小説『魔界の少女【完結】』
作者:YossiDragon()

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〈ラジオ体操第一〜♪〉

とラジオから曲と一緒に声が流れる。右側には男子生徒が、左側には女子生徒がずら〜っと左右に広がって

ラジオ体操をする。すると、俺の隣でラジオ体操している亮太郎が話しかけてきた。

「なぁなぁ神童!」

「何だよ…?」

「やっぱ水連寺さん達姉妹って、瑠璃ちゃんや麗魅ちゃんに負けず劣らずの美少女だよな〜!何よりも

あのキメ細やかな白い肌…。ツヤツヤの青い髪に、青空の様に青く美しい青い瞳…。だが、俺的には

やはりあの胸がたまんねぇ〜!!」

「へいへい…」

「うぉおおおいっ!!なんだその反応は!?神童らしくねぇ!」

「俺らしくないってどういうことだ…」

「特に体操する度に揺れるあの胸…。霄ちゃんにいたっては水着で胸を押さえられてねぇもん!サイズが

合ってないんじゃねぇか?」

「えっ?まぁ…そう言われてみれば……」

俺は亮太郎に言われてふと霄を見た。なるほど確かに彼女の水着はサイズが合ってないような気がする。

だが、そんな俺にはお構いなしで亮太郎はさらに話を進めていた。

「いや〜それにしても、どうしてお前の知り合いはこうも美少女揃いなのかね〜?」

「さ、さあな…」

亮太郎が言うところによると、俺の知り合い…まぁつまり瑠璃達悪魔や雛下のような幼馴染、玲の様な

部活のよしみのことを言っているのだろうが、瑠璃達はともかく雛下達の事は昔からの付き合いのためか、

ずっと一緒にいるからなのか美少女かどうかは俺には判断出来なかった。

と、その時である。織田先生が亮太郎が浮かれて鼻の下を伸ばしているのに気付いて声を荒げた。

「くぅおらぁあああああっ!!藍川〜!何を浮かれておるかっ!!」

「げっ!織田!?」

「か〜つっ!!“織田”ではなく“織田先生”だろうがぁ!!」

凄まじい声量。言い過ぎかもしれないが、プールの水面が少し水の波紋を作っていたように見えた。

そう、つまり空気が振動して水を波立たせていたのだ。まさに凄まじいの一言に限った。

「俺はただ女子の健康な体つきを見ていただけであります!!」

「それはただの変態の発言だ!!」

―先生、それはご最もです!


と俺は思いながら半眼で隣の亮太郎の反応を見ていた。しかし、亮太郎は負けじと言い返す。

「変態で何がいけないんですか先生!男は皆、欲望に飢えた狼です!肉食系なんです!!俺のことは

放っといてください!!」

「いんや、ますます放ってはおけなくなった!!このまま貴様を放置していたら、間違いなく女子を

食うに決まっておる!!教師としてそれだけは防がなくてはならんっ!!」

織田先生はそう言うと、まるでハンターの様に指先をピンと伸ばして、猛ダッシュで亮太郎の元へ

駆けだした。

それを見た亮太郎は慌てて警戒態勢に入る。

「うおおおおおおおおおっ!!」

大声を上げてこちらに猪の如く猪突猛進してくる織田先生……。俺はそれを何とか回避した。そして、

そのまま織田先生の勢いは留まることを知らず亮太郎の方へ――。

ガシッ!!

