「マジかよ…」
と、俺が途方にくれていたその時…、
「あれ?」
―ヤベェ…。めまいがしてきた。さすがにちょっと無理しすぎたか?
いやでも、鮭の塩焼きが喉につかえたくらいで体調不良を起こすって、そうそうないよ?
ったくどうなってんだよ…。まさか、あの塩焼きの中に何か俺の知らない、
魔界の調味料かなんかが入っていて、それが人間である俺の体に副作用を起こしているんじゃ…!!?
〔そんなに恐ろしいものは入っていませんよ…?〕
「!?」
―何だ今の声は…。まさか、あまりにも具合が悪すぎて、ついに幻聴が聞こえはじめたか?
「違います!私は幻聴ではありません…。あなたの目の前にいますよ…」
「ん!?」
俺は景色がぐるぐる回るくらいの限界に達していた。
―頭がカチ割れるくらい痛い…。こいつは、マジでヤバイ…。
すると目の前に誰かの足が見えた…。白く透き通った肌…。少し顔を上げるとスカートが見えた。
―女の子か?
さらに上を見上げると、謎の美少女が俺をじ〜っと見つめていた。
「!?」
空の様な透き通った髪の毛。蒼い海の様な瞳…。
―やばい護衛役だ!!
「あなたの弁当をすりかえたのは私ですよ…。その鮭の塩焼きには特製の薬が入っています…。
魔界で作られたものなので人間にとって効き目は抜群のはずです…。効果としては、
激しい頭痛、めまい…吐き気。他にも高熱や、脱水症状などが起きます…」
―ま、マジかよ。こいつがあの弁当をすりかえやがったのか…。
「一応、聞いておくがお前の狙いはなんだ?」
「もちろん、あなたの命です…」
―即答かよ!!ああ、ダメだ…。ツッコもうとすると、頭痛が激しくなる。
「あなたはもう限界に達しています…。これ以上苦しみたくはないでしょう?
ですから、私が直々にやってきたんです…。苦しみながら死ぬよりは楽に死ぬほうがいいでしょう?
まぁ、要するに安楽死ってことです…。さぁ、覚悟してください。
あまり、動くと…急所を外してもっともがき苦しむことになりますので…」
そう言って、護衛役の少女は腰にぶら下げた二刀流の剣を鞘から引き抜き、俺に狙いを定めて構えると、
それを一気に振り下ろした。
―まずい!殺られる!!
と、俺がうずくまっていると俺の目の前にもう一人の護衛役が…。それは何と護衛役の霊だった。
「霊!?何でここに…?」
「霄お姉ちゃんに言われたの…。これを響史のところに持っていけって!!」
「霄に…?」
俺はゆっくり立ち上がると、霊から何かを手渡された。それは何と、
霄の愛刀でもある妖刀『斬空刀』だった。
「これは、霄の?」
「お姉ちゃんが使えって…」
その時、またしてもあの頭痛が俺を苦しめた。
「どうかしたの?」
俺の具合の悪そうな顔を見て、霊は心配そうに訊いた。
「実は、あいつに薬を盛られたんだ…」
「それで、そんなに顔色が悪いんだね?安心して…。私の力にかかれば、
そんなのものはあっというまに消えるから…」
その言葉を聞いて、俺はあることを思い出した。
―護衛役は様々な力を持つ兵隊…。この少女は二刀流で剣を使う。霄もまた妖刀を使って敵を倒している。
だとすれば、霊の力は一体なんなんだ?
そんなことを前々から考えていたのだ。
「私が癒してあげる…。治癒能力発動…。『治癒鈴音』!」
「させません!!」
少女が霊の言葉に反応し、慌てて剣を振るう。
しかし、一歩遅かったようだ。霊が懐から取り出した金色の鈴を振ると、
首と尻尾についている鈴が共鳴して、俺と霊の周りに強力なバリアが張られたのだ。
しかも、その透き通った癒しの鈴の音を聞いていた俺は、いつの間にかあれほど苦しんでいた頭痛が、
嘘の様に治っていたのだ。
「す、凄ぇ…」
俺は凄く感心した。
「くっ!…まぁいいです。そんなことをしようと、神童さんは私には勝つことは出来ません…」
「へっ、面白い…。さっきの分のお返しもしないといけないしな…。いいぜ、相手になってやる!」
そう言って俺は、霄の剣を構え相手に向けた……。