小説『魔界の少女【完結】』
作者:YossiDragon()

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説明が終わっても、霄と霙の二人は首を傾げていた。これだから剣バカと脳筋バカは困る。

と少々毒づきながら俺は二人に細かい説明を加えた。

「――分かったか?」

「やっぱ分かんないな…。きょうちのセツメーが分かりにきゅいのだ!!」

「な、なにを〜!?」

「おいおい姉貴…そう言うなよ、きょうちがみぢめだ…」

霙がさりげなく俺をフォローする。

「おおさっすが霙…サンキュ――」

「まぁホントのことだけどな!」

「てめぇもか〜!!」

俺はムッと来て、ワーキャーはしゃぎながらリビング中を駆け回る二人を追いかけまわした。

「はぁはぁ……もういい!とりあえず霞さんと零さえ分かっていれば…」

「ああ…あんちんちろ、きょうち!ウチはもー理解ちたで?」

親指をピンと突きたてウィンクする霞さん。

「わたちもです…きょうちしゃん!よーはあのはちゅめいかしゃんを捕まえればいいわけでちゅよね?」

「えっ、あ…うん…まぁそんな感じ」

「はっきりちてくだちゃい!分かりにくいでちゅ…」

―い、いや…言葉カミカミで何て言ってるか分からなくてさ……なんて言えないし…。


「ああ、ゴメンな…。いろいろと…。とりあえず、ルナーを捕まえられるならどんな手を使ってもいい。

あいつがまだ俺の家の中で活動している間に取り押さえるんだ!!」

「どういう意味でちゅか?」

表情は特に変えず、首を傾げて訊く零…。

「ルナーのことだ。俺達全員幼児化させたら次は外に出て遭遇したやつら片っ端から幼児化させるはずだ!!

あいつはそういうやつだからな…」

「しょうなんでちゅか?」

「ああそうだ、間違いない!!だから、そのためにも断固阻止せねばならない!!」

「そーゆーことでちたら、わたちもせーいっぱい頑張らちぇてもらいまちゅ!!」

零が少し眉毛を吊り上げて真剣な面持ちをしていたその時だった。

「泣けるはなちぢゃあないか!!きょうち、わたちもキョーリョクしゃしぇてもらうぢょ?」

「それはいいんだけどさ…今のどこに泣けるとこあった?」

俺は突然話に割り込んできた霄が涙ぐんでいるのを見て思わずツッコんでしまった。

「まあ細かいことは気にちゅるな…」

「…細かいことなのか?」

ふと疑問に思ったが、俺はこのままでは話が一向に前に進まないと思って霄との会話を一時中断し、小さく

なってしまった護衛役を目の前に集めた。

「いいか、皆!相手はチビで生意気な発明家だが、骨のあるやつだ!そう簡単に捕まってくれるとは思わない!!

気を抜くな?自分の持てる力全てで捕らえにかかるんだ、分かったな?」

「おおー!!」

「きょうち、しょれはハンマーを思いっきり振り回ちていいということか?」

霙が目を輝かして機体の眼差しを向け訊いた。

「んなわけあるか!!物にも限度ってものがあるわ!!お前が、ハンマー全力で振り回したりしたら家が崩壊

するぞ!?絶対にダメだ!!」

「ぶーっ!全力で捕らえろって言ったぢゃん!」

「全力で“捕えろ”だから…、“振り回せ”じゃないから」

頬を膨らましてふくれっ面になる霙に向かって、俺は半眼の眼差しで呟いた。

「とりあえずはぢめへんか?いつまでもここに居ってもしゃーないしな!」

という霞さんの言葉に俺達はようやくその場から動き出すことが出来た。

―さすが霞さん。小さくなってもお姉さん的立場は健在ですね!


俺はそう心の中で思いながらふと、隣の露さんを一瞥した。

―ホント…この人は、霞さんに続く水連寺一族のお姉さんとは思えない……。何が俺にそう思わせるんだ?

やっぱり、この性格か?この性格が原因なのか!?


自身の気持ちに問い掛けながら俺は頭を抱えて唸っていた。すると、そんな俺の足元に誰かがツンツンと

つついてくる感覚を感じた。

「ん?」

ふと俺が足元を見てみると、そこには露さんが満面の笑みで俺を見ていた。

「うぐっ!……な、何ですか?」

「ど、どーちてケーカイちゅるのよ!!」

「い、いや…何となく――反射的に?」

「ぐすっ…ひどい…ひどいよきょうちくん。わたちはこんなにもちゅくちてるってゆーのに…」

「尽くしてるって、何を根も葉もない嘘作り出してるんですか!!訳の分からないこと言わないで

くださいよ!!」

「ちゃんとちゅくちてるわよ――

――(きょうちく〜ん!わたちのこのちゅがたかわいい?ねぇ、かわいい?)

(ああ、かわいいよ露…)

(きゃあ、かわいいだなんて…はぢゅかちいよ…)

(何も恥ずかしがることなんてないよ…)

(ねぇ…きょうちくんお願い、わたちもー我慢出来ないの……だ・か・ら――ね?)

(まったくしょうがないな…おいで子猫ちゃん♪)

――みたいな感じで……」

「ななな…んなわけあるかあああああああああああああああああああああああああああああっ!!!」

俺は急に繰り広げた露さんの妄想シーンに、顔を真っ赤にして叫んだ。

「ふざけるのも大概にしてくださいよ!そもそも、さっきの妄想シーンの『だ・か・ら――ね?』って、

明らかにありえないシーンでしょ!?」

「ありえなくなんかないよ〜!」

猫なで声で必死に言う露さん。

「いや……そもそも『ね?』って何なんですか!」

「それはもちろん、せ――」

「やめろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!何を本当に口走ってるんですか!女の子が

そんなこと言っちゃダメですよ!!」

「え〜?じゃあ…、え――」

「それもダメェエエエエエエエエエエエエっ!!」

「ぶぅーっ!ワガママちゅぎるよ、きょうちくん!!」

露さんはさっきの霙同様、頬を膨らませ人差し指を宙で回しながら言った。

「いや…ワガママとかそういう問題じゃないですよこれ…」

そうこうしているうちに俺達二人は、再び二人きりになってしまっていた。霞さん、霄、霙、零の四人は

どうやら別の場所を捜索しに行ってしまったらしい…。

―う、ウソだろ…。またこの人とペアかよ――誰か代わってくれ〜!!さすがにもうツッコミすぎてツッコミ

疲れなんだけど…。せめて――あれ、マシなペアいなくね?い、いや…一人くらい――やっぱダメだ。

ペアいねぇええええっ!!


「ちゃっきから何を唸ってるの、きょうちくん?あっ、分かった…。わたちの可愛いちゅがたに見とれて

どうやって襲おうか考えてたんでちょ?心配ちなくてもいいよ、わたちはきょうちくんの

――も・の…だから、きゃっ♪」

「何が『きゃっ♪』…ですか!!ホント困惑するんでやめてください、俺男なんですよ?思春期真っ盛りな

高1ですよ?あんまりそういうこと言ってると、ホントに襲っちゃいますよ?」

俺はツッコミ過ぎて感覚が麻痺してしまっていたのかもしれない。上手く考えもまとまってないまま、

想いもよらないことを口走ってしまった。

すると、露さんは頬を赤らめて俺から視線を逸らすとボソリと呟いた。

「……よ」

「えっ?…今何て言いました?」

「…いいよ、きょうちくんになら…何をちゃれても……」

「え?…え、いや…あの…え?え、え…えっええええええええええええええええええええええっ!!?

い、いや…冗談ですよね露さん!いや、ホント図に乗ってました…ホントマジすみません!!冗談なんですって

露さんもいつもみたいに冗談なんでしょ?」

「ぢょーだん……なんかじゃないよ?」

「いや…でも、その…あのこれ…昼間だし、規制に引っかかりますって――」

「ぢゃあ、規制に引っ掛からないとこにでも行く?」

「え………」

―だ、誰か止めてくれえええええええ!!?えっ、何コレ…いや、さっきからこの人何口走ってんの?何で妙に

頬染めてんの?何、ホントに冗談じゃないの?いや…それはいや、正直こんな美少女にそんなこと言われたら

嬉しいけどさ…本気にするけどさ……いやでも、それは……。だ、ダメだ…このままだとこの人のペースに

呑みこまれてしまう!そんなことになったら二度と現実世界に戻れなくなるぞ!!気をしっかり保て!理性を

失うな!!冷静になれ、神童響史!!


必死に自我を保とうと精神集中する俺……。

刹那――ドサッ!という音がした。それはまるで、人間が床に尻餅をつくような音。しかし、俺ではない。

とすると、他の誰かになるわけだが――幼児化してしまっているメンバーはそれから外される。小さな体で

ドサッ!という音はしない。せめて、トンッ……くらいのものだ。とすれば、まだ幼児化していないメンバー

ということになる。つまりそれは――霊、霰、霖、雪の四人の誰かということなのだ。

そこで、冷静さを取り戻した俺は同時に身の危機を感じた。なぜならそれは、今の俺と露さんのやり取りを

見られたと思ったからだ。

ギギギ…と、機械の様に俺は首をひねらせ、音のした方を見てみた。

そこには、尻餅をつき片手を床についてもう片方の手を口元に持っていき、目を泳がせながら頬を真っ赤に

染めて驚愕の表情を浮かべている――霖の姿があった。そう、とどのつまり先程の一部始終を目撃

されていたのだ。

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