小説『魔界の少女【完結】』
作者:YossiDragon()

しおりをはさむ/はずす ここまでで読み終える << 前のページへ 次のページへ >>

「はぁ…やっと戻ったぜ」

「あ〜あ、戻っちゃったぁ!」

「普通のあんたなんて面白くもなんともないわねっ!」

「な、何でそこまで言われないといけないんだよぉおお!!」

今の二人の言葉に、俺はめちゃくちゃ傷付いた。

「ていうか、そもそもあんたが勝手にこの老若変換機を扱わなければよかっただけでしょ?」

「うっ!…い、いやこれは俺が操作したわけじゃなくて勝手に――」

「勝手に動いたとでもいうわけ?機械が?どうせつくならもっとマシな嘘をつきなさいよ!!」

ルナーは嘆息しながら腰に手を当て言う。

「ほ、本当のことなんだが……」

どうやら彼女は俺の話を信用していないらしい。まぁ無理もないかもしれないが……。俺が無言で正座

していたその時だった。突然麗魅が話題を転換し、ルナーに訊いた。

「あのね叔母様!!」

「叔母さん言うな!!……で何?」

―今一瞬、軽く諦めてたよね?


「この老若変換機ってさ…中身を変えずに外見だけ変えることが可能なのよね?」

「そうだけど…」

ルナーが片方の目を瞑り、もう片方の瞳で麗魅を見る。麗魅が何を企んでいるのかまでは把握できないが、

恐ろしいことを考えているに違いない。俺はなぜか、そう思った。

「つまり、未来の姿にも変えられる――ってこと?」

「とどのつまり…何が言いたいわけ?」

「私にも使わせてくれない?」

両手を合わせ、眉を少し下げてウルウルしたオレンジ色の双眸で懇願する麗魅。

「ダメよ!」

即答だった。ルナーはプイッとそっぽを向き、腕組みする。

「ど、どうしてよ!?」

納得できない――彼女の言い方はそう言わんばかりの口調だった。まぁ確かにあんな欠陥のある道具を

いろいろと使われたら敵わない。そう思えばこそ、ルナーの使用を禁止するという考えは妥当だった。

「ダメって言ったらダメなの!!たった今、そう決めたの!私が決めた事は絶対よ!」

「いいじゃない少しくらい貸してくれたって!!叔母様のケチ!!」

「なっ、お……おば、おば…叔母さんいうな!!私はまだ10代なのよ?」

「叔母さんと10代はそこまで関係ないと思うが…。第一、10代で叔母さんなんていなくもないしな…」

「あんたは黙っててよ!!」

怒られた…。何故?理不尽なものだ。

「欠点だらけでもいいの!ホント一度…一度だけでいいからっ!!」

必死にルナーを説得しようと試みる麗魅…。なぜそこまでしてあの老若変換機が必要なのか…。俺には

点で理解できなかった。一つ分かる事――それはルナーは頑固で渡す様子は微塵もないということだ。

「しつこいわねぇ〜!渡せないったら渡せないの!!あ〜もうメンドくさくなってきた、こんな機械…こっち

から願い下げだわ!!」

さすがに老若変換機を麗魅の欲望にまみれた手から死守するのに疲労感が芽生えたのか、ルナーは

老若変換機を高々と両手で頭上に抱え上げると、勢いよく空き部屋の床に叩きつけた。

―ぬわあああああっ!!?俺んちの床を傷付けんなぁあああああっ!!


頭を抱え、心の中で叫ぶ俺……。勢いよく叩きつけられ耐える事が出来なかった老若変換機はそのまま

雷をバチバチ鳴らしながらボンッ!!と一つ大きな音を立て黒い煙をあげた。

「…はぁ…はぁ。ハッ!私は何てことを〜っ!!」

肩で息をし、その乱れる呼吸を整え終えたルナーが、顔を青ざめさせて声を荒げる。

「いろいろ忙しいやつだな……」

「どうしよう…これ確か…壊れたら誤作動で――」

刹那――老若変換機が変な音を立てゴトゴトと動作を始めた。――何かの直感…。そんなものが俺にあるか

…は分からないが、少なくとも一つ言えること…それは何か危険な臭いがする、ということだ。俺は慌てて

瑠璃と麗魅とルナーをその場に残し、一人早く部屋に設置されている窓をガラリと急いで開け放ち、ベランダ

へと避難した。と、同時にボォオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!!!と大きな音を立てて、眩い

真っ白な光が空き部屋を包み込んだ。しばらくして音が収まると、白い煙がモワモワと窓から漏れて

空気中に逃げ出す。

「ゴホゴホ…!」

俺はせき込みながら煙を吸わないようにハンカチで鼻と口を軽く押さえ、空き部屋内へ戻った。

周囲に彼女達の姿は見えない。

―どうやらあいつらも危機本能を察知して、咄嗟に部屋から脱出したみたいだな…よかっ――。


その時だった。足元に何かの感触を感じた。ふと足元に視線を下す。そこには白い煙に覆われてよく

見えないが、三つの小さな人影が見えた。

―ちょっと待て…小さいって――まさか!?


