小説『魔界の少女【完結】』
作者:YossiDragon()

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第四十話「大掃除」

今日は三連休の一日目…。今日は、今日こそは平和に過ごそう――そう思っていた……。全ては、とある

おバカツイテチビ発明家に作られた一つの試作品から始まった……。

三連休でもあり夏休み前ということも踏まえて、俺――神童響史は1人寂しくコツコツと大掃除をしていた。

親もおらず、姉も弟もいない天涯孤独(と言っても家族全員死んではいないが…)の身である俺は、一人で

誰も使用していない空き部屋(物置として使用)を掃除していた。というのも、廃品回収などでいらない

不必要な物を片してしまおうと考えていたのだ。そして、いる物いらない物に分別中に、俺はついに事件の

発端と出会ってしまった……。それは中々大きな一つの段ボール箱だった。その段ボールの表面には、

なぜか謎の札がペタペタと貼られてあり怪しげな雰囲気プンプンだった。――まるで開けてはならない

と諭しているかのように……。しかし俺はあろうことか、ほんの少しの好奇心と興味にそそのかされ、

その段ボール箱にベッタリ貼り付けられたテープをベリベリッと剥がした。そして、中身を確認……。

その中にあったのは何ともいえない機械?だった。頼んだ記憶もない代物…。一目見てそれはルナーが

作った物だと理解出来た。

―とすると、無闇やたらに触れない方が身のためだな…。


と自分自身に言い聞かせ、俺はそれを床にゆっくり丁寧に下ろした。割と重いため、ゴトンという鈍い

音が鳴る。その機械には少し大きめのダイヤルや、怪しげなレバーがいくつもついており、さらには

レーザー光線っぽいものが不気味にこちらに標準を合わせていた。

「まさか、何も操作していないのに急に撃ったり――なんてことはないよな?」

などと独り言を呟いた俺は、少し警戒した後ずっとそれを続けるのがだんだんとアホらしくなり、警戒を

解いた。そして踵を返し空き部屋から出ようとドアノブに手を掛ける…。

と、その時だった。

キュィイイイイイイインッ!!

という機械の音が聞こえた。まるでその音は何かを一点に溜め、発射する準備を整える音のように俺には

聞こえた。しかし、あろうことかその推測は十中八九当たっていた。蛇足すると、一点に溜めていたのは

レーザー光線の様なものではなく、何かしらの光の様なものだった。決してその光をレーザーのように

発射するつもりは見た感じなさそうだ。となると、これは一体何をしようとしているのだろうか?という

不安に駆られる。さらに言えば、どうしてこの機械は作動しているのだという疑問……。ただ単に俺は

地面に――地面に置いただけだ!それがなぜこのような事態を引き起こすのか、俺にはミステリアスで

ならなかった。

そんなことを俺が心の中で呟いて、背中を空き部屋のドアにこすり付けていた時だった。

刹那――眩い光が俺と空き部屋を包み込む。同時に、俺の視界は光に奪われてしまった……。

「うわああああああああああああああああああああっ!!!!」



気が付くと俺は床に伏せていた。ムクッと体をゆっくり起こす。とそこで俺はある違和感に気付く。

そう、視点がいつもの視点と違うのだ。若干低く感じる……。それよりも、なぜに俺の手はこんなに

プニプニで小さいのだ?これではまるで幼くなってしまったかのような――ッ!!!?

俺は気づいてしまった。側の壁に設置された鏡に思わず目を釘付けにし、暫しの硬直状態に陥る。

身長は大体並の机くらい…。銀髪の特徴的なツンツン頭に、エメラルド色の丸く大きな双眸…。さらに、

サイズが大幅に合ってないだろうと言わんばかりのずんだれた服……それを身に纏う小人のような少年

が、その鏡には映っていた。即ち――俺である。

すると、ダダダダダダッ!と誰かが大きな足音を立たせながら二階に上がってきた。家族は誰もいないため

必然的に考えられるのは護衛役の誰かか、二人の姫君のどちらか…。正解は二人の姫君のどちらか――では

なく、二人とも…だった。

「今の声何?響史どうかしたの?」

俺のことには気付かず部屋の中に飛び込んでくる瑠璃。俺のことは全く眼中にないようで、視線を下に

下ろすこともしない。

「ん?あっ、えっ…ちょっ…お、お姉さま!そ、それ……」

震える声を何とか喉の奥から振り絞り、双子の姉である瑠璃に伝える麗魅。彼女が指をさしていたのは、

幼くなってしまった俺だった。

「な、なんだよ!」

「うええええ〜っ!うっそ〜超かわいいっ♪」

急に俺の体を掴み、自身の胸に抱き寄せる瑠璃。俺はまるで人形の如く荒々しく抱きしめられた。瑠璃の

胸が俺の顔に密着し、窒息しそうになる。

「ちょっ…ムググ!く、苦ちっ!ち、ちぬ!!ちんじまうって!!」

「あっ、ごめん!」

「…ぷは〜っ!!マジちぬかと思った〜…」

俺は床に手をつき呼吸を整える。

「ていうか、きょ…響史……なの?」

オロオロした感じで俺に問う瑠璃…。

―分かってなくて抱き着いてきたのか?


と、今更ながら呆れる俺…。

「ああそうだよ…」

「どうしてそんなプリティーな姿になってくれたの?」

「おい、そこは心配しゅるとこだろ!」

「わぁ〜台詞咬んでる〜♪」

頬を染め、愛くるしい物を見るような眼差しで俺を見つめてくる瑠璃…。俺は思わず麗魅に助けを求めよう

と彼女の方に視線を向けた。

「お、おい…麗魅…た、たちゅけて…!」

「…ぁ、……その」

―どうしたんだ?なんか、いつもと違う雰囲気が…。


「お、お姉さま……次私、いいかな?」

「うんいいよ♪」

何かしらの順番を、俺をほったらかしにして決める瑠璃と麗魅…。はて一体何の順番だろうか?

