小説『魔界の少女【完結】』
作者:YossiDragon()

しおりをはさむ/はずす ここまでで読み終える << 前のページへ 次のページへ >>

俺は、徐(おもむろ)に懐から女体化する薬を取り出すルナーを見て

―用意周到だな。


と思った。すると、彼女は俺にその薬を突きつけて言った。

「さっ早く飲みなしゃい!!」

「あっ…わ、分かったからちょっと落ち着けって!!」

俺は渋々薬をルナーから受け取ると、ゴクリと生唾を飲んでその薬をゴクゴクと飲み干した。

味は相変わらず分かりにくい物で、例えにくい…。しかし一つだけ分かることと言えば、決して美味しくは

ないということだった。

「……うっ、か…体が!」

この症状も全く変わっていなかった。この薬を飲むと、どうも体が火照ってしまうのだ。俺はルナーに改良

するように勧めたのだが、彼女は点で言う事を聴く気もなくそのまま放置していた。そのため、この症状も

相も変わらずそのままだった。そして俺はその場に倒れた。

それからしばらくして目を開けると、案の定俺は女体化していた。中々慣れることのない女の体…。

麗魅よりはデカいこの胸…。毎度のことながら麗魅にいろいろと文句を言われる。だが、不思議と体は軽い

感じがした。まぁ気分の問題だとは思うが……。

「こ、これでいいの?」

「うんうん、これだよこれこれ!このちゅがたになるのをず〜っと待ってたのよ!!」

「待ってた?ってどういう――」

刹那――俺はルナーの両手に抱えられた老若変換機の銃口を突き付けられた。そして俺が言葉を発しよう

とした瞬間、光線を放たれた。俺は眩い光に包まれた。同時に白い煙が発生する。

「わぷっ!!」

ボガアァァァァンッ!!

爆発音が鳴り響き、周囲のやつらが心配そうに俺の元に駆け寄ってくる。

「だ、大丈夫きょうち?」

瑠璃が俺の事を心配そうな目で見てきた。

「う…う〜ん…全くにゃんにゃのよコレぇ〜。…コホコホ!」

「ちょっ、ちょっときょうちが――いや、きょーこちゃんが幼児化ちてる〜!?」

「えっ、う…嘘、嘘でちょ?ど、どーちて?わたちは一回幼児化ちたのに…っ!」

「おしょらく、男の時と女の時でカウントが違うんでちょうね…」

冷静に麗魅が縦にうんうんと頷いた。

「し、しょんな〜!ど、どーちゅればいいの?このままぢゃ誰もルナーを止められないぢゃない!!」

「ふっふっふ…しょのとーりよ!わたちの事はも―誰にも止められやちないわっ!!」

ルナーはそう言ってふはははと笑ながら廊下を走り回った。

―くそ、もう誰にもこのルナー(バカ)を止めることはできないのか?


そう俺が思っていると、露さんの荒い息遣いが聞こえてきた。

「えっ、ちょ…ちょっと露さん?な、何を…や、やめてくだしゃいよ!わ、わたち…ほんとーは男なん

でちゅよ?」

「しょれはしょれでなんか…アリぢゃない?」

「どーゆー理屈でちゅかしょれ!や…ちょっ…ダメ、あっ…あーっ!!」

「ひひひ…いいぢゃないいいぢゃない!減るもんぢゃないでちょ?」

「わ、わたちの何か大事な物がう、奪われちゃいましゅ〜!!」

「よいではないかよいではないか!ふはははは!!」

露さんは覚醒して、女体化した俺に襲い掛かってきた。

「きゃあああああああっ!だ、誰かたちゅけてぇえええええええええっ!!!」

「こりゃ、姉ぢゃ!きょうち――いや、きょーこが嫌がってるだろ!やめておけ…」

「えーっ、しょんな〜!あっ、ぢゃあ霄ちゃんでも……ふっふっふ」

悪びれもせず露さんは標的(ターゲット)を霄に変更して彼女に歩み寄りながら五指をわしゃわしゃと

動かした。

「調子に乗るな!」

ゴツッ!!