俺がハッとなりあることを思い出す。

(壊れたら誤作動で…)

そんなルナーの言葉が脳内を何度も駆け巡り絶賛リピート中だ。まだ信じ切ってはいないものの、ほとんど

確信的だ。しかし、俺は実際に見えた物しか信じない主義だ。現に、俺は幽霊も信じていない…。悪魔は

信じている…現に俺の家で絶賛居候中だからな……。俺はガララッ!と、空き部屋にある窓を全部

開け放った。

今日は風通しがいいため空き部屋内の白い煙がヒュウッ!と風に流され一気に視界が良好になる。

そしてもう一度同じ場所を確認してみると、そこには小柄で小ぢんまりとした瑠璃、麗魅、ルナーの三人の

姿があった。

「けほけほ…も〜うっ!どうにゃってるんだよ、これ!!」

「ほんちょうよっ!いきなりばくはちゅするち…」

「だからわたちは危険だって……」

コホコホとせき込みながら会話する三人…。まだ自分達の今の体の異変に気づいていないらしい……。

しかし、それはほんの少しの時間――すぐに彼女達は自分たちの今の姿に気付いた。

「うわあ!」

「にゃ、にゃに!?」

「な、なんなのよこれぇ?」

悲鳴を上げ、騒ぎ出す三人…。彼女達は先刻の俺同様、小ぢんまりした姿で振舞っていた。外見は八才くらい

で中身は変わらぬ十代の高校生や発明家…。そんな彼女達が、今俺の目の前でずんだれた服をフリフリと

動かしながらわめいている。

「だから気をつけろって言ったのに……」

「やった〜っ!わたちも小さくなりぇた〜!!」

―あれ、反応違ってない!?よ、喜んでる?


俺は瑠璃の驚くべき反応に思わず戸惑う…。ん待てよ?よく見てみたら三人とも微妙に髪の毛の長さが

違う?しかも、瑠璃髪の毛結んでないし…ルナーもいつものツインテール姿は変わらなくても長さが

微妙に短いし……昔に戻ったからか?彼女達の幼女姿を見て複数の疑問符を浮かべる俺…。

「何難ちい顔ちてるの?あっ、分かった!かわいい幼女ちゅがたになったわたちたちを襲おうとちてるん

でちょ?」

麗魅が、顎に手を添え深く考え込んでいた俺に小さな指をピシッと向けて言う。麗魅のその顔は丸々と

していて、頬は少し赤みがかかり大きく丸い瞳は潤んでいる。どうやら少し恥ずかしがっているらしい…。

俺が小さくなって抱き着いてきた時の顔とはまた違う一面……。最近どうも麗魅の様子がおかしい。

特に俺に対して……。何かあったのだろうか?

「ち、違うって!お前らの髪の毛の長さとかが変わってたから驚いて……」

「ちょう言えば、叔母しゃま…顔が少し幼げになっただけでしんちょーあんみゃり変わってにゃいよね?」

「ガーンッ!!うわあああああんっ!!おばしゃん言うな〜!!」

目元を潤ませ、ポカポカと麗魅を軽く小突くルナー。

―和むな〜…。


ふとそんな感情が出てくる。すると、それを横目で見ていた麗魅が鋭いツッコミを入れる。

「あ〜っ!今あんたへんちゃい的な目でわたちたち見てたでちょ?」

「うえっ!?い、いや見てないって!!つ〜か変態的な目じゃなく、温かい眼差しと言え!!」

「うっちゃい!!おばしゃまもいいかげんやめてよ!」

「うっちゃい、うっちゃ!!あなたに分かんないわよ…牛乳をにゃんど飲んでもしんちょーがいっこーに

伸びないわたちの気持ちなんかっ!!」

「ふんっ!栄養がちゅべて胸にいってりゅんじゃないの?まぁ、ちょれも幼くなったちぇいでペッタンコに

なっちゃってるけどねぇ〜?」

「ガガーンッ!!くっくぅ…ふんっだ!あんたなんか今も昔もペッタンコのままじゃない!!」

「うぐっ!!?にゃにかが…にゃにかが深く…深くわたちの心にちゅきささったっ!!!」

「いい気味だわっ!!」

「まぁまぁ…二人とも落ちちゅいて?」

言い合う麗魅とルナーを、まぁまぁとなだめる仲介役の瑠璃…。

「何だか幼稚園にいる気分だ……」

「にょんきな事言ってないできょうちも手伝ってよ〜!!」

「お、おう……おい二人ともそんなに暴れるなって…そんなに暴れたら、ただでさえちっこくなっちまって

服のサイズが合ってないんだから――」

「「ペッタンコじゃないもんっ!!」」

同時に涙目で頬を膨らませ大声を上げる麗魅とルナー。

刹那――麗魅とルナーの服が一気にバサッと床に脱げ落ち、仲介役となっていた瑠璃も麗魅とルナーの

手に妨害され巻き添えをくらった……。その結果、三人は幼女姿で俺の眼前で真っ白な裸体を見せてしまった。

まぁ無論、その次に彼女達三人から発せられる言葉はお決まりなわけで――。

『…き、きゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!』

幼い三人の悲鳴が俺の耳の鼓膜に甚大なダメージを与える。おまけに、幼女姿とはいえ見知った人物の

裸体を完全に見てしまった俺は顔を真っ赤にして大量の鼻血を噴出して倒れた……。

-191-
Copyright ©YossiDragon All Rights Reserved 
<< 前のページへ 次のページへ >> ここまでで読み終える