第二話「空からの訪問者」
俺と魔界から来たルリは、しばらくの間、俺の部屋で沈黙を続けていた。二人の間に、
カチカチと壁にかけてある時計の針の音が鳴り響く。
その時、部屋が揺れだし、天井についている灯りがチカチカと点滅しだした。さらに、揺れは激しくなり、
すなぼこりがパラパラと下に落ちてくる。
「な、何だ!?」
「ま、まさかもうこの場所がバレたの?」
さっきまで冷静な表情を取り続けていたルリが、急に慌てるのを見て、俺は少し動揺した。
「どうかしたのか?」
俺がルリに、何が起きているのかを尋ねようとした瞬間、ルリが俺に飛びついてきた。
「危ない!!」
彼女が叫んだ次の瞬間、天井が一気に崩れ落ちた。まるでハリボテのように…。
「何なんだ?」
「まさか、ここまで来るなんて…」
俺は舞い上がるすなぼこりの中に、一つの人影を確認した。その青空の様な透き通った髪の毛と、
青い海の様な瞳。
―あいつは、コンビニに行く途中で、いきなり襲ってきたやつだ!!そうかあいつが、
ルリが話していた護衛役ってやつの一人なんだな?
その美しい美貌に、俺はしばらく魅力を感じ、見とれてしまっていたが、ルリが俺の名前を呼ぶ声で、
目が覚めた。
「あっ!?」
「大丈夫響史?しっかりしてよ…。彼女は、魔界では最強と謳われた剣士なんだから、気をつけて!」
「ま、マジかよ!?」
俺は、少し気が抜けていたのかもしれない。目の前にいる俺よりも少し背が高い少女は、
俺の方には一度も視線を合わせることなく、ルリに近寄っていった。
「姫様、ようやく見つけた。さぁ、一緒に魔界へ帰るのだ。大魔王様も待っているぞ?」
「嫌よ、あんな所絶対に帰らない!!」
ルリが強気になっているのを、俺は彼女に会って、初めて見たかもしれない。
「はぁ…。また、そんな我侭を…。姫様が帰らないと私が怒られるのだ…さぁ!」
そう言って、護衛役の少女は、ルリの細い手首をガシッと掴んだ。
「嫌っ、離して!」
俺はその声を聞いて、無意識にルリの手首から護衛役の女の子の手を振り払った。
「くっ、何のつもりだ貴様!この私の邪魔をするのか!?」
「えっ、いや別にそういうわけじゃ…」
「助けて、響史!!」
手の自由が利くようになったルリが、サッと俺の後ろに隠れる。その様子を見た彼女は、
少しニヤリと笑うと、言った。
「なるほど…。どうやら、貴様が姫様を誘拐した男のようだな…」
「はっ!?何言ってんだ!俺は何も誘拐なんかしてないって!!」
俺は必死に否定したが、聞いてはもらえなかった。
「何と言われようと、人間の言うことを聞いてやるほど、私は優しくはない!」
そう言って、彼女は背中に背負っている細い入れ物から剣を抜き取った。そして、
それを目の前に向けて持つと、ゆっくりと鞘から抜いた。刃の鋭く尖った音が、俺の部屋中に響き渡る。
冷たい風が壊れた天井から勢いよく吹き込んできたと同時に、その護衛役の少女は、
俺に攻撃を仕掛けてきた。
「覚悟!!」
「うわっ!」
長い剣先が俺の頬をシュッとかすめた。
俺の頬から赤い血が垂れる。
それに気付いた俺はサッと左の手の甲でその血を拭いとった。俺は下唇を噛み締めながら、
側にあった金属バッドを取り出し、両手で強く握り締めた。そしてそれを高く振り上げると、
少し抵抗があったが、どうにでもなれと彼女に向かって勢いよく振り下ろした。
しかし、彼女は目の色一つ変えずに、冷静な判断力によって、俺の金属バッドを鋭利な剣の一振りで、
見事真っ二つにした。
「ま、マジかよ!?」
俺はどうすればいいのかと迷っていた。その時、あることを思い出した。
昔、使っていた護身用の刀があったということを…。ふと、横目で押入れを見ると、運よく扉が開いていた。
俺は相手の隙をついて、押入れにあった護身用の刀を手に入れた。
「ふっ、そんな物で私のこの妖刀『斬空刀』に勝てると思っているのか?無駄な足掻きだ…。
潔く降伏しろ…、そうすれば楽に死なせてやる…」
―許すっていう選択肢はないんだな…。
俺はそう心の中で呟いた。俺は決死の思いで護身用の刀を構え、一直線に敵に突っ込んだ。
「ふん、強行突破か…。つくづく人間というのは馬鹿な生き物だな…。
まぁ、いい。これで、貴様も終わりだ!」
彼女の剣と俺の剣が互いにぶつかり合い、火花を散らす。俺がふと後ろを振り向くと、
俺のベッドの近くに座り込み、震えるルリの姿があった。