「なぁ、どうして霰はあんなにも霊のことが好きなんだ?」
俺の質問がよっぽど意外だったのか、
それともそんなの当たり前でしょみたいな感じの表情を相手がしてきたため、
俺は少しビクッとしてしまった。
「な、何だよ…」
「いや、てっきり知っているのかと思っていました…。
いいですか?霰姉様は猫が大好きなんです…」
「猫が…?でも、霊は…―」
俺は霊の方を見た。猫耳…尻尾。
―ああなるほど…。
俺は思わず彼女の格好を見て納得してしまった。
―霰が霊を本物の猫と思ってしまうのも無理はない…。
それに、現に霊は三毛猫に変身できるからな…。
そんなことを思いながら俺はさらに零に質問した。
「でも、猫が好きにしてはあまりにもオーバーじゃないか?」
「はぁ〜。これだから、あなたは…」
―えっなにその俺はまるでダメだな…。みたいなその溜息は…!?
「いいですか?霰姉様があんなにも霊姉様のことが好きなのには、
他にも理由があるんです…」
「理由?」
「はい…。姉上は以前、魔界で事故に遭いかけたんです…」
「事故?」
俺の言葉に彼女はコクリと頷いた。
「そして、その事故から霰姉様を霊姉様が助けたんです…。
それが霊姉様の悪夢の始まり…。
それ以来、霰姉様は霊姉様のことを恩人の様に慕い続け、
最終的には好意をよせてしまったんです。ただでさえ、
猫が好きなのにその上恩人ともなれば、姉上が黙っているわけもなく…。
それ以来、霰姉様は誠心誠意霊姉様に恩を返し続けました。
主に、嫌がらせばかりですが…」
その内容が俺には想像することが出来た。
「でも、肝心の姉上がそれを覚えていないんです…」
「覚えていない?どうして?」
「恐らく、あんなにも面倒な嫌がらせばかりをされて忘れてしまったんでしょう…。
そのせいも、あってかだんだんと霊姉様は霰姉様恐怖症にかかってしまったんです」
「霰恐怖症?」
「はい…。要するに今では姉上の声を聞いただけで、
身の毛がよだったり、寒気がしたりなどとにかく、
姉上に近づきたくなくなっていったんです」
「それって…あまりにもかわいそうじゃないか?」
「やっぱり、そう思いますか…。
でも、私的にはどっちもどっちといった感じなんですよね…」
俺は零の説明を聞いて、納得していた。
そうこうしているうちにも、霊は霰の行為を嫌がり、
霰は霰で霊によかれと思った行為をしている。しかも、
それが霊にとっての嫌がらせとも知らずに…。
―……哀れだ。
俺はそう思った。すると、耐え切れなくなったのか霊がついに言葉を発した。
「もう、やめて…!どうして、こんなにも嫌がらせばっかりするの?
そんなに、私が嫌いなの?」
「ええっ?ち、違うんですのよ、お姉様…。
私はただ…お姉様に喜んで欲しかっただけで…」
「それが迷惑なんだよ…」
その霊の最後の一言に霰は急に表情が暗くなった。それを見た俺は霊に言った。
「お、おい…あまりにもそれは言い過ぎなんじゃ?」
「でも…」
霊も冷静になって少し霰に悪いと思ったのか、罪悪感を感じているようだった。
俺が振り返ると、そこには霰の姿がなかった。
「あれっ?お、おい霰は何処に行った?」
「霰なら、外に出ていったぞ?」
霄に言われ、俺は慌てて部屋の扉を開け、階段を駆け下りた。
途中で、こけそうになったがそんなのお構い無しで階段を降りきると玄関ドアに向かった。
その時、霰の悲鳴が聞こえてきた。
「きゃぁあ!!」
「なっ、おい!!」
俺は彼女の声を聞いて、すぐにドアを開けた。
すると、謎の黒い車がエンジンをふかせて排気ガスをはきだしながら、
路地裏を曲がっていくのが見えた。すると、足元に一枚の手紙が落ちていた。
俺はそれを拾い上げ、少し焦りながら手を震わせ、手紙を開けると、
中身を取り出した。そこには少し特徴的な文字がかかれていた。