刹那――俺は瑠璃とは異なり、ほんのり柔らかい感じの暖かな何かに包み込まれた。

「ほんと…かわいい!も、もうダメ…我慢できないっ!!」

「ぬごぉぉぉぉぉ!!や、やめりょ…やめてくりぇ〜!!」

そう、瑠璃と同様…あろうことかあの麗魅までもが俺に頬を摺り寄せ抱き着いてきたのだ。

もう何が何だか俺の思考回路では理解できなかった。一つだけ分かる事……麗魅も、可愛い物には目がない

ということだ。



30分後……。俺はなんやかんやで話をまとめ終え、小さくなった原因とその犯人と思(おぼ)しき人物を

伝えた。しかし、二人とも俺の話なんか完全無視で、ずっと頬を赤く染めっぱなしでこちらを温かい眼差しで

見つめ続ける。

「だ、だから…しょの…ルナーを探ちて欲ちいんだ!!」

「「かわい〜っ☆」」

二人の声はほぼ同時だった。さらに、そこへ天井の一角が開きそこからルナーが相変わらず逆さ状態での

登場を果たす…。

「やっほ〜!」

「やっほ〜!ぢゃねぇよっ!早くおりぇの体を戻ぢやがれ!!」

「あはは…あんた何?女体化の次は幼児化?何それ、超ウケるんだけど…!」

ルナーはシュタッと忍者の様に回転しながら床へと着地し、同時に俺の姿を見るなり腹を抱えて笑い出した。

「そもそも、それ封印しておいたはずなんだけど…どうして開けたりしたの?」

「封印ちてた?嘘つけ!普通に札かにゃんかが貼ってあっただけだったじょ!!」

俺は言葉がカミカミなのも気にせずルナーに言う。

「耳元で叫ばないで!!私のせいじゃなくてそれは瑠璃のせいでしょ?」

「えっ?私そんなの覚えてないけど……」

「何言ってるの?数か月前に渡したでしょ?えっと、ほら…あの水滝?とかいう娘と戦ってた時…」

「……ん〜、あっ!あの時か〜!!」

思い出したように曇った表情を一気にパワ〜ッと明るくする瑠璃。

「しょれはもう今更いいから、早くおりぇを元に戻ちてくりぇ!!このままぢゃ、大手を振って外を歩け

ない〜!!」

俺は涙目でルナーに訴えた。本当は泣くつもりなど毛頭なかった。しかし、幼い姿になってしまっている

せいだろう。俺は泣きやすい体質に戻ってしまっていた。元々小さい頃は泣き虫だったからな……。それも、

女である雛下以上に……。

「分かった、分かったから!もう泣かないでよ〜!何だか私が苛めてるみたいじゃないっ!!」

手を前にだし、まぁまぁと泣いている俺を制するルナー。付近で座っていた瑠璃と麗魅の、何か言いたげな

ムスッと口をへの字にしている姿を見て罪悪感を感じたのだろう。

結局俺はその五分後元の姿に戻ることが出来た。何でもこの機械は、ルナーが作った発明品の一つで

『老若変換機』という物らしい……。名前からも怪しさ満点な代物だが、ある意味これは上手く使うと

結構役に立ったりする代物でもあった。俺が触らないように気を付けていた大きなダイヤル……。あれは、

そこにふってある数字にダイヤルを合わせ、レバーを倒すことで年齢を変えるパーツだったのだ。例えば

数字を8の部分に設定したら8才児に…。90に設定したら90歳になるというわけだ。タイムマシーンなどでは

本来、自分自身が未来に行ったり過去に行ったりすることでその周囲の景色を見る事が出来る代物だが、

この場合自分自身が満足するというよりかは、過去の姿にしたり未来の姿にしたいという相手が満足する

代物である。要は、幼馴染などは古くから一緒に付き合っているため成長の姿もちょくちょく目にしている。

しかし、高校生で友達になったりして、そいつの昔の姿が実際に見てみたいな〜なんて思っても実際には

無理。そこでこれを使うと、そいつの昔の姿を見てこんなやつだったのかなどという赤裸々な過去が知られ

てしまう……という使った人物は満足、使われた人物は不満という何ともいえない発明品なのだ。

だが、ここでよく考えてもらいたい。これを作ったのはあくまでもルナーなのだ。ルナーといえば、欠陥

欠陥欠陥と、とにかく欠陥の文字が横並びになる人物だ。即ちこの発明品にも無論欠陥があるわけで、

そのデメリット部分というのが、過去の姿になったり未来の姿になっても現在の時間を生きている自分の

意志が残ることだ。「えっ、でもそれって別にいいんじゃないの?」なんて思う人物もいるかもしれない。

しかし、それでは過去の姿を見てどんなやつだったのか――などということを確認することが出来ない。

何せ意志があるのだから、0才に戻したとしても「バブバブ!」とかではなく「えっ、何?」と、普通に

喋るというわけだ。これでは意味が無い。しかし、これはこれで相手は不満でも自分は満足なのだ。

つまりさっきとは逆になるというわけだ。何せ意思は今のままなので、体――即ち外見だけが変わること

となり中身は変わらないので自分の姿を見て楽しむなどということが出来るというわけだ。

これらのことから、この老若変換機は結構役に立ったり立たなかったりする代物なのだ……。

そしてそれから話は進んで行き、さらに事件は展開することとなる…。

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