小説『魔界の少女【完結】』
作者:YossiDragon()

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私――雛下琴音は神童くんが霰ちゃんに男の子の大事な所を蹴りあげられるなどの一部始終を目撃して

いた。私は女の子だからよく分からないけど、弟に聴いた話によると物凄く痛い……らしい。

「ちょっと霰ちゃん…あまりにもそれはやりすぎなんじゃあ…?」

「ふんっ!これくらいが丁度いいんですの!あの男は最近お姉さま達に変態行為ばかりを働いていました

ので、お灸を据えたまでのことですわ!」

霰ちゃんはそう言って手をパンパンと払うと、再び霊ちゃんとイチャつきだした。変態行為……とまで

はいかないものの、十分霰ちゃんも霊ちゃんにそれ相応の行為をしているような気がするんだけど……。

私はそんなことを想いながらプールに近づいた。プールの水面の真ん中付近に神童くんの肢体が浮かび

上がってくる。死んではないみたいだけど、気絶はしてるみたい……。

「ちょっ、大丈夫ですか神童くん!!」

慌ててプールに飛び込み、神童くんの体を運ぶ北斑先生……。私も急いでその場に駆け付ける。

「先生、神童くんは大丈夫なんですか?」

「一応気絶しているだけみたいだから大丈夫だと思うわよ?」

「はぁ…そうですか。……よかった」

安堵のため息をつきながら胸を撫で下ろす私…。

「じゃあ、神童くんをそこのベンチのところに連れて行ってもらえる?」

「あっはい、分かりました!!」

そう返事すると、私は神童くんの腕を自分の肩にかけ、引きずりながらベンチまで運んだ。

運びながら私はふと

―神童くん…いや、響史くんってあれから随分と体つきがよくなってるな〜……。あ、あれ?私

どうしてこんなことを……。いやいや、そんなことよりも響史くんを運ばないとっ!!


首をぶんぶんと激しく左右に振り、私は響史くんをベンチに横たわらせた。目を回して失神してしまって

いる響史くん…。銀髪の髪の毛がプールの水に濡れているせいもあってか、キラキラと光に反射して

綺麗に光っている。その顔を見ていると、私はだんだんと神童くんに見とれてしまっていた。

「……さん、…雛下さん?」

「ひゃ、ひゃいっ!!」

私は思わず恥ずかしい返事をしてしまった。顔が真っ赤になる。

「ど、どうかしたんですの?大丈夫です?」

背後から私に話しかけてきたのは霰ちゃんだった。

「い、いや〜何でもないよ?そ、それより…霰ちゃんこそどうかしたの?」

「あっ、そうでしたわ!あの方を止めて頂けません?」

そう言って霰ちゃんが指をさした相手は、未だに霊ちゃんに注意している北斑先生だった。

「で、でも…あれはただ単に注意してるだけだし…」

「そうはおっしゃりましても、あれではお姉さまが可哀そうですわ!」

「まぁ、それは確かに一理あるかも…」

「ですわよね?でしたら止めてくださいですの!」

私は霰ちゃんに上手く丸めこまれて、仕方なく霊ちゃんに注意している北斑先生のところへ向かった。

「あ、あの〜先生?」

「え?ああ、雛下さん……。今霊さんに注意してるとこだから、もう少し待っていてもらえないかしら?」

「その件なんですけど……その辺で勘弁してもらえませんか?」

「どうして?あなたはプールの授業中に猫耳と尻尾をつけていていいと思ってるの?」

先生は腰に手を当てはぁとため息交じりの声で私に言った。私はたまらずしょんぼりしてしまう。

こうしていると、傍から見たら私が怒られているような気がしてならない。

―も〜うっ、どうして私がこんなことしなきゃいけないの〜?