一瞬だが、俺には亮太郎が織田先生を逆に拘束しているように見えた。いや、しかしそれは見間違いでは

なく事実であり現実だった。亮太郎が、あの剛腕と巨体のムキムキの体つきをしている織田先生を拘束

しているではないか!?俺は夢か幻でも見ているのかと自身の頬をつねった。

―痛い…。


夢ではなかった。となると、やはりこれは現実……。何と言う事だ。変態とは、いざというときには変態

パワーを出して強い教師をも超越してしまうものなのかと俺は思った。

「ぐっ!藍川、貴様何を?」

「フッ!愚問だな先生!!変態であるこの俺を止められると本気で思ってるんスか?それは大きな勘違い

だぜ!!くらえ、藍川流…秘技、『変態ジャーマンスープレックスF』!!」

謎の必殺技を叫び、亮太郎は先生の体に自身の腕を巻き付け、そのまま自身の体を後ろに…ブリッジの様に

反らした。同時に先生の体も後ろに持っていかれ、先生は頭をそのままプールサイドの硬い地面に強打した。

「ぐおおおおおおおおおおっ!!!」

織田先生は苦痛を叫んでいるのか、怒声を上げているのか声を張り上げるとそのまま気を失ってしまい、

亮太郎が手を離すと同時にドスンッ!!と大きな音を立てて、プールサイドに仰向けで大の字に倒れた。

「うおおおおおおっ!変態の勝利だ〜!!」

「おおおっ、亮太郎があの最強とも言われた織田を倒したぞ〜!!」

「すっげぇ、さすがは変態の王だ!!」

「いやぁ〜それほどでも〜♪」

と、亮太郎は他の男子に貶されてるとも知らずに、頭をかいて照れ隠しをしていた。

―マジこいつバカを通り越してアホだ…。


とか俺は思いながら女子の反応を見ていた。――全員ドン引きだった。

軽蔑的眼差しを向けてる奴。青ざめて怯えてる奴。悲鳴を上げてる奴。とにかく様々だった。

一方で北斑先生の方を見てみると……額に手を添え、やれやれと言った感じだった。どうやら先生も

亮太郎(こいつ)は相当手を焼いているようだ。まぁ、問題児だしな……。

しかし、さすがに耐え兼ねたのか、北斑先生が動き出した。

「こらー!藍川君たち!!今は授業中ですよ?しかも先生に暴力はいけませーん!!」

怒り方がまるで幼稚園児相手の様な感じだった。注意を受けてしょんぼりするはずが逆に恥ずかしく

なってきたりする。

「こいつらがそんなことで反省するはず――」

そう思い彼らの方を振り向いてみると……。

『すんませっしたー!!』

と声を揃えてお辞儀する男子生徒(俺以外)がいた……。

―反省してたー!!?


俺は心の中で度肝を抜かれていた。

「えええっ!?お前ら、そこ謝んの?言い訳するとか反論するとかないの?」

「いや〜っ!あんな先生の必死に怒ってる姿見てたら思わず惚れちまいそうでさ〜!」

「俺なんかさっきから鼻血が止まんねぇよぉ〜!!」

などと亮太郎ほどではないが変態である、クラスメートの飯島や池神が涙を流しながら熱く語り出す。

完全に俺は嘆息しながら呆れていた。先生も先生で納得してるみたいだし……。

と、そんな時だった。ふと先生が俺達男子生徒から女子生徒のある女子に視線を移した瞬間、目が釘付け

になってしまっていた。一体誰を見ているんだ?と俺が先生の視線に合わせて視線を動かしてみると、

そこには相変わらずじゃれあっている霊と霰がいた。

―あいつら一体何やってんの!?しかも先生めっさ挙動不審な感じで見てるよ!?気付け、気づけ〜!!


