小説『魔界の少女【完結】』
作者:YossiDragon()

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第一話「魔界の少女」


事件は夜遅くに起きた。

俺は光影学園に通う高校一年生の神童 響史だ。

―えっ!?なぜ夜に外をウロチョロしているのかって?

それは、あれだ…話せば長くなるが、俺の家族は母親と父親と弟と少し年の離れた姉、

といっても二十歳なのだが…。と、俺を含めた五人で暮らしていたのだが、その姉が現在、

他の男と一緒に生活して家にいない。また俺の両親は、家のローンを返したり、

生活費を稼いだりするために、遠くに仕事しに行っている。さらに弟は、

昔から仲の良い友達の家に泊まりに行ったまま、未だに帰ってこない。

結果、家には俺一人しか住んでいない。


時間は真夜中近く…。俺は、親にあらかじめもらっていたお金がなくなってしまったせいで、

仕方なく親の稼いだ金で、近くのコンビニにおにぎりなどを買いに行っている途中だった。

そして、俺が暗がりの路地を抜けて、奥の方に見えているコンビニを目指して歩いていたその時、

通行人も誰もいない真夜中に、空から誰かの声が聞こえてきた。


「どいて〜!!」

俺はとっさの出来事にかわす事が出来ず、そのまま、誰かとぶつかった。

「いって〜、何なんだいきなり…」

俺が後頭部を擦りながら、目の前を見てみると、煙がモワモワと舞い上がり、

アスファルトがひびわれて、へこんでいるのが見えた。

「!?」

俺はよく眼を凝らして見てみた。すると、舞い上がる砂煙の中に人影があった…。

そして俺は、その人影の正体が、俺と同じくらいの年齢の少女だということに気付いた。

しかも、不思議な印象を与える服装に、俺は疑問を抱いた。

「お前、誰なんだ?」

俺が咄嗟に質問すると、その少女はゆっくりと、こっちに顔を向けた。

蜜柑色の髪の毛をなびかせ、その髪の毛が電灯の光に反射し、綺麗な色をかもし出す。

俺はしばらくの間、彼女のきれいな髪の毛に、見とれてしまっていた。その時、謎の少女のまぶたが開いた。

その美しいオレンジ色の瞳に、一瞬何かを思ったが、肝心なそれが思い出せなかった。

俺が考え事をしていたその時、目の前の少女はふと上を見上げ、

「危ないから逃げて!!」

と言った。

「え?」

俺は彼女が何を言っているのか分からず、その場に立ち止まったままだった。

しかし、背後にふと嫌な気配を感じたため、さっと後ろを振り向くと、

青い髪の毛をした謎の少女が、電柱のてっぺんに立っていた。

「一体何なんだ!?」

俺は訳が分からず、叫んだ。すると、電柱の上に立っていた少女が、スッと姿を消したかと思うと、

突然目の前にズイッと現れた。

「!?」

俺は言葉を発する暇もなく、みかん色の髪の毛の少女によって、後ろにグイッと引っ張られた。

「いい?しっかり捕まってて!!」

少女にそう言われ、俺は言われるがままに、彼女の背中に乗った。俺が彼女の背中に乗ると、

それを確認した少女は、

「じゃあ、行くよ!!」

と言って、勢いをつけるために、足を強く踏み込み、高く飛び上がった。それと同時に、

彼女は背中から真っ黒な漆黒の翼を広げた。

「な、何だこれ!?」

俺は、今まで体験したことのないような出来事の連続で、思考回路がうまく機能していなかった。

気がつくと、俺は謎の少女の背中に乗るというよりも、おぶさるような感じで、空を飛んでいた。

ふと、下の様子を眺めると、目の前に広がる美しい光影都市の夜景に、俺は少し感動した。

しかし、今の俺にそんな暇はなかった。後ろからさっきの少女が、追いかけてきていたのだ。

「うわっ、来た!!」

「ちょっと、黙っててくれないかな?飛ぶのに集中出来ないから…」

「ごめん…」

俺は少女に注意され、咄嗟に両手で口を閉じた。


しばらくして、今度は向こうから話しかけられた。

「この近くに隠れられる所とかない?」

「えっ?…そうだな、学校とか?」

「ガッコウ?まぁ、いいや…そこに案内して!!」

突然頼まれた俺は少し戸惑ったが、

「ああ…」

と返事をして、彼女を俺の通う光影学園に案内した。ちなみに、俺は光影学園の高校一年生である。


しばらくして、俺達は光影学園の真上に到着した。ゆっくりと運動場に着地し、