すかさず、おもちゃの木刀でコツンと優しく叩く霄…。これではどちらが姉なのか分かったものではない。

「いたっ!いったーい!!え〜ん、酷いよ霄ちゃん!わたちお姉ちゃんなんだよ?年上なんだよ?弱い者いぢめ

はよくないよ〜!!」

「姉ぢゃはがんじょーだろ?」

「しょんなことないよ〜…ちゃんと柔らかいとこもあって、ほらプニプニちてるでちょ?」

霄の手をとって自らの胸に運ぶ露さんは、頬を赤らめながらそう言った。

「な、何のはなちをちてるのだ!!」

慌てて姉の胸から手をどける霄…。

「第一、姉ぢゃの胸はない胸ではないか!」

「ガーンッ!!い、言ってはいけないことを――っ!いくら霄ちゃんでも、お姉ちゃん…今のだけは許せない!!

姉よりも妹のほーが胸がデカいなんて許ちぇないーっ!!」

そう言って露さんは霄の上に覆いかぶさった。

「ぬわっ!な、何をちゅる!!や、やめろ!は、放ちてくれぇ!!」

必死に姉から逃げようとするが、幼くなってしまって力も弱くなってしまったのか、霄はなかなか抜け出す

ことが出来なかった。

「ちょ、ちょっと…露しゃん!霄から離れて――」

俺が恐る恐る露さんに話しかけると、露さんは目を光らせて不敵な笑みを浮かべてこちらを見てきた。

「ひぃっ!!」

女的直観が女体化している俺にも作用したのか、俺は瞬時に後ろに飛びのいてしまった。

すると、後ろにいた霖が声をあげた。

「どーするのお兄――いや、お姉ちゃん…。ルナーさん逃げちゃうよ?」

「えっ?あっ、ちょっと待ちなさいルナー!!」

「へっへ〜んだ!誰が待ってあげるもんですか!!わたちはこの発明品を使って世界中の人間を幼児化させる

って決めたんだから!!誰にもわたちのケーカクはぢゃまさせないわよ?」

ふんっ!とソッポを向いてそう言うルナー。しかし、神はこちらに味方してくれたのか、救世主を登場

させてくれた。

ピンポーン♪

と本日二度目のインターホンのチャイムの音…。

「もーっ!人がせっかく悪役染みたこと言ってるのに、ぢゃましゅるやちゅは何処の誰よっ?」

扉を何とか開け、上を見上げるルナーと俺達…。そこに居たのは、まさに救世主と呼べる人物だった。

俺の姉――唯だ。

「あっ、お…お姉ちゃん!」

「ん?なんだ、き…響史!?ど、どうしてそんな可愛い姿に…」

「お姉ちゃん!わたち達、そこにいるルナーに酷い目に遭わされて…」

今思えば俺は思った。俺達にとって、今の姉ちゃんは救世主――メシアとも言える存在…。だがしかし、

ルナーにとって見れば唯姉ちゃんの存在は、魔物としか言いようがない存在だった。

「ふ〜ん…それはそれは随分とやってくれたみたいだな!あんた確か以前にも私の可愛い弟に手出して迷惑

かけてくれたよな〜?」

「ふえっ!?し、しょんなあの時はただ…」

「言い訳は聴きたくないね〜。しかも何その姿…随分小さくなっちゃって、あの時の胸の大きさが影も

形もないじゃん!少しは反省したのかなと思えば、またしてもあんたの仕業ってこと――」

「ち、ちが――いやああああああああああああああああああっ!!!」

まさに一瞬のことだった。ルナーは一瞬にして唯姉ちゃんに拘束された。

「うぅ〜…どーちてわたち毎回こんな事に巻き込まれるの〜?」

涙を流しながらルナーは唯姉ちゃんに捕らえられていた。まさに宙ぶらりんの状態…。何だかその姿が、今の

俺には惨めに見えて仕方がなかった。

「にしても、随分とまぁ可愛い姿になっちゃって……。なぁ響史!いや…え〜と確か響子だっけ?」

「きょ、きょうちでいいわよ!わざわざきょーこって言わなくても…」

「困った顔も可愛いな、こいつこいつ!」

「ほっぺたつつかないでよ〜!」

ツンツンと俺の頬をつついてくる唯姉ちゃん。つつく度にプルプル揺れる俺の頬…。小さいとこんなにも

