「そんなことなら私に任せて!!今すぐ行って来るから…。何を買って来ればいいの?」
「ええ〜と、じゃあ…このメモに書かれているものを買ってきてくれ!金はこの中にあるから…」
そう言って、俺は彼女にお金とメモを手渡した。
「じゃ、行ってくるね〜♪」
ルリは高く飛び上がり、悪魔特有の真っ黒な羽を羽ばたかせながら、コンビニへと向かった。
「大丈夫か…?」
俺が少し不安になりながら、ドアノブに手をかけたその瞬間、風が俺の背中に強く吹きつけた。
「な、何だ?」
俺がさっと振り向くと、そこには既に、ルリが俺の頼んでいた物の入ったコンビニの袋を片手に持って、
立っていた。
「す、すげぇ…。もう買ってきたのか?」
「これでも時間がかかったほうだよ…、本当はもっと早いんだけどね」
ルリの言葉に俺は息を呑んだ。
―俺のこの俊足を持ってしても、こいつの速さには負けるだろうな…。
俺はそう自覚した。ちなみに、俺は結構足が速い(自慢…)
家の中に入ると、相変わらず静まり返ったままだった。
―まぁ、誰もいないんだし、当たり前か…。
俺はためいきをつきながら、靴を脱ぎ散らかした。その様子にルリは驚愕の表情を浮かべていた。
「とりあえず、二階に行くぞ!」
「う、うん…」
ルリは少し気の置けない返事をした。まぁ無理もない。敵がいつここを嗅ぎ付けてくるかわからないからだ。
階段を上り終え、廊下を進み、俺の部屋の前につくと、ドアを開け、中に入り、悪魔の少女を、
その場に座らせ、飲み物を持ってこようと、台所をめざし、足早に階段を駆け下りた。
俺は、冷蔵庫から、買い溜めしておいたお茶を取り出し、冷蔵庫を閉めると、
ほったらかしにしているルリの事が少し気になって、階段を駆け上がった。部屋に入ると、
彼女は俺の持っているマンガなどを見て笑っていた。
「ふふっ、人間界には面白いものや興味深いものがたくさんあるんだね…。やっぱり来て良かった〜。
最初は何もかもが不安でしょうがなかったんだけど、私の選択は正しかったよ」
―選択?何の話だ…?
俺は首をかしげ、眉毛を少し釣り上げたが、今は目の前の事情について聞こうと、その場に座り、
真剣な表情で彼女に言った。
「それで、さっきの話の続きは…?」
俺の言葉を聞いた彼女は冷静に深呼吸をし、マンガを元の棚に戻して、
俺の机の椅子に座り、背もたれにもたれかかった。
「私が魔界から来た、大魔王の娘だってことはさっき話したよね?」
「ああ…」
「実は、私…。魔界から家出してきたの…」
「どうしてまた?」
俺の質問に、彼女は一瞬、先ほどの追っ手が気になったのか、真っ暗な外の景色を眺め、
しばらくして俺の方に視線を戻すと、質問に答えた。
「お父様との暮らしや今の生活が嫌になったの…。毎日毎日、暗がりの部屋でいつも勉強してばかり…。
そんなのつまらないだけ…。だから私は、ここに自由な生活を求めてきたの。でも、
すぐに追っ手に見つかった…。さっき、私達を襲ってきたのは魔界の住人で、『護衛役』っていうの…」
「護衛役?」
俺は初めて聞く言葉に興味を抱いた。
「その護衛役って何なんだ?」
「うん…。護衛役っていうのは、私達の様な位の高い人達を護ることを言うの…。
魔界兵戦士育成教育学園…通称『魔界学園』の優秀な成績を残した卒業生にのみ、与えられる称号…。
それが護衛役…。今年は最悪なことに最強の十二人が称号を受け取ったの…」
「最強の十二人?」
俺の言葉に彼女はコクリと頷いた。
「水蓮寺一族…。今年の護衛役はどういうわけか、偶然にも十二人全員、同じ血を持った、
古の一族である水蓮寺一族が引き継いだの…。海の様な綺麗な瞳に、空の様な透き通った髪の毛…。
それが、彼らの特徴…。それぞれ一人ひとりが特別な力を持っていて、その力量は計り知れない。
恐らく、それも理由の一つになって、今年の護衛役が彼らに決まったんだろうね。
…ここまでのことで何か分からない事はある?」
彼女は念のためなのか、俺に確認を取った。しかし、俺にとっては何が何なのか、
いまいちまだ理解出来ていなかった。
―はっきり言って、全然わからない…。
だが、ここにいる少女は間違いなく魔界の人間で、お姫様だということは分かった。
―にしても、さっき話していた護衛役っていう強い奴らが、ここに来たらどうする?
魔界で最強だって言われてるやつに、人間の俺が勝てるのか?
そんな不安の思いが、俺の頭の中を駆け巡る。
その頃、上空では…。
「ふふ…。ようやく、見つけた姫様…」
月明かりに照らされる青空の様な色をした髪の毛をなびかせながら、
謎の少女は電柱の上に佇んでいた……。