小説『魔界の少女【完結】』
作者:YossiDragon()

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「な、…なんてタイミングで登場してんだ〜!!」

「何だ…そんなこと俺の勝手だろ!!それよりもそんなところで何を――」

刹那――雫は目を見開いた。目の前にいた小さな八才児姿の瑠璃を見てしまったからだ。

「あ…いや、あのこれは…」

「お〜…可愛いな〜!ほ〜ら高い高ーい!」

「あはは、わ〜い楽しい〜!!」

「えっ…?」

雫はどうやら、自分が高い高いをしてやっている相手が瑠璃だと気付いていないようだ。

「にしても、随分と瑠璃姫に似てるな〜!!」

―いや、本人なんだけどね?


「えっ?私瑠璃だよ?」

「あっはは…あっはは…あはは――は?えっ…今何て?」

「私はる・り!悪魔の姫君だよ!!忘れちゃったの雫?」

高い高いをして雫に抱え上げられたまま瑠璃は首を傾げ言った。

「あっ、バカ!!ちょっ…」

「……し、神童…。これは一体――」

まさにその時だった。奥からルナーが老若変換機を抱えて走ってきて、そのさらに後から霄達がルナーを

追いかけてやってきた。

「さ、最悪だぁぁぁっ!!」

「きょうち!ルナーが逃げ出ちた、急いで捕まえてくれ!!」

「ちょっ、こんな時に…っ!!」

ルナーを捕まえようとしたその時だった。その一歩手前でボーッとしている雫が反射的に自分の足元を

駆けていたルナーの白衣をグイッと掴んで抱え上げた。

ルナーはそのまま釣竿に釣り上げれられた魚のように無駄な抵抗もせず、おとなしく釣られていた。

「ちょ…何なのよ、この惨めなちゅがた〜!!は、放ちてよ〜!!」

「分かった」

ドサッ!!

「きゃっ!…イッタタ。もうっ!ホントに落としゅやつがどこにいんのよ!!」

雫にパッ!と掴まれている手を放され、床に体を打ち付けるルナー。

「お前が落とせって言ったんだろ?」

「うぐっ…そ、そうだけど……」

言い返せないと言った顔でルナーが口ごもる。

「すまない兄ぢゃ!」

「う、ウソだろ!?お、お前……霄、なのか?」

霄の小さくなった姿を見た雫が恐る恐る訊く。

「うみゅ!全く持ってこのちゅがたは落ち着かん!だから、そのためにも早く戻りたいのだが…」

言葉噛み噛みで話す霄の言葉を聴いて、雫はフルフルと肩を震わせた。どうやら、怒っているらしい。

無理もない。大事な妹や姉をこんな姿にされたのだ。怒らない訳がない…。

「す、すまない…雫。ルナーのせいとはいえ、元はと言えば封印されてたらしい段ボール箱から、この

老若変換機を取り出した俺が悪いんだ!!非は俺にある!怒鳴りつけるなら怒鳴ってくれて構わない!

罰を与えるっていうならそれでもいい!!」

「し、神童…て…てんめぇ〜!!」

「…ッ!!」

俺は殴られると思った。だが、次の瞬間俺は目を丸くした。なぜなら俺は殴られるでもなく怒鳴られるでも

なく、雫に抱き着かれていたからだ。と言っても、ホモの気があるわけではない。それだけは確実だ。

「ちょっ、お前何やってんだよ!!」

「よくやった神童!たまにはお前もいいことをするんだなぁ〜!!」

雫はなぜか目じりに涙を溜めてそれを片方の手の指で拭い取っていた。

「えっ?何が?話が見えないんだけど…」

「お前のおかげで妹達や姫の可愛い姿を見ることが出来た!俺はもう…感無量だ!死んでもいいくらいだ!!」

「いや、えっ?」

「やっぱり、妹と言ったらこのくらい小さな方が可愛いな〜!いやしかし、姉貴が小さくなっているという

のもこれまた捨てがたいっ!!」

―こ、こいつ…間違いねぇ!ろ、ロリコンだぁあああああああっ!!!う、嘘だろ?まさか、よもやあの雫が!?

いや、予想はしてたけど…ま、マジモンだったとは…!!でも待てよ?こいつの場合、妹や姉も入るから

シスコンか?いやだが、さっき瑠璃を見て可愛いとか何とか言って高い高いしてたし……まさかの掛け持ち!?

ロリコン+シスコン――ロリシスだとでも言うのかあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!


「何をさっきから唸ってんだ?」

俺の顔を覗き込むように雫が怪訝そうに訊く。

「あっ、いや…何でも」

「変な野郎だな…」

「お前に言われたくないっ!!」

拳をワナワナと震わせながら俺は言った。と、その時またしてもあの煙が流れてきた。

「ま、まずい!雫、この煙を吸っちゃダメだ!!」

「なにを――ゴホゴホッ!!」

「し、しまったああぁっ!!」

「な、何だよゴホッ…これ!?」

刹那――ッボォオオオオオオォオオンッ!!!と雫の体から白い煙が発生し、周囲を煙で包み込んだ。

「う、嘘だろ?」

ゴクリと息を呑む俺…。しばらくして、俺の目の前に雫がちんまりとした姿でその場に倒れていた。

「イッテテテ…ったく〜何なんだよこいつは――って、な…ぬわぁんじゃこりゃぁああああっ!!!?」

雫は後頭部を擦りながら自分の手や体を見るや否や声を荒げて叫んだ。

「う、嘘だろ!?お、俺のイケメンフェイスが…プリティフェイスに――」

「自分で言うなっ!!」

俺は雫が自分の頬を引っ張ったりつねったりしている姿を見て言った。オロオロといろいろ戸惑っている

雫…。まぁ無理もない。俺も最初そうだったからな…。

「なるほど、これがろーなくへんへんきの力か…」

「ろーなく――何だって?老若変換機な?