張りがあるのかと俺は思った。

「なあ響子!記念に写真撮ってもいいか〜?」

「ええ〜っ!?し、しょんな〜…」

「助けてやったのはどっちだっけ?」

口笛を吹きながら横目でチラッと見てくる唯姉ちゃん。

「お、お姉ちゃん…」

「じゃあ、私の言う事が聴けないわけないよな〜?」

「うぅ〜…わ、分かったわよ」

俺は観念した。

携帯を手に取り、カメラ機能を呼び出した姉ちゃんは俺の体を自分の体にグイッと近づけた。姉ちゃんの

頬が俺の頬に当たり、さらに俺の鼻孔が姉ちゃんの髪から漂ってくるシャンプーのいい香りで刺激された。

「はい、チーズ!」

カシャッ!!

カメラからシャッターを切る音が聞こえる。

「綺麗に撮れてる、綺麗に撮れてる!」

「あ、あの〜…そろそろわたち解放ちてくれない?」

無視されているルナーがふと姉ちゃんに声を掛ける。

「えっ、別にいいけど…」

「ダメだよお姉ちゃん!」

「ダメだってさ!」

「ど、どっちなのよ!」

「何か文句があるのか?」

「あ、ありません!!」

ルナーはビクビクしていた。よほど姉ちゃんが恐いと見える。前回もそうだったからな…。

「さぁルナー。早く老若変換機を直ちて!!」

「うっ…わ、分かったわよ!直しゅわよ!」

そう言ってルナーは屋根裏の研究室へと向かった。



それから約30分が経過した…。

「ふーっ、直ったわよ!」

ルナーは額の汗を拭い嘆息した。

「はぁ…はぁ…疲れた〜」

「そんなにはぁはぁして感じてるの〜?」

「なっ、バッ…ち、違うに決まってるでちょ!?」

ルナーは顔を真っ赤にしてそう言った。

「ぢゃあ行くわよ!」

「それホントーにだいぢょうぶなんでちょうね?」

「あ、当たり前ぢゃない!!まだ試してないからわかんないけど…」

「ええええええええっ!!?ホント大丈夫なのそれ?」

「だ、大丈夫よ!ぢゃあ行くわよ!」

ガチャリ!

とレバーを下げるルナー。そして次の瞬間、俺達を眩い光が包み込んだ。

ピカーーーーーーーーーーーーッ!!

しばらくして眩い光がおさまり、目を開ける事が出来た。自分の体をよく見てみると、ちゃんと自分の本来

の姿に戻っていた(女体化したまま)。

「や、やったあああああああっ!!!」

俺は歓喜の声をあげた。だが、この姿のままのせいか何だか素直に喜べない。

すると、後ろの方で何だか騒ぎが起きていた。ざわついた感じの空気…。一体何があったのだろうか。

踵を返して声のする方を見てみると、そこには十人の護衛役が円を描く様に立っていた。

―あれ?なんかおかしくないか?


ふと俺はそんな疑問を感じた。――というのも、その十人のうちの二人の姿に全く持って見覚えがないのだ。

完全に知らないというわけではない。あくまでも、名前を言われたら「あ〜あいつね?」みたいなくらいの

曖昧な感じの状態なのだ。だが、あんなにスリムな体型で中々のプロポーションならば、俺が忘れるはずが

ない。そもそも、俺はそこまで忘れっぽくはない。ていうか、毎日毎日生活しているのだから忘れる訳が

ないのだ。

「あの〜…君達、誰?」

俺は恐る恐るその二人に声を掛けてみた。すると、その二人が振り向くや否やムスッとした顔で俺に文句を

言ってきた。

「も〜忘れちゃったの、お兄ちゃん?」

「そうだよ、あんなに毎日一緒に寝てたのに…酷いよお兄ちゃん!」

「えっ?一緒に寝た?ていうか“お兄ちゃん”って…まさか!?」

俺は二人の言う“お兄ちゃん”という言葉がキッカケでようやく分かった。そう――この見た目的に18歳の

お姉さん二人は小学生である霖と雪だったのだ。

―しかし、どうしてこのようなナイスバディ姿になってしまったのだ?