心の中で必死にそう叫ぶ私……。すると、私の情けない姿を見て何かを感じたのか、霊さんが北斑先生

の腕に自分の腕を回して上目づかいで懇願した。

「ごめんなさい先生!この耳と尻尾を、要はなくせばいいんですよね?」

「そ、そうだけど…?」

「解りました!」

霊ちゃんのその決心した様な真剣な面持ちを見てか、霰ちゃんが今度は声を上げる。

「そ、そんな!お姉さま…まさかあれを!?そんなのあんまりですわ!!」

「いいんだよ!これくらいのことなら、私が我慢すればいいだけのことだから……」

そう言うと霊ちゃんは両手に拳を握り、う〜んと唸り声を上げながら力を籠め始めた。同時に霊ちゃんの

体の周りに謎のオーラが纏わりはじめた。

刹那――私が瞬きして瞼を閉じもう一度開いた時には、既に霊ちゃんの体から猫耳と尻尾が消えていた。

すぐ近くでは霰ちゃんがオロオロと涙を流しながら「ああ〜お痛わしやお姉さま〜!!」と声を上げ

泣いている。にしても、一体何が起きたのだろう……。

「……これでいいですよね?」

「え、ええ……まぁいいでしょう」

北斑先生も一瞬のことに戸惑いながら、霊ちゃんの頭やお尻を触ったりして猫耳と尻尾がなくなったのを

確認する。

「ひゃあ!ちょっ、先生…そこは…くすぐったい!」

「ぬわあああっ!お姉さまに何をしてらっしゃるんですの〜!!」

霊ちゃんの悲鳴に、霰ちゃんが目を赤く光らせて叫び声を上げる。



それから数分後のこと――。

私達は勝負をしていた……。理由は簡単。暴れたりないのか、変態精神が疼くせいか、藍川くんが再び

暴走しだしたのだ。その暴走は周囲を巻き込み、その気に中てられたのか他の男子生徒も暴走しだした。

それはやがては勝負に発展し、先生が仲介役になって男子VS女子の戦いを始めることになった。

―どうしてこんなことに……。


既に勝負は中盤戦……。勝負の内容はほぼ自由ではあるものの、要は泳いで勝負するという――簡単な

物だった。

「私の相手はあなた……ですか」

私は泳ぎの構えを取りながら真剣な顔で横を見た。そこにいるのは、私の対戦相手――日暮里くんだった。

日暮里くんは藍川くんのしきっている変態軍団の一員で、幹部の一人でもある……らしい。

この間そんな話を耳にし、印象深かったため私はそのことを覚えていた。彼らが考えることは本当に

酷いこと……だと思うんだけど、たまにそうでもないような……。と自分でも頭を抱えたりすることが、

最近多々ある。

「へっへっへ…勝負だぜぃ委員長!本当はスポーツで勝負をつけるよりも、いかがわしいことで勝負

してぇトコだが、あいにくとウチの藍川(ボス)にそれは禁じられてるんでねぇ〜!だが、相手が女子で

憧れのドジっ子委員長だったとしても、負ける気はさらさらねぇぜぇ〜!!」

「ちょっ、私がいつドジっ子委員長になったんですかっ!!」

私は最初日暮里くんのいかがわしいことに気を取られて困惑していたが、後半の“ドジっ子”という

言葉が引っかかり、冷静さを取り戻した。

「へっへっへ…委員長はドジっ子だろぅ?何せ、いつもノートを職員室まで運ぶ際に、何もないところで

転んでは神童の野郎に助けてもらってるだろうがぁ!」

「そ、それは…ていうか、見てたんですかっ!!……変態です!」

「あたぼうよっ!何せ俺は、藍川率いる変態軍団の幹部の一人……なんだからなぁ〜!!」

「そんな軍団はさっさと滅ぼしてしまうに限りますね!」

「へっへっへ…だったら何かぁ?滅びの呪文でも使うかぃ?“バ○ス”…みたいによぉ!」

不敵な笑みを浮かべて淡々としゃべる日暮里(へんたい)くん……。そのあまりにも不快な笑みは、私に

恐怖心というものを抱かせていた。

―今すぐ逃げ出したい!


そんな気持ちが脳裏を駆け巡る――が、そんなことをすれば試合放棄で向こうに勝利という名の権利を

与えてしまう……そうなれば、必然的に男子生徒(へんたい)に何をされるかは分からない……。いや、

考えただけで身震いして鳥肌ものだ。

「そんな簡単には負けません!女子が男子よりも強いってことを証明してあげます!!」

「へっへっへ面白ぇ!やってやるぜぃ委員長!!」

「では二人とも用意はいいですか?よぉ〜い、ドンっ!!」

先生が真っ直ぐ指を伸ばした腕を勢いよくブンッ!と振り下ろし開始の合図を私達に送る。

周囲からは「負けるな委員長!」「ガンバレ琴音〜!」という女子の応援や、「委員長なんかに負けんな

日暮里〜!!」「お前の坊主頭が伊達じゃねぇってとこ見せてみろー!!」という男子の日暮里くんへの

応援が飛び交った。

勝負は五分と五分……どちらもスピードでは負けていない。

―ダメっ!このままじゃ負けちゃう!!