そこから校舎の入口へと向かい、鍵のかかっていない、秘密の入口から中に入っていく。

俺は、その秘密の入口を三つほど知っている。中には、もっと知っているという人間もいるらしい。

―にしても不用心すぎないかこの学園…。警備員たちは一体何をしているんだまったく…。


俺は彼女の手をひいて、必死に走りながら思った。

しばらく走り続けていると、ちょうどいい場所に位置している教室を見つけた。

「こっちだ!」

俺は彼女の手を引き、教室内に入って行った。辺りを見回し、ちょうどいい隠れ場所がないかどうか、

目で探す。

しかし、時間も遅く、外の月明かりも届かないこの場所では、目も慣れていないため、難しい。

とりあえず、ふと目にとまった掃除用具箱の中に二人で隠れることにした。

「ここなら、誰もいないし、見つかる心配もないはずだ!!」

掃除用具箱の中はすごく狭いうえに、掃除道具などが入っているため、空間が狭い。

そのうえ、ふつうなら一人くらいのところを無理やり2人で入っているのだ。そのため、

俺の体と少女の体がすごく密着していた。

「うぅ…ごめんな、こんな狭い場所しかなくて…」

「ううん、私は大丈夫…」

狭い空間のため、顔を上げるのも難しいのだろう。少女は、顔を上げず、俺の胸に顔を密着させたまま、

言葉を返した。俺は、いつもは賑やかな学校が、静まり返っていることに違和感を感じながら、

ふと腕時計を見た。真っ暗な視界を時計の光がにわかに明るくする。

―やば、もう12:30じゃん!!


心の中で叫んだ俺は、頭を抱え込みながらうなった。

―つ〜か、何なんだこいつは…!いきなり目の前に現れて何?しかも、何で空飛んでたんだ?

何なんださっきの襲ってきたやつは?あいつも、まさかこいつと同じ類なのか?


俺がうなっていると、いてもたってもいられなくなったのか、少女が話しかけてきた。


「ねぇ、あなた名前は?」

「えっ?神童 響史だけど…」

「ふ〜ん…あっ、私の名前はメリア=ラルロスト=アルゴン。皆からはルリって呼ばれてるわ!よろしく♪」

俺は少女の…いや、ルリの名前にあることを思い、思い切って質問した。


「お前って外国人なのか?」

「外国人っていうか、私は魔界の人間なの…。私は魔界の大魔王の娘だから…」

俺は一瞬にして、度肝を抜かれた様な感覚を感じた。

「えっ…、魔界の大魔王の娘…?」

「まぁ、人間界でいうなら、貴族のお姫様みたいな感じかな?」

ルリは少し首をかしげながら言った。


そんなことを話している間にも時間は刻々と過ぎていき、ついに時計の針は真夜中の一時を指した。

「もう、こんな時間か…」

「そろそろ、あいつも諦めた頃かな…」

「そういえば、さっきの奴は一体誰なんだ?」

「詳しい事は後で話すよ…。今はとにかく、身を隠していられるような場所が必要なんだけど…、

何処かいい場所ない?」


俺は突然の相手の要求に、少し困惑してしまったが、しばらく考え込んだ結果、

俺の家が一番安全だという答えに辿りつき、思い切って少女に言った。

「じゃあ…俺の家に来るか?」

「う〜ん、そうだね…。分かった、連れて行って!!」

「…ああ」

俺は頭を掻きながら、ルリの手を引き、掃除用具箱から出ると、教室を出て、学校を出て、

家まで走って行った。俺はてっきり、さっきみたいに、空を飛んでいくのかと思ったが、

飛べばさっきの少女に見つかるとかなんとか言って、歩きになってしまった。


俺の家は豪華って言う程大きくはなく、かといって貧相なまで、ボロボロの家に住んでいる訳ではない。

俺の家の周りは住宅地などで囲まれていて、公園は近くにある中央公園しかない。

また、学校までは俺だけが知る、ある秘密の通路を通って、学校に通っているため、

いつも学校に着くのが早い。本来の道を通れば、すごく時間がかかってしまうからだ。


「さぁ、着いたぞ!」

俺が自分で家を指差した瞬間、あることが頭の中をよぎった。

「あっ、そういえばコンビニ行くの忘れてた!!まずい、今からじゃ間に合わない!!」

俺が頭を抱えて、その場に座り込んだその時、ルリが俺の肩に手を置き、微笑みかけながら言った。

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