「どうしてそんなことに?」

「何だかよく分からないけど、さっきの老若変換機の光線を浴びたからみたい…」

「えーっ!?あっ、そっか…。既に幼い姿である二人には幼くなる光線は効かなかったけど、幼い姿の状態で

なら成長する光線は効くんだわ!!」

俺は声量をあげてポン!と手を叩いて納得した。にしても、本当にこの老若変換機にはいろいろと欠陥部分が

あるようだ。

「ちょっと、ルナー!早く二人を戻してよ!!」

「ええ〜っ?もう無理よ!」

「ど、どうして?」

俺は理由を訊いた。それによると、何でもこの老若変換機は既に何度も壊れかけの状態に陥ってしまった

ためにもう殆ど力を出すことがでいない状態にあったらしい。それでも無理やり自分達を元の姿に戻させた

ため、完全に壊れてしまったらしい…。

「他に手はないの?」

どうにかして霖と雪を戻させようと試みる俺…。

「残念だけど……」

気を落としてルナーは言った。

と、その時、「何言ってんだ!早く元に戻せ!!」と雫が声を荒げた。

「ええ〜っ!?だ、だから無理なんだってば!!」

「い〜やこればかりは譲れない!!もう二人しか俺の心を慰めてくれる心優しき妹はいないんだ!!」

―あ〜ロリシスパワーが発動したのか…。


と俺は半眼でその姿を見ていた。

「む、無茶言わないでよ!第一もう疲れちゃったんだから少しは休ませ――」

「誰のせいでこんなことになったと思ってんだ、あんっ?」

「ひ、ひぃっ!!で、でも…本当にむ、ムリで……」

「くそ…どうすれば……」

親指を甘噛みして悔しがる雫…。どうやらよっぽど霖と雪に元の幼い姿でいてほしいらしい…。まぁ、俺も

少なからず同意ではあるが――。

―と言っても決してロリコンという訳ではないからな!?


「そうだ!響子がこいつに頼めば?」

ふと姉ちゃんがとんでもないことを言ってきた。

「た、頼むって?」

「だから…こうお姉さん座りして上半身を前に突き出して…手を太ももの間において、そして胸を寄せて…

眉毛を少し下げて上目遣いをして――」

俺はとりあえず唯姉ちゃんの言うとおりにやってみた。そして、最後の部分に来た。

「こ、こう?」

「そう…そして、少し頬を赤らめさせてこう言うんだ!『ねぇ…響子のために、若返りの薬作って?

お・ね・が・い☆』……って」

「ええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええっ!!?

無理無理無理無理無理!!絶対そんなの無理よっ!!」

今までにないくらい激しく顔を左右に振り、必死の抵抗を見せる俺…。

「そ、そうよ!そんな物で私が騙されたりする訳ないじゃない!!」

そう言ってプイッ!とそっぽを向くルナー。

「本人だって言ってるんだし、無理に決まってるよ!」

「そんなことないって!!ほら、言ってみ?」

「そ、そんなの――」

「救世主は誰だっけ?」

「うっ…!わ、分かったわよ…やればいいんでしょ、やれば…」

はぁーと嘆息しながら俺は先ほど姉ちゃんに言われた通りの体勢を取る。そして最後の一言――。

―ていうか、そもそもこの言葉は女よりも男に訊くのでは?


と思いながら俺はなるようになれ!という投げやりな気持ちでその言葉を口にした。

「ねぇ、ルナー。響子のために、若返りの薬作って?お・ね・が・い・☆」

ブシャアアアアアッ!!!

刹那――露さんとルナーの二人から大量の鮮血が飛び散った。そう――鼻血だ。

―てか、どんだけ出んの鼻血!?


と軽くツッコミ俺はすかさずもう一度言葉を口にする。

「ねぇ〜お願〜い!」

「きゃあああああああああっ!!もっ、もっちろんよ〜!!そんな、可愛い子にそんなこと頼まれたら断れる

わけないじゃなああああああああいっ!!疲れが何ぼのもんじゃ〜い!!若返りの薬なんてこの天才発明家である

この私の手にかかれば一瞬のことよ!!」

珍しく本気パワーを出し始めるルナー。



そうこうして、ようやく霖と雪の高校生姿は元の小学生姿に戻った。無論、その可愛い二人の妹の姿を見て

雫が温かい目になったことは言うまでもない……。

-198-
Copyright ©YossiDragon All Rights Reserved 
<< 前のページへ 次のページへ >> ここまでで読み終える