この勝負は少し変わったルールが設定してある。それは負けた人は次の人と交代……ここは普通。

もう一つは、勝った側がそのまま残っていられるというものだった。しかし、これは逆に相手の体力を

消耗させることもできるため、公平なルールとして取り入れられていた。女子と男子で体力の差が元々

あるとしても、スポーツをやっている女子も十分にいたため勝負の結果は分からなかった。

また、人数の調整も行われた。それは女子よりも男子の数が四人足りないということ…。ということで、

男子が二人二回勝負し、女子は二人休み……ということになった。ちなみに見学の二人は霰ちゃんと、

霊ちゃん……。理由は至って簡単で、霊ちゃんは泳げない…霰ちゃんは、霊ちゃんが休むなら自分も……

というものだった。

「後もうちょい!」

私は目の前に見えるゴールに向かって必死にクロールで泳いでいた。相手もクロールのようだ。

息継ぎをするたびに日暮里くんの姿がチラチラと見えるのでその際に視認出来た。

そして結果は――。

「勝者、雛下さん!!」

「やったー!」

「いいよ委員長!!」

先生の言葉に女子側からキャーキャーと黄色い歓声が上がる。一方で日暮里くんはプール室の床を

拳で叩きながら唸っていた。

「くそ、くそ何で俺が委員長なんかにぃ〜!くぅ〜悔しいぃ!!」

と……。私は自分でも分からないが、気をよくしていたのだろう……調子に乗って男子側に指をクイクイッ!

として挑発してしまったのだ。それは男子側の闘志を煽ったも同様…。男子側は闘志の炎を燃やし、

ニタ〜ッと不吉な笑みを浮かべると、両側に道を開いた。そこから姿を現したのは

変態軍団がボス――藍川くんだった。

「ふえっ?あ、藍川くんが…相手…なの?」

「フッ!どうした〜委員長?声が上ずってるぜ?そんなに俺と戦うのが怖いか?」

藍川くんは勝ち誇ったような笑みで私にそう訊いてくる。怖い…確かにその一言に尽きる…。何せ、相手は

変態軍団のボス……。どんな恐ろしい泳法を使って来るのか分かったものではないからだ。

「そ、そんなわけありません!私は負けたりしないんですから!!」

「フッ!その意気だ委員長!!俺はこの日を楽しみに待ってたんだ!委員長のその……将来有望な胸を

相手に出来るってことがな〜!」

「なっ、私の胸は関係ないでしょ?」

思わず私は、委員長としての口調ではなく普段の口調に戻ってしまっていた。

「動揺してる動揺してる!あまりしゃべりすぎると、泳ぐ体力を削るに等しいんじゃないか?」

―確かにそれもそうね……。でも、どうしてそんなことを私に?それほどまでに藍川くんは余裕…ってこと?


そんなことを想いながら私も闘志の炎を燃やす。

互いに火花を散らし、プールに入る。水が冷たく感じない……。もしかすると、闘志に体が燃えている

のかもしれない――そう思った。

そして試合が開始される。最初私は普通に泳いでいた。しかし、次の瞬間動きを止めてしまった。

なぜなら、藍川くんのその異様な泳法に驚愕してしまったからだ。彼の泳法はめちゃくちゃで、クロール

ともバタフライともいえない……そんなものだった。謎の泳ぎ…しかしそれを見ているだけで不快感を

感じる。それはまさに変態の変態による変態にだけ許された泳法――変態泳ぎそのものだった。

実際そんなものがあるのかは分からないとして……。

私は気付くと泳いでいた足を止めてしまっていた。

「委員長泳いで〜!」

「このままだと変態藍川に負けちゃうよー?」

女子のアドバイスに私は再び泳ぎを再開しようと構えを取る。

刹那――私のスクール水着が脱がされ上半身裸になって、胸を公衆の面前にさらけだしてしまった。

「きゃああああああああああああああっ!!!」

私はかぁーっ!と耳まで真っ赤にして胸を両手で覆い隠す。

「い、いやあ…」

―い、一体何なの!?今の……。一瞬、一瞬だけど藍川くんがこっちに接近してくるのが分かった。

ってことは、今の攻撃は藍川くんの物?そ、そんな……一瞬でスク水を脱がしてくるなんて……。

まさか、後もう一撃受けたら全裸――なんてことにも!?そ、そんなのいやだ!!