「あーそれそれ」

手をブラブラと振ってそう反応する雫…。なんか、小さくなってますます図々しくなったっていうか

ダラけてんな〜…。

「お、お兄ちゃん…そ、そのちゅがた…」

「な、なんだよ…っ!」

「き、きゃわいいいぃいい☆」

そう言ってさっきまで少しばかりおとなし目だった露さんが覚醒――雫に飛びついた。

「ぎゃああああああっ!!な、何しゅんだ露!や、やめろ…どこに手ちゅっ込んで――あっ!」

「いいよ、いいよ〜グヘヘヘ」

露さんの笑い声はまさに悪役には打ってつけだった。それほどまでに邪悪に染まっていた。いや…邪悪に

染まると言うのでは少しばかり語弊がある。この場合変態に染まると言うのが正しいかもしれない。

そして慌ただしい物音と悲鳴が聞こえ終わると、そこには露ともう一人――可愛らしい洋服を身にまとった

幼児姿の女の子がいた。

「…えっ?ま、まさか…」

「そうだよ〜!ご紹介しま〜す!…雫ちゃんで〜っす!!」

「い、いやだああああああっ!!な、何で俺がこんなことに…。や、やめろ…やめてくれぇ〜!い、嫌な過去を

掘り起こさないでくれ!埋めたまま土に還らせてくれ!!」

雫は頭を抱えてその場に泣き崩れた。

「まぁまぁ似合ってるからいいじゃんいいじゃん!!」

「よくない!そもそも、どうして俺がこんなカッコーをしないといけないんだ!!」

「えっ?……似合ってるから」

露さんは少し間を開けて真顔でそう口にした。

「がーーーーーーーんっ!!!」

頭上に大きなタライが降ってきたような衝撃を受けた雫は、そのまま石の様に固まってしまった。

「おいルナー!これ以上被害を大きくするんじゃないっ!!おとなしくしろ!!」

「や〜だね!私は私をチビチビと馬鹿にするやつらを全員チビにしてやるんだから!!」

そう言ってルナーはプイッとそっぽを向く。

「だから悪かったって!な?許してくれよ!」

「ふんっ!…これでもくらえ〜!!」

ルナーは急に俺が油断している隙を突いて老若変換機の光線を俺に浴びせてきた。

「アカン、きょうち躱しゅんや!!」

「えっ?」

ビガーーーーーンッ!!

「うわああああああああああっ!!」

俺はモロに光線をくらってしまった。

「き、きょうちしゃんまでよーじちゅがたに?」

零が白い煙が晴れるのをドキドキしながら待つ。他の者も同様に――。そして煙が晴れ、そこに居たのは

紛れもない俺だった。そう、老若変換機の光線をくらっても尚、俺は幼児姿にならなかったのだ。

「な、なんで幼児化ちないのよ!?」

「ふっ!どうやらそれ…既に幼い奴――つまり霖や雪には効かないみたいだぜ?後、一回光線をくらった

やつにも無理みたいだ!!」

「し、しょんな〜!!」

「隙あり!!」

「きゃああああっ!!は、放ちて〜へんちゃ〜い!!」

「ちょっバカ!大声出すなよ!!近所の人に聞こえるだろが!!」

俺はジタバタと暴れるルナーを押さえながら言った。

「へんちゃい、この人へんちゃいでしゅ!わたちのむね触ってきまちた!!」

「なっ、さ…触ってねぇよ!!」

根も葉もない嘘をつかれて俺の信頼が失われるのは気分が悪い。

「なあ…そろそろ老若変換機戻してくれないか?瑠璃達だっていつまでもこの姿は嫌なんだ…」

「えっ?わたちはそこまで嫌じゃないけど…。むしろ、小さいほうが小回りも効くし、新たな世界が見えて

とっても楽ちいし!」

瑠璃は満面の笑みを浮かべてそう言いかえした。

「…いや、ほら麗魅も嫌だろ?」

「わたちは……べ、別にいいんじゃない?小さくても…」

「えええええええええっ!!?」

「ほら!何だかんだ言って皆小さいほーがいいって言ってるぢゃない」

「と、とにかく戻してくれ!!」

「う…ぐすっ!……ひぐっ!!」

「えっ?ちょっ…何?」

「う……うわあああああああああああんっ!!!」

「ええええええええええええっ!?な、何?何で急に泣き出してんの?ちょっとマジやめてくれよ!俺が

何か苛めて泣かしたみたいになってんじゃん!!ちょっ…ホントマジ泣き止んでくれって!!」

「…ぐす…ぢゃあ、泣き…止むから…ぐす……女体化してくれる?」

「何でそうなんだああああああああああっ!!」

「やだやだ!女体化して響子ちゃんになってくれないとやだあっ!!」

ついにはダダコネ作戦までも実行してしまうルナー。ホントこいつにはプライドというものはないのか?

とさえ思えてくる。

「わ、分かった!じゃあ交換条件だ」

「ぐす……こーかん…じょーけん?」

「ああ!俺は女体化するからお前は老若変換機を直すってのはどうだ?」

「……ぐす、分かった」

―あれ、意外にも簡単だった?もう少し手間がかかると思ったんだが…。てか、どんだけこいつ響子に

会いてぇんだよ!!これで何度目だ?戻らなくなったりとかしねぇだろうな〜。


などと不安な気持ちを心の内で語りながら俺は彼女と指切りげんまんした。

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