必死に念を送るものの届くはずもなく二人はそのままじゃれあいをしばらく続けていた。

しかし、ただじゃれあっているだけなら普通に他の女子もやってるはず……。では、一体あの二人のどこに

先生は目をくぎ付けにされたのだろう?そんな疑問が生まれ、俺はその疑問を解決しようと二人を

じ〜っと眺めた。すると、ある一点で俺も思わず目の動きを止めてしまった。あまりにもアウトすぎる

だろ!というものを霰――ではなく霊が身に着けていたからである。

それは――猫耳と尻尾だった。そう、霊は人間ではなく悪魔であり猫なのだ。そのため、猫耳と尻尾が

あるのは仕方がない。普段の学校生活ではパーカーの様なもので隠していたが、最近は普通に警戒を

解いてしまっているため何人かの教師にも怪しまれていた。だがその反面、その猫耳と尻尾……さらに

霊自身の美貌に中てられた男子生徒共が、たまLOVEファンクラブなるものを立ち上げてしまった。しかも

最悪な事に、そこの会員NO.1なのが変態王――藍川亮太郎その人なのである。それにより、その

ファンクラブを潰そうとしてもなかなか潰れないのである。なにしろNO.1であるあいつのタフさは目を

見張る物があるからな……。ファンクラブも潰しても潰しても何度も再復活を果たして活動を始めちまう。

霊自身にも意見はないのかと訊いてみたが、「ええ〜?私のファンクラブがあるの?ふ〜ん、まぁ…

いいんじゃない?私は別に構わないよ?」などと明るく答えていたため、恐らく自覚はない。

そして、俺がそんなことを考えている間に先生が霊達のところへ向かい始めていた。

―まずい!何か変な事でも口走らなきゃいいけど……。特に霰が。


密かにそんな心配をしながら俺はその様子を見守りながら訊く耳を立てていた。

「ちょっと水連寺さん?」

『はい?』

北斑先生に呼びかけられ霊と霰の二人が振り返る。まぁ二人とも水連寺だから仕方がない。

「えっ、あ…あの霊さんの方……」

「何ですか〜?」

首を傾げて笑みを浮かべ訊いてくる霊。先生はすぅ〜と一度深呼吸し、真剣な面持ちで口を開いた。

「その猫耳と尻尾は何なんですか?授業に不必要な物を持って来たり身に着けたりしてはいけません!!」

あくまでも教育的指導――のつもりだった。北斑先生はあろうことか霊の猫耳に触れてそれを取ろうと

しだしたのだ。それがまずかった。

グイイイッ!!

「いたいいたいいたいっ!痛いよ〜!!ふえぇえええんっ!!」

「かああああああああああっつッ!!!お姉さまに狼藉を働く不届きもの目があああああっ!!」

霊の悲鳴に目を光らせて防御態勢に入り始める霰。相変わらずの霊好きと見える。

「な、何なんですか?私はただ、その猫耳と尻尾を取ろうと…」

「取れるかぁああああああっ!!お姉さまの耳を取るとおっしゃるんですの?それは即ち、耳を切れ!と

言っているようなものですの!!あなたは鬼ですの?」

「耳を取る?それはつけ耳でしょう?第一、本物の耳ならそこに生えてるじゃないですか!!」

と、北斑先生が霰に反発して霊の青い横髪に隠れた耳を指さす。

「これはあくまで仮のような物…。真の耳はこちらですの!!」

―そうだったのか〜…。


と納得する俺。ってそんな納得をしてる暇はない。注意してみてないと霰が先生に何をしでかすか

分かったもんじゃない。

「霰〜…痛いよ〜!」

「あ〜お痛わしやお姉さま〜!ご安心くださいですの!この不詳、水連寺霰がお姉さまを鬼教師から

守ってさしあげますの!!」

「なっ、誰が鬼教師ですか〜!!」

「本当のことですの!猫の耳を取ろうとするなんて動物愛護団体に訴えますわよ?」

「何を言ってるんですか?霊さんは人間でしょう?」

嫌な予感がした。確実に嫌な予感が――。その瞬間俺は走りだしていた。

そして――。

「何の事ですの?お姉さまは人間じゃなく、あく――」

「うわあああああああああああああっ!!待ったああああ!!」

俺は間一髪で霰に飛びかかって最後まで言うのを強制的にやめさせようとした。しかし、それがまたしても

まずかった。

『プールサイドは走らないようにー!!』

その言いつけを守るのをすっかり忘れていた。案の定俺はプールサイドを走り、足を滑らせ霰を押し

倒してしまい、毎度の如く胸を掴んでしまった。

「くぅっ!?こ、こここここのへんたいがあああああああああああああっ!!!」

「ぬっはあああああああああああああああああああああっ!!!?」

俺は霰に金的を思いっきり蹴りあげられ空高く飛び上がると、天井すれすれを通って急カーブを曲がる

ようにして真っ逆さまにプールの真ん中に、

ドッボォォオオオオオオオオォォォォオォオオオンッ!!!!

と、盛大に水しぶきを上げながら落ちた。

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