「な、何やってるんだお前?」
「えっ?いやですよ、神童君…。あなたの体がやけに冷たかったので暖めていたんです…。
元の体温に戻ってよかったです…」
「あ、ああそうか」
「雛下さんはずっとお前に付き添っていたのよ?」
「えっ、そうなんですか?」
「ええ!」
先生の話を聞いて、俺は少し驚いた。
―どうして、俺にそこまでしてくれるんだ?雛下に対して恩をあげるようなことをした訳でもないのに、
なんなんだ?謎だ…。
その時、あることを思い出した。
「そうだった、早く帰らないと…」
俺がさっと上着を取ってカッターシャツの上に着て、バッグを持ち出て行こうとすると、
雛下が俺の腕を掴んだ。
「ん?どうかしたか?」
「ダメですよ…。まだ、目覚めだばっかりなんですから。それにさっき熱を測ってみたら、
37.5℃くらいでしたよ?少し熱があるんじゃないですか?」
雛下が、俺の顔を覗き込みながら言った。
「だ、大丈夫だ…。離してくれ…」
「ダメです!そんなに帰るというのなら私がついていきます」
「えっ!?」
「大丈夫です安心してください…。先生それならいいですよね?」
「えっ?ワタシは別に構わないわよ?」
「えっ!?」
「ということですので…。さぁ、行きましょう神童君…」
というわけで、俺は雛下に家まで送られることになった。
時刻は夜の七時…。学校から出発して5分くらい経ったところで、俺は無言だった彼女に少し問いかけた。
「どうしてここまでしてくれんだ?俺は別に何もしていないのに…」
「いやだな〜。神童君は私に凄く嬉しいことをしてくれたんですよ?
えっ、もしかして覚えていないんですか?」
「えっ、いや覚えてるさ…ハハハッ!!」
―ヤベェ〜全然覚えてねぇ〜!!何だっけ、俺は昔から人の名前を覚えるのが苦手だったからな〜。
そんなことを思いながら、俺は真っ暗な路地を歩いた。左右にある家からは、照明の光が漏れている。
ポツンポツンと等間隔に設置されている電灯の下を歩きながら、角を曲がったところで、
今度は雛下から俺に話しかけてきた。
「そういえば、神童君の家は何処なんですか?」
「えっああ…。この先をずっと真っ直ぐ行った先だけど?」
「へぇ〜、じゃあ案外…家は近いんですね〜」
「えっ、雛下は家何処なんだ?」
「ああ、私の家はここですよ?」
そう言って彼女が指差したのは丁度雛下の左側にある家だった。
「ああ…。ここなんだ……」
「はい!というわけですので、お先に失礼します神童君…」
「えっ、送っていってくれるんじゃなかったの?」
「えっ?いやですね〜神童君…。こんなに暗くてしかも、最近は物騒な夜に、
女の子がわざわざ送っていったりしないですよ〜!!」
―ええ〜っ!?何、ちょ何?俺一人で帰る感じになってんの?確かに家に近いといわれれば近いけれども、
さっきから俺なんか体の調子が悪いんだけど…?
「じゃ、そういうことで…。また明日学園で〜さよなら神童君!!」
そう言って彼女は満面の笑みで、俺に手を振りながら家の玄関ドアを開くと、中に入りドアを閉めた。