慌ててプールの岸に行き、仲間の女子の助けも借りて私は岸に上がった。

「うっ、うう…」

「先生!今のは明らかに反則です!!」

「そうよそうよ!」

「け、けど……。私には雛下さんの水着を脱がせたような姿は見られなかったし……」

「いいえ!絶対にあいつが脱がせたんです!変態力か何か使ったに違いありません!!」

うろたえる北斑先生に、次々と私を庇う女子達が口々に言葉を投げかける。

すると、水面からザパーッ!と姿を現した藍川くんが北斑先生に言った。

「先生?俺は何も間違ったことはしてませんよね?それに、サイズがあってなかったりしたら途中で

ポロリ――なんてこともある可能性だってあります!」

「そ、そう?でも……」

先生は迷ったあげく、まるで変態オーラに中てられたかのように男子側の勝利を意味する旗を上げた。

「そ、そんな!!」

「絶対にインチキです!!」

男子側の勝利に次々と文句を言う女子……。

それからも悲劇は絶え間なく続いて行った。勝者である藍川くん相手に女子が次々と被害にあい、しばらく

の間、女子の悲鳴と男子の歓声が響き渡った。何で先生は試合を中断しないんだろう…と思いながら。

そして次の犠牲者――いや、それは救世主とも言える存在だった。その女子はスラリと長い足を

動かしながら前に進み出、真剣な面持ちで仁王立ちしている。まるでこのプールの様に青い瞳…。

そう――水連寺姉妹の四女という霄さんだ。

「そ、霄さん!」

「だ、大丈夫なの?相手はあの藍川よ?」

「餌食になるかもしれないんだよ?」

「もう勝負は見えたんだし、潔く諦めた方が――」

「お前達はそれでいいのか?」

女子達の口々に言うセリフに霄さんが割り込む。同時に黙り込む女子。

「そ、それは…」

「男子なんかに好き勝手にされて、それでいいのか?」

「そんなの嫌に決まってるじゃない!!」

「ふっ…それでいい!だったら勝つまでだ!!安心しろ、私が命に代えてもお前達に勝利というものを

贈り届けてやろう!」

―か、かっこいい……。


思わず私までもがときめいてしまった。周囲を見ると、私以外にも何人かが彼女の凛々しい姿に見惚れて

ほんのり頬を赤らめている女子がいた。

「よし行くか!変態が相手……まぁ相手に不足はない!!」

そう言い残し、彼女はプールに体をつける。

「フッ!最後は霄ちゃんか〜!こっちの勝利は確実だな〜!さぁ〜て、この試合に勝ったら女子に何を

してもらおっかな〜♪」

「呑気に鼻歌を歌っているが、勝負は最後まで分からんぞ?」

「えらく気合入ってんじゃ〜ん!いいよいいよ〜!その意気だ!!いっくぜ〜霄ちゃん!!」

そう言って藍川くんは再度あの変態泳ぎを繰り出す。霄さんはプールの真ん中にまで移動すると、

そこで身構えた。そして藍川くんの体が真ん中へと向かって――。

刹那――藍川くんが、神童くん同様天井すれすれまで打ち上げられていた。

「ぬぅおおぉわあああああああああああああああああああああっ!!!」

ドグシャッ!!

藍川くんの体はそのまま宙を待って岸に叩きつけられた。グロテスクな音が響き渡り、その周囲に

男子側が集まってガヤガヤと騒ぎ立てはじめる。

「ふんっ!相手にもならんな……」

霄さんはプールから岸に上がりながらボソリとつぶやく。

女子達は見事勝利を収めた。同時に彼女達は活力も取り戻したのか、一斉に男子生徒の周囲を取り囲む。

「わ、わ〜い……ハーレムだ、ハーレムだ」

「も、もしかして…俺達この後、お約束の展開に……」

「理解してるなら話は早いわね!」

「そうね!!」

互いに、裏に隠された真実の顔を笑顔で隠している女子達が顔の影を濃くしながら、拳をボキボキ鳴らし

ながら男子に迫って行く。

『う、うっ、うわっ、ギッ…ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああ!!!』

プールの授業は終わり、プール室は血祭りにあげられた男子生徒の血の海となった。

私は同じ女子ながら怖いな〜と心の中で呟きながら女子更衣室へと向かった。

その後、神童くんが目を覚まして男子生徒の血の海を見て悲鳴を上げたのは言うまでもない……。

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