へと急いだ。



プール室へと到着した俺は男子更衣室への扉を開けた。

ガチャッ!

と音を立てて開く扉…。その先には、男子共が声を荒げながらいろいろと変態発言をしていた。

「おっ、神童!随分早かったじゃねぇか!!まさか、本当にド○え○んに頼んだんじゃねぇだろうな?」

変態発言している男子生徒の群れの中から、変態の一人――もとい、亮太郎がやっていた。

「んなわけねぇだろ?第一俺は、の○太じゃねぇよ!!」

と、俺は軽く冗談半分に受け流す。

「てか、急げよ神童?早くしねぇと織田が来ちまう!!」

「ああ、そうだな!!」

亮太郎に言われ俺は急いで水着を着用した。

「ん?」

「どうした?」

「いや…しばらく見ない間に、お前も随分と逞しい体つきになったな〜ってな!」

「…やめろよな、そういう危ない発言は…どこで誰が聴いてるか分かんねぇんだからさ…」

「おーっ、そうだったな!思わず腐女子を喜ばせてしまうところだったぜ!!」

「いや…腐女子だけとは限らないけどな…」

俺はそんなたわいもない会話をしながら水着を着用し終え、更衣室を後にした……。



男子が男子更衣室から出てプールへと向かうと、そこへ女子もやってきた。

同時に歓声を上げだす男子生徒と、汚らわしい物を見るような眼差しを向け出す女子生徒。

すると、プール室の中に二人の教師がやってきた。男子の体育教師『織田 剣吾郎』先生と、女子の

体育教師『北斑 秋奈』先生。

「お前ら何をやっとる、早くプールサイドに並んで準備体操を始めないか!」

織田先生が俺達男子生徒にそう言い放ち、腕組みをして仁王立ちする。その声にビビッた俺達は、急いで

プール最後の右側へと向かった。

ちなみに、女子は左側だ。蛇足だが、このプールは半分で両側に分けられていて、毎年クジでどちら側を

どっちの生徒が使うかを決めている――なぜかは知らない。それにより、今年は右側が男子、左側を

女子が使うことになったのである。

「では、準備体操を始めるぞ!女子もラジオ体操の音に合わせて体操しろ!いいな?」

『はいっ!』

女子の気合の入った声。昼休みなどのテンションとはまた違った空気を感じる。

そして、ラジオ体操のBGMが流れだし準備体操が始まった。

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