小説『魔界の少女【完結】』
作者:YossiDragon()

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第四十二話「幼き体験(後編)」

俺は二階へと上がるための階段近くで、リビングで見た時と同様の煙を発見した。その煙は吸い込んで

しまった者を幼児化させてしまう煙だった。そして、そのことを霖に伝えようとした俺は、彼女がもう既に

その煙を吸い込んでしまっていたことに絶望を感じた。しかし、なぜか彼女は幼児化することなくそのまま

の姿で俺の肩をポンポンと叩いていた。

「えっ?どうしてお前…無事なんだ?」

「何が?無事ってどういうこと、お兄ちゃん?」

「この煙は、吸い込んでしまった者を幼児化させてしまう力を持ってるんだ!」

「えっ…そんな力があったの!?」

「でも、何も感じないんだろ?」

「…う、うん」

俺に迫られ、少し頬を赤らめて霖はコクリ頷いた。本当に謎だ…。どうして、リビングに居た霞さん、霄、

霙、零の四人は幼児化したのに霖は幼児化しなかったんだ?いよいよ分からなくなってきた。

と、その時だった。子供のはしゃぎ声が聞こえてきた。しかし、それは露さんではなくましてや先程言った

四人でもなかった。

その声の主は、階段から流れてくる白い煙の中からブワッ!と姿を現した。同時に俺は目を点にする。

「なっ!?」

そう、そこに居たのはあろうことか、既に幼児化してしまっている霊と霰の姿だった。

「うおおぉいっ!!既に幼児化しちゃってるしっ!!大丈夫なのかそれ!?」

俺は慌てふためいて、追っかけられている霊と追っかけている霰を交互に見た。

「きょうち〜たちゅけて〜!!ありゃれがわたちのこと追いかけまわちてくるんだニャ!」

「…ったく、小さくなってもやることはいつもと変わんねぇじゃん!!――って、ちょっと待て。なぁ霊、

お前今何て言った?」

「だから、ありゃれがわたちのこと追いかけ回ちてくるんだニャ!」

「………何か…語尾、おかしくね?」

「そうかニャ?」

「いや、明らかにおかしいだろ!!自分で気付かねぇの?」

「きぢゅかないニャ」

霊は愛くるしい猫耳と尻尾を盛大にアピールしながら首をブンブンと左右に振った。

同時に、彼女のウェーブがかった青髪のロングヘアが降り乱れる。すると、俺の背後から霰が口の端に

よだれを垂らしながら五指をワシャワシャと動かしながら「お姉しゃまは元々猫でちゅからねぇ〜!」

と、霊に向かって近づいてきていた。その瞳は、まさに獲物を狙っている狩人の目だった。

「ひぃっ!!」

「しゃあお姉しゃま、わたくちといっちょにあしょびまちょ〜!!」

そう言って霊の元へと飛びかかってくる霰…。

「い、いやああああああああああああああああっ!!!」

霊は瞬時に拳を引き、ギュッと目を瞑って回転をかけた拳を一気に前へと突き出した。

「ぶべらっちょっ!!」

ギュルルルルルッ!!ズザザーーーッ!!…ドサッ。

霰はそのまま霊の拳をまともにくらい、回転しながら床へと顔から叩きつけられそのまま動かなくなった。

「…ご、ごめん。きょうち、ちんぢゃったかニャ?」

「いや、あいつのことだ。いざとなったら亮太郎みたいに変態パワーで蘇るさ」

そう言って俺が半眼で床に突っ伏している霰を見ていた時のことである。後ろから物音が聞こえた。

「きょうちくん!!」

次に、露さんの声が聞こえサッと後ろを振り向くと、そこには白衣姿のルナーが老若変換機を両手に抱えて

歩いている姿があった。

「ルナー、見つけたぞっ!!」

「げっ、きょうち!!」

ルナーは俺を見るや否や目を見開き、急いでその場から逃げ出した。

「あっ、待ちやがれ!!」

俺は急いでルナーを追い掛けた。

―今度こそ逃がしてたまるか!!


そう言う気持ちを持って俺はルナーを捕らえにかかった。しかし、どうも何度やってもうまくいかない。

その時、瑠璃達の声が聞こえてきた。どうやら、彼女達もルナー捜索をしっかりやっててくれたようだ。

俺の目の前を走っているルナーのさらに先に人影が見えた。おそらく、ルナーを捕まえるために配置した

やつだろう。中々いい作戦だ。そしてルナーがその人影に接近し捕らえられたと思った――が、それは

俺の勘違いだった。ルナーは捕まることなくそのままその人影の横を横切って行った。

「うおおおおおおおおおおいっ!!素通り?てか、捕まえろよ!!思わず期待しちまったじゃねぇか!!」

「わぁーい、きょうち〜!!」

「“わぁーい、きょうち〜!!”…じゃねぇよ!!」

満面の笑みで俺の元へと駆け寄ってくる瑠璃に対して俺はノリツッコミを一発かました。

「ったく、ルナーを捕まえるために待ち構えてたんじゃなかったのか?」

「え?……あっ、忘れてた!!」

口元に手を当て瑠璃はしまったという顔をした。

「今更遅ぇよ!!」

「何をやっているきょうち!早く捕みゃえんか!!」

霄が小さな子供が使うチャンバラ用のおもちゃ木刀を持って言った。

「ぷっ!えっ、何お前……それおもちゃだよね?ぷぷっ!!」

「っく、わ…笑うな〜!!ち、ちかたないだろ!こ、これしか武器になるよーな物がなかったのだ!!」

顔を真っ赤にして必死に説明する霄…。



そうこうして俺達は、ついに一階の端へとルナーを追い詰める事に成功した。

「さぁ、もう逃げられないぞ?覚悟しろルナー」

「ち、近ぢゅかないでよへんちゃい!!」

「うぐっ!しれっと心にいくつも深い傷を作らせやがって……」

俺は胸の辺りをギュウッと掴みながら言った。

そして俺が彼女から老若変換機を取り上げようとした次の瞬間――。

ピンポーン♪と、インターホンのチャイムが鳴り響いた。

「えっ?今日って何か頼んでたっけ…?」

と俺が呟く。

俺はその場を彼女らに任して玄関へと向かった。鍵を開け扉を開けようとすると、逆に扉が開かれた。

「よー!元気にしてたかお前ら?」

それはあろうことか懐かしき人物……久しぶりのご登場――水連寺一族の長男こと水連寺雫